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概要

ドラァグとも。

女装パフォーマンスの一種で、クラブシーンやショーパブ、近年ではテレビ番組などでその活動が確認できる。

当事者からは単純に「ド派手な女装」として紹介されることもある。

元々はゲイ男性派手衣装厚化粧女装を行い、大仰な態度で「理想の女性像」をデフォルメして演出したパフォーマンスを行った、サブカルチャーとしてのゲイ文化の一環として生まれた女装遊びであった。

このような起源から、基本的にはゲイ(もしくはバイセクシャル)の男性が行うのだが、セクシャリティや生物学上の性別による制限は特に設けられておらず、ヘテロ=異性愛者の男性や女性のドラァグクイーンも存在する。

仲間内での趣味として行う者から、プロとしてショーなどに出演する者まで幅広い層が存在し、表現方法やその嗜好もまさに千差万別である。

ドラァグクイーン(drag queen)という言葉自体は1940年代から確認できるが、その語源には諸説がある。

「女役の男がに引きずっても(drag)平気な顔をしてロングスカートを履いていたのが面白かったことからこう呼ばれた」、「tragen(ドイツ語で『着る』という意味)→trogn(イディッシュ語)→dragになった」、「dressed as a girl(女性のように装う)の略語」などがあるが、現在では一番初めの説が有力である。

なお、本来なら英語の発音に則して「ドラッグクイーン」と表記するのが正しいが、drug queen=「危ないクスリ(drug=薬、俗に違法薬物)をキメている」と誤解されるのを防ぐために「ドラァグ」とすることが多い。

トランスジェンダーとの違い

ドラァグクイーンは異性装を行うことから性同一性障害者トランスジェンダー)であると勘違いされることがある。

しかし、両者が女性装を行う理由には大きな違いがある。

  • トランスジェンダー(MtF)…自身のアイデンティティである性=女性に見られたいという気持ちから、女性として女性の格好をする
  • ドラァグクイーン…「遊び」として「理想の女性像」をパロディし表現する

※トランス女性のドラァグクイーンも存在する。

一方的にトランス=ドラァグと決めつけ、評価するのはその人の人格を否定することにもなりかねない。いずれの場合であっても理解が重要である。

日本文化におけるドラァグクイーン

日本は、能楽歌舞伎女形に代表されるように、古来より女装してパフォーマンスを行う土壌が存在する国である。女舞がメインの演目である畿内上方舞といった伝統芸能も現代まで受け継がれている。

現在のドラァグのような振る舞いをメディアで行うようになったのは、ピーター(現池畑慎之介)が初めとされている。キャリア当初の彼は仕事の時は女装であるが、プライベートでは(派手めな)男装か中性装で、現在もそれを貫いている。また、上方舞の家元の息子であり、かつてはクラブダンサーの一種である「ゴーゴーボーイズ」としても活動していた。

後に1980年代ニューハーフがテレビ番組などで取り上げられ話題となったこともあり、一般市民にもナイトカルチャー、特にゲイカルチャーへの認知が広まった。

バブル全盛期には今のドラァグに近い存在として日出郎が登場。その強烈なパフォーマンスに誰もが度肝を抜いた。

90年代初頭、京都では日本のドラァグクイーン1号と言われるミス・グロリアス(古橋悌二)が、東京では雑誌編集者であったマーガレット(小倉東)が現れ、ドラァグ文化が日本のゲイクラブシーンに浸透し始める。

当初は関西を中心にミス・グロリアスとともに活動していたシモーヌ深雪、既にテレビ番組を通じて注目されていた日出郎、バーの経営者でもあったJINCOママやKEIKOママらがクラブで人気を博した。

そして、映画『プリシラ』のヒットにより、90年代半ばにはには各種メディアにもゲイブームが到来。ドラァグはゲイクラブシーンにおける花形となった。

94年に東京で日本初のプライド・パレードである「東京レズビアン・ゲイ・パレード」が開催、96年には札幌で「レインボーマーチ札幌」が開催され、ドラァグたちも参加しパレードを盛り上げた。

その後も多数のドラァグが誕生し、モデルのような美しいパフォーマーや、パロディ満載のコミック女装など、様々な形のパフォーマンスが次々と生まれ、各地で披露されるようになった。

特にブルボンヌが立ち上げたゲイのためのパソコン通信『UC-GALOP』、そしてそこから結成されたパフォーマンス集団「アッパーキャンプ」は関東のドラァグ界隈に大きな影響を与えた。

アッパーキャンプの解散後、折からの不況や、当事者たちのドラァグクイーンという存在の意義に対する葛藤から低迷期に入る。

2000年代後半に突入すると、かねてからのオネエ系タレントの流行と合わせ、マツコ・デラックスやミッツ・マングローブといった女装タレントが「ご意見番」的なコメンテーターとしてブレイクしたことを期に、それまでニューハーフやオカマキャラなどと混同されてきたドラァグクイーンがジャンルとして認識されはじめた。以降は、クラブシーンだけではなく、テレビ番組のような比較的メジャーな場での芸能活動を行う者が増えている。

文化活動

ここでは日本のドラァグについて記す。

クラブシーンとの関わりから、プロのパフォーマーの中には歌手ダンサーとして音楽業界で活動する者、俳優や映画、舞台などの現場でクリエイターとして活動する者が多い。また、ゲイ雑誌などで早くからアメリカやヨーロッパのドラァグカルチャーが紹介されていたことで、ライター、コラムニストのような文筆家も見られる。

音楽の中ではテクノミュージック(ディスコミュージック・ユーロビートなどのクラブミュージックを含む)や、美輪明宏(丸山明宏)などの先駆者が存在するシャンソンとの融和性が高い。例として、日出郎は日本初のドラァグクイーンテクノアイコンとして知られ、電気グルーヴとの親交も深い。

また、70〜80年代にかけてグラムロックやニューロマンティックなどのアーティストが人気を博したことや、90年代ヴィジュアル系のブームにより、男性アーティストが派手な化粧や染髪でパフォーマンスすることの認知が広まったともいえる。

著名なドラァグクイーン

日本

  • ヴィヴィアン佐藤 … 芸術家。"非"建築家を名乗る。
  • シモーヌ深雪 … 存命するドラァグの中では最古参。シャンソン歌手としても活動している。
  • マダム・ボンジュール・ジャンジ … 日本初の女性ドラァグにしてHIV/STI情報センター「akta」スタッフの一人。
  • オナペッツ … 90年代TV番組で活躍していたドラァグユニット。浅倉大介プロデュースによる音楽活動も行っていた。
  • 日出郎 … TVで活躍していたドラァグの一人。日本ドラァグ初のテクノアイコンでもある。
  • 梅垣義明WAHAHA本舗所属の俳優。女性歌手の物真似でシャンソンを歌うネタが有名。
  • ダイアナ・エクストラバガンザ … 銀座の高級クラブでホステスを務める。関西弁での田中康夫(もしくは落研)のような話術が特徴。
  • ブルボンヌ(斎藤靖紀) … エッセイスト、タレント。元雑誌編集者。映画批評も行っている。
  • ミッツ・マングローブ … タレント。徳光和夫の甥で、女装歌謡ユニット星屑スキャットのメンバー。
  • ナジャ・グランディーバ太田プロ所属。浜崎あゆみDREAMSCOMETRUEのPVに出演した経験もある。
  • エスムラルダ … 東京都公認の大道芸人ホラー系パフォーマンスが得意。
  • マツコ・デラックス … 本業はコラムニスト。現在はMC・コメンテーターとしての活躍が多い。
  • 紫泉 … サイバーファッションのオーソリティにしてゴシック系イベントのDJ。
  • リリー・チャン …福岡で活動するドラァグ。小柳ルミ子の又従兄弟にあたる。

海外

  • ルポール … エルトン・ジョンとのデュエットでも知られる。日本のドラァグに多大なる影響を与えた。
  • リプシンカ(ジョン・エパーソン) … 名前通りリップシンク(口パク)でのパフォーマンスを得意とする。ニューヨークの伝説的なドラァグ。
  • デイム・エドナ・エバレッジ … オーストラリアで一番有名なドラァグ。
  • チ・チ・ラルー … 「妖精王」の通称でニコニコ動画で一番有名なドラァグ。
  • コンチータ・ヴルスト … ユーロビジョン・ソング・コンテスト2014優勝者。髭を生やした女装の歌手。
  • アフターダーク … 『高らかにオナニー』で有名なドラァグユニット。
  • ディヴァイン … 伝説のカルト映画『ピンクフラミンゴ』主演俳優。

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