概要
英雄・曹操を主人公として、新しい解釈で三国志の世界を描いた漫画。
完成度の高さ、三国志演義や正史のエピソードの独自アレンジで高評価を受けた。
1994年10月から2005年11月まで「モーニング」(講談社)で連載された。
原作:李學仁、作画:王欣太。李學仁は1998年に肝臓癌により死去し、その後は王欣太が一人で執筆。
ストーリー
舞台は中国後漢末期から三国時代。日本でよく知られる『三国志演義(演義)』ではなく、『三国志(正史)』を基に主に脚色されている。
『三国志演義』では悪役であった曹操に「最も人に興味を示した英雄」としてスポットライトを当てる。屯田制の採用や政治・文学における儒教からの分離等の政策からパイオニア的精神を中心に据えた曹操像を導き出し、劉備・諸葛亮らとの対立を(ある種の儒教的精神により美化されて来たイメージと定義した上で)その延長線上に置く。
ストーリーは既成概念や旧体制からの脱却、空虚な観念論より実利の追求という曹操の行動原理を軸にして展開する。官渡の戦いでは最大の領袖である袁紹を没落した漢帝国の利権に群がる「変革を求めぬ者」と断じる。華佗との対立や荀彧とのすれ違いも、徹底した現実主義・実利主義者である曹操と「儒」の価値観に縛られるものの摩擦という観点で描かれている。
主な登場人物
魏
「アモーレ!!」
本作品の主人公。
富士額と一本長く伸びた独特な下睫毛が特徴。一人称は「俺」。あらゆる物事に才を発揮する万能人。年少時より既存の概念にとらわれない破格の発想を持ち、当時としては飛躍した言動や行動で敵・味方を含めて多くの人間を困惑させつつも惹きつける。「最も人に興味を示した英雄」として描写され、才能さえあれば平民でさえ名前を覚えており、出自に関係なく要職に登用する。反面、家柄や儒教思想など既成概念に固執する者には激しく憤慨する。初期は自らの運命を「天意」と言って憚らない。次第に人としての天下を目指すようになる。最高権力を握る天下人に至って後も、自らが皇帝になることは拒み続けた。従来の天下人・政治家としてだけでなく文人としての曹操も頻繁に描かれる。極度の女好き。蜂が苦手。また史実通り中年期以降は偏頭痛に悩まされる。気まぐれな性格で軍師が立てた完璧な策も平然と変更する。
曹操の従兄・幼馴染であり、挙兵以来の最古参である「曹操四天王」の筆頭。他の四天王からは「惇兄(とんにぃ)」と呼ばれる。曹操陣営では唯一、曹操を字で呼び捨てにし対等な口で話すなど無二の親友として描かれ、時には曹操に冗談めかして「母親」と呼ばれる。曹操の破天荒な言動に困惑しつつもそれを楽しみにしているきらいがある。物事の本質を見抜くことに長けており、隻眼ゆえに両目では量れない人との間合いを見いだしている。
作中で夏侯惇が左目を矢で射抜かれたのは董卓討伐の時で、正史と違いかなり早い時期に隻眼になっている。 王欣太のお気に入りキャラ。
「この一戦に 夏侯妙才のすべてを賭ける!!」
「曹操四天王」の一人。曹操の従兄・幼馴染で、夏侯惇の従弟。弓の名手で剛弓の描写が多い。前半は目立った活躍の場はないが、後半では「王たる将」として曹操にその才を見込まれる。定軍山にて劉備軍に敗れ最後は黄忠に斬られ戦死したが一度は黄忠と魏延を退け劉備に迫り意地を見せ、劉備に「漢中の王」と言わしめた。旗揚げ以来の股肱の臣で一国を任せられた存在の死として、劉備の脳裏に関羽のそれを連想させた。許褚の人物評では「狼」。
「おっ月様はぜったいにいっこじゃねぇーぞぉ!!」
曹操配下の武人。丸々と太った巨漢で、口調も性格ものんびりしているが、驚異的な膂力と武勇を誇る。少年時代の曹操と出会い、故郷の和尚に彼に仕えるよう助言されていた。成人してからは家族を養うべく一時期、黒山賊に身を落とし曹操と対峙するが、曹操に説得され以降は彼の護衛として甘寧・馬超らと戦い幾度となくその命を救う事になる。基本的に頭脳労働は苦手だが、高い観察眼を持ち、度々人物を動物に例える。
「あいや!!あいや!!」
曹操軍の軍師。少年時代から仕え、歴戦の武将たちを驚愕させるほどの智謀を持つ「若き秀才」である優等生だったが、後に異民族との経て「王佐の才」を開花させる。性格も少年期より柔軟になり、「あいやーっ」が口癖。曹操に使えながらも、儒教思想を捨てきれず、後年は「曹操の家臣であるか、漢王朝の家臣であるか」を葛藤することとなり、そのせいで発病し寿命を縮める。曹操軍の中では劉備に最も早く出会っており、一番好印象を持っている。
「軍師なんてものはどうしようもなく戦が好きで、常に頭の中ではまだ見ぬ敵と、まだ見ぬ苛酷な戦を戦っているんだろうが!!!」
戦が終わるとすぐさま次の戦における兵法を考えるほどの「戦好き(戦術好き)」である「純粋軍師」。曹操に対しても歯に衣を着せぬほどの物言いをするが、逆にそれを曹操に気に入られている。烏丸族討伐の最大の功績者となるも、曹操が蹋頓を斬首した直後に郭嘉の死相を見てしまい、後にそれが現実となる。曹操にいわゆる「ゲリラ戦」を献策した際には「王の誕生」と喜ばれるも、変わらぬ姿勢を取りながら病床で曹操と語った末に鬼籍に入った。
郭嘉の死の直前の場面は、原作者である李學仁が生前に持病である肝臓ガンとの闘病生活を送りながらも、平然とモーニング編集部と打ち合わせをしている様子がモデルとなっている。
- 山隆(さん りゅう)
本作のオリジナルキャラクター。
官渡の戦いで登場した曹操軍の一兵卒。兵に志願した理由は「食うため」と「女にモテるため」という単純なもの。曹操の命令により兵卒として演習に参加した夏侯惇との親交を深め、彼に憧れを抱き戦にも行動を共にすることが多くなる。また、窮する陣営から逃亡者が相次ぐなか、最後まで逃げなかったなど精神的成長を遂げることになる。曹操軍の反攻開始時、夏侯惇が激戦する最中に殉職。
モデルおよび名前の由来は、王欣太の亡くなった友人「ヤマモト」。
蜀
「とんでもねえ奴と同じ時代にうまれちまったもんだぜ」
非常に長い腕と大きな耳の持ち主。作中で最も人間臭い人物。自称「幽州の北斗七星」「天下の器」。一人称は「おいら」で、江戸っ子のべらんめぇ口調。関羽と張飛には「長兄」と呼ばれる。初登場時は、昼は草鞋を売りながら、夜は侠の頭「鬼嚢(きのう)」として困った人達を助けていた。関羽・張飛と義兄弟の契りを交わし、諸侯を転々としながらも第六感と並外れた人気で徒手空拳から天下を狙う。危機にさらされる度に、人としてのプライドを投げ捨ててしまう場面もしばしばあるが、幾多の困難を乗り越えて自らの器を再確認していく。曹操との勢力差は大きいが、両者は宿命づけられたライバルとして描かれており曹操もまた劉備を意識するようになっていった。
美髯をもち青龍偃月刀を愛用する、義侠と理知に富んだ士。肌の色は赤みを帯びている。自称「義侠の積乱雲」。美髯団(びせんだん)という義侠集団の頭目として初登場。若き日の劉備と出会い、その民を想う心意気に打たれ、張飛とともに義兄弟の契りを交わす。劉備には「関さん」、張飛には「雲長兄ぃ」と呼ばれる。呂布と互角に渡り合い、顔良や龐悳(龐徳)を斬るなど、作中最強の人物の一人。武人としての才のみならず、曹操に降った際には為政者としての素質をも見出され敵味方を問わず曹操に最も高く評価される。その後、劉備から荊州統治を任され、劉備が漢中王に即位すると北伐を開始。樊城を攻め立て、神々しいまでの武を奮う。最後となった麦の戦いでも孫皎・蒋欽・馬忠を倒すが満身創痍となり孫権自らの手で首を落とされる。首は曹操の下に送られた。あくまでも大地に根ざした理想を掲げる曹操とは対照的に、神へ昇りつめる存在である極めて重要な人物として描かれている。
作者は終盤の活躍を描くにあたり、神である関羽への礼を失しないよう自分の描いたイラストを基に神棚まで作ったという。
虎髭を生やし蛇矛を扱う、無学・粗暴・大酒飲みながら侠気溢れる豪傑。自称「義侠の雷動」。字は正史に基づき益徳だが、講談師などの間ではこの頃からすでに「翼徳」と演義の字が間違って流布している。劉備と関羽には字で呼ばれる。先に義兄と仰いでいた関羽が敵対していた劉備と義兄弟となったため、自身もなし崩しに劉備の義弟となってしまう。そのためか序盤はあまり劉備に敬意を払っている節は窺えないが、徐々に息の合うコンビネーションを形成していく。発言そのものは常識に根ざしたものが多く、劉備・関羽の突飛な言動に振り回されているため、三兄弟の中ではツッコミ役に近い。長坂の戦いでは天下無双の武を見せる。許褚の人物評では「猪」。
字は子龍。初めは袁紹軍にいたが、公孫瓉陣営に参加する。その際公孫瓉側についていた劉備に仲間に誘われるも「すでに公孫瓉に仕官した」と誘いを断る。それを聞いた劉備は「義に篤い」とますます惚れ込む。また趙雲も、その戦においてたった一人、口上で気を吐き両軍を押さえ込んだ劉備の人気(じんき)にあてられる。その後の動向は不明だったが亡母の服喪の為に目を閉じていて、ほぼ失明状態になっていた。のち官渡の戦いにおいて関羽に去られ落ち込んでいる劉備と再会し、趙雲の言葉で立ち直った劉備に触れられたとたんに開眼し、改めて劉備の器を知る。長坂の戦いでは劉備の子・阿斗(劉禅)を懐に抱き、凄まじいまでの馬術と武技で劉備の元へと駆けつけ子を届ける(史実・演義ともに有名な「長坂坡一騎駆け」)。許褚の人物評では「スズメバチ」。ちなみに得物は三尖両刃刀と薙刀で演義の代名詞である槍ではない。
劉備に仕える軍師。初登場時は神秘的な少年であり、曹操の覇業に興味を持っていた。劉備と出会う形で再登場時した際は、筋骨隆々の青年に成長していた。異国の女性数人と寓話の住人のような子供と老人を2人ずつ従えている。超常的な能力を持つ異才。淫らな言葉で天下を語り、天下三分の計を劉備に提案した。その後は劉備の器の覚醒を促し、彼の臣下となる。曹操に強く惹かれているが、曹操からは全く認識されていない。赤壁の戦い後は黒髪化し衣装も演義でお馴染みの格好になるが、史実のように後方支援の仕事がメインとなっているため意外と出番は少ない。
他作品や史実の諸葛孔明と比べてイロモノすぎるキャラクター。
「貴様は錦だ馬超!!美しく義憤を貫けい!!-馬玩」
涼州軍閥・馬騰の長男。得物は演義と違い矛のち薙刀。少年時に董卓と呂布を目にした影響から、後漢王朝の完全なる破壊と新たな国の創造を望むようになる。凶悪なほどの殺意と異常なまでに純粋で高い理想をもっており、己が内に抱える「義憤」に駆られて行動する。韓遂や他の涼州軍閥の盟主として漢室を擁する曹操に叛旗を翻す。尋常ならざる武勇の持ち主で、一時は単騎で曹操を追い詰めた。紆余曲折あり最終的には劉備配下となり劉備の元で新しい国造りを夢見る。漢中戦以降は将としての成長も見せた。許猪の人物評では「鷹」。
呉
「おお、快なり」
碧眼で西洋人のような風貌が特徴。作中では「帝王」と称される。曹操とは違った形で物事の合理性を追求しており、曹操もその実力を認める。夏侯惇も孫堅のカリスマ性を見抜いており、孫堅もまた夏侯惇を評価している。若年の周瑜の才能を見抜いており、「孫家はいつか周瑜に乗っ取られるぞ」と冗談まじりに孫策に話している。董卓が暗殺される前に劉表と襄陽で戦い戦死することになるが、実は正史より退場がやや早い。
その戦死する様も弩に撃たれ、自分の死を悟り自ら雷に心臓を打たれるという壮絶極まる最期を迎えている。
「孫家は、わが孫家は、代を重ねる度に豪壮になってゆくのだ!」 周瑜 「伯符!」
孫堅の長子。辮髪が特徴的。豪胆な性格で、作中では項羽に比され「覇王」と称される。江南平定戦においては、民から熱烈な歓迎を受けるが、その反面で、攻められた側からはおびただしい怨嗟を受けるようになる。それが元で刺客に狙われ、いよいよ曹操のいる中原に軍を進めようとした矢先、毒矢を受けてしまう。なおも若さに任せて軍を進めるが、毒に耐え切れずに道中で倒れ、壮絶な最期を遂げた。
「わが命は孫家三代分じゃ。取れるものなら取ってみい」
孫堅の次子。虎の仁(じん)をはじめ様々な獣に勝手に懐かれる性質を持っている。一人称は「儂」で「~じゃ」という話し方をする。少年期はとても無邪気な性格で、孫策と周瑜にその器を早くから見出されていた。孫策の死後はやや無気力感が漂う。しかし頭の中では、自身の周りで起きた不幸や世の中の流れについて終わる事のない自問を繰り返しており、赤壁の大戦、曹操・劉備との対面、合肥の戦い、関羽討伐などを通して王として成長していく。曹操とは互いに親子のような感情を抱く好敵手となる。
その他
曹操の旧友で名門袁家の当主。「王道」を好み、小細工や奇策を嫌う。かなり常識的かつ俗物的な性格で、曹操の突飛な言動に良いように振り回されることが多い。困難に遭遇してよく動揺や困惑を露にするが、それらを乗り越えられるだけの能力や精神力を持ち、一族や家臣、兵士たちからの信望は極めて厚い。後に曹操と官渡で直接対決する頃には一大勢力を築き上げ、曹操に「自分が負けることもあり得る」と言わしめた。しかし、曹操はその才能を高く評価する一方で、最終的に「好ましく思えるものは何もない」と断じた。
後半のデブり具合は読者の度肝を抜いた。
「前世に天意が消滅し、この董卓が誕生したことを知るのみだ」
涼州出身の群雄。北の戦役で名を上げ、北方民族と同じような髪型と衣装を纏っている。何太后や少帝を殺害して傀儡の帝として陳留王・劉協(献帝)を即位させ、政治の実権を握る。悪逆非道な性格と自身や配下の圧倒的な武勇で都を地獄絵図のごとき惨状にし、「魔王」と評された。その一方で度量の広さや支配者としての信念も持ち合わせている。
「ち、陳宮〜〜〜!!!」
軍神と評される武人。ドレッドヘアーと独特の吃りが特徴。地上最強ともされる武勇の持ち主。粗野で本能に従ったような言動が多いが、心を開いた相手には人間味を除かせる。元々丁原の配下だったが、裏切って董卓の養子となった。その後はその董卓すらも裏切り、群雄として独立する。さまざまな戦の経験や腹心陳宮を得て、やがて純一な戦士から王者の格を持つまでに成長する。
太平道の首領。予知能力を持ち、劉備は天子に、関羽は神になるだろうと予言した。元々は天下への野心は無かったが、曹操が広めた「蒼天已死(漢王朝の天下は終わったという意味)」の言葉に天命を感じ、弟子たちと黄巾の乱を起こす。しかし、やがて病に倒れ、三匹の龍が覇を争う大乱世の到来を予感しながら死亡。曹操には、武力に頼らず人の心だけを武器にしていたら二千年後も名を残していただろうと評された。
関連イラスト
TVアニメ
2009年4月7日から9月29日まで、全26話。日本テレビ系で放送された。
官渡の戦いまで描かれる。総評は迫力あるサウンドと演出を含めた豪快な出来に、ファンは「総監督の頭骨をえぐれい」「蒼天アニメ已死」と、アニメ化への賛辞を惜しまない。
主題歌
OP「909」 歌:TRIBAL CHAIR (One-Coin records)
ED「ピンホール」 歌:OGRE YOU ASSHOLE (Vap)
各話リスト
話数 | サブタイトル |
---|---|
第1話 | 少年 曹操 |
第2話 | アモーレ |
第3話 | 北門の鬼 |
第4話 | 炎の宴 |
第5話 | 天下の器 |
第6話 | 蒼天已死 |
第7話 | 天・地・人 |
第8話 | 業火の奸雄 |
第9話 | 董卓上洛 |
第10話 | 群雄、立つ |
第11話 | 汜水関 |
第12話 | 孫堅昇天 |
第13話 | 魔王対魔神 |
第14話 | 強の始まり |
第15話 | 黒い嵐 |
第16話 | 天子奉戴 |
第17話 | 曹操と劉備 |
第18話 | 鄒氏夢幻 |
第19話 | 猿と龍 |
第20話 | 不動の魔神 |
第21話 | 純粋戦士 |
第22話 | 呂布伝説 |
第23話 | 天意と雷鳴 |
第24話 | 投降と遁走 |
第25話 | 白馬津 |
第26話 | 心の闇 |