50億人がすれ違う
美しくも残酷な仮想世界。
ベルの歌声は世界を変える――
概要
細田守が監督、スタジオ地図製作の2021年7月16日公開のアニメーション映画作品。略称は「竜そば」。
細田監督としては2006年公開の『時をかける少女』から数えて6作目。スタジオ地図としては通算4作目となる。
2009年公開の同監督の作品『サマーウォーズ』と同じく、インターネット上の仮想世界が舞台となっている。
音楽をテーマとしているゆえに、主人公すず(ベル)役のシンガーソングライター・中村佳穂をはじめ、ヒロ役にはYOASOBIの幾田りらなどの現役歌手が主要キャラクターの声優を務めている。
主人公の名前が「ベル(Belle)」であるなど、劇中でのさまざまなシーンや要素がディズニー映画の『美女と野獣』を思わせており、実際に『アナと雪の女王』の製作にも携わっていたキム・ジム氏がBelle(ベル)のデザインを担当している。
また、歴代の監督の作品では初めてIMAXでの上映も行われている。
2021年8月20日からは岩崎太整氏ら直々に音響調整したハイグレード音響上映を関東7映画館で実施している。
2021年9月10日からは細田作品初のドルビーシネマ上映も決定。
実績
2021年8月20日の時点で累計動員数341万人、興行収入は50億円を突破。国内映画ランキングでは3週連続で首位を獲得した。
作品情報
映画版
原作・脚本・監督 | 細田守 |
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作画監督 | 青山浩行 |
CG作画監督 | 山下高明 |
CGキャラクターデザイン | Jin Kim / 秋屋蜻一 |
CGディレクター | 堀部亮 / 下澤洋平 |
美術監督 | 池信孝 |
プロダクションデザイン | 上條安里 / Eric Wong |
音楽監督・音楽 | 岩崎太整 |
音楽 | Ludvig Forssell / 坂東祐大 |
企画・製作 | スタジオ地図 |
配給 | 東宝 |
公開日 | 2021年7月16日 |
小説版
著者 | 細田守 |
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初版発行 | 2021年6月25日 |
発行者 | 堀内大示 |
発行 | 株式会社KADOKAWA |
ISBN | 978-4-04-111056-0 |
アニメ絵本版
原作 | 細田守 |
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著者 | ワダヒトミ |
初版発行 | 2021年8月6日 |
発行者 | 青柳昌行 |
発行 | 株式会社KADOKAWA |
ISBN | 978-4-04-111498−8 |
ストーリー
自然豊かな高知の村に住む17歳の女子高校生すずは、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。
母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。
曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界『U』に参加することに。『U』では、「As」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「Belle」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。
数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。
やがて世界中で巻き起こる、竜の正体探し(アンベイル)。
『U』の秩序を乱すものとして、正義を名乗るAsたちは竜を執拗に追いかけ始める。『U』と現実世界の双方で誹謗中傷があふれ、竜を二つの世界から排除しようという動きが加速する中、ベルは竜を探し出しその心を救いたいと願うが――。
現実世界の片隅に生きるすずの声は、たった一人の「誰か」に届くのか。
二つの世界がひとつになる時、奇跡が生まれる。
(公式サイトより引用)
登場人物
メインキャラクター
内藤鈴(ないとう すず)
CV:中村佳穂
愛称は「すず」。高知県の自然豊かな村で生まれ育つ、歌うことが大好きな17歳の女子高生。
幼いころ、母親を事故で亡くしてから現実世界に心を閉ざし、大好きだった歌を歌えなくなる。
Belle(ベル)
CV:中村佳穂
その並外れた歌声と相手を惹きつける美貌で、仮想世界『U(ユー)』にある50億のアカウントのなかで一番注目されている絶世の歌姫。
その正体は、内気で自分に自信のない女子高生すず。
CV:佐藤健
仮想世界『U』で大勢から忌み嫌われている、竜人の姿をした凶暴な謎の存在。
国籍年齢性別その他一切の情報が明かされておらず、その背中にはたくさんのアザが刻まれている。
すずの友人や家族
久武忍(ひさたけ しのぶ)
CV:成田凌
愛称は「しのぶくん」。何かとすずを気に掛ける幼馴染。
高校ではバスケ部で女子からも絶大な人気を誇る存在でありつつ、どこかミステリアスな雰囲気を持つ。幼いころに、すずにプロポーズをしたことも。
千頭慎次郎(ちかみ しんじろう)
CV:染谷将太
愛称は「カミシン」。カヌー部をひとりで立ち上げインターハイを目指す、天真爛漫でまっすぐなアツイ男子生徒。そのアツさゆえに、周囲からちょっとだけ浮いている。
渡辺瑠果(わたなべ るか)
CV:玉城ティナ
愛称は「ルカちゃん」。高校では吹奏楽部でアルトサックスを吹く、モデルのような女の子。
太陽のような存在で、みんなから人気を集めているキラキラハイスペックガール。
実は「ある男子生徒」が気になっているらしく…。
別役弘香(べつやく ひろか)
愛称は「ヒロちゃん」。すずと同級生であり親友にして良き理解者。インターネットを使いこなす毒舌メガネ女子。
すずを仮想世界『U』へと誘い、歌姫『Belle(ベル)』としてプロデュースする。すず=ベルの正体を唯一知る人物(キーパーソン)。
CV:役所広司
すずの父親。妻の亡き後、娘を大切に思いつつも、距離感や接し方をつかめないままでいる。
すずの母
CV:島本須美
すずの母親。彼女が幼いころ、氾濫した川の中洲に取り残された子供を助け、そのまま帰らぬ人となった。
生前は合唱隊のメンバーであり、幼いすずに歌うことの楽しさを教えていた。
『U』のユーザー
CV:森川智之
仮想世界『U(ユー)』の正義と秩序を守ると主張している自警集団『ジャスティス』のリーダー。
竜の正体を暴くことを使命としている。
彼の右腕には「アンベイルの光(Asの本体・オリジンへ変換する光線)」を放つレーザーデバイスが装備されている。
白い妖精、もしくはクリオネのような姿をした不思議なAs(アズ)。
仮想世界『U』に降り立ったBelle(ベル)の歌声を一番最初に気に入り、彼女の初フォロワーになったほか、謎の多い竜とも関わりがある様子をうかがわせている。
人間の少女の顔とナマコやシャコ、イソギンチャクといった水生の無脊椎動物の身体を合わせ持った、さまざまなバリエーションの小さなAI(人工知能)たち。
竜が隠れ住んでいる城の守りを任されており、侵入を試みようとする第三者を言葉巧みに幻想的な異空間へと迷い込ませている。
CV:ermhoi
『U』の世界でカリスマ的な人気を誇る歌姫。
あるとき突然人気になったベルに嫉妬して反発するも、逆に彼女の圧倒的な注目度に抗いきれずに押しやられてしまう。
CV:津田健次郎
「竜の正体探し(アンベイル)」で候補に挙がる、無名の現代美術アーティスト。
自身の背中に、竜の背中のアザと同じようなタトゥーを入れている。
CV:小山茉美
「竜の正体探し」で疑惑の人として挙がるアジア系の貴婦人。
「You hurt me(あなたはワタシを傷つけた)」が口癖で、粘着質かつ攻撃的な発言を繰り返している。
フォックス
「竜の正体探し」で疑惑の人として挙がる、MLB(メジャーリーグベースボール)の強打者。
普段は誠実な人柄によって高い人気を博しているが、その一方で自身の身体の秘密を決して他人に明かそうとしない。
CV:宮野真守
「竜の正体探し」を盛り上げる、子どもたちに人気のYouTuberコンビ。
合唱隊のメンバー
吉谷さん (よしたに)
CV:森山良子
喜多さん (きた)
CV:清水ミチコ
合唱隊の一員で、愛情深くすずを見守る。酒店を営む。
奥本さん (おくもと)
CV:坂本冬美
すずを見守る合唱隊の一員、自作農家。
中井さん (なかい)
CV:岩崎良美
すずを見守る合唱隊の一員、医者。
畑中さん (はたなか)
CV:中尾幸世
すずを見守る合唱隊の一員、大学講師。
登場楽曲
主題歌
『U』
アーティスト - millennium parade & Belle / 作詞・作曲 - 常田大希 / 歌 - Belle(中村佳穂)
劇中歌
『歌よ』
作曲 - Ludvig Forssell / 作詞 - 中村佳穂
『心のそばに』
作曲 - 岩崎太整 / 作詞 - 細田守、中村佳穂、岩崎太整
『はなればなれの君へ Part1』
作曲 - 岩崎太整 / 作詞 - 細田守、中村佳穂、岩崎太整
『はなればなれの君へ Part4』
作曲 - 岩崎太整 / 作詞 - 細田守、中村佳穂
用語解説
『U』 (ユー)
この世の知性を司る5人の賢者『Voices』によって創造された究極の仮想空間。
全世界で登録アカウント50億人を突破してなお拡大を続ける、史上最大のインターネット空間。
ボディシェアリング機能を有しており、『U』の世界ではその人の隠された能力を引き出すことができる。
As (アズ)
「もうひとりの自分」と呼ばれる、『U』における自分自身のアバター(分身)。「As」とは「Autonomous self(自律的自己)」の略称である。
スキャンした生体情報から自動生成が行われ、デバイスが常時本人の生体情報と連動している。
アバターであるAsに対して、ユーザーの本来の姿は『オリジン』と呼ばれている。また、システムの制約上Asを2つ所持することは不可能。
『U』の正義と秩序を守ると主張している自警組織。
リーダーのジャスティンを筆頭に、幹部や一般隊員といった多くのメンバーで構成されており、それぞれが赤いラインの入った白いバトルスーツを着用している。
その活動に協賛する企業も多く、彼らからのスポンサーを受けながら「竜の正体探し(アンベイル)」を強く押し進めている。
アンベイル
ユーザーとAsをつなぐ生体情報の変換(プライバシーセキュリティ)を無効化し、ユーザーの本来の姿(オリジン)を『U』の世界上に暴いてしまうこと。つづりは「Unveil」。
自警集団『ジャスティス』のリーダーであるジャスティンは、自身の右腕に装着したレーザーデバイスによってそれを行うことができる。
竜の正体探し
竜によるベルのライブ潰しから巻き起こった、『U』内における世界的なムーブメント。
ハッシュタグ『#Unveil the Beast』(野獣の正体を暴け)を掲げて大々的に捜査を行う『ジャスティス』の活動によって、世界中のAsたちが竜の正体に関心を抱くようになる。
その他
制作に参加しているクリエイターたち
仮想世界『U(ユー)』で使われるアバター・As(アズ)などのキャラデザには、漫画「虎鶫(とらつぐみ)-TSUGUMI PROJECT-」のカニ人ことippatu氏、PALOW. − sss氏、IKEGAMI_YORIYUKI氏といった数名のクリエイター達が参加し、とてもユニークな可愛らしいキャラクター達を生み出している。
2021年8月には、Twitterで公式の特別企画・『竜とそばかすの姫』特大集合絵を制作が開催された。
一般の方が描いたアバター<As>の画像がツイートされることで、公式が用意した<U>の世界(キャンパス)に追加していくという内容。イラストには「#Twitter夏祭り」「#竜とそばかすの姫屋台」のハッシュタグが付いてる事が条件などの期間限定な創作で実施。
経緯:1回目の更新 → <As>が200体 → <As>が300体を超えて集合 → 総勢500体の<As>で集合絵が完成
前作「サマーウォーズ」との比較・仮想世界の関わり方
近未来SFとして現実世界の様々な事が統合された仮想世界「OZ」や人工知能「ラブマシーン」の人知を超えた暴走などが描かれた前作「サマーウォーズ」と、本作「竜とそばかすの姫」は似通う点が多数見られる。その中で大きな差異の一つに、ちょっぴり近未来は共通しつつ仮想世界(ネットワーク)の関わり方へ相違点が見られる。
「サマーウォーズ」では主にAI(人工知能)へ視点を当てたSFものであるのに対し、今回の「竜とそばかすの姫」は現実世界(リアル)と仮想世界(インターネット)を道徳心(モラル)が要になって結びつけられるヒューマンドラマ要素が多く、これは現行(2021年)の生活にも当てはまる内容が数多く描かれている。実際に、制作側のテーマには「インターネットを肯定的に描く」があり、その為に様々な仮想世界(インターネット)の一面を描き「肯定的とは何か」を模索する試みが窺える。
例えば―
インターネットの利用は、上記みたいな個人の道徳心(モラル)に委ねられ、かつ匿名性が高い故に現実の自分とは違うもう一人の自分で活動できる特徴もある。このような仮想世界の一端にある「何か」を伝えるかのように、多彩な情報の数々(SNSのコメントやニュース映像、個人の動画配信、今のあなたが閲覧しているこの自由度が高いインターネット百科事典みたいな表現の質・幅が広い情報など)が作中でふんだんに盛り込まれている。
一見すると「これは自由な空間で起きている出来事」と思われるかもしれないが、実際は私たちの現実(リアル)でも起きている「誹謗中傷とかの問題」といった事柄が現実世界と密接に繋がりやすい実情も物語に組み込まれている。
細田監督は「今現在のインターネットは自由な空間というよりかは、現実に近くなりすぎちゃって、誹謗中傷とか問題になったりとか色々ある」と感じており、作中では憶測からプライベートへ容易に触れられてしまう問題、ネットの高い利便性・依存性から仮想と現実の区別が綯い交ぜになり浅ましい不安定な生活に陥っている心情といった色々な物事も描かれている。
これは大人だけの事情でなく10代の多感な若者にも共通する出来事。物語には主人公たちの甘酸っぱい青春や、容易に幾人もの意見が対立・交錯しやすい日常(ネットのグループ機能)など、現行(2021年)の世界にも密接に重なる部分が多い人間模様も垣間見れる。
「竜とそばかすの姫」は近未来の話だが現行の出来事と照らし合わせやすい物語の一面もある故、視聴者によって作品の感想は、その人の抱えている現実問題・心情へ共感・作用しやすく賛否両論など様々な意見が発生しやすい側面もある特異な作品なのかもしれない。
なお、人の感想が別れやすい事は「竜とそばかすの姫」だけでなく、他の細田監督作品でもみられる特徴。また今作にはフィクションだけど虚実入り混じる内容を扱っている事もあり、今回の映画はより感想(リアクション)の幅が広がるのかもしれない。
だが、上記の事柄を意識せずとも、言葉通り世界のクリエイターたちが力を合わせて制作された本作「竜とそばかすの姫」は映画(エンターテイメント)として、幻想的(ファンタジー)な美女と野獣の世界、広大な仮想世界や緑豊かな現実世界の情景美、注目される美麗な「歌」の世界などを楽しめ、もしかしたら不思議と心にうつ「何か」を味わえるだろう。
参考
関連イラスト
関連動画
『竜とそばかすの姫』予告1(2021年4月)
予告2(2021年6月)
スペシャルPV~あの夏を超える夏がやってくる~(2021年7月)
主題歌『U』プロモーションビデオ(2021年7月)
『竜とそばかすの姫』Belle MVメドレー(2021年8月)
コラボ映像
明治安田生命「亜希のちかい」 - 『竜とそばかすの姫』公開記念コラボバージョン(2021年6月)
映画『竜とそばかすの姫』×クラフトボス! CM「すずとクラフトのボス」篇(2021年7月)
関連タグ
美女と野獣 / 美女と野獣(ディズニー) - フランスの民話によるおとぎ話。作中には同作からのさまざまなオマージュが散りばめられている。
クジラ - 細田監督作品に多く登場する生物。実態に近い形で映像化されるのは『バケモノの子』以来。