概要
JRA発足30周年にあたる1984年に表彰開始。(グレード制の導入もこの年)
歴代の牡馬三冠馬は8頭全てが選出されているが、牝馬三冠馬は7頭中3頭のみである(スティルインラブ・アパパネは2023年現在未選出、デアリングタクトは2023年の選考時点では現役であったが後の10月に引退、登録抹消、リバティアイランドは2023年現在現役)。
顕彰馬の選考方法は時期によって変更されているが、現在は競走馬登録抹消後1年以上20年以内の競走馬が投票対象となり、毎年競馬記者たち(JRA賞の投票資格者とほぼ同じ)の4頭以内の連記による投票で75%以上の得票を得た馬が選出される。
具体的には1999年までは競走成績が優秀であること(GIの重賞で3勝以上)、それに準じた成績を挙げ、繁殖入りした後の産駒の成績も優秀であること(GI優勝が種牡馬なら5頭、繁殖牝馬は2頭以上)、その他競馬界の発展に貢献があった競走馬(ハイセイコーはアイドルホースとして競馬の大衆文化の向上に寄与、テンポイントは獣医学の進歩に貢献し、その後の競走馬に対する医療技術の向上につながったため)、という3項目だった。
1990年の顕彰馬が多いのは制度ができた1984年にトウショウボーイが顕彰馬に選ばれたのに対し、テンポイントが入っていないことに対する抗議が多かった(種牡馬実績がなかったため。後に前述の理由もあり顕彰馬となった)ことや、制度発足時と状況が変わってきたことから再選考を行ったため。これにより、テンポイントに加えコダマ、スピードシンボリ、メイヂヒカリが選ばれた一方、ダイナナホウシユウ、グリーングラスのように優秀な成績を収めながら選考漏れした競走馬もいる(前者は一人の選考委員が馬体が小さく風格に欠けると反対したため)。
1999年のタイキシャトルを最後にこの選考方法は廃止され、記者による投票となったのだが、2003年までは登録抹消から20年以内の年数制限がなかったため、20年以上前の馬に投票する古参記者と最近の馬に投票する若手記者で票が割れてしまった。その結果、実績の面では顕彰馬として十分な成績を残したテイエムオペラオーが落選する事態となり、JRAに抗議が殺到。その結果、引退からあまりに時間の経過した競走馬は選出されないよう登録抹消から1年以上20年以内の競走馬を選考対象とするよう制限ができた(これにより、テイエムオペラオーは2004年の顕彰馬となっている)。
2015年には活躍のジャンルが増えてきたことから投票可能数が4頭に増やされ、現在に至っている。
ただ、票が割れてしまうと、顕彰馬なしとなる年も多く、2022年に選考対象になったアーモンドアイはキングカメハメハと票が割れてしまい、受賞を逃している(その後アーモンドアイは2023年の顕彰馬となっているが、今度は同年に選考対象となったコントレイルが票割れにより受賞を逃している)。かのシンボリルドルフをも上回る勝利数を挙げたはずのアーモンドアイの受賞が一発で成らなかった事は、JRAへの、ひいてはこの制度への批判のうねりを起こした。この批判の嵐はJRAと競馬記者らにとって、完全に予想外であったようだ。部内からも制度への批判が巻き起こったからである。そのためか、『世間の猛批判を見て、選考資格者が日和ったのではないか?』という、辛辣な意見も飛び出す有様となった。更に、アーモンドアイが一年越しに選ばれた一方、コントレイルが昨年のアーモンドアイ同様の憂き目に遭ってしまうという弊害(コントレイルもその一年後に選ばれた)も生じており、前途多難の様相を呈している。
この基準によらず、特例として顕彰馬に選ばれる例もある。2004年は年数に制限ができたため、それにより対象から漏れる競走馬を対象とし、2014年はJRA60周年ということで投票可能数を4に増やしたため。これにより顕彰馬となったのがタケシバオーとエルコンドルパサーである。
顕彰馬一覧
生年順に列挙する。馬齢は2001年以降の現表記で統一する。
存命馬は馬齢のみ記載。
名前 | 性 | 生年 | 没年(馬齢) | 選出年 | 競走成績 | 主な勝鞍 | 備考 |
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クモハタ | 牡 | 1936年 | 1953年(17歳) | 1984年 | 21戦9勝 | ダービー | 栗毛の貴公子 デビューから僅か9日後でダービー制覇 1952年から1957年まで日本リーディングサイアー |
セントライト | 牡 | 1938年 | 1965年(27歳) | 1984年 | 12戦9勝 | クラシック三冠 | 黒鹿毛の勇者 初代三冠馬 後述トサミドリの半兄で唯一の兄弟顕彰馬 |
クリフジ | 牝 | 1940年 | 1964年(24歳) | 1984年 | 11戦11勝 | ダービー オークス 菊花賞 | 最強の牝馬 ダービーなどを制した「変則三冠馬」JRA史上最多連勝かつ生涯全勝馬 |
トキツカゼ | 牝 | 1944年 | 1966年(22歳) | 1984年 | 30戦11勝 | 皐月賞 オークス | 名牝 現役時は皐月賞・オークスの変則二冠を達成、繁殖牝馬としても年度代表馬2頭を送り出す |
トサミドリ | 牡 | 1946年 | 1970年(24歳) | 1984年 | 31戦21勝 | 皐月賞 菊花賞 | 稀代の名馬 現役時は皐月・菊の二冠のほか、11連勝、レコード勝ち10回達成。種牡馬として八大競走優勝馬を7頭輩出、上記セントライトの半弟で唯一の兄弟顕彰馬 |
トキノミノル | 牡 | 1948年 | 1951年(3歳) | 1984年 | 10戦10勝 | 朝日杯3歳S 皐月賞 ダービー | 無敗の二冠馬でダービー直後に急死した「幻の馬」 |
メイヂヒカリ | 牡 | 1952年 | 1980年(28歳) | 1990年 | 21戦16勝 | 朝日杯3歳S 菊花賞 天皇賞・春 有馬記念 | 黄金の脚 初代有馬記念優勝馬。歴代顕彰馬で現役最古の天皇賞馬 クモハタとの父子顕彰馬 |
ハクチカラ | 牡 | 1953年 | 1979年(26歳) | 1984年 | 日本:32戦20勝 海外:17戦1勝 | ダービー 天皇賞・秋 有馬記念 ワシントンB・H(米) | 栗毛の国際派 初めて海外の重賞を制した日本調教馬 |
セイユウ | 牡 | 1954年 | 1977年(23歳) | 1985年 | 49戦26勝(内サラ戦25戦5勝) | 七夕賞 福島記念 セントライト記念 | サラブレッドとも互角以上の戦績を残したアラブの怪物 |
コダマ | 牡 | 1957年 | 1976年(19歳) | 1990年 | 17戦12勝 | 皐月賞 ダービー 宝塚記念 | 夢の超特急 「カミソリの切れ味」と評された二冠馬 歴代顕彰馬で現役最古の関西馬 |
シンザン | 牡 | 1961年 | 1996年(35歳) | 1984年 | 19戦15勝 | クラシック三冠 宝塚記念 天皇賞・秋 有馬記念 | 最強の戦士 「ナタの切れ味」と評された二代目三冠馬 後に「五冠馬」 1984年顕彰馬選定当時唯一の関西馬 |
スピードシンボリ | 牡 | 1963年 | 1989年(26歳) | 1990年 | 日本:39戦17勝 海外:4戦0勝 | 天皇賞・春 有馬記念2勝 宝塚記念 | 時代の先駆者 初の有馬記念連覇馬 シンボリルドルフの祖父(母父) |
タケシバオー | 牡 | 1965年 | 1992年(27歳) | 2004年 | 日本:27戦16勝 海外:2戦0勝 | 朝日杯3歳S 天皇賞・春 スプリンターズS | 勝鞍は1000~3200と幅広く、ダートでも複数のレコード勝ちを収めた、「元祖怪物」と言われたオールラウンダー |
グランドマーチス | 牡 | 1969年 | 1984年(15歳) | 1985年 | 63戦23勝(内障害:39戦19勝) | 中山大障害4勝 京都大障害3勝 | 飛越の天才 顕彰馬唯一の障害競走馬 |
ハイセイコー | 牡 | 1970年 | 2000年(30歳) | 1984年 | 地方:6戦6勝 中央:16戦7勝 | 地方:青雲賞 中央:皐月賞 宝塚記念 | 国民のアイドル 第一次競馬ブームの立役者 |
トウショウボーイ | 牡 | 1973年 | 1992年(19歳) | 1984年 | 15戦10勝 | 皐月賞 有馬記念 宝塚記念 | 天馬「TTG」の一角。ミスターシービーの父 |
テンポイント | 牡 | 1973年 | 1978年(5歳) | 1990年 | 18戦11勝 | 阪神3歳S 天皇賞・春 有馬記念 | 流星の貴公子 「TTG」の一角としてその悲劇的な死も知られる |
マルゼンスキー | 牡 | 1974年 | 1997年(23歳) | 1990年 | 8戦8勝 | 朝日杯3歳S | 時代に翻弄された無敗の「夢のスーパーカー」種牡馬としても活躍 |
ミスターシービー | 牡 | 1980年 | 2000年(20歳) | 1986年 | 15戦8勝 | クラシック三冠 天皇賞・秋 | 奇跡の豪脚 三代目三冠馬。トウショウボーイとの父子顕彰馬 |
シンボリルドルフ | 牡 | 1981年 | 2011年(30歳) | 1987年 | 日本:15戦13勝 海外:1戦0勝 | クラシック三冠 有馬記念2勝 天皇賞・春 ジャパンカップ | 四代目三冠馬。史上初の七冠馬(GⅠ7勝)となった「永遠なる皇帝」 |
メジロラモーヌ | 牝 | 1983年 | 2005年(23歳) | 1987年 | 12戦9勝 | 桜花賞 オークス エリザベス女王杯 | 初代牝馬三冠馬 |
オグリキャップ | 牡 | 1985年 | 2010年(25歳) | 1991年 | 地方:12戦10勝 中央:20戦12勝 | 有馬記念2勝 マイルCS 安田記念 | スーパースター 「平成三強」の一角。第二次競馬ブームの立役者 |
メジロマックイーン | 牡 | 1987年 | 2006年(19歳) | 1994年 | 21戦12勝 | 菊花賞 天皇賞・春2勝 宝塚記念 | 親子三代で天皇賞を制した最強のステイヤー 初の天皇賞・春連覇を達成 |
トウカイテイオー | 牡 | 1988年 | 2013年(25歳) | 1995年 | 12戦9勝 | 皐月賞 ダービー ジャパンカップ 有馬記念 | 幾度も故障しながら復活を遂げた不屈の帝王 シンボリルドルフとの父子顕彰馬 |
ナリタブライアン | 牡 | 1991年 | 1998年(7歳) | 1998年 | 21戦12勝 | 朝日杯3歳S クラシック三冠 有馬記念 | 「シャドーロールの怪物」五代目三冠馬 |
タイキシャトル | 牡 | 1994年 | 2022年(28歳) | 1999年 | 日本:12戦10勝 海外:1戦1勝 | 安田記念 マイルCS2勝 スプリンターズS ジャック・ル・マロワ賞(仏) | 海外G1も制した日本の誇るマイラー |
エルコンドルパサー | 牡 | 1995年 | 2002年(7歳) | 2014年 | 日本:7戦6勝 海外:4戦2勝 | NHKマイルC ジャパンカップ サンクルー大賞(仏) | 世界を駆けた「怪鳥」。2021年時点世界レート日本馬No.1の「134」 |
テイエムオペラオー | 牡 | 1996年 | 2018年(22歳) | 2004年 | 26戦14勝 | 皐月賞 天皇賞・春2勝 宝塚記念 天皇賞・秋 ジャパンカップ 有馬記念 | 2000年に年間無敗及び史上初の秋古馬三冠達成。GⅠ7勝の「世紀末覇王」 |
キングカメハメハ | 牡 | 2001年 | 2019年(18歳) | 2024年 | 8戦7勝 | NHKマイルC ダービー | 史上初の変則二冠を達成した「大王」。 |
ディープインパクト | 牡 | 2002年 | 2019年(17歳) | 2008年 | 日本:13戦12勝 海外:1戦0勝 | クラシック三冠 天皇賞・春 宝塚記念 ジャパンカップ 有馬記念 | 「日本近代競馬の結晶」六代目三冠馬にして二代目七冠馬になった「英雄」 |
ウオッカ | 牝 | 2004年 | 2019年(15歳) | 2011年 | 日本:22戦10勝 海外:4戦0勝 | 阪神JF ダービー 安田記念2勝 天皇賞・秋 ヴィクトリアマイル ジャパンカップ | クリフジ以来64年ぶりの牝馬のダービー馬。GⅠ7勝の「女傑」 |
オルフェーヴル | 牡 | 2008年 | (16歳) | 2015年 | 日本:17戦10勝 海外:4戦2勝 | クラシック三冠 有馬記念2勝 宝塚記念 | 「金色の暴君」七代目三冠馬 |
ロードカナロア | 牡 | 2008年 | (16歳) | 2018年 | 日本:17戦11勝 海外:2戦2勝 | スプリンターズS2勝 高松宮記念 安田記念 香港スプリント2勝 | 「世界のロードカナロア」。スプリント路線で縦横無尽に活躍した「龍王」下記キングカメハメハとの親子顕彰馬 |
ジェンティルドンナ | 牝 | 2009年 | (15歳) | 2016年 | 日本:17戦9勝 海外:2戦1勝 | 桜花賞 オークス 秋華賞 ジャパンカップ2勝 有馬記念 ドバイシーマクラシック(UAE) | 五代目牝馬三冠馬。牝馬三冠、史上初のジャパンカップ連覇などGⅠ7勝を挙げた七冠牝馬「貴婦人」。ディープインパクトとの父娘顕彰馬 |
キタサンブラック | 牡 | 2012年 | (12歳) | 2020年 | 20戦12勝 | 菊花賞 天皇賞・春2勝 ジャパンカップ 大阪杯 天皇賞・秋 有馬記念 | 北島三郎が実質的なオーナー。2021年時点国内総獲得賞金第1位 |
アーモンドアイ | 牝 | 2015年 | (9歳) | 2023年 | 日本:14戦10勝 海外:1戦1勝 | 桜花賞 オークス 秋華賞 ジャパンカップ2勝 ドバイターフ(UAE) ヴィクトリアマイル 天皇賞・秋2勝 | 六代目牝馬三冠馬。牝馬三冠、天皇賞・秋連覇などJRA史上最多のGⅠ9勝を挙げた九冠牝馬。ロードカナロアとの父娘顕彰馬 |
コントレイル | 牡 | 2017年 | (7歳) | 2024年 | 11戦8勝 | ホープフルステークス クラシック三冠 ジャパンカップ | 八代目三冠馬。史上初の父子二代で無敗三冠を達成した衝撃の後継者。ディープインパクトとの父子顕彰馬 |