そうやって病原菌を撒き散らしているんですよ
きぼうというなまえのびょうげんきんをまきちらしているんですよ
発端は『仮面ライダー鎧武』第35話『ミッチの箱舟』。
これまでインベスからの脅威から人類を守ろうと、非情になりながらも手を尽くしてきた呉島光実。しかし、かつて自分が尊敬していた葛葉紘汰の行動によって思う様に上手くいかず、ついに堪忍袋の緒が切れた光実は終盤、紘汰を呼び出して一方的に暴行。そして彼に言い放ったのがこれである。
「希望っていうのはタチの悪い病気だ。それも人に伝染する。紘汰さん、あなたはね、そうやって病原菌を撒き散らしているんですよ!」
ついに本性を露わにした光実は、兄・呉島貴虎から奪ったゲネシスドライバーを使い、仮面ライダー斬月・真に変身。その姿に紘汰は愕然する。彼は貴虎が消息を絶った後、幾度となくそのライダーに攻撃されたからだ。そしてその正体が奇しくも自分が最も信頼を寄せていた相手・光実であった。
「(貴虎は)死んだよ! …アンタの病気が移ったせいでね!!」
あろうことか兄・貴虎の死の原因すら紘汰のせいにする光実は、紘汰に更なる暴行を加えるなどやりたい放題。そこへ現れたのは…。
「やめろ光実!!」
それは、自分の目の前で行方を眩ませていたハズの貴虎本人であった。
そしてこの後、光実と貴虎は壮絶な兄弟喧嘩に発展していく事となる…。
これまで貴虎を装って紘汰達を騙し続け、ついには本性を明かして紘汰に殴る蹴るの暴行を繰り返し、挙句に「希望」という二文字を「病気」と言い張るそんな光実の外道ぶりに、多くの視聴者が怒りを買った事は想像に難しくはないだろう。
奇しくも前作『仮面ライダーウィザード』、及び本作と同様虚淵玄氏が脚本を手掛けた『魔法少女まどか☆マギカ』が、どちらも「主人公達が『希望』を願って戦ってきた作品」だったこともあり、これらの作品を視聴したファンから光実に対し「これらの主人公に喧嘩を売っているのも同然」と非難が殺到。ある意味これも光実に対するヘイトが集まる一因にもなっている。
しかし、一方で36話における光実と貴虎との会話シーンを観た人の中には、「そんな光実にも同情干渉の余地もあるのではないか」という意見もある。
そもそも光実があそこまで自分を追い込んでしまったのも、兄である貴虎からノブレス・オブリージュを叩き込まれた事も一因であり、しかも貴虎は36話で再登場した際、これまで自分が光実に叩き込んできた教育や、初期の紘汰にやってきた所業を棚に上げるかのように(実際、貴虎も当初は光実と同様、紘汰を計画の邪魔だと称して何度も殺そうとした事があった)彼の行動を全否定。これには流石の光実も「それをアンタが言うのか!?」と激怒していた。
そして埠頭で再び光実と立ち会わせした際にも、貴虎は自分の間違いに対して謝罪のひとつもしないばかりか、光実に対し更なる精神的な追い打ちとも言える言葉を投げつける。
貴虎「光実。お前は、…俺の影だ」
光実「そんな…!それじゃあ僕は、アンタを倒さない限り本物になれないじゃないか!!」
尊敬する兄の為に、これまで仲間を騙し続ける形で自らの手を汚し、曲りなりに人類を救おうと行動してきた光実。皮肉にもそんな自分を真っ向から否定したのは、その兄である貴虎本人だった。
こんな言葉を投げつけられたりしたら、光実が発狂してしまうのもある意味当然だろう(実際、演じた高杉真宙氏も、当シーンの撮影のリテイクが行われる度に、「何度も泣きそうになった」という)。
しかし、当の貴虎もそんな自分の落ち度を自覚していたのか、最後の最後で光実にトドメを刺せず、攻撃を躊躇ってしまう。そんな兄を最終的に手に掛けた事で更に自分の心に大きな影を落としてしまった光実。
そしてこれ以降、光実は貴虎の幻影(正確には「貴虎の姿を模した自分自身の良心」)に付き纏われる形で、更に精神的に苦しんでいく事になる…。
- 天下分け目の戦国MOVIE大合戦において光実はWアームズに変身しているが、ある意味これも伏線だったのかもしれない(皮肉にもそんな光実にWアームズを与えたのは、自分が最も守りたかった相手の成れの果てだった)…。
- 因みにダブル魂に変身した仮面ライダースペクターこと深海マコトやWアーマーに変身した仮面ライダージオウこと常盤ソウゴに至っても同様に大罪を背負ってしまう羽目になっており、一部のファンの中には「Wの力は呪われているのでは?」と推測する者もいるが、果たして…?
- 光実が普段、変身していた仮面ライダー龍玄のモチーフはブドウではあるが、本作における光実の悪行ぶりがあまりにも強烈すぎたのか、視聴者(特にメインターゲットである幼い子供)の中には「ブドウが食べられなくなった」人が続出したとのこと(一方で斬月のモチーフであるメロンは逆に人気が出ている)。冒頭のタイトルの通り、紘汰に「希望という病原菌を巻き散らした」と言い放った光実ではあるが、皮肉にもそんな光実もある意味、視聴者達に「ブドウ恐怖症」という病気を巻き散らしてしまったとも言える。放送当時のブドウ栽培に携わっていた農家の人達はさぞかし光実を恨んだ事だろう。
黙ってろよクズ:同じく、光実の下劣な迷言のひとつ。
葛葉紘汰:光実の被害者、かつ光実が狂ってしまった元凶。
呉島貴虎:光実が狂ってしまった元凶、その2。
操真晴人、鹿目まどか:本記事の台詞を要いた事で、光実が喧嘩を売ったのも同然の主人公達。
五十嵐大二、辛木田絆斗:いずれもエピソードの終盤で主人公に暴行を働く形で後味の悪い展開を招いたライダー達。特に前者は光実と共通点が多い。
五十嵐一輝、ショウマ:エピソードの終盤において上記のライダー達に紘汰と同様、暴行されたライダー主人公達。
シン・アスカ:本作より9年前に放送されたガンダム作品に登場する主人公。「尊敬していた相手に手の平返しをされた結果、闇落ちする」という設定に共通しており、ガンダムファンなら彼を光実と重ねた人もいるのではないだろうか。