概要
同州最大の63万9,111人(2020年4月)の人口を擁し、デトロイト川を隔ててカナダと境界線を接している。都市圏人口は約400万人以上と、五大湖周辺のアメリカの都市ではシカゴに次ぐ大都市である(カナダのトロントの方がでかいが)。
全盛期には市域だけで180万人の人口を抱えたが、今はその30%ぐらいとなっている。その一方で、郊外化が進んでおり、ある意味全米でもモータリゼーションが進んだ都市にもなっている。
北東部に位置するこの地は古くから自動車産業によって発展したGM、フォード・モーター、クライスラー(現在のステランティス)が拠点を置きモーター・シティとして有名であるが、1970年代からの日本車台頭と1990年代からの日本車製造企業のアメリカ進出などによって産業が衰退、下請け工場の倒産でレイオフの嵐、治安も悪化して人口が流出、中心街もすっかり寂れつつあった。2013年、とうとう市が破産法申請。
以後はミシガン州政府やGMなどが主体となって市の復興に尽力。底の底まで下落した地価やスカスカになったビジネス街を逆手に取って全米からインキュベーション、スタートアップ企業を積極的に誘致。急速に復興に近づいており自動車産業から派生した産業用ロボット製造や新しい風として次世代自動車(電気自動車、水素自動車)の研究・生産拠点として再び脚光を浴び、ガラガラで荒廃していたダウンタウンも人足が戻ってきている。ベンチャー企業、スタートアップ企業のほかGoogleなどのIT企業もデトロイトやその近郊に電気自動車の研究施設を持ち、市街地でも電気バスの試験走行を実施したりするなどしている。
しかしながら、治安もかなり改善された(ワースト10から脱却している年もある)ものの、まだまだ治安の悪いエリアは少なくない。加えて、日本人にとってはかつて起きたジャパンバッシングの闇が強すぎて未だに反日感情が強めなので、気軽に旅行というわけには行かない場所でもある。ちなみに、本当の意味でミシガンで一番ヤバい都市はGM創業地として知られたフリントであり、ここ出身のマイケル・ムーア監督が「ロジャーミー」というドキュメンタリー映画を作った。また、治安ならワースト20常連のサギノー、カラマズーなどデトロイト以外にも危険な犯罪都市が多い。
デトロイトに本社を置く企業はやはり自動車関係が多いが、デトロイト市域となるとGMやアメリカ地元の自動車産業があるぐらい(フォードモーターは近郊のディアボーン)、近郊には他に化学大手のダウケミカルなどもある。また、自動車保険絡みで保険業も盛んだったりする。
意外な部分で音楽産業が盛んな都市としても知られ、デトロイト・テクノといわれたエレクトロミュージック、いわばテクノ音楽発祥地としても知られる。また、レコードレーベルから生まれたモータウンというポップスも、デトロイト発である(motor townを縮めたもの)。
歴史
1701年7月にフランス人による入植が始まる。
市名はフランス語で「海峡」を表すdétroit(デトロワ)に因み、エリー湖とヒューロン湖を繋ぐ上述のデトロイト川を「海峡の川」(Rivière du Détroit)と称したのが由来とされる。
1760年11月にイギリス軍に占領され、1806年9月に市として成立した。
この地は独立戦争と1812年戦争を経て、アメリカの割譲と実効支配が進んだ。
19世紀に水運で栄えたが、次第に陸上輸送に使う馬車・自転車などの産業が盛んになった。
1903年6月に自動車王のヘンリー・フォードが率いるフォード・モーターが、この地に大規模な量産工場を建設した事で他の自動車メーカーが集まり、アメリカの自動車産業のビッグ3(クライスラーやゼネラルモーターズ)もこの地に工場などを移転した。
全盛期には180万人もの人口を抱え、その半分が自動車産業に従事するという大都市となり、市経済は急激に発展した。
なお、フォードの工場の従業員にはポーランド系が多かった為、デトロイト在住の白人には「名字は東ヨーロッパ系だが信仰はカトリック」という人が多い。(この事は、デトロイトを舞台にしたクリント・イーストウッドの映画「グラン・トリノ」の主人公の設定にも活かされている)
1967年7月に発生したデトロイト暴動などで治安が悪化し、都心部から郊外へ富裕層の人口が流出した。1970年代以降は国内外で日本車に押されるようになり、地場の自動車産業が打撃を受けて失業率が増大した。結果、中心街は生活困窮者だらけとなって税収が悪化し、1980年代の中心街の荒れ方は尋常では無かったとされる。1990年代以降荒廃を重く見た市は都市の再生・映画産業への転換などを試みたが、一部地域に効果があっただけで、市全体に波及する事は無かった。2009年にはGMが破産法申請、さらに2013年7月に事実上の財政破綻に陥り、市民の公共施設の利用・行政サービスが著しく制限された。
郊外の地域
このように衰退が激しいデトロイトであるが、その郊外やミシガン州全体の経済・雰囲気が近年も瀕死状態にある訳では無い。中間階級や富裕層が多く住む静かな住宅街・豊かな果樹農業地帯・国内観光で賑わう景勝地・避暑地は多い。
アメリカ以外の世界各国の自動車関連会社がこういった郊外に事業所を置いており、日本人駐在員とその家族が多く住むエリアでもある。ただし日系人がとても多いカリフォルニア州やハワイ州などと比較すると、日本の食材・雑貨・報道媒体・サブカル情報などが入手しづらいという声も多い。
また1年を通して雨天が多く極寒の降雪地帯なので、治安こそ良い地域も多いものの多くの日本人にとっては比較的生活しづらい場所であるともされる。
交通
中長距離路線ではアムトラックのシカゴ-バトルクリーク-ポンティアック(デトロイトの北にある都市)間の路線が存在し、ミシガン・セントラル駅はこの路線の廃駅である。
1983年10月まではポンティアックからデトロイト間の通勤路線があった。
空港に関しては、現在は郊外にあるデトロイト・メトロポリタン国際空港が最大の玄関口であり、日本との直行便も就航する。
スポーツ・文化
デトロイトとその郊外には北米の4大プロスポーツ(アメリカンフットボール・バスケットボール・アイスホッケー・野球)のチームが全て存在する。
アメリカの工業技術の一大発展地として歴史的意義の大きい自動車・往年の移築建築物を多数保存しているヘンリー・フォード博物館も所在する。
また地場の有名オーケストラ(デトロイト交響楽団)も存在し、アメリカの10大オーケストラの一つ。
創作において
デトロイトを舞台とした作品として最も有名なものは映画『ロボコップ』があり、犯罪都市と化した近未来のデトロイトが描写されている。ただし1980年代後半は既にデトロイトの治安は危険なレベルであった為、撮影はテキサス州ダラスで行われた(ダラスのダウンタウンが近未来的だったのもある)。
スーパーファミコンの『シムシティ』においても、この都市を題材としたシナリオがあり、犯罪の抑止が目的となる。
『デトロイトビカムヒューマン』では、2038年のデトロイトを舞台としているが、ロボットの普及によって失業者が溢れ、やはり没落した都市となっている。