「いいの? ボク、全部壊しちゃうよ?」
CV:新井里美
概要
『HUGっと!プリキュア』のクライアス社社員。第23話にて初登場。第24話の全体会議においてカスタマースペシャリストに任命された。旧社員との比較はできないが、新体制社員(ジンジン・タクミを除く)の中では一番低い役職にいる。
一見ボブカットにした白髪の中性的な容姿の少年だが、彼は人間ではない。
ビシンは元々は未来世界の路地裏にハリハム・ハリーとともに住み着いていた非力な小動物の種族・ハリハリ族の一人に過ぎなかったのだが、クライアス社の実験体として未来科学の粋を極めた改造手術を受け、人の姿と人間以上の力を持つ生体兵器に生まれ変わったのである。
勝手に身体を改造されたとなればクライアス社を恨んでもよさそうだが、ビシン本人はこれを「すごい力をもらった」と割とポジティブに捉えているような発言をしていた。
改造のせいか破壊衝動が増幅されているらしく、物語登場まではリストルによって社内に幽閉されていた。しかし、キュアエールに興味を抱いた社長が第23話で計画を「上方修正」したことにより、新たな計画のための補充要員が必要となり、ビシンも表舞台へと解き放たれることとなった(本来の計画では23話時点でこの世界線の時間を止めることで全てを終わらせる予定だったので、23話でクライアス社の初期メンバーは用済みとして会社から放逐されてしまった。しかし、社長の意向でその計画が変更されために補充要員が必要となったのである)。
前半のOPでルールーが登場していた場所にでかでかと姿を現しており、後半のキーキャラクターとなることを予想させる。
担当声優の新井女史が語ったところによれば、チャームポイントは「狂気の笑顔」とのこと。
容姿
首に巻かれた毛皮のようなマフラーと、赤い肩掛けの下に各所に施されたチャックが拘束器具にも見える青い服を着用しており、両腕には包帯が巻かれている。手の爪は鋭く尖っており真っ黒に染まっている。
よく見ると、下瞼に赤いアイライン、八重歯(牙?)が確認できる。
まるで怪我を負った脱獄犯のような見た目であるが、加えて言うと拘束器具・必要のない箇所に付けられたチャック・腕の包帯はいわゆる中二病・邪気眼系キャラの衣装に多いパターンであるので、二重の意味で痛々しさを感じさせる。
プリキュアシリーズのこの手の中性的な敵少年幹部ではよくあることだが、性別が公式で確実に言及されてはいなかった(声を演じる新井女史がキャストコメントでビシン「君」と呼んだ程度)為「実は女の子」説も浮上していた。しかしキャラクターデザインの川村敏江女史はTwitterにて「ビシンくんは男の子だよ…?」とツイートしている。
小動物としての姿
小動物形態はハクビシンがモチーフ。体毛は灰色だが額部分に白い前髪が生えている。
人間形態の時に首に巻いてるマフラーがちょうど彼の小動物形態を模したものともなっている。
ちなみに、赤い上着は小動物形態でも着ている。
この形態の初登場は32話で、同話ではリストルにも小動物形態があった事が判明している。
最終形態
第47話でハリーばかりかリストルすらも自分から離れていってしまった激しい怒りと悲しみから、周囲に充満しているトゲパワワを自らの意思で取り込み猛オシマイダーと化した姿。
ハリーとは異なり、本来の姿を怪物化させたものではなく、他の幹部と同様に人間態をそのままオシマイダー化させたような姿をしている。
ジェロスの最終形態同様に自我を保っているのが特徴。
劇中では直ぐにハリーやリストル、そしてエトワールことほまれの説得を受けて浄化され元の姿に戻った為、具体的な能力は不明だが、描写から怪力を有しているようだ。
人物
常に愛情と承認に飢えており、特にハリハム・ハリーに対しては並々ならぬ執着がある模様。
所謂ヤンデレ。
クライアス社に所属する理由も衣食住の確保だけでなくおいてかれるくらいなら、みんなで時間を止めれば寂しくなくなるという発想が基となっている。
独占欲が強く邪魔者は消すといったテンプレタイプの言動をとる他に、「ハリーは自分と一緒のほうがいいに決まっている」という思い込みに基づいて物事を都合よく解釈し、それを保持するのに都合の悪いことが突きつけられると(たとえハリー本人の主張であっても)全く聞く耳を持たないどころか、それを暴力によって弾圧しようとする危険な一面も持つ。
同時に「言わなくても気付いてほしい」という甘えん坊な一面も持ち合わせているようで、ハリー以外には自分から頼ることすらしない。
ただし、相手の方から自分を大切にしてくれるのであれば、ハリーでなくとも拒絶はしないようだ(リストルとジョージ・クライがその例)。
一方で、拒絶されたり裏切られたと感じたときには過剰反応し、その場合は単に情緒不安定になるだけでなく、「あてつけ」のような言動をとったり破壊活動を行うなど暴力的な部分が露呈する。
また、物事を都合よく解釈するのはハリハリ地区に居たころからであり、思い込みが激しいのは素の性格である模様。
出撃する時は基本ハリー絡みでやる気を出した時だけであり、出撃やオシマイダー召喚の回数は実は上役であるはずのジェロスよりも少ない。クライアス社に恩義を感じこそすれ、組織人として動く気はさらさらないようだ。
また、ハリーに関係ないことへの対応は驚くほどあっさりしており、リストル以外の社員とはほとんど会話しない。これは敵対する存在のプリキュアも同様。唯一の例外はハリーを巡って対立関係にあるキュアエトワール=輝木ほまれ。
能力
猛オシマイダーの発注バンクは、自らの腕に巻き付いた包帯を口で咥え解いて画面全体を覆いつくし、その暗闇を引き千切るという妖艶でありながらも恐ろしげなもの。
他の社員に比べダンスの要素が薄いという特徴がある。
なお、ビシンの発注バンクは第28話でしか使用されていない非常にレアなシーンでもある。
人間の姿でも飛行能力を持ち、紫色の光弾を放つことができる。
ハリハム・ハリーとの関係
ハリハム・ハリーとは未来世界で一緒に暮らしていた旧知の仲である。第25話におけるハリーの回想では、彼が面倒を見ていた「兄弟達」の中にビシンに似た毛色に赤い服を羽織った小動物が確認できる。
ハリーを含めて家族を失った者達が寄り添って未来世界の路地裏でドブネズミのような生活をしていたのだが、ハリーとビシンはジョージ・クライによってスカウトされ、彼やドクター・トラウムの改造手術によって人間以上の知性と能力を与えられることになった。
ハリーを自身の元へ連れ戻す事がビシンの最優先事項であるが、会社からそんな命令は一切受けていない。ビシンの独断専行である。そもそも裏切り者のハリーを会社が再び受け入れるつもりがあるのかという懸念もあるが、その場合は会社に牙を剝く覚悟もあるようだ(なお劇中描写を見る限り、そもそも上層部はハリーを敵として扱っているのか怪しいレベルでスルーしている)。
本来の使命であるはずのプリキュアの始末についてもハリーを自身の元へ連れ戻すための一環としか見ていない模様で32話では「プリキュアに用はない」とまで言い放っている。
ハリーがプリキュアと離れてクライアス社に戻ることを嫌がっていても「一時の気の迷い」と切って捨てる。上述したようにビシンにとってはハリー自身の気持ちさえも関係ないのである。
輝木ほまれとの関係
初出撃ではほまれとハリーの強い絆を見せつけられ、殺意にも似た嫉妬を剥き出しにしていた。そしてこの時点でほまれがハリーに対して恋心を隠し持っている事を本能的に察知した。
第32話ではほまれの恋心を壊そうと、バーチャル空間を利用してハリーの本心をほまれに見せつける。実はハリーには心に決めた女性がいたのだ。ビシンは「お前の思いは一生ハリーに届かない」とほまれを徹底的に煽り、楽しげに「前からお前が気に入らなかったんだ!」と狂気の笑みを浮かべながら言い放っている。
ほまれことキュアエトワールはこの事で一度は絶望の底に沈むが、はなの応援を受けて「ハリーに自分の気持ちも伝えてないのに勝手に絶望するのも無責任だ」と思い直し自力で絶望のどん底から立ち上がる。ほまれが悲しみで圧し潰されない事実にビシンは動揺する。大切な人へ自分の想いが届かない事に絶望しないなんてありえない… だって今の自分はそのために絶望しているのだから。ビシンは悲痛な叫びを発して半狂乱になってキュアエトワールに攻撃を加えていたが、それはまるで自分に向けるかのようだった。
ほまれもまたビシンのことを「アンタとわたしは似てる…嫌になるくらいにね」と評しており、ビシンがほまれを特に敵視するのはハリーを巡る関係のみならず、言ってみれば同族嫌悪や自身の境遇に対するコンプレックスの裏返しである。
戦いが終わった後のそれぞれの様子からしても、2人は合わせ鏡で表裏一体の存在であると言えよう。
それ故か、第25話の夏祭り回、第28話のもぐもぐ回、そして第32話の人魚姫回など、ほまれがメインの回は決まってビシンが出動している(もっとも、彼女がメインとなる話はハリーがキーとなることも多いからだと思われるが)。
リストルとの関係
かつて同郷で暮らしていたハリーとは別のもうひとりの兄である。
リストルは社員に対して基本的に冷徹な人物であるが、クライアス社にスカウトされてからもビシンに対しては比較的温厚に接している。
一方でビシンは信頼していた兄が自分達を追い詰めた人間に屈服し真っ先にクライアス社へ加担したことを根に持っており、度々あてつけのような言動をとっている。
しかし、別の視点から見ればそれだけリストルに対する信頼や情が大きかったという表れでもあるということは容易に想像できる。
リストルのことを気に食わないとは思いつつ、ハリーが戻ってきてくれない孤独に耐えきれず本当に辛くなった時はリストルの慰めに応じていた。
そしてリストルがクライアス社によって記憶をいじられてハリーのことを忘れてしまった42話以降、ビシンは「ハリーだけでなくリストルも自分から離れた」と絶望を深め、その孤独は心の闇をより深めることになった。
本編での動向
カスタマースペシャリストに就任(第24話~第32話)
第23話のラストで初登場。厳重に拘束されているビシンをリストルが解放する。
幽閉されていた身であるがそれを恨んでいる様子は見せず、「やっと来てくれた…」と控えめに対応しながら「いいの? ボク、全部壊しちゃうよ?」と堂々たる宣言をし、視聴者にインパクトを与えた。
続く第24話では、リストルにより全体会議で「カスタマースペシャリスト」という役職に任命される(カスタマースペシャリスト=顧客対応の専門家であり、視聴者からは「クライアス社の顧客とは一体…」「子供のビシンを任命するなよ」などとツッコミが入った)。なお、この会議では社長の命令に対し、社員の中でビシンのみが返事をしていない。
その後の第25話では幽閉されていた身であるためか、ドクター・トラウムに外出許可をとる場面がある。
プリキュア達は夏祭りを楽しんでおり、他のメンバーと別れて二人きり(とはぐたん)になり身の上話をしていたハリーとほまれの前に現れ、「迎えに来たよ」と語るビシン。ハリーは小動物の姿に戻り、ほまれ達からビシンを引き離そうとするが光弾による攻撃を受け捕まってしまう。ビシンはハリーを見て「随分と腑抜けになったねぇ」と語りかける。
はな達がやってくると「こんなやつら早く倒しちゃえばいいのに」と言い放ち、困惑する一同に、「いいよ、教えてあげる」と前置きをしてから、ハリーがクライアス社の元社員であること、かつて未来で共に暮らしていたこと、クライアス社にスカウトされ自分たちが改造されたことを打ち明ける。
人体を改造された上に幽閉されていた身ではあるが、クライアス社に対しては嫌悪の感情を抱くどころか「クライアス社はすごいんだぁ… 1回手術を受けただけで、食べ物も寝る所もすごい力も全部くれたんだよ!」と笑顔で語るほどに心酔した様子を見せている。
街の路地裏で残飯あさりの生活をしていたケモノにとってはある意味では自然な感想かもしれないが、これは会社に飼育されるケモノ、すなわち社畜そのものであると言えよう。
ここでハリーが自分の知らない首輪をしていることに気づき、「その首輪…未来じゃしてなかったよね?」とドスの利いた声で苛立ちながらこの首輪を破壊。リミッターを破壊されたことでハリーは凶暴化し元の姿になってしまう。
ハリーがどれだけクライアス社に戻ることを嫌がってもそれを一時の気の迷いとして聞く耳は持たず、挙句に「君(ハリー)はボクと一緒にいたほうがいいに決まってるもの」と蕩けた笑顔で発言したりとかなり危険な一面を覗かせる。
ハリーに「「私たち」の問題でしょ!」と語りかけるエトワールに対しては「黙れよお前ェ!」と怒りに満ちた表情で激昂する。トリニティコンサートによりハリーは小動物の形態に戻り、エトワールが救出すると「ハリーから離れろよ!」と再び激昂しエトワールに向かって光弾を放つ。
しかし、ハリーは防御壁によってエトワールを守り、「クライアス社には戻らない」と宣言。これに直面したビシンも一瞬戸惑った表情を見せたが、独笑し「ボクは君をあきらめないよ」と宣言し撤退する。
第28話では、外出するビシンを引き留めるリストルに対し、「教えてほしい?…教えてあーげない」と、意味深な態度をとり、一人になってから「彼のところに決まってるじゃないか」と独り言を言う。
もぐもぐのオーディション会場に現れたビシンはトゲパワワに目を付け、作中で初めて発注する。なお、このとき「ボクにも誰かを妬む気持ちがわかる」という趣旨の発言をしている。
猛オシマイダーによる破壊行動を行い、悪びれるどころか手柄を立てたかのように「ボクすごく強いでしょ!」とハリーに見せつけていた。なお、この回では「種族を超えた愛」がテーマになっているが、上述した描写は種族が同じハリーとビシンとリストルが分かり合えていないことから、同じ種族でも分かり合えるとは限らないという皮肉にもなっている。
第32話では、対象の深層心理をバーチャル空間に具現化するトラウムの発明品を使ってハリーの心を探ろうとするが、誤ってキュアエトワールを巻き込んで装置に取り込んでしまい、バーチャル空間は彼女が直前に読んでいた絵本『人魚姫』の世界観を映し出したものとなる。
ハリーはそれに影響される形で人魚姫に登場する王子様の役になりきっており、彼の深層心理はすぐには分からなかった。
ビシンは、とりあえず自分も装置の作り出したバーチャル空間にダイブし、絵本に出てくる魔法使いの姿になって城の舞踏会へ乗り込む。
いつも邪魔ばかりするほまれに立ちはだかるビシンだが、その時ハリー扮する王子の「想い人」が姿を現す。想い人の首から上はヴェールに隠されており、ほまれはいきなり見知らぬ女性が登場したことに戸惑う。しかしビシンの方は覚えがあったようで、素顔を見るなり納得する。
そう、ここは『人魚姫』の絵本の世界。王子様には人魚姫とは別の「想い人」がいるはずなのだ。そしてこの世界は、ほまれだけでなくハリーの本心も混ざり合って形成された世界だ。だからハリーにとって「本当に一番大切な人」はほまれでもビシンでもなく、この女性なのである。
自分がハリーの「一番大切な人」の立場にいないことを突きつけられ不服に思うビシンだったが、ほまれを傷つけさせるために「王子の1番になれなかった人魚姫は泡になって消える」と絶望させる。
その後自分の想いが成就しない可能性を悟りながらもキュアエールたちの呼びかけに応え再び立ち上がったキュアエトワールの反撃を受け撤退。
この時「ハリーがお前なんかを好きになるわけないだろ!」「ふざけるな! なんで心の痛みに潰れない!」と罵倒するが、セリフをよく聞くと自分の気持ちを誰かに共有してほしいという本音も見え隠れしている。
クライアス社に戻った後元の姿に戻り、堰が切れたようにもうひとりの「兄」リストルに泣きつく。
無理もない、ビシンの認識では件の女性はもうこの世の人間ではないはずなのにハリーはそれにしがみついたままで、唯一共感してくれそうなほまれとは(自分で選んだとはいえ)敵対しているのだから……
リストルはビシンの辛さを理解しつつも、兄として上司として「泣くな…」と激励するのであった。
深まる絶望と、その結末(第33話~第45話)
ハリーの秘めた心を知ってしまった後から、ビシンの行動はより過激になっていく。
第33話では、小動物の姿で「どうして、ハリーにボクの気持ちは届かないの!」とクッションを殴るビシン。リストルが少し休んだ方がいいとなだめるが「リストルにはボクの気持ちは分からない!一番に故郷を…ハリハリ地区を捨てたアンタにはね!」と激昂。短いシーンでありながら前回のラストと比較してビシンの情緒不安定さとリストルに対する愛憎が窺える。
第40話では、ハリーがクライアス社から脱走した時の回想シーンで、ハリーの思い人・キュアトゥモローとの因縁が描かれた、
故郷を失った絶望から自暴自棄になっていたハリーに希望を取り戻させてクライアス社からの離反のきっかけを与えたのがトゥモローだったのである。だがビシンからすればそれはハリーをたぶらかした悪女でしかない。
ハリーがトゥモローと共に逃避行を続ける中でビシンは立ちふさがり、トゥモローを追い詰めた。だが、トゥモローは自分のすべての力を使いハリーを過去の世界に逃した。ビシンはこれによりトゥモローは消滅したと思っていたが、実は彼女は赤ん坊の姿に変わりながらも生き延びていたのだ。
ビシンがそれまで全く興味を示していなかったはぐたんの正体がトゥモローであるという報告を受け、やる気を出すビシンであった。
この時、はぐたんを害してハリーを絶望させることが自身の目的であることを独白している。ハリーに相手にされなさすぎたせいか、それともリストルが倒れたことと関係しているのか、抱えた闇も相当に膨れ上がっている様子である。
第41話では、リストルが重傷を負ったことを受け改めて社長の思想に乗り、何を思ったかえみるを実質人質にとったような言い回しで愛崎獏発に事業提携を持ちかける。
視聴者視点だと事業提携はフェイクで、真の目的はツインラブの活動を妨害することにあるように見えた。ツインラブの背景にはビシンが故郷の滅亡と同時に失ってしまった「愛や未来への希望」があり、「兄との和解」が後押しになって実現した活動である。それを自分と同質のエゴイズムに固まった獏発をけしかけ、愛崎家を崩壊させることも目的の一つだったのかもしれない。
第43話では、リストルの再調整もあって自分の孤独に共感してくれるものがいなくなり心の闇を深めていっている様子が描かれていた。
リストルの膝にすがりつきながら「リストルはこれで幸せなんだよね…?」と陶酔したように語りかけ(感情を失ったリストルは微動だにしない)、そして独り言のように「ハリーが一緒にいてくれるなら、ハリーが自分をどう思っていようが構わない」とつぶやきを繰り返し、そのまま出撃する。
その出撃した先で、エトワールがハリーに恋心を告白、失恋したことを知る。
「あれだけ教えてやったのにバカなやつ!」とあざ笑うビシン。しかしエトワールは前を向き、輝く未来を信じ続けていた。たとえ叶わなくても恋した気持ちは大切な宝物を残してくれた。そして何より大好きなハリーが幸せになれる世界を夢見て応援したいから。
「だから、私は未来がいらないなんてイケてないこと思わない!」
そう啖呵を切ったエトワール。ビシンは苛立ちつつも戸惑いも見せていた。
これはハリー自身の気持ちを無価値として割り切ってしまった今のビシンには持ち得ない思いだったから。
プリキュアとの最終決戦(第46話~第48話)
第46話から第47話にかけて、ジョージの本格的出撃に合わせリストルと共に足止め要員として参戦。
この2話ではセリフのほとんどが自暴自棄なもので、心を失ったリストルを羨ましく思う節まで見せて病み具合が半端なくなっている。
そもそもこの時点で社長は2019年で時間を止めてそれ以降の未来をなくそうと考えているのだが、ビシンはそれに喜んで賛同している。
自分が存在していた未来が消されるとどんなタイムパラドックスが起こるかわからないようなものだが、ビシンからすれば何もかも消えてしまえばいいという心境だったのだろう。
その諦観と絶望を糧に激しい攻撃でプリキュアたちを追い詰めるも、なんと戦いの中で心を取り戻したリストルが浄化され離脱してしまう。
とうとう本当に一人ぼっちになり苛立ちのあまり怪物化したビシンはその憎しみをリストルにぶつけ、彼を捕まえて握りつぶさんとする。
「ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃないか! 何だよ… 何なんだよ…、その目は! 裏切り者! 命乞いでもしてみろよ!」
静止した世界を背景に、未来を夢見ることは間違いだったともう一度認めるようリストルに求めるビシン。
この時点ではビシンの依存の対象は、自分に心を向けてくれないハリーから心のない人形に成り果てていたリストルに移っていたのかも知れない。
だが、ハリーもプリキュアも皆、リストルを握りつぶさんとするビシンには手も出さず、何も言わずにジッと見守る。ハリーには自分もまたビシンの辛さから目を背けていたという自覚があり、かつてキュアトゥモローがハリーに語ったようにハリハリ族の悲劇はプリキュアには解決できない問題である。
今ここでビシンに何かいう資格があるのは、同族としてビシンと苦悩を共有し共にここまで仲間であり続けたリストルだけなのだから。
そしてリストルは命乞いなんてするつもりはないと語り、ビシンは逆に何でそんなに簡単に諦めるんだと問い返すが、リストルは自分は諦めたわけではないとして強い口調で語った。
「オレは、お前達を愛しているからだ。ふがいない兄貴ですまなかった。お前の気持ちを受け止める。」
その言葉こそがビシンは初めて自分が求めていた答えだと気づき、心がざわめき子供のように泣きじゃくり、過去のわだかまりを乗り越えたハリーとリストルはようやく受け止め、抱きしめる。そしてリストルは「泣くな… いや、泣いていい」とありのままの弟の姿を受け止めるのであった。
そんな中、最も因縁深いエトワールも前に出て「わたしはあんたのこと嫌いじゃないよ」と言いそっと抱きしめた。
ビシンは「お前なんか嫌いだ。」と憎まれ口をたたいたものの以前のような激しい敵意はなくなり、無抵抗のまま自らプリキュア達の浄化の技を受け、トゲパワワの束縛から解放された。
因みに初登場回である23話で「いいの? ボク、全部壊しちゃうよ?」という発言があったのにもかかわらず、特に目立った破壊活動は行わずに改心している。
余談
中の人
担当声優の新井里美は、魔法の水晶(キャシー)役で登場した『魔法つかいプリキュア!』以来のプリキュアシリーズ出演となる。
名前の由来
名前の由来は「備品」、もしくは小動物形態のモチーフであるジャコウネコ科に属する動物であるハクビシンだと思われる。
鋭い視聴者の中には、彼の名前が出て着た23話時点ですでに「ハリネズミのハリーと何かしら関係があるキャラなのでは」と推測していた人もいたようだ。
アニメージュ特別増刊号によるとフルネームは「ハリハク・ビシン」とのこと。
初期構想
『アニメージュ』増刊号で本作シリーズ構成の坪田文へのインタビュー記事があるのだが、それによるとビシンはもともとは今とは正反対のムキムキな強面系をイメージしたキャラ設定だったと言うこと。そして「あの頃のお前はどこへいっちまったんだ!」とハリーと拳を交わすような熱血な男の友情のノリをやりたかったらしい。
しかし25話脚本担当の田中仁が坪田のキャラ設定をガン無視して勝手にビシンを今の形に変えてしまったと言う。上がってきた脚本を見た坪田は「全然違う!」と大慌て。そして張本人の田中からは「でも、男の子だけど女の子っぽい感じがする方が良くない?」としれっと言われてしまったとのこと。
坪田は観念して田中の案を受け入れるが、「じゃあ仁さん、責任はとってくださいね!」と半ギレしつつビシンの扱いについては田中に丸投げするようになる。
それ以降、ビシンについてはシリーズ構成の坪田ではなく田中が監修することになった。32話の人魚姫回は田中自身が筆をとっている。
4クール目は全て坪田が脚本担当しているが、ビシンについては田中がいろいろとアイデアを出してくれているといい、キャラを「乗っ取った」ことへの責任はしっかりとっているようだ。
坪田自身も「今にして思えば、中性的な方で正解でしょうね」としている。
ちなみにキャラクターデザインの川村敏江は川村敏江で、7月号インタビューにて「自分のフェチが前面に出ている気がします」と語っている。