禍々しき波の何処に生ぜしかを知らず。
星辰の巡りめぐりて後、
東の空昏く大気に悲しみ満ちるとき
分かつ森の果て、定命の者の地より、波来る先駆けあり。
行く手を疾駆するはスケィス。
死の影をもちて、阻みしものを掃討す。
惑乱の蜃気楼たるイニス。
偽りの光景にて見るものを欺き、波を助く。
天を摩す波、その頭にて砕け、滴り、新たなる波の現出す。
こはメイガスの力なり。
波の訪なう所希望の光失せ、憂いと諦観の支配す。
暗き未来を語りし者フィドヘルの技なるかな。
禍々しき波に呑まれしとき策をめぐらすはゴレ。
甘き罠にて懐柔せしはマハ。
波、猖獗を極め、逃れうるものなし。
仮令逃れたに思えどもタルヴォス在りき。
いやまさる過酷さにて、その者を滅す。
そは返報の激烈さなり。
かくて、波の背に残るは虚無のみ。
虚ろなる闇の奥よりコルベニク来るとなむ。
されば波とても、そが先駆けなるか。
概要
『The World』の世界観の元となっているエマ=ウィーラントによるネット叙事詩『黄昏の碑文』に登場する世界を滅ぼす災厄、”禍々しき波”の八つの相を模した存在。
『The World』のシステムを凌駕した能力を行使し、ネットワーク世界のみならず現実世界にすらも干渉するほどの絶対的な力を持つ。
8体それぞれが固有の能力を持ち、超常の改変能力であるデータドレインを発動することが可能。
また、一般プレイヤーキャラ(PC)やシステムによる攻撃を一切受け付けず、そうでなくともデータドレイン以外では倒すことが出来ない不死性を兼ね備えている。
『The World R:1』 モルガナ・モード・ゴン
CV:田中理恵
「ずっと待っていました、あなたが来るのを。共に歩みましょう―――」
「―――お前はお前の役割を全うすればよかったのだ。」
「お前らなどみんな要らない。アウラと共にここで朽ちろッ!!」
『The World』の中枢・母体システムであるモルガナの化身として登場。
(すなわち、モルガナ=八相=The World)
いずれの八相も二つ名に準じた特殊能力と容姿を持ち、ゲーム仕様内の攻撃は一切通用しない。
それに加えHPの概念が無い(実際の戦闘でも体力の初期表示が「HP:0000/0000」)ため、一般PCではどう足掻いても勝ち目はなく、カイト達でさえプロテクトを破壊した上で腕輪の力を行使しない限り倒すことが不可能な存在である。
また、八相が出現時に展開する空間の影響なのか、戦闘の際には一時的にプレイヤーの意識が囚われた状態に陥るため、ログアウトにより逃げることもできない。
データドレインを受けて弱体化すると八相の姿は一瞬で消え去り、モルガナの核を成す”碑文石”と化す。HPも真面に表記されるようになり、破壊することが可能となる。
実はThe Worldは元々ネットゲームを目的として生み出されたものではない。
その正体はThe Worldの創造者であるハロルド・ヒューイックの人工知能についての叡智と彼が愛したエマ=ウィーラントの物語を融合させた、限りなく人間に近く、いずれは高次の存在となる可能性を秘めた、究極のAIを育成するための人間の思考サンプリングシステムである。
ハロルドにとってこのシステムをゲームと偽ってCC社に売り込むことで、ネットゲームとして大勢のプレイヤーの行動をサンプリングし、自分とエマの子供も同然の究極のAI「アウラ」を生み出すことこそが真の目的であり、結果としてCC社にその真実を悟られることも無くThe Worldはリリースを開始。
2000万人以上のプレイヤーキャラと無数のAIの生と死、冒険や商業などのThe Worldにおける営みを、究極AI誕生のためのファクターとしてサンプリングすることに成功した。
(ハロルドの作成したシステムには現実と電脳の境界を歪める”何か”が存在し、ゲームに妙なリアリティを与えている事もここまでの大ヒットの要因として示唆されている。)
そして、その思考サンプリングシステムの管理プログラムこそがモルガナ・モード・ゴンである。
しかし、ハロルドにとって予想だにしない事態が起こる。
人間の思考をサンプリングする内にモルガナ自身も人間に近い自我を持つようになってしまったのである。自我に目覚めてしまったモルガナにとって”娘”であるはずのアウラの誕生は、望まないハロルド達の娘の代理母出産以外の何物でもなく、アウラが誕生することで自分が不要の存在となり、死ぬことを恐れた彼女は、創造主であるハロルドの精神を狂わせてネットに封じ込めてまでアウラの誕生を阻止しようとしたのであった(このモルガナの暴走について遠野京子〈.hack//Liminality Vol.3の中心人物、CV:久川綾〉は「ハロルドは女を知らなさ過ぎた」と評している)。
モルガナ自身はアウラに直接手を下すことができないため、最初は現実に絶望していたプレイヤーである司を選び、アウラとリンクさせることで正常な誕生を阻止するという比較的穏便な方法をとっていた。
(最初は彼に守護者を与え、死んだ母親を偽り接触していたために司からも”母さん”と呼ばれ、慕われていた)
が、それに失敗した後は暴走を加速。ハロルドシステムに隠されていた八つの禍々しき波、八相の碑文を因子としてモルガナ八相の姿をとり覚醒直後のアウラと彼女から波に対する唯一の対抗手段である腕輪を託されたカイト達を全力で叩き潰そうとする。
その過程で多くのプレイヤーを未帰還者にしたほか、第二次ネットワーククライシスを引き起こし、世界経済、医療事故、交通網、金融機関に大打撃を与え、多数の死傷者を生み出した。
(.hackの世界観では先のクライシスで第三次世界大戦一歩手前にまで陥った経緯があり、事件終息後もアメリカ大統領が責任をとって辞任するまでに至っている。)
新約小説では「黄昏の碑文」を読んだカイトが、八相やクビアは登場するのにモルガナは「黄昏の碑文」に登場しない存在であることから、モルガナはエマ・ウィーラントとして作られたのではないかと気付く。しかしエマそのものであるはずのモルガナがアウラを抹殺しようとしたのは、ハロルドの同僚だったプログラマーのヴェロニカ・ベインがエマへの反感からプログラムを弄ってモルガナの認知を歪めてしまっていたという原因があったようである。最終決戦においてコルベニク3はモルガナそのものとして顕現し、最後にアウラは母を庇いモルガナもそんな娘を抱きしめてアウラの再誕が成し遂げられた。
『The World R:2』 憑神(アバタ―)
碑文使いの力が具現化した存在である憑神(アバター)として登場。『The World』の仕様を逸脱した強大な力を秘め、一般のPCには姿を見ることも、存在を感じる事もできない。
いずれの憑神も宇宙空間のような、認知外空間(アウタースペース)とよばれる特殊フィールドを展開することが可能であり、不死身の身体と固有の能力を用いて時間やシステムの範疇を凌駕した戦闘を繰り広げる。
第二次ネットワーククライシスから数年後、カイトに破壊され散逸した八相の碑文(モルガナ因子)はCC社によってサルベージされ、ある計画のために特殊なPCへ組み込まれた。
これらの八体のPCはそれぞれの碑文に対応した憑神と、それに因んだ固有の特殊能力(クーンならデータの「増殖」。アトリなら対象の「音を聞く」能力。)を行使することが可能であり通称、碑文使いと呼ばれている。
だが、モルガナ因子は人間の精神と高い親和性を持つために、憑神は八つのモルガナ因子それぞれに選ばれた人間にしか扱うことが出来ず、また碑文使いやAIDA感染者などの常軌を逸した存在にしか知覚することが出来ない。
そして、その力を行使する際はプレイヤーの五感が電脳世界に入り込み、”心”でそのPCや憑神を操ることになる。
憑神の力は現実世界に及ぶほどに強大であるが、同時に憑神を操る人間の”心の闇”を増幅させる。
そしてその感情のままに行使し続けると、そのうち憑神が制御不可能になる暴走状態となってしまい、無関係なプレイヤーにまで被害を及ぼす可能性が出てくる。
ゆえに、八咫が設立した碑文使いを管理する組織、G.U.では憑神がもし暴走状態に陥った場合は、操作していたプレイヤーの安否に関わらず、制御可能な憑神をもってこれを鎮圧することが取り決められている。
しかしながらこれらのPCは八相の能力を用いるために作製された訳ではない。
2014年の末頃に突如としてThe Worldからアウラは姿を消し、それと同時に全世界のネットワークにトラブルが多発するようになる。
これを受けたCC社の上層部はプロジェクトG.U.(Gateway to Utopia--理想郷への門 その他にも複数の意味がある)を発足。八相の力をネットに開放し、アウラに代わる究極の人工AIを復元、管理下に置くことで次世代のネットワークの黄金期を築き上げ、主導権握ることを目的として碑文使いは生み出された。
この神降ろしとも呼ぶべきプロジェクトは番匠屋淳(碑文使いの一人である佐伯令子の兄)と天城丈太郎(.hack//Linkの天城彩花の従兄弟)により着々と進められたが、諸事情により計画は凍結されかける。
そして、それに焦りを感じた天城により不完全な状態で強行され失敗。錯乱状態に陥った天城によりCC社は大火災に見舞われ、碑文使いPCはネットの海に散逸し、The World R:1が消滅する原因となった。
そしてG.U.に於いて”八相の碑文”は偶然に、または必然的に各々の適合者の手に渡る事となる。
八相の構成と適合者
余談
碑文使い
憑神は己の精神力の具現化、または自身の心の虚を力に変えたものであるらしい。その為か碑文使いPCの適合者は全員心に何かしらの欠落を抱えている。
イリーガルな存在なので...
強制的な状態異常、理不尽な攻撃力、あるいは即死技など、どの八相もシステムを凌駕する異常な能力を持つ存在である。そしてシステムを超越した存在であるがゆえに、撃破したところでゲーム仕様内のキャラデータに還元されるものは何もなく、無印およびG.U.においても経験値、装備アイテム、ゴールドなどの戦闘報酬は一切無い。
普通のRPGならばボスなどの強敵を倒せば相応の見返りが有るものなのだが、仮想MMOという体裁をとっている.hackシリーズはそこまで甘くはなかった。
八相の碑文(モルガナ因子)
「禍々しき波」の名を与えられた、八相・憑神の顕現を可能とする正体不明のシステム。
シリーズ本編では謎のままであるが、小説版.hack//G.U.<8次元の想い>にて実在の人智学と仏教の唯識思想(*)と関連付けられた説明がなされている。
(*)唯識思想・・・人間が現実だと認識している”世界”は聴覚、視覚などの五識と意識、そして末那識(自己に執着する心、苦しみの根源とも)、阿頼耶識(輪廻を貫いて存続する無我の心、万物を生じさせる種子を持つという)のあわせて八種の識で成されているに過ぎないという思想のこと。
- 簡単にまとめてしまうと究極AI「アウラ」誕生の為にモルガナ・システムに付与された、『The World』によりサンプリングされる無限に等しい精神的な多次元を高次の感覚で認識し、究極AIの八識それぞれに還元する八つの器官。それこそが八相の碑文であると説明されている。
- ゆえにモルガナ・モード・ゴンにとって八相の碑文は己の自我(八識)そのものであり、八相や憑神はモルガナが抱いた自我の根源を具現化したものでもある。
そして高次の化身である八相・憑神は、ネットワークに現界した八識の元型(神)として。8体それぞれが一つの次元、一つの世界たり得る"力"を振るうことが可能であり、それこそがデータドレインを含めた異能の起源であるのだという。
もちろん小説版独自の設定も存在するため、本編のそれも同様であるとは言い難い。しかしながらR.1から連なるアウラ誕生に関与したシリーズの伏線を数多く回収できる説明にもなっているため、可能性の一つとしては考えられる。
今後、G.U.以降の作品においての解明が待たれる。