概要
旧姓は一橋喜喜(ひとつばし のぶのぶ)。
江戸幕府の一橋派の筆頭で、後に徳川幕府の十五代目征夷大将軍となる。一人称は「僕」。将軍暗殺篇以降は「私」。
端正な顔立ちをした美形であるが、性格は冷酷非道で、茂茂や定々を幕府から追い落とし、自らの手で新政権を樹立する事を目論む野心家。
天導衆の息の掛かった勢力を幕府から排し、日本を異国に頼らない強国へ改革させる事を謳っているが、それは自らが茂茂や定々に取って代わって幕府を牛耳る為の建前に過ぎないらしく、見廻組の佐々木異三郎からも「矮小な法螺」と揶揄されている。剣の腕前もそれなりに高く、立ったままの人間を一太刀で首を跳ね飛ばしてしまう程。
密かに高杉晋助率いる鬼兵隊や、伊賀忍の藤林鎧門と結託しており、彼等の力を利用して最大の政敵となる茂茂派の一掃を目論んでいる。
物語内での動向
定々の死後、本格的に暗躍を開始しており、「死神篇」では影でその騒動を傍観し、一橋派に取り入ろうとしていた池田夜右衛門が銀時達を逃がした直後、姿を現して用済みとなった彼を粛清している。
「将軍暗殺篇」では、結託していた高杉や神威を江戸城に迎え入れているが、自身を茂々と勘違いした神威によって瀕死の重傷を負わされる。また、高杉からは、独断で茂々の暗殺を目論んだ自身の迂闊な行いから、「うつけ」「壊れた神輿」など散々に呼ばわれている。
その後、重傷を負いながらも何とか治療が間に合い意識を取り戻した喜々は、高杉や神威に愚弄されたと、それまで結託していた彼らを激しく憎むようになり、天導衆側に裏切って、茂々や銀時、高杉達全員を抹殺しようと目論む。しかし、既に自身が征夷大将軍の地位を得られる事は確定していた為、天導衆と共に引き上げるが、京都へと逃げ延びた茂々の抹殺は諦めておらず、彼の幼馴染みである友之助を送り込み、毒針で暗殺させた。
茂茂の死後、彼の暗殺を防げなかったとして、片栗虎と近藤の二人に斬首を命令。真選組も解散命令を下し、土方達も末端組織へ左遷させ、佐々木率いる見廻組を傘下に置く。
その後、志村妙の働くキャバクラ店に赴いて、理不尽極まりない理由で、自身を迎えたキャバ嬢の二人を見廻組に斬らせて重傷を負わせ、それに反発したお妙も切り殺そうとしたが、殴りかかろうとした土方を止めた銀時によって顔面を思いっきり殴り飛ばされ、重傷を負った。
その後、黒縄島で発生した激戦で真選組が反旗を翻しただけでなく、目を掛けていた佐々木までもが自身を裏切っていた事実を知った喜々は激怒。警察組織そのものの一新を強引に決定するも、この事がかえって裏目に出て、多くの離反者を招く事になり、一部は黒縄島からの脱出に成功した片栗虎の元へと走る事になった。
更に、一国の指導者でありながら、銀時への逆恨みから宇宙へと上がり、幕府の力を使い鬼兵隊もろとも大艦隊で一網打尽にすることを画策するも、裏をかかれてあっさり敗北、醜態をさらす。
部下達の多くからも反感を抱かれていたのか、その後はあっさりと見捨てられてしまい、快援隊の元で捕虜として扱われる。河上万斉からは「指導者となったことで孤独になってしまった」と、むしろ哀れまれていた。
かくして喜喜の失脚と次期将軍候補の不在により事実上江戸幕府は崩壊を迎えることとなった。
ちなみに
登場するたびかなりの確率で殴られ歯が飛んでいく。銀時に殴られた際は頬が腫れ歯が抜けた酷い顔の写真を佐々木に撮られのぶたすに送りつけられてしまった。
名前のモデルは、徳川幕府十五代(最後)目将軍・徳川慶喜。モデルである慶喜は家康以来の名君と言われた人物でこんなバカ殿ではないので要注意。
「洛陽決戦篇」以降
上記の様に非道な行いと小物臭さ丸出しの言動から当初は読者からも目の敵にされていた。
しかし、捕虜となった後も坂本は彼を処分するどころか面倒まで見ていた。曰く、「簡単に死ねると思うな」。
完全にプライドをへし折られた喜喜だったが、その最中に黒い三凶星の一角である范堺が襲来。一時は体を乗っ取られるも、坂本の何も残されていないうつけ者すらも護ろうとする生き様を目の当たりにし、今度は誰でもない自分自身の足で生きる意味を見つけることを決意。寄生していた笵界を無理矢理引き千切り、撃破に貢献した。
今までの落ちぶれっぷりからは予想もつかない、まさかの男を見せる展開となった。
そうした奮起ぶりから桂や坂本たちにも見直されたのか、後に最終章で地球がアルタナ解放軍と戦争になった際、解放軍との戦争を手打ちにする和平交渉にて桂と坂本に担ぎ出され、『地球側の代表・幕府の征夷大将軍』として、解放軍の穏健派提督・紫雀との会談に臨んだ。
なお、その最終章の会談前の食事で出されたコロッケに、神楽からこれまでの所業に対する恨み言とともにタバスコやマヨネーズをメチャクチャにかけられるが、そこから逃げず真っ向からそれを受け止め、堂々とそれを完食。桂、坂本と共に解放軍の本部へ向かった。ものの……
「厠を貸してもらえるか」
流石に腹の中(フィジカル的な意味で)までは誤魔化せず盛大に腹を壊し、解放軍の本部到着後、尻のダムが三日に亘り決壊。しかも結局漏らしてしまうという大惨事に見舞われる。更にその後に行われた解放軍との会談にて、彼の尻のダムはまたしても危機的状況に陥ってしまった。そうして再び厠を借りようとする喜々だったが、流石に地球が危機に瀕していた事もあって桂と坂本に威圧される形で沈黙。その最中、解放軍の提督である紫雀が会談の場に到着する。
最悪の事態を回避するべく早めに会談を切り上げようと足掻く喜々だったが、その際の表情の変化や物言いから「何かとんでもないモノを腹のうちに持っているのか」と紫雀や解放軍兵士達に勘違いされてしまう(実際とんでもないモノが彼の腹のうちで暴れていたが)。
解放軍兵士「貴様何を隠し持っている!!何を企んでいる!!」
喜喜「フッ、無駄だ。何もかも…もう遅い。もう、止められはしない。誰にも…私にも…」
解放軍兵士「な…何を…」
「一体何をしたァ!!何を発射するつもりだ!!時限式ミサイルか!!惑星間弾道ミサイルか!!こっ答えろォ!!」
桂&坂本((いや、ウンコです))
そして、周りの兵士達や喜喜の尻の穴が一触即発な状況に陥る中、どこぞのお笑いコンビの勘違いコントの如く、奇跡的なボタンの掛け違いなやり取りを繰り広げた挙げ句、しまいには紫雀ともども(内容物的な意味で)お互いに腹を割りあうオチに至るなど、「将軍らしさ」とともに「イジられ属性」さえも茂茂の後釜として相応しくなっていくという皮肉な成長を見せる。
和平会談は難航するものの、地球で騒ぎを起こしたのちに解放軍宇宙船の牢獄にぶちこまれ、そのまま宇宙へあがった長谷川泰三とハタ皇子の介入もあり(特にハタ皇子が実は紫雀の肉親であったことも大きかった)、解放軍のうち紫雀の一派とは協力を取り付けることに成功した。
そして……
最後の王として(ネタバレ注意)
紫雀との和平が成った後も、その無軌道に成り果てた復讐心が一向に収まらずなおも地球との戦争を強行する過激派の提督・圓翔の主導により、地球との和平へことを進めていた紫雀ともども解放軍に捕まり、地球と解放軍の戦も再開されてしまう。
その後ハタ皇子やエリザベス、紫雀らの奮闘もあり脱出、帰還を果たし、いよいよ決戦となるその直前、地球からのそよ姫の通信が喜喜のもとに届く。
兄・茂茂暗殺の黒幕、憎い仇敵であるはずの自分に向けられたそよからの言葉は、「生きて帰らなければ許さない」というものであった。
その言葉を受け取った後、喜喜は人知れず覚悟を決め、共に戦う戦士たちに向けて気を吐く。
国に捨てられた者たちよ
この国は、もう二度とそなたらを裏切らぬ
もう二度とそなたらを見捨てぬ
そなたらが戦うならば、最後まで国も共に戦おう
そなたらがここで滅びるならば、国も共にここで滅ぼう
将軍徳川喜喜は……
錦の御旗はそなたらと共にここにあるぞ
現場の者達を蔑み顎で使う『将軍』ではなく、現場の者達と同じ戦場で共に戦い抜く『将軍』として。
国に捨てられ逆賊と汚名を着せられた者たちを前に、自らもその輩の一人として武器を取り戦うその姿は、一国の長たる"将軍"の二文字に恥じない姿であった。
そして決戦も最終局面に突入し、あまたの負傷者・犠牲者を出しつつも、解放軍旗艦・天鳥船(アメノトリフネ)に突入した桂一派、坂本ら快援隊、高杉ら鬼兵隊の手により圓翔もついに戦闘不能に。そして後から喜喜も到着し、かつての暗君としての振る舞いの自戒も踏まえたうえで、紫雀らも交え圓翔に終戦を呼びかける。そして事ここに至っての説得を受け、ようやく己の復讐の狂気が沈静化していくのを自覚した圓翔は、その手をとりかけるも……
「ふ、ふざけるな… お前の言うとおり戦い続け仲間を犠牲にしてきたのに…」
「和睦だとォォ!! ならば我らの仲間は、一体何のために死んだ!!」
ここまで己の復讐心という私情で徹底抗戦・敵対者皆殺しを謳って戦意を煽り、戦線とその犠牲を無尽蔵に肥大させてきた圓翔のこの期に及んでの変節に激怒・逆上した解放軍の一兵卒の銃撃により、圓翔は頭を撃ち抜かれ即死。これまでの所業や、直前の戦闘で桂・高杉・坂本・陸奥・エリザベスを同時に敵に回して大暴れしていたその様からすれば、あまりにもあっけない因果応報の最期を遂げた。
そして……
「喜喜!!」
その兵士の乱射した銃弾は、圓翔の傍にいた喜喜の体も容赦なく撃ち抜き、致命傷を与えていた。
結ばれようとしていた手を撃ち落とし、仲間を害したその一発に激怒し、さらに地球側と解放軍の鉄火場は荒れていくかと思われたが――
「やめぬかァァァ!!!」
なんと喜喜はその直前に最後の力を振り絞って両軍を一喝し、その足を止めさせる。
圓翔の暴走にかつての愚かな己自身も重ねつつ、この戦で殺し殺される両軍の命は、この愚かな王の命で最後にしてくれ、と双方に願い――
懸命な坂本らの救命措置も届かず命の炎が消えていく中、喜喜は、己が排除し虐げてきたあの優しき先王たちの姿を幻視する。
彼らの表情には、己を殺した喜喜への憎悪も、ましてその滅びに対する愉悦なども一切なく―――
ただ「王として成すべき事を成した一人の男を認める」、満足の微笑があった。
彼らからそのような笑みを向けられたことに、遠のく意識の中で喜喜が充足を感じる中、喜喜の最期の願いもあり、解放軍と地球は和平と終戦を決定する。
人々に慕われた名君を弑し国を崩壊させた暗君は、徳川幕府最後の将軍として、宇宙中を巻き込む大戦に己の命を以て幕を引くという大業を成し遂げた王として、この世から去ったのだった。