概要
元々は青少年(18歳未満の少年少女)の健全な育成を目的として掲げ、それにそぐわない書籍などは『有害図書』として指定されるなどを始めとする条例であったが、2010年3月に当時の東京都知事であった石原慎太郎などの政治家達によって、見た目、年齢などで18歳未満とみなされる人物の描かれたイラスト・小説・漫画・ゲーム・アニメ・映画などのもののうち、エロティックな表現があるもの(その他青少年の教育に良くないもの)が規制されるという条例に改正された。
簡単にいうと、少年誌のお色気や少女漫画の微エロシーン、『サザエさん』のワカメちゃんのパンチラや『ドラえもん』のしずかちゃんのお風呂シーンまで規制されかねないトンデモ条例案であり、多方面のサブカルチャー業界・個人・専門家などから批判が噴出した。
『非実在青少年読本』および『非実在青少年◎読本』はこちらの内容を解説した書籍であるため、気になる人は読んでみてもいいだろう。なおpixivでは主にその改正案について反対するイラストにこのタグをつけられる事が多い。
主な問題点
表現の自由問題
この条例は、憲法21条の「表現の自由」に明らかに違反をしていると捉えられる他、出版社やアニメ・ゲームなどの制作企業、同人誌即売会(コミックマーケットなど)といったイベントに関与する企業の本社がほとんど東京都に集中している事もあり、規制によって表現の萎縮が起きてしまう。
サイゾー誌の記事によって報じられた情報によると、条例で規制対象とならない成人向け指定図書に対して13歳未満のキャラクターによる過激描写を避ける内容の自主規制が出版倫理協議会によって検討されている。
しかしこれは条例対策とは完全に無関係な内容であり、単なる「萎縮」でしかなく、多くの作家・専門家が懸念していた事態に至った。
主観による拡大解釈
2010年12月条文では、規制対象は「刑罰法規に触れる性交および性交類似行為」と「近親相姦」を肯定的に描いた"内容"へ変更され、これにより描写方法などを規制する従来の「表現規制」から、作品の内容やテーマ自体を規制する「内容規制」へ変質した。
「非実在青少年」文言が削除されたことにより実質対象拡大となってしまい、「顔が幼く見えるから」「子供っぽい体型だから」という個人の主観と印象でなんでも規制できてしまうという事になってしまう。
これらは支持者・推進派による、実在する童顔な人物や幼い体型の人達への差別だと受け止められかねない他、実在法を架空創作物の内容へ反映させるという発想が非現実的という批判も絶えない。
石原元都知事の創作物を棚上げするような改正案
同条文ではさらに「漫画、アニメーション等の画像(実写を除く)」という文言を書き足す修正が行われ、これにより対象物は画像に限定され、小説などの文字情報は事実上の対象外となった。
これは石原元都知事の官能表現がある小説を規制から除外する名目があったと言われており、実際に「小説は文字だけで脳内でイメージするからいい。画像は目に見えるからダメ(要約)」と主張し、客観性が欠けているものであった。
なお彼の書いた小説のほうが青少年にふさわしくない表現が多く、真似して性犯罪を犯した人がいたケースがあったが、当人や支持者・推進派からは無視されている。
影響力の問題
日本の首都である「東京都の条例」という性質上、他の道府県で制定されている同様の条例の模範になってしまい、他の道府県も東京都に倣い「非実在青少年」あるいはそれに準ずる規制案を導入する公算が大きくなる。
実際、当時はこの条例施行を元手に改正した道府県も存在し、もはや「東京都の条例=法律」と揶揄されても仕方がないであろう。
規制対象者についての認識問題
この改正で明記された対象物は石原氏および浅川氏の発言より「7,8歳の幼い子供」に有害であると想定されるものであるが、実際に販売規制が行われる対象者は「18歳未満の青少年」である。
支持者・推進派による論理のすり替え
推進派による反論として、「反対派は過剰反応しているが、コンビニや本屋から性的表現がある本・雑誌を取り払うだけだ」と主張していた。しかし上記の石原元都知事の主張や条文を見れば、これは論理のすり替えでしかなく、それだけで済むならここまで反対運動が起きない事は明白である。
賛成派も多くは「理解できないし不愉快だから」という主観による感情論と偏見で動いており、メディアも賛成派を擁護する過剰な報道が行われた事もあり、偏向報道であると批判された。なお東京新聞や河北新報といった一部のメディアでは慎重論であったため、必ずしも全てのメディアがサブカルチャーのバッシング、ネガキャン行為をしていたわけではない。
これを「支持者・推進派は現実とフィクションの区別がついていない」と、暴力ゲームで境界がわからなくなり、犯罪者が増えるという詭弁をもじり、皮肉った者も。
当時のオタク文化の中心であった2ちゃんねる・ニコニコ動画は自民党支持層が大半の状況にあり、「自民党はオタクの支持層を認知しているはず」とする希望的憶測が流されていたが、結局自民党も規制を支持したことで「自民党が言うならやむを得ない、反対派は非国民」という転向派が発生し、反対運動にも分裂が入ることになった。
支持者・推進派の詭弁さ
特に熱心な条例支持者であったアグネス・チャンはかねてより「日本はロリコン大国」と称し、絵やマンガなどの創作物を児童ポルノ認定にしようと、この条例と似たような「なくそう!子どもポルノ」というネット署名を過去に行っていた事がある。
これはアグネスが過去にグラビア撮影などによる被害体験がトラウマとなった事が起因とされているが、そもそも日本での未成年性被害は世界の国々の中でもトップレベルで低い方であり、アメリカや南アフリカ、スウェーデン、インドなどの国の方がマンガのネタにすらならない、日本の比ではないほどの児童ポルノ被害が非常に数多く報告されている。
ネットでは彼女の行動を皮肉る「来いよアグネス」「アグネスホイホイ」があったが、今回の改正案を機に再び注目されることになった。
重ねるように、支持者・推進派の多くはこのような論理や客観的データを掲示せず、主観的かつ感情的な物言いになりがちであり、条例賛成派の中にはゲーム・漫画の愛好者達を犯罪者予備軍や障害者扱いするなどの問題発言も多数見受けられ、こちらの偏見による人権侵害行為が深刻であろう。
その他・反対派の問題点
当然だが、このpixivに存在する18歳未満のイラストも規制対象であり、今は沈静化しているが当時は反対運動が盛んに行われ、ツイッターでは「#hijitsuzai」「#hijituzai(表記揺れ)」のハッシュタグを使用した呟きが多数寄せられ、情報交換の場として使われていた。
しかし、反対派の中にも賛成派の意見に過剰反応して冷静な判断を見失い、中には賛成派への殺害予告などをほのめかすユーザーも見受けられ、争いは、同じレベルの者同士でしか発生しないと言われても仕方がない事案が発生していた。
これでは「反対派は犯罪者予備軍・障害者」という賛成派の詭弁を証明してしまう事になり、ここまでは支持者・推進派の批判を述べてきたが、反対派も彼らの言動へ感情的に惑わされず、論理的かつ冷静な振る舞いをする事を忘れてはならない。
規制論争の主な流れ
始めに3月条文は平成22年(2010年)の3月定例都議会へ提出されて10月施行される予定であったが、当時の民主党会派が反対し延長審議となった。しかし石原元都知事は再度6月定例会に再審議を行ったが、そこでも再び反対され否決廃案される。
その後修正案(12月条文)を提出し、その結果2010年12月15日(自民党、民主党など賛成多数で)可決成立し2011年7月施行(この際反対派の陳情、要望・署名などは完全に無視されている)。
なお東京都によると「コミケは経済効果もあるため対象外」としているが、18禁同人誌を既存の店舗(メロンブックやとらのあななど)で、18歳未満に販売されている場合は有害指定の可能性がある」「ネット販売も都内なら規制の対象になる可能性がある」とのこと。
条例施行による被害
同条例は東京都だけの問題ではなく、全国の出版と流通にも大きな影響を及ぼすのは避けられないため、出版社や大物漫画家がこぞって反対運動を起こし、2011年開催の「東京アニメフェア」(主催東京都)に条例反対していた角川書店をはじめとする企業がボイコットを表明、同日程で「アニメコンテンツエキスポ」を開催すると発表した(しかし3月11日に起こった東日本大震災の影響で、「東京アニメフェア」「アニメコンテンツエキスポ」共々、中止になっている)。
2011年東京都知事選では
当初は、ゲームソフトですら有害図書指定にした神奈川県知事の松沢成文、共産党推薦の小池晃、元宮崎県知事のそのまんま東、飲食店チェーンなどを展開するワタミ会長の渡辺美樹が立候補していたが、石原慎太郎が3月11日に4度目の都知事選に出馬することが決まったため、松沢氏は辞退。
これにより、石原、小池、渡辺、そのまんま東、発明家のドクター中松も加えて、5候補者の選挙になり、2011年4月10日の都知事選で、石原が自民党、公明党、中高年および高齢者層から圧倒的な支持を得て、他の候補者を抜いて4度目の再選となった。
その後
2010年代にはオタク文化ネイティブの平成世代が成人を迎え、サブカルチャー文化の影響力・経済効果の認知が増えた事により、2010年当時よりは支持者・推進派からの暴論とも言える主張は鳴りを潜めた。
オタク文化の扱いも以前より好意的になり、ご当地萌えキャラや、後の都知事小池百合子に至っては「東京アニメランド」構想を唱えるなど、逆にオタク取り込みの動きのほうが目立つようになった(といっても、それはそれで文化への国家介入という問題を含んでいる)。2010年代後半以降になると表現規制運動の中心は保守派からフェミニストへ移っており、自民党が規制反対の漫画家の赤松健を出馬させるなど状況は目まぐるしく変化している。
逆に持ち上げられたことでイキリオタクという厄介な層も生まれ、なんJ民等のオタク世代によるオタクバッシングも生んでいる。
この条例だけによる問題ではないのだが、自主規制の方はいつの間にか非常に強くなり、2010年代以降の作品群は2000年代と比べてもかなり萎縮しているというのが実情である。
何より、条例がなくなったわけではないのは留意されたし。
前史
2010年初頭に騒動となったこの改正案だが、実は20世紀にも『有害コミック運動』や『悪書追放運動』と称し、マンガ本などをかき集めて燃やすという魔女狩りや焚書じみた蛮行が行われ、特に後者は当時の手塚治虫は苦言を呈していた。
さらに遡れば、明治時代には「小説は低俗だから読むべきじゃない」とされた時代もあったし、もっと遡ると江戸時代には浮世絵が度々統制されていた。歴史は繰り返されるとはよく言うが、要は若者文化・新しい価値観・多様性を理解できない残念な大人達が、無知による偏見・保守的な感情論でバッシングし、権力を振りかざして騒いでいるだけに過ぎないとも言える。昨今において、流行作品を事あるごとにバッシングしている人もこの「残念な大人達」と同類といえよう。
関連項目
外部リンク
- 東京都青少年の健全な育成に関する条例 - Wikipedia:支持・反対する団体や人物はこちらを参照。
- 日本図書館協会の要望書
- 東京都青少年治安対策本部:条例改正を強行させた事で問題となった。
タグ
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ゲーム脳 - これと同じような騒動
パンティ&ストッキングwithガーターベルト、真剣で私に恋しなさい!!、BLOOD-C:別媒体を含め、この条例を風刺する内容が描かれた作品群。