概要
2015年及び2016年の福岡ソフトバンクホークスは、チームスローガンに「熱男」を採用。
チームの主軸である松田宣浩内野手は、本塁打(ホームラン)を打つたびにパフォーマンスとして取り入れる位、このスローガンはソフトバンクファンにも受け入れられていった。
しかし2016年は後述の通りシーズン後半戦でソフトバンクが失速により首位から陥落、リーグ優勝を逃してしまい、「V逸」と「熱男」を掛け合わせた造語「逸男」が誕生。以降、福岡ソフトバンクホークスがリーグ優勝を逃す度に、なんJ語「逸男」が蒸し返されるのであった。
発端となった2016年の福岡ソフトバンクホークス
開幕直後こそあまり調子が出なかったが、4月中盤から8連勝していくと6月までに8連勝を3回記録するなどの快進撃。
投手陣は千賀滉大、東浜巨、リック・バンデンハークなどが活躍。打線では前シーズンに続き松田宣浩が活躍、交流戦からは城所龍磨も台頭。接戦に勝った試合が多いが、それでもソフトバンクが得意な交流戦は首位で通過した(そもそもソフトバンクに限らず、交流戦はパリーグ勢が勝ち越すことが多い。)。
その勝率は、6月終了した時点で貯金29、何と勝率7割(いわゆる100勝ペース)。
2位の千葉ロッテマリーンズにも7.5ゲーム差をつけるなど前年以上の完全な独走体制。
一部では「優勝はホークスで決まった」「史上最速のマジック点灯もあるのでは(過去にプロ野球史上最速で優勝マジックを点灯させたのは前身の南海ホークス)」という話も流れ、このまま爆進Vロード一直線…と思われていた。
ところが、7月に入ると状況は一変。
最大11.5ゲーム差をつけられていた北海道日本ハムファイターズの怒涛の追撃が始まった。最初の3連戦、7連勝中の日本ハムを迎え撃ったが3連敗(しかも最後の1戦は大谷翔平ひとりにやられている)。実は前述の6月終了時点でも、他11球団の中で日本ハムにだけは唯一勝ち越せなかったのである。
この対戦以降は打線が機能しなくなってしまい、投手陣もリリーフが救援失敗したりとソフトバンクはなかなか勝てなくなっていく。
そして対する日本ハムが球団新となる15連勝を記録し、射程圏内にまで迫る。あちらは不調のクローザーである増井浩俊を先発転向させたり、マメがつぶれて投げられない大谷を暫く打者に専念させたりと采配が悉く的中していた。またこの時に「週刊ベースボール」がソフトバンクを特集したが、発売時点で既に失速していた。
8月に入り、追撃していた日本ハムの勢いが衰える………わけがなかった。中盤で貯金の数で抜かれ、一時は-0.5ゲーム差の首位という珍事まで発生。そして25日の福岡ヤフオク!ドームでの楽天戦、9回表バッター茂木栄五郎の浅いフライ性の打球を柳田悠岐が後逸。
ボールに触れなかったためエラーにはならなかったが、結果としてランニング3ラン本塁打を献上し逆転負け。首位を日本ハムに明け渡し、柳田は一部界隈で「逸男」と呼ばれるようになってしまった。
9月は日本ハムもソフトバンクも勝ったり負けたりの繰り返しで首位が目まぐるしく入れ替わるマッチレースに発展。前半でマジックも点灯したが、2日後にはあっけなく消滅した。
そして9月後半、日本ハムとの最後の直接対決2連戦(ソフトバンクのホーム試合)、1勝でもすれば優勝マジックが点灯する。2014年・2015年とVを決め、この年3連覇も懸かっていたソフトバンクはここで落とすわけにはいかない大事な一戦であった。
…だったが、接戦の末に日本ハムにまさかの2連敗。この試合でソフトバンクは遂に力尽き、逆に日本ハムに優勝マジックが点灯。その後、9月28日に日本ハムが西武に勝って優勝マジックが0になり、実に最大11.5ゲーム差からの大逆転優勝を果たした。なお、11.5ゲーム差は「メークドラマ」と言われた1996年の読売ジャイアンツ以来20年振りの快挙である。
一方のソフトバンクは歴史的V逸が決定。前半戦は超圧倒的ムードで勝ち進むも、後半戦から徐々に失速してのV逸はどこかで見たような流れなのは多分気のせいである。
その後
2016年のV逸後
クライマックスシリーズ(以下、CS)ではファーストステージで3位ロッテの下剋上を阻止したが、ファイナルステージの日本ハム戦では第2戦と第4戦を取った。だが、2勝3敗で迎えた(優勝した日本ハムには1勝のアドバンテージが前もって与えられていた)第5戦の最後に抑えで出てきた大谷翔平に最高球速165kmのストレートと150km台の変化球の前に止めを刺され、ソフトバンクはこの年のCSのファイナルステージで敗退した。
2017年
翌年は全般的にほぼ前年と真逆のようなシーズンとなった。この年の前半戦は逸男の全ての元凶となった試合での対戦相手だった楽天が異常なまでに打ちまくり、7月中にも優勝マジックが点灯するのでは、と思われていた。しかし、8月に入って、西武の山賊打線の基盤が出来上がるのと、楽天の急失速も相まって、気付けば三つ巴の展開を経てついに首位に浮上。9月16日の西武戦で勝利し、パ・リーグ史上最速でのリーグ優勝を果たし、CSでは楽天を、日本シリーズではDeNAを破って日本一を達成した。
2018年
この年は開幕前に高谷、栗原が離脱、残る甲斐も侍ジャパンへ招集されるなど、主力のキャッチャーが不足する事態に。キャッチャー陣以外にも故障者が続出、オープン戦は12球団中10位という、最悪に近い状態でペナントレースを迎える事になった。開幕してからも状況は良好の兆しを見せないどころか、むしろ悪化の一途を辿り、先発陣にも故障者が出てくるように。結局西武の独走を許してしまい2位でシーズンを終えた。しかし、CSに入るとそれまでのスランプがまるで嘘のように躍進し、日本ハムと西武を下して日本シリーズに進出。その日本シリーズでは、甲斐キャノンの活躍で広島の機動力をとことん封じ込め、プロ野球史上初めてリーグ連覇を達成していない球団の日本一連覇を飾った。
2019年
この年も開幕からグラシアル、森、中村、柳田などの故障者が続出。それでも松田、今宮や若手選手らの奮闘もあって勝ちを積み重ね、前半は全ての元凶となった相手の楽天に首位を奪われることもあったが(延長12回に及ぶ空中戦を制したり、最大7点差をひっくり返されたことがきっかけで2試合連続サヨナラ負けになったこともあった)、交流戦優勝に端を発する勢いに乗って首位の座を奪い返し、7月には2位に最大7ゲーム差を付けた。その後、オールスターが明けて7月末に0.5ゲーム差まで猛追した日ハムも直接対決で蹴散らしたことで再び独走態勢を築いた。
・・・かに思われたが首位に立ってからは投打でチームを支えていたグラシアルとモイネロが国際試合に出場する都合で一時離脱。その間に投打の助っ人二枚看板を(一時的ではあるが)失ったチームの勢いは落ち着き、思うように勝ち星の伸ばせない戦いが続いたことで2位以下を大きく突き放すことができなかった。その隙を突かれ8月終盤から西武の猛追が始まり、遂に首位を明け渡してしまう。9月6日には千賀がノーヒットノーランを達成して再び勢いを付けて何とか食らいつこうとするものの、直接対決のカードが早々に終了してしまったためにホークス以上に勢いに乗った西武を止めることが出来なかった。
そして悪夢の再来は9月24日、楽天生命パークでのソフトバンク対楽天戦という、3年前と同じカード(試合球場は違っているが)において起こってしまう。
この日は優勝マジックを2としていた西武がロッテに勝利してソフトバンクが楽天に敗れれば西武の優勝と同時に楽天のCS出場が決まるという、西武と楽天にとっては一石二鳥のような状況であった。
ソフトバンクは楽天の先発の美馬から4回表、デスパイネのホームランで1点を先制した。
一方で西武対ロッテ戦はこの時点で西武が8-3と大量リードしているので、ソフトバンクは逆転優勝のためには絶対に勝たなければいけない試合だった。
しかし6回裏、ショートの今宮健太がブラッシュの放ったゴロをはじいて出塁を許すという痛恨のミスを犯す。
その後千賀は銀次、藤田一也を抑え2アウトまでこぎつけたものの、続くウィーラーに2ランホームランを打たれて逆転を許してしまう。
さらに7回裏にはバッター浅村栄斗のところで一塁走者辰己と二塁走者オコエがダブルスチールを仕掛けた際にサードの松田宣浩がキャッチャー高谷裕亮からの送球を捕り損ねるという痛恨のミスで失点。さらにその浅村のタイムリーで合計2点を失い逆転優勝はほぼ風前の灯火と化す。それでも9回表に楽天の守護神松井裕樹からヒットと四球で満塁のチャンスを作り、一発が出れば逆転の場面を迎えるも、川島慶三の犠牲フライによる1点に留まり敗戦。西武が勝利したため、この今宮と松田のエラーが結果的に致命傷になってしまい(この試合でのホークスの守備は3失策だった)、西武のリーグ連覇が決まってしまった。当然のようにネット上では3年前の時と同様に「逸男おおおおお!!」という悲痛な叫びがまたも響き渡り、ホークスファンにとっては悪夢の再来となった。
またその過程で「V脱Sh!」(元ネタは2019シーズン終盤のスローガンの「V奪Sh!」)や「もう逸頂」(元ネタは2018シーズンのスローガンである「もう1頂!」)などのネタまで生まれてしまった。
再びおぞましい惨禍に見舞われたホークスであったが、一転してクライマックスシリーズでは前年とほぼ同じ勢いを見せる。本拠地で楽天を迎え撃ったファーストステージでは、いきなり初戦を落としてしまい、また3年前の二の舞になるのでは、と思われていたが、続く第2戦、第3戦を制して前年と同様、敵地で西武と相まみえる。
ファイナルステージでは予め覇者西武に1勝のアドバンテージが与えられていながらも、そのハンデを物ともせず4連勝で西武を粉砕。その後セリーグのCSも巨人が4勝2敗で阪神を下したため、この年の日本シリーズは巨人VSソフトバンクという顔触れとなった。なお、日本シリーズで両チームが顔を合わせるのは前身の南海、ダイエー時代も含めて19年振り11回目となる。
その日本シリーズでは対戦成績が1勝9敗(シリーズ内での通算の対戦成績は20勝36敗)と圧倒的に不利な状況であり、対する巨人もこの年限りで引退する阿部慎之助の為にも絶対に負けられない戦いとなるはずだった。
しかし、CSで土壇場から6連勝と屈辱をバネに、まるで復讐の鬼(工藤監督のポストシーズンでの采配も、メディア各所で"鬼采配"と称していたほどだった)と化したソフトバンクホークスの勢いは日本シリーズでも止まることはなかった。
工藤監督の毎試合ごとの卓越した采配、巨人の選手の動きを分析・チェック、自軍の選手の特徴を活かした攻撃と守備、圧倒的な信頼度を誇る救援陣、選手層や経験の差、巨人の拙守拙攻を尻目にした好プレーの連発などは、過去の対戦成績など霞んで見えるようなものだった。
グラシアルが3本塁打の活躍でMVP、モイネロや嘉弥真、甲斐野などのリリーフ陣の踏ん張り、周東の好走塁など、走攻守投の4拍子が完璧に噛み合い、4連勝のスウィープ勝ちで南海時代の1959年以来60年振りに巨人を撃破。奇しくも59年と同じく無傷の4連勝と敵地での日本一となり、球団初の日本シリーズ3連覇、史上初となるレギュラーシーズン2位以下のチームの2年連続の日本一、日本シリーズとしては2005年のロッテ以来14年振りとなる4連勝での日本一など、記録づくめの日本一となった。
2020年
この年は序盤は出遅れたものの、すぐに持ち直し楽天との首位争いを展開。その楽天が失速すると今度はロッテとの首位争いになったが、この年レギュラーに定着した栗原陵矢や、日本新記録となる13試合連続盗塁を樹立した周東佑京らの活躍により、終盤に12連勝するなど一気に突き放し3年ぶりのリーグ優勝を達成。
CSでもロッテ相手に連勝で突破すると前年と同じ巨人相手に4連勝のスウィープ勝ちで巨人以外では初の日本シリーズ4連覇を達成した。
2021年
この年も序盤から楽天との首位争いを繰り広げるなど順調な出だしをみせるも、得意としていた交流戦で借金4の12球団中11位に沈んでしまい、さらには故障者の多いチーム事情もあり徐々に後退。それでも同じくオリックスとロッテに抜かれた楽天とAクラス入りとCS出場がかかった3位争いを繰り広げていたが、終盤に8連敗を喫した結果4位に終わり、8年ぶりのBクラスとなった。また、7年間チームを率いた工藤公康監督がこの年限りで退任し、後任には藤本博史が就任した。
2022年
その2022年は三森大貴、柳町達など若手の台頭、独立リーグからNPBへ復帰した藤井皓哉、FA移籍組の又吉克樹などの中継ぎ陣の充実で首位を走るも、大事な場面での得点力不足と主力の怪我離脱が付きまとい、首位を走るも独走状態に入れないまま最終盤までもつれてしまう。シーズン最終盤は優勝争いがオリックス・バファローズとの2チームに絞られる中、レギュラーシーズン最終日の10.2決戦にて……
2023年
王者奪還を目指すべく、NPB他球団からロベルト・オスナや近藤健介などを、さらにはMLBからNPBに復帰した有原航平を獲得するなどして総額80億にも及ぶ大型補強を敢行。しかし藤本監督は過去の実績を重視した選手起用を行ったため若手選手の出場機会が乏しかったことや、有原に次ぐ勝ち星を挙げたのが42歳の和田毅という先発投手陣の弱さ、さらには前年にも増して大事な場面での得点力不足が目立った結果、(前身の南海時代に15連敗を喫した)1969年以来54年ぶりに12連敗を記録。オリックスの1強5弱の独走状態・連覇を許し、ソフトバンク自体は後半戦に入ってから一度も3連勝以上が出来ずCS進出をかけて勝率5割を超えるのがやっとという状況だった。
なんとかCS進出は決めたものの、勝てば2位が確定するチーム最終戦に敗れ、パリーグ最終戦である楽天対ロッテ戦でロッテが勝った結果、ロッテが2位となったことで最後の最後に2位から3位に転落してしまい本拠地でのCS開催を逃してしまう。
そのCSファーストステージでは、1勝1敗で迎えた最終戦において0対0で迎えた延長10回表に澤村拓一を打ち崩して3点を先制し、ファーストステージ突破は確実かと思われたが、その裏のロッテの攻撃で角中勝也と荻野貴司に連打を浴びると、藤岡裕大にまさかの同点3ランホームランを打たれてしまう。その後も岡大海にヒットを許し、最後は安田尚憲のサヨナラタイムリーで試合終了となり、「延長戦で3点リードしながら大逆転サヨナラ負け」という悪夢のような展開でファーストステージ敗退となってしまった。その後その日のうちに藤本監督の退任が発表され、後任には小久保裕紀が就任した。
2024年
2010年代の黄金期を支えた倉野信次投手コーチが現場復帰し、NPB他球団から山川穂高などを補強、またリバン・モイネロを中継ぎから先発へ配置替え。柳田悠岐や近藤健介、ロベルト・オスナなど主力の途中離脱がありながらも、圧倒的な戦力差で1強5弱の独走状態になりそのままリーグ優勝を決めた。
その後のCSも日本ハム相手に3連勝で日本シリーズに進出。そして迎えた日本シリーズではCSを3位から勝ち上がったDeNAと対戦。横浜での最初の2連戦を連勝し、有利な状況でホームでの試合を迎えた。
…が、第3戦のDeNAの先発でCSでの肉離れからの故障明けだがチームの絶対的エースである東克樹に対して試合前のコメントで村上隆行打撃コーチが「宮城の方が断然いい」と発言。この発言に対して東を始めDeNAの選手たちが奮起し、第3戦を落としてしまう。さらに試合中、東に投球中の指笛を指摘された直後から深刻な貧打に陥り、第4戦と第5戦を2試合連続完封負けで落としてしまい、DeNAに日本一へ王手をかけられてしまう。そして移動日と雨天順延を挟んだ横浜での第6戦では5回までに11失点と打ち込まれて2-11で大敗。これで日本シリーズはDeNAが4勝2敗で日本一となり、貯金42のソフトバンクが貯金2のDeNAに史上最大の下剋上を許してしまった。
その他
- ソフトバンクは前身の南海時代の1963年に最大で14.5もあったゲーム差を西武の前身である西鉄ライオンズにひっくり返されたV逸のNPB記録を持っている。その他の年でも基本的に競ると弱い。
- ソフトバンク対楽天戦ではこの逸男以外にもソフトバンク側にとって忌々しい出来事がよく起こっている(例:これは悪い夢です!、五十嵐の41球、など)。また、2022年以降はロッテの本拠地である千葉マリンスタジアムの試合でもソフトバンク側にとって忌々しい出来事がよく起こっている(上記の10.2決戦や2023年のCSなどが該当)。
- 近年ではシーズン終盤からポストシーズンにかけて上記のような光景がよく見られる。ネット上ではこの事を秋の風物詩と呼んでいるが、元々はリーグ戦ではなくCSで敗退し続けるホークスにつけられた蔑称だった。