CV:成田剣
概要
香久矢まどかの父。内閣府宇宙開発特別捜査局局長を務める政府高官。何気にプリキュアの家族としては初の公務員である。
政府からの極秘任務として宇宙人に関する調査をしている。
プリキュアシリーズにおいて、プリキュア変身者の家族が(王族以外の)政治関係者となったのはこれが初となる。
妻の満佳は、世界的なピアニストとして活躍している。
厳格で冷徹な性格。
香久矢家に対して「代々、民衆を導き社会の幸福のために身を粉にしていた家系」として強い誇りを持っており、娘のまどかにも人の上に立つ者の姿勢や、常に平常心を持つべきなどと様々な心構えを説いているのだが、その自らの家系に対する強い自負心がそうさせてしまうのか、傲慢さを感じさせる発言が目立ち、また普段からの言動も慇懃無礼な物が目立つ。
「香久矢の家に秘密はない」として、宇宙人出現という機密情報も妻子の前でオープンに明かす一方、家族が秘密を持つ事も決して許そうとしない。
自分なりに娘のまどかを想ってはいるようなのだが、自分の理想や価値観に基づいた規則を常に強制している側面が強く(この点はひかるの祖父・春吉に近い)、結果的に彼女が失敗を極度に恐れ無理をしてでも完璧な人間を演じようとする不健全な状態になってしまい、また彼女が無自覚の内に自身に心を閉ざしてしまう事にも繋がっている。
まどかにとって「束縛」の象徴として描かれているので作中では嫌われ役の位置付けとなっているが、自分の責務を自覚しそれを実現するために最大限の努力をするという意味では真っ当な大人であり、組織のトップでありながらも現場での地道な調査の監督を苦労も厭わずにやっていたり、プリキュアとノットレイダーの戦闘に巻き込まれた際は部下の避難を確認してから自身が避難するなど、仕事に関しては理想の上司な側面もある。まどか自身もそんな父の「上に立つ者としての責任感」を正しく尊敬している。
最近頻繁に報告される『宇宙人騒ぎ』を、食事の時間も惜しんで自ら率先して調査に動いている。
しかし、噂の原因であるノットレイダーの潜入活動、それに対抗するプリキュアの存在については知らない。
ノットレイダーとプリキュアが地球上で戦った時の破壊の痕跡や目撃情報(遠くですごい爆発がしていたなど)を断片的に手に入れた結果「宇宙人はこの地球で破壊発動を行っている危険な存在」とみなしているらしく、「宇宙人及び、宇宙人に味方する者にも容赦しない」という方針を採っている。
ただ、自分や家族達が暮らす地球を真剣に守ろうとしている姿勢や、ノットレイダーによる被害が決して看過できない事実も踏まえると、冬貴が宇宙人を警戒するのもやむを得ない事である。
一方、善良な宇宙人であるララやプルンスは、「自力で宇宙文明に接触できない星に宇宙人の存在を広く知らしめてはならない」という宇宙法の縛りによって、自分たちの素性・目的・ノットレイダーの脅威すら説明できないという苦しい立場にある。
そのため、娘のまどかは自分がララやプルンス達とコンタクトしてプリキュアになってしまった事を父に対して隠す必要性が出た。それは「香久矢の家に秘密はない」という父の教えに反するものであり、まどかに様々な葛藤を生み出すことになる。
終盤での展開
作中では冬貴の存在によって、プリキュアたちの正体がバレそうになったことが何度もあったが、幸運も重なって結果的にはバレることがないまま話が動いていた。
だが終盤となる第40話で、観星町住人の目撃情報を基にララが頻発する宇宙人騒ぎに関わっていると確信した冬貴がララの尻尾を摑むために賭けにでる。
まずは「先代生徒会長であるまどかの父親」の立場をもって次期生徒会長である姫ノ城桜子にその情報をリークし羽衣ララへの警戒と監視を促す。これは桜子が学校全体の安全のためなら個を切り捨てれる「指導者の資質」を持っていることを見越してのことであり、実際に桜子はその情報をララおよびララに近しいひかる以外のクラスメイトと共有。クラスメイト達は自分達がララに疑念を持っていることを隠しながら彼女を遠目に監視するようになり、その不信な目はララを孤立させる。
だがそんなクラスメイト達の歪んだイマジネーションがカッパードに利用されそうになったとき、ララは自分の正体を自ら明かし、プリキュアであることも暴露。まどかも含めた他の仲間達もその決意に呼応してクラスメイトの前でプリキュアに変身。カッパードを撃退する。
しかし「ララを監視しておけば宇宙人騒ぎが起こる」として遠目から学内を監視していた冬貴が今回の戦闘に巻き込まれており、彼にとってはこのことはララが宇宙人だとする状況証拠そのものであった。
だが冬貴はララがプリキュアに変身する決定的な証拠となる場面は目撃できておらず、まどかや2年3組の面々が「ララは宇宙人などではない」と主張。ララをかばって明らかに嘘をついていると確信しつつも、自分の娘のまどかまでがそれに呼応することに対し、「香久矢家に秘密はない」と言い聞かせ続けていた冬貴はショックを隠しきれなかった。
第41話では、前回に明らかに観星中で何かがあったにもかかわらず第三者からの証言も物理的な証拠も得られなかった失態のため、異星人調査の権限が冬貴から剥奪されたことが明らかになる。
この時の冬貴の独白からすると、宇宙開発特別捜査局はそもそも政府中枢から追いやられた「面倒な者たち」を押し込めておくための窓際部署らしく、冬貴は異星人を発見してつるし上げることで中央閣僚へ返り咲くチャンスにしようと前のめりになっていた様子。
冬貴が政府中枢から追いやられた原因は語られていないが、実務主義な彼の性格はお役所根性な官僚からは煙たがれる存在だろうとは推測できる。
その際、自分のキャリアにつながらなくなった以上、異星人探しなど意味がもうないとして、「上から調査しろと言われていたからしたまでだ。異星人を排除しろと言われればそうするし、友好関係を築けと言われれば友となろう」と口にしている。彼はあくまで上層部からの指示通りに動いただけで、最初から異星人を敵視していた訳ではない事が明かされる。
彼のポリシーである、「指示された通りに動き、忠実に職務を果たす事が、香久矢家のためになる」と信じての行動ではあったが、それはプリキュアになる以前のまどか同様、自分の心を持たぬただの盲目的服従でもある。彼が友好的な異星人が存在する事を自分の意志で理解し、彼らと友になりたいと願う日は来るのだろうか……
またこの第41話では、娘のまどかが明らかに異星人と関係があるララと関わり続けていると香久矢家の立場が危うくなると考えて、春からの海外留学を機に学校での友人関係は全て切り捨てるようにまどかに言いつけている。まどかが観星中に通うことになったのは父の言いつけでありまどか本人の意思ではなかったことから、まどかは「自分がララやひかると友達になれたのも父のお膳立て」という意識が強く、それゆえに関係を終わらせろという父の言葉に反論することもできなかったが、同話でまどかがキュアセレーネとしてガルオウガと戦う中で、ガルオウガが自分の思いを捨ててダークネストに全てを委ねているあり方に自分を重ねるようになり、「自分はこうなってはいけない」と強く意識。戦いが終わった後にまどかは父に「ララやひかるとの交流は今後も続けます」と宣言し、ひかる達と出会うきっかけをくれた父にかつてない感謝の意を述べた上で、自分が何をすべきなのかは自分で決めると宣言した。冬貴はそんな勝手は許されないと強い口調で言いつけるも、まどかは臆せずそのまま立ち去る。自分の敷いた道から外れていく娘の姿に「私が甘かったのか?まどかは誤った判断を…」と狼狽える冬貴だったが、妻である満佳は「誤りではないわ、これは成長って言うのよ」と諭していた。
そして回の最後に冬貴が視線を向けたのは家族写真。無邪気な笑顔を自分に向ける、幼き日のまどかだった。
余談
声優について
演じる成田剣氏はプリキュアシリーズ初出演。
ちなみに、まどか役の小松未可子氏とは翌年のアニメ『半妖の夜叉姫』でも父娘関係になっている。そちら母親の声優はキュアエコーであり、ひかる役の成瀬瑛美と二人一役を演じたこともある。
そのシリーズには後に『キラキラ☆プリキュアアラモード』で宇佐美いちか/キュアホイップ役だった美山加恋が『アイカツフレンズ!』に蝶乃舞花として出演したのだが、プリキュアとその親の声優がプリキュア以外の作品と共通な例はその美山氏と山口由里子(いちかの母と舞花の母)のケース以来である。
冬貴はまどかがプリキュアだと気づいているのかどうかについて
第41話放映日前日に各種ウェブメディアで公開されていた先行あらすじ紹介では、「前回(第40話)のカッパードとの戦いでプリキュアであることは父・冬貴に知られてしまった」という記述があるのだが(参考)、実際の第40話〜41話で冬貴がまどかの正体を知っているような描写は全くない。
第40話はプリキュアたち5人がクラスメイトの眼前で変身することを強いられ、ララが宇宙人であることも、ララを含む5人もプリキュアであることもクラスメイトにバレてしまうという話であるのだが、クラスメイトたちはララを冬貴から守るためにプリキュアたちの秘密は誰にも口外しないことにしたという形で終わっている。そしてこの話での冬貴はカッパードに歪んだイマジネーションを奪われて意識を失っており、今までの他の被害者たち同様に「プリキュアたちとの戦いの場面での記憶が欠落している」ということがしっかり描かれている。つまりは「冬貴はまどかがプリキュアだとは気づいていない」ことが示されているのだ。
さらに翌第41話で冬貴が「宇宙人探索は仕事としてやっていることで、香久矢家の地位向上に繋がらないなら意味がない」として宇宙人騒ぎはあくまで他人事として捉えていることについても、まどかがプリキュアで宇宙人騒ぎの当事者だと知っていたならばこんなセリフは出なかっただろう。
そのため、ウェブメディアの先行あらすじ紹介を閲覧していない視聴者からすれば、「冬貴がまどかの正体を知っている」という発想自体が出てこない状況である。
これについてはどうやら当初は正体を実際に知られてしまう展開で話を作っていたが、それを変更したようで、『アニメージュ スター☆トゥインクルプリキュア特別増刊号』で宮本監督は第40話について「ララが宇宙人であることがもっと広く知られてしまう話も考えたが、クラスの中でのララの立ち位置が変化していった積み重ねが今までにあったので、クラスメイトとの友人関係という”閉じた空間”に対して秘密が知られる流れの方がテーマがリアルに伝わると判断した」という趣旨の発言をしている。
最終回にて
最終回では、留学をどうするか迷っていたまどかが結局は「父の言う通りにイギリスに留学する」ことは取りやめたことが判明している。
こうして一度は窓際部署に左遷され、異星人調査の権限も剥奪され、娘も自分の用意した道から離れていき、全てを失ったのか………と思われた彼であったが、15年後はそれらの苦労を乗り越え、なんと内閣総理大臣に就任している。
しかも「自分の道を自分で決める」と言って自立した娘は、官僚となって父と同じ道を歩んでいた。
まどかは父に反抗心があったわけでなく、自分の道を自分の意思で決めたいと思っていただけなので、つまりこれはまどかが15年の月日を重ねる中で自ら選んだ道である。
だから、父親の想いは娘にちゃんと届いていたと言う親子の美談にするものではなく、「香久矢まどか」と言う自立した人間が「香久矢冬貴」と言う1人の人間にリスペクトを感じたと言うべきなのだろう。