概要
『己の尾を噛む蛇』と呼ばれる紋章の一つ。古典ギリシア語οὐρά(尻尾)とβορά(食事)に由来する。人類に知られた最も古来より伝わるシンボルの一つで(Kleisberg, Glenn. Lost Knowledge of the Ancients: A Graham Hancock Reader. — Inner Traditions / Bear & Co, 2010. — P. 27. Ellis, Jeanette. Forbidden Rites: Your Complete Introduction to Traditional Witchcraft. — O Books, 2009. — P. 480. Eire, Carlos. A very brief history of eternity. — Princeton University Press, 2010. — P. 29.)、歴史的な時期や具体的な文化など、その正確な起源を確定することは不可能になっている(Gauding, Madonna. The Signs and Symbols Bible: The Definitive Guide to Mysterious Markings. — Sterling Publishing Company, Inc., 2009. — P. 89.)。
意味は『世界』、『完全なるもの』。 このシンボルは多様な意味を持っている。特に広く普及した解釈は、永久性と無限性、とりわけ環状になった生命の本質、創造と崩壊、生と死、変わることのない変化と滅びの交替に関するものである。ウロボロスのシンボルは、宗教、魔術、錬金術、神話、心理学における使用の長い歴史を持っている。類似した一例として挙げられるのは鉤十字で、これらの古代のシンボルは両者ともに宇宙の運動を意味している(Murphy, Derek. Jesus Didn't Exist! the Bible Tells Me So. — Lulu.com, 2006. — P. 61.)。
西洋の文化においては、このシンボルは古代エジプトから持ち込まれたと考えられており、紀元前1600年前から1100年前、輪の形になった蛇の図像が初めて描かれたと推測されている。それは、永遠性と森羅万象、そして死と生まれ変わりの循環を具象化したものだった(Robertson, Robin; Combs, Allan. The Uroboros // Indra's Net: Alchemy and Chaos Theory as Models for Transformation. — Quest Books, 2009.)。歴史家たちは、エジプトからウロボロスのシンボルが古代ギリシアに移動し、そこで始まりも終わりもないプロセスを表すため用いられるようになったと考えている(Lurker, Marnfred. The Routledge dictionary of gods and goddesses, devils and demons. — Routledge, 2004. — P. 4.)。しかしながら、近似した図像がスカンディナヴィア、インド、中国、ギリシアに見出されるため、この図像の起源を確定することは難しくなっている(Robertson. Combs. The Uroboros)。
輪の形に丸まった蛇のシンボルは、中央アメリカ、特にアステカ人の間でも見つけ出されている。蛇が彼らの神話の中で重要な役割を演じていることから(Mundkur, Balaji. The cult of the serpent: an interdisciplinary survey of its manifestations and origins. — SUNY Press, 1983. — P. 57.)、アステカの神々のパンテオンと、ウロボロスのシンボルの関係という問題は、歴史家の間に公然と残り続けている。詳細なコメンタリーを欠きながら、B・ローゼンはケツァルコアトル(Rosen, Brends. The Mythical Creatures Bible: The Definitive Guide to Legendary Beings. — Sterling Publishing Company, 2009. — P. 59-96.)、M・ロペスはコアトリクエの名を挙げている(Lopez, Marissa. Chicano Nations: The Hemispheric Origins of Mexican American Literature. — NYU Press, 3022. — P. 210.)。
ウロボロスへの関心は幾世紀も続き、グノーシス主義においては特に目立った役割を演じ(Sease, Virginia; Schmidt-Brabant, Manfred. Paths of the Christian mysteries: from Compostela to the new world. — Temple Lodge Publishing, 2003. — P. 49. )、また錬金術においても『循環』『完全』を意味する紋章として用いられる。中世の錬金術師たちの間では、卑金属の金への錬成を促進する、賢者の石への元素の変化を(隠喩の意味で)象徴化する重要な要素となり(Stockenström, Göran. August Strindberg and the other: new critical approaches. — Rodopi, 2002. — P. 19.)、また専門用語の神話的な解釈において、カオスを体現するものとなった(Bearor, Karen Anne; Pereira, Irene Rice. Irene Rice Pereira: her paintings and philosophy. — University of Texas Press, 1993. — P. 289.)。
近代のスイスの精神分析学者K・G・ユングは、ウロボロスのシンボルに新たな意味を添えた。正統派の分析心理学において、ウロボロスの「元型」は暗闇と自己崩壊を、成長と創造的なポテンシャルと共に象徴化している。元型に関する以後の研究はユング派の心理学者である、ウロボロスの形を個人の成長の初期段階であるとした、エーリヒ・ノイマンの著作の中で最も大きな影響を持っている(Сэьюэлз, Эндрю; Шортер, Бэйни; Плот, Фред. Словарь аналитической психологии К. Юнга. — СПб.: Азбука-классика, 2009. — С. 249—250.)。
古代エジプト、イスラエル、ギリシア
ジャネット・ポプリーは、古代エジプトにおいてウロボロスの表象が発生したと述べ、このシンボルが霊廟の壁に残っており、死後の世界の監視役を意味し、また死と転生の境目でもあると主張している(Bopry, Jeanette. Francisco J. Varela 1946-2001. — Imprint Academic, 2004. — P. 31.)。最初のウロボロスの図像は、紀元前1600年ごろ(Thorne-Bird, Janae. Becoming One: The Journey Toward God. — iUniverse, 2010. — P. 67.)、もしくは紀元前1100年頃に現れたと考えられている(Cole, Herbert. African Art and Leadership. — University of Wiscouncin Press, 2004. — P. 267.)。輪の形に丸まった蛇は、例えば、古代都市アビドスにあるオシリスの神殿の壁に彫られている(Hannah, Barbara. The archetypal symbolism of animals: lectures given at the C. G. Jung Institute, Zurich, 1954-1958. — Chiron Publishers, 2006. — P. 227-8.)。このシンボルは、寿命、永遠性、不死性を表すものだった。エジプト人の理解では、ウロボロスは森羅万象、天界、水、大地、星々の具象化で、古いものと新しいもの、そのすべての要素を具象化したものだった。ファラオのピイ(在位は紀元前747年から722年)によって書き残された、その中でウロボロスに言及した詩が残っている(Assman, Jan. The mind of Egypt: history and meaning in the time of the Pharaohs. — Harvard University Press, 2003. — P. 325.)。
U・ベッカーは、蛇のシンボリズムそれ自体に触れ、ユダヤ人が古来より、それらを威嚇的で、悪しき存在とみなしていたことを指摘している。旧約聖書では、特に蛇が「穢れた」存在に含まれている。彼はサタン、そして概して悪を象徴し、蛇はアダムとエヴァの楽園追放においても主要な原因となっている(Becker, Udo. The Continuum encyclopedia of symbols. — Continuum International Publishing Group, 2000. — P. 264.)。いくつかのグノーシス主義のセクト、例えばオフィス派は、エデンの園の蛇とウロボロスが同一であるという見解に依拠していた(Guiley, Rosemary. The encyclopedia of magic and alchemy. — Infobase Publishing, 2006. — P. 234.)。
歴史家は、エジプトからウロボロスのシンボルが古代ギリシアに入り込み、フェニックスと同様、そこで終わりも始まりもないプロセスを表すようになったと考えている。ギリシアでは蛇は崇拝を集める主題で、健康のシンボルとして、また多くの神話や伝説に反映されている通り、死後の世界に結びつくものでもあった。δράκων(ドラコーン)というギリシア語は、逐語的に訳すと「蛇」になる(Haeffner, Mark. Dictionary of Alchemy: From Maria Prophetessa to Isaac Newton. — Karnak Books, 2004. — P. 105.)。
古代中国
R・ロバートソンとA・コンブスは、「猪竜」と呼ばれ、豚と龍の形を兼ね備え、尾を咥えた形で描かれた、古代中国のウロボロスについて指摘している。多くの学者は、このシンボルが次第に変化を遂げ、成功の象徴である、伝統的な「中国の龍」に変容していったという考えを支持している(Robertson; Combs. The Uroboros)。シンボルとしてのウロボロスへの最初期の言及の一つは、紀元前4200年と算定されている。輪の形になったドラゴンの人形の最初の出土品は、紅山文化(紀元前4700年前から紀元前2900年)に帰せられている。そのうちの一つは全くの環状で、故人の胸の上に発見された。
ウロボロスのシンボルが、古代中国における、「陰陽」の概念を用いる単子論に結びついているという意見も存在している(Thorne-Bird. Becoming One. P. 67)。古代中国におけるウロボロスはまた、蛇の胴体に取り巻かれた内部の空間に、卵が配置されている点で特徴的である。これは、創造主によって作られた「世界の卵」と推定されている(Nichols, Sallie. Jung and Tarot: an archetypal journey. — Weiser Books, 1980. — P. 351.)。ウロボロスの「中心」は、哲学において「人の道」を表す、「道(タオ)」の考えを反映する、輪の中心として言及されている(Olney, James. The rhizome and the flower: the perennial philosophy, Yeats and Jung. — University of California Press, 1980. — P. 338.)。
古代インド
ヴェーダとヒンズー教においては、神の顕現の一つとして、シェーシャ(舎沙、アナンタ竜)が言及される。シェーシャは尾を噛んだ蛇の形で描かれ、ジャナエ・ソーン=バードは、ウロボロスのシンボルとの関連に触れながら解説している(Thorne-Bird, Janae. Becoming One: The Journey Toward God. P. 67.)。古代より今日に至るまで、インドでは、水道、湖、泉の守護者であり、また生命と肥沃さの体現でもある、蛇(ナーガ)が崇敬を集めている。他にも、ナーガは時の循環と不死性を表す存在でもある。伝説によれば、すべてのナーガは三つの蛇神――ヴァースキ(婆素鶏)、タクシャカ、シェーシャから生じたとされている(Rudy, Eva. The book of Hindu imagery: gods, manifestations and their meaning. — Binkey Kok Publications, 1993. — P. 57.)。
シェーシャの表象はたびたび絵の中に見いだされ、丸くなった蛇の形で描かれ、そこには足を組んだヴィシュヌ神が腰を下ろしている。シェーシャの体の一巻きが、果てしない時の循環を表している(Dallapiccola, Anna Libera. Indian art in detail. — Harvard University Press, 2007. — P. 17.)。さらに大きな範囲の神話の議論では、(コブラのような)蛇が世界の海に住み、百の頭を持っているという。シェーシャの巨体を隠している空間は、宇宙のすべての星々に繋がっている(DeMeng, Michael. Vishu Dreaming // Secrets of Rusty Things: Transforming Found Objects Into Art. — North Light Books, 2007. )。シェーシャはこれらの星々を自分の無数の頭の上に乗せ、ヴィシュヌ神の賛歌を歌い続けている(L. A., Michael. The Principles of Existence & Beyond. — Lulu, 2007. — P. 65.)。シェーシャの図像は、自らの体を大地に巻きつけ、悪しき力から守っているという言い伝えから、インドのマハラジャの守護者を意味するトーテムにも用いられた(Badger, David; Netherton, John. Snakes. — Vouageur Press, 1999. — P. 19.)。「シェーシャ」という言葉それ自体は、「残り」を意味し、すべての被造物が原初の源へと還ったのちも「残り続ける」という(Feuerstein, Georg; Kak, Subhash; Frawley, David. In search of the cradle of civilization: new light on ancient India. — Motilal Banarsidass Publ., 2005. — P. 243.)。クラウス・クロスターマイアーの意見では、シェーシャの図像の哲学的説明は、歴史をヒンズー教の哲学における、歴史が地球の人類史や、別個に存在するそれぞれの宇宙の歴史に留まるものではなく、無数に存在する宇宙の中で、それぞれ絶えることなく出来事が起こり続けていると考える見解から理解しうるという(Klostermaier, Klaus K. Hinduism: A Short History. — Oxford, 2000. — P. 5. )。
「ウロボロス」に関連する項目
- テレビアニメ「TIGER&BUNNY」に登場する犯罪組織。→ウロボロス(TIGER&BUNNY)
- 原作・西尾維新、画・小畑健の漫画→「うろおぼえウロボロス!」
- 漫画「鋼の錬金術師」に登場する組織・ホムンクルス」の体に刻まれている紋章の名称。
- 神崎裕也の漫画→「ウロボロス-警察ヲ裁クハ我ニアリ-」
- 4を原作とした実写ドラマ「ウロボロス〜この愛こそ、正義。」
- 「BLAZBLUE」の登場人物「ハザマ」が使用するドライブ。
- ゲーム「バイオハザード」シリーズに登場するクリーチャー。→ウロボロス(バイオハザード)
- MUGENにおける東方アレンジキャラクターの一人。→ウロボロス(MUGEN)
- ゴッドイーターに登場するアラガミの一種。正しくはウロヴォロス。
- ゲーム「エースコンバット3」に登場する組織。
- 遊戯王OCGに登場するエクシーズモンスター、ヴェルズ・ウロボロス。
- ストライダー飛竜の「MARVELvsCAPCOM」シリーズでのハイパーコンボ。
- ゲーム「ロックマンゼロ2」に登場するボスキャラクター「ヒューレッグ・ウロボックル」のモチーフ。
- ゲーム「ロックマンゼクスアドベント」の終盤に登場する巨大要塞。
- ゲーム「軌跡シリーズ」に登場する秘密結社→身喰らう蛇
- ライトノベル「ハイスクールD×D」に登場する登場人物→オーフィス
- ゲーム「アトリエシリーズ」に登場する状態異常を回復するアイテム、秘薬ウロボロス。
- 映画『仮面ライダーウィザード in Magic Land』に登場するこれをモチーフとする巨大ファントム→ウロボロス(ファントム)
- ゲーム「ブレイブリーデフォルト」のラスボス
- スマホゲーム「ドールズフロントライン」のボスキャラクター→ウロボロス(ドールズフロントライン)
- ゲーム女神転生シリーズの種族龍王の∞型に巻いた姿の仲魔。登場する場合、種族最上位のレベルのことが多い。