全集中の呼吸
ぜんしゅうちゅうのこきゅう
概要
漫画・アニメ『鬼滅の刃』に登場する、鬼殺隊士達が必須として習得する特殊な呼吸法。
超越生物である人喰い鬼と渡り合える程の身体能力を得た上で、そこから各"型"に沿った必殺の剣術を繰り出すことによって、岩塊よりも硬い頸をも斬り落とす。
あくまでも人間が身に付ける"技術"である為に、骨身を削りながら修練を重ねる以外に習得方法はない。……しかしそれはつまり、心身に修練を乗り越える頑健さを備えているのであれば、特別な才能が無くとも習得そのものは可能ではある事を意味する。
人喰いなどの外的要因によって突如目覚める"異能"たる、血鬼術とは対極に位置する。
ただし、それを本当に習得できるかあるいは習得した後にどこまで昇華できるかは、個々人の才能と努力次第であり、人によって使える呼吸のレベルは異なる。鬼殺隊士であっても必ずしも誰もが呼吸を完全に使いこなせる訳ではなく、知識はあっても技術としてそれを体得・昇華できない者も少なくない。剣の技量や呼吸のレベルが低い剣士は日輪刀の色も肉眼で分からない程に薄くなる。
例として、炭治郎は呼吸の完全な習得に2年もかかった(通常の修業は1年程度で終わり最終選別に送り出されるのだが、炭治郎は本当は最終選別に行かせる気のなかった鱗滝の本来不可能な最終課題と、イレギュラーなサポーター達のおかげで、2年もの修業を積む事で無事に体得できた)。
加えて重要なのは呼吸を体得した剣士は鬼になり難いという事である。より高度な呼吸を使える剣士であればある程に鬼にはなり難くなるらしく、中には鬼にならない体質の者まで稀に現れるとの事。例として、元鬼殺隊の剣士だったとある鬼は、より多くの血を無惨から貰った上で完全に肉体が鬼になるまでに丸3日もかかっており、さらに鬼になった後も人間時代の記憶や人格を保つ場合が多いらしい。
このように呼吸の剣士を鬼にするのは、手間もかかる上にリスクも高い事から、鬼の始祖たる鬼舞辻無惨は既に「呼吸の剣士を鬼にする事」には興味を失っており、「自ら鬼になる事を進んで懇願する者」でもなければ、基本的には鬼殺隊士(特に柱級の剣士)を鬼にする事は避けている(実際に上弦が鬼殺隊士を鬼に勧誘する際も、基本的に相手の同意を得ようとする)。
詳細
著しく増強させた心肺により、一度に大量の酸素を血中に取り込む事で、血管や筋肉を強化・熱化させて瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる特殊な呼吸法。
当然ながら相応の負荷を使用者の体に強いる為に、基本的には短時間のブーストとして使用する。この身体ブーストをかけた状態で、各々の(育手から学んだ)流派に従った型から必殺の剣戟を繰り出して、鬼と対峙する。
即ち、鬼殺の剣士の基本且つ奥義でもある。
全集中"常中"
さらに地道かつ過酷な鍛練の積み重ねにより、睡眠中を含む二十四時間常に全集中の呼吸を維持し続ける身体活性化の高等技術の一つである。
非常に身体に特に肺に負担が掛かる全集中の呼吸を常時行う為に、子供と同じくらいある巨大で硬い瓢箪を、息を吹き込むだけで破裂させられるようになる程に呼吸系を強化をしなくては全集中の呼吸を常時維持させる事が出来ない。故にこれが体得のスタートラインである。
一応は、実際に肺活量を鍛える訓練方法として似たような物があるが、此方は500mlペットボトルを使う(破裂する程やれば呼吸器系に過負荷が掛かり痛めるので厳禁)。
体得に成功すれば新陳代謝が活性化し、増大した肺活に応じて肉体が対応するので身体能力がさらに向上し続ける。しかし、突然強くなったりするような技術ではなく、効果が上がる迄には相応の年月と鍛錬を必要とする。ただし、順当に鍛錬を重ねて常中を維持すれば、確実に日ごとに強くなっていける。
また、応用発展として酸素を取り込む事で血管の一本一本に至るまで意識をめぐらせて、自力で止血を行ったり、筋肉を硬化させて武器などを抜けないようにして敵を拘束する、筋肉を引き絞って傷を強引に閉じて内臓が出るのを防ぐ、心臓を一時的に強引に止めるなどの身体操作能力が使えるようになる。これらの身体操作には高位の剣士程より深く精通している(しなければ強力な鬼を前にして生き残れない)。
作中において炭治郎は常に全集中の呼吸を意識しながら、日中に刀の素振り、屋敷の庭をランニング、岩を使った筋力トレーニングなどかつて師である鱗滝に課された修行メニューを、夜は座禅を組み酷使した肺を休めて静かに行うという鍛錬で体得した(さらに三人娘達に、就寝中に全集中の呼吸が止まっていた場合は布団叩きで叩くよう依頼もしていた)。
この甲斐あって、標準サイズの瓢箪を破裂させる事に成功した炭治郎を見て善逸、伊之助もやる気を取り戻すも早々に挫折しかけ、しのぶは二人を鼓舞する為に、これを「基本的な事」と説明していた。しかし後に、炭治郎に対して煉獄も「"柱"になる為の入り口」として説明している。
このように全集中の呼吸が通常の剣士にとっての基礎であり奥義とするなら、常中は柱級の剣士にとっての基礎であり奥義である。
ただし、体得・昇華できるか否かはこちらも当然ながら個々人に努力と才能次第であり、炭治郎は安定するまでに約1ヶ月かかったが、しのぶに火を付けられた善逸と伊之助は9日で体得している。
各流派
呼吸の基本となる剣術の流派として炎・水・風・岩・雷の五系統が存在しており、他の流派はここから派生している。特に炎と水は歴史が古く、煉獄曰くどの時代にも"炎柱"と"水柱"になった剣士はいたという。実際に作中でも、炎柱と水柱だけは現役の柱と元柱の両方が登場している。
また、煉獄家にある書物によれば、全ての始まりとなったのは炭治郎の家で代々伝えられている"ヒノカミ神楽"の基になったとされる"日の呼吸"であり、他の呼吸法は全てその派生に当たるという。
元々は、上記の五系統の名を関するただの剣術の流派に過ぎなかったのだが、始まりの剣士がそれぞれの流派を極めた当時の柱達に、彼らの適正毎に呼吸法を変えて指導した結果、剣技と呼吸法がセットになった全集中の呼吸という形になり、今現在まで受け継がれている。
ちなみに後に、炭治郎が師である鱗滝から聞いた話によれば、剣士が己の適性に合わせて使っている呼吸を変える事や新しい呼吸を派生させる事はよくある事らしい。
基本流派(※1)
派生流派
- 使い手
水の呼吸
どんな形にもなれる水のように変幻自在な歩法で如何なる敵にも対応できる受けの型。唯一鬼に苦痛を与えず安らかに死なせる技が存在するのも特徴。五大流派の中では炎の呼吸と並んで歴史が古く、いつの時代にも"柱"がいた。技が基本に沿ったものである為に型の数も多く、ここから派生した流派も多い。最も多くの隊士に使われている流派でもある。
雷の呼吸
呼吸の力を脚に集中させ、強烈な踏み込みから、文字通り雷光の如き速さで居合いの斬撃を繰り出す神速の型。全ての型が壱ノ型を基盤として成り立っているのも特徴であり、その事から技は全てが抜刀術をベースにした物となるようである。
炎の呼吸
脚を止め力強い踏み込みから、間合いを一気に詰めての強力な斬撃が多い攻めの型で、変幻自在の脚運びを主とする受けの型である水の呼吸とは対称的である。五大流派の中でも水の呼吸と並んで歴史が古く、やはりいつの時代にも"柱"が存在したという。
岩の呼吸
岩のように頑強な防御に長け、筋力に物を言わせた荒々しさが特徴の守りと攻めの両方に特化した型。足さばきや体さばきによって技の威力を底上げする他の呼吸法と違い、単調な力押しであるが故に弱点が少ない呼吸である。しかし、強力な筋力を持つ事が前提である為に使い手の数も最も少なく、一つの流派として堅実すぎるが故に派生された呼吸法も少ない。
風の呼吸
暴風のように荒々しい動きから鎌鼬のように斬り刻むのが特徴の攻撃特化の型。また、他の呼吸は剣士が纏うオーラや気迫が雷や炎等のイメージのエフェクトとして可視化されるが、この呼吸だけはただのイメージだけでなく、純粋な剣技によって起こした鎌鼬状の風が実際に敵を攻撃する。
一覧表
基本流派 | ||||
---|---|---|---|---|
呼吸(読み) | 源流 | 柱の呼称 | 日輪刀の色 | 呼吸音 |
水(みず)🌊 | 日🔆 | 水柱(みずばしら) | 青🔵 | ヒュゥゥゥゥ |
雷(かみなり)⚡ | 日🔆 | 鳴柱(なりばしら) | 黄色🟡 | シィィィィ |
炎(ほのお)🔥 | 日🔆 | 炎柱(えんばしら) | 赤🔴 | |
岩(いわ)🧱 | 日🔆 | 岩柱(いわばしら) | 灰色⚪ | ゴウゴウゴウン |
風(かぜ)🌀 | 日🔆 | 風柱(かぜばしら) | 緑🟢 | シイアアアア |
派生流派 | ||||
呼吸(読み) | 源流 | 柱の呼称 | 日輪刀の色 | 呼吸音 |
蛇(へび)🐍 | 水🌊 | 蛇柱(へびばしら) | 青紫 | |
花(はな)🌸 | 水🌊 | 花柱(はなばしら) | 桃色 | フゥゥゥ |
蟲(むし)🦋 | 花🌸 | 蟲柱(むしばしら) | 藤色 | |
音(おと)🎶 | 雷⚡ | 音柱(おとばしら) | 橙色 | |
恋(こい)💖 | 炎🔥 | 恋柱(こいばしら) | 桜色 | |
霞(かすみ)💭 | 風🌀 | 霞柱(かすみばしら) | 白 | フウウウウ |
獣(けだもの)🐗 | 風🌀 | 不明 | 藍鼠色 | カァァァァ |
その他の流派 | ||||
呼吸(読み) | 源流 | 柱の呼称 | 日輪刀の色 | 呼吸音 |
日(ひ)🔆 | なし | 不明 | 黒⚫ | ゴオオオオ |
月(つき)🌙 | 日🔆 | 不明 | 紫🟣 | ホオオオ |
余談
異能の力によって超常的な現象を引き起こす血鬼術とは違って、あくまでも身体能力を強化するものとそれによる剣技である為に、水や雷と言った自然物を操る訳ではなく、物理的に出ているという訳でもない。しかし、上記の通り作中ではイメージとして剣士達の纏うオーラや気迫が、水や雷や火というエフェクトとして可視化されて、これらを纏って戦っているかの様に見える。
ただし、アニメでは姉蜘蛛が蟲の呼吸の蝶のエフェクトを視認しているかのような描写があり、作中の登場人物達の目にはエフェクトが見えているようである。
アニメ版ではUfotableの変態技術による浮世絵風のエフェクトが用いられ、特に第19話のヒノカミ神楽は、作者も驚愕する程に美麗なものとなった。
ちなみにコミックス17巻おまけページで「剣士達は水などを出しているのではなく、見ている人がそう感じる、そう見えるというだけです」と改めて解説されている。加えてエフェクトが出るというのは「型を使いこなしている証」でもある為に、才能に乏しい隊士の場合は、一応は出せる事は出せるのだが薄すぎて見えないという悲しい結果になる。
この設定は、コラボ先の自然物を操る術(魔法)が普通に存在する世界へ迷い込んだ時も維持されており、鬼殺隊(煉獄杏寿郎)の戦闘中の動きを見た向こう側のキャラ(ナタク)は「炎のような踏み込み」と言っており、実際には炎は出ていない様子が伺える。
関連タグ
関連・類似技術
- 波紋法(ジョジョの奇妙な冒険)……類似した技術。
- ギア2(ONEPIECE)……方法は違うが、血の流れを加速させて身体能力を上げる点は同じ。
関連リンク
『鬼滅の刃』炭治郎の「水の呼吸」「ヒノカミ神楽」は実在する技がある? 武術のプロに聞いてみたエキサイトニュースからの引用。現実でも再現ができる本格的なものとなっている。試す場合は自己責任で