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ラプラスの箱の編集履歴

2022-11-30 18:53:34 バージョン

ラプラスの箱

らぷらすのはこ

ラプラスの箱とは、OVA『機動戦士ガンダムUC』に登場するキーワードであり、物語の根幹を成す存在である。

概要

ラプラスの箱とは、ビスト財団が宇宙世紀の始まりから秘匿し続けてきた謎の存在であり、百年近くにも渡ってビスト家と地球連邦政府を縛ってきた「呪い」である。


宇宙世紀元年、改暦セレモニーが行われていた首相官邸「ラプラス」が爆破されるという「ラプラス事件」が起こった。

そのテロに携わった人間は口封じ目的で作業艇に仕掛けられていた爆弾で殺害されるが、青年(後のサイアム・ビスト)は爆発時に船外作業中であったために吹き飛ばされるだけで生存し、ラプラスの残骸の中を漂流していた所を天文学的な偶然から、後に「ラプラスの箱」と呼ばれることになる「ある物」を手に入れた。

奇跡的に生還したサイアムは「それ」が取引に使える重要な秘密であることを見抜き、裏社会で頭角を現していくと、秘密をネタに連邦を脅迫しつつも金目当てで無茶な要求はしない、連邦にとってもリスクを冒すより癒着しておく方が安全な共生関係を築き上げていく。

やがてサイアムは当時中小企業だったアナハイム・エレクトロニクス社と関係を持つようになり、「箱」の力を使ってアナハイム社を急成長させると、同社に役員待遇で迎えられた後に専務の娘の婿となってビスト財団を立ち上げ、その地位を確立させていく。


しかし、「ラプラスの箱」の正体はサイアムと当時の一部政府首脳陣しか知らず、世代交代とともに正体を知る人間も減っていき、いつしか「箱が解放されれば連邦政府は転覆する」という噂だけが一人歩きを始めていくようになる。


そして宇宙世紀0096年、サイアムは「箱」を開放するべく自身の孫カーディアス・ビストと結託し、「箱」の鍵であり道標でもあるユニコーンガンダムネオ・ジオン残党「袖付き」に譲渡しようとする所から物語は始まる。


正体


以下の内容は『機動戦士ガンダムUC』の重大なネタバレが含まれます。閲覧の際には十分注意して下さい。





























第七章 未来

第十五条

地球連邦は大きな期待と希望を込めて、人類の未来のため、以下の項目を準備するものとする。


1.地球圏外の生物学的な緊急事態に備え、地球連邦は研究と準備を拡充するものとする。


2.将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、その者達を優先的に政治運営に参画させることとする。


その正体は、首相官邸「ラプラス」において発表される予定であった宇宙世紀憲章を記した石碑のオリジナルである。

しかし、それは宇宙世紀0096年現在ダカールにある事で知られるレプリカの石碑とは違い、当時の首相リカルド・マーセナスらによって七章目となる一つの条文が加えられていた。

未来」と銘打たれたその条文には、地球圏外の生物学的な緊急事態に備えた研究と準備を拡充する項目と、将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合の参政権を保証する項目が記されていた。


宇宙世紀開闢以前、地球は環境破壊と資源の枯渇により、爆発的に増え過ぎた人類をもはや支えることができなくなっていた。

そうした地球規模の諸問題を抜本的に解決すべく、世界統一政権たる『地球連邦政府』が発足。反対勢力を圧倒的な軍事力で押し潰しながら、半ば強引に宇宙移民政策が開始された。

しかし人類社会と地球を延命させるためとはいえ、それは社会の下層民を宇宙へ追放するという謂わば『棄民』という行為に他ならなかった。さらに過酷な宇宙空間で人類を生かし続けるためには膨大な予算を要することから、宇宙居住者(スペースノイド)は水や空気、重力にも重税を課せられた上、地球への渡航規制を受けるなど様々な面で冷遇され、地球に残った特権階級の人々(アースノイド)との間に軋轢が生まれていくことになる。

「箱」に記された「未来」の条文は、そうしたスペースノイドに対する行為への贖罪として、遠い未来には宇宙に出た人々が社会を担うことを約束するという、リカルド首相らによる善意の「祈り」の言葉だったのだ。


条文そのものも非常に曖昧であり、法的な根拠としては御伽噺じみた文言である。

科学的に考えれば、地球と宇宙という異なる空間で長く時代を経ていけば人類は宇宙独自の進化を遂げることは間違いないものの、この条文ではその具体的な定義をしておらず、何をもってこの条文の対象とするかは不明瞭である。

しかし、そんな条文であっても、地球に残った特権階級、その権力や財産を世襲していくであろう子孫達にとっては、棄てたはずの平民に権力を譲渡する可能性の存在そのものが不都合であった。

このために「ラプラス事件」が起こされ、石碑はもちろん、条文に賛同した政治家、条文の存在を示す証拠や見てしまったマスメディアまで、全てが闇に葬られることとなった。


ところが、サイアムの生存により、テロの真相を示す証拠がただ一つだけ確保されてしまう。

「箱」の存在は、リカルドを継いだ新政権の罪を暴く証拠であり、新政権にとっては公表されれば政府が転覆する秘密であった。


100年の歴史の中で

その記述は、当初こそレプリカにない条文の存在がオリジナルであるということの証明として、連邦政府が首相官邸の爆破テロに関わっていたという政治的スキャンダルを暴く証拠程度の存在でしかなかった。

「箱」の奪回計画やサイアムの暗殺計画自体は何度も立ち上がったものの、当時の「箱」を利用したサイアムの要求も連邦の中枢権力に触れるようなものではなかったため、連邦は事を急いで余計なリスクを犯すよりも彼との共生関係を続けることを選択した。

この時点での箱はあくまで犯罪の証拠でしかなく、時が経てば、たとえ公表されても数代前の政権のスキャンダルに過ぎず今の政権には関係無い物となり、その力も風化するはずであった。


しかしラプラス事件から半世紀が過ぎた頃、運命のいたずらか、ジオン・ズム・ダイクンジオニズム(ニュータイプの出現を予見した思想)を提唱したことによって、「箱」の持つ意味は一変してしまう。

碑文に記された曖昧な「宇宙に適応した新人類」に関する定義が、よりにもよって反連邦に人気の人物から発せられてしまい、「箱」に「連邦政府はジオニズムに類する思想を秘匿してきた」という事実を後付けしてしまい、スペースノイドが連邦を攻撃する口実となり得るものになってしまったのである。

「箱」にはリカルド首相ら当時の首脳の署名が入っているため、公表・検証により本物であることが証明されれば法的にも十分有効である。

さらに、「宇宙に適応した新人類」の定義も曖昧でいくらでも拡大解釈出来るということから、「ニュータイプ」に限らず「スペースノイド=宇宙に適応した新人類」とする事もでき、参政権を持たないスペースノイドからの反発が強まるのではないかという危惧が生まれるに至る。


ジオニズムの生まれた時点で「箱」の存在を公表していれば、あるいはその後の歴史は変わっていたのかもしれない。だが、「箱」の存在を知ったスペースノイド達がもしもジオンを先頭にして反旗を翻せば、途方もない大混乱や大戦争が人類世界を包むことは間違いない。何よりも「その存在を知りながら隠し続けてきた」という紛れも無い事実こそがジオン信奉者達にとっては最大の武器となってしまう。

それを恐れた連邦政府は「箱」を隠匿し、沈黙し続ける他無かった。

「祈り」の言葉は、この瞬間から「呪い」へと変貌してしまったのだ。


しかし、それでも悲劇は起きてしまった。一年戦争の勃発である。

混乱を避けるために沈黙を貫いたはずが、結果として「箱」の公表に関係無く戦争は起きてしまう。(もっとも、この時代においては公表しても戦争の時期が変わっただけの可能性は高い)

数十億の命が失われ、地球環境も壊滅状態という犠牲の大きさと、戦争によって実証されたニュータイプの存在が、「箱」の呪いをますます重たくした。この戦争により、連邦は明確に「宇宙に適応した新人類」の出現を認めざるを得ない状況に置かれることになる。

連邦は「一年戦争のような人類全体の悲劇を繰り返さないように」、そして「宇宙に適応した新人類」の存在を否定するために、「箱」の隠蔽を続けることにに加え、ニュータイプという存在の否定のための道を選択せざるを得なかった。

財団や真実を知る一族の既得権益を守り続けるための癒着が、これ以上の混乱を避け仮初でも平和を維持するためには必要なものと、新たな意味付けがされてしまう。


皮肉なことに、ニュータイプと呼ばれることになった人間の多くは、連邦側、それも象徴的な存在であるガンダムタイプのパイロットから次々と現れてしまう。

連邦の勝利に貢献した存在が、同時にジオンの思想と「箱」の碑文の正しさを証明してしまう、極めて矛盾した状態である。このために、アムロ・レイが軟禁に近い待遇を受けたり、ニュータイプが優れた進化であることを否定するための「人工のニュータイプの研究を推進したりと、連邦はさらに呪いに突き動かされていく。

仮初の平和を守るためのそうした行為こそが、新たな戦争の火種を産み続けるとも気付かず。


そしてラプラス事件から100年が迫る宇宙世紀0096年、連邦軍は「人工のニュータイプを乗せたガンダムが、ジオンとニュータイプを根絶する」ためのフラッグシップとして、ユニコーンガンダムを投入し100年の呪いに終止符を打つことを決意。

しかし、同じく100年の節目を前に別の決着を目論んでいたビスト財団がこの計画に参加したことで、「箱」を巡る最後の戦いが幕を開けることとなる。


「箱」の開放

ビスト財団はラプラスの箱を秘匿する事で連邦から様々な見返りを受けて来たが、サイアムの財団設立の最終目的は、あくまで将来の「箱」の開放を意図したものであった。

短期的に見れば「箱」の秘匿により混乱を避けることは有意義だが、長期的に見ればやがて社会は停滞し逼塞する。良くも悪くも起爆剤となるであろう「箱」を公表することで、混乱を招いてでも社会を変えることが必要と思ってのことであった。

しかし、これはただ単に、地球圏の全人類が知るべきはずの重大な事実を秘密にし続けることで富を築いた男の、その秘匿のために生じてきた様々な犠牲や軋轢に対する、贖罪としての個人的な意味合いも大きい。

身も蓋も無いことを言えば、サイアムが死ぬ頃に開放し、後のことは丸投げする、サイアムが気持ちよく逝くための行為でしかないとも言える。


しかし、孫のカーディアスは社会情勢から箱の開放が必要であると賛同。

「ニュータイプ」という言葉の定義すら変わり果て、ジオン本来の思想に人々が飽き、ジオンという国そのものが間もなくなくなり連邦による統一支配が完成する時代の中で、その歴史の重みを知った人間だけが箱を開けることができるように宝の鍵を用意し、開放するか秘匿し続けるかも含め託すべき人間を見極めるため、連邦軍の最新鋭ガンダム開発に寄生し「UC計画」を独自の目的に作り替えていく。


ジオン軍は「シャアの反乱」で既に反連邦派の一大勢力としての力を喪い、ジオン共和国(サイド3)はもはや正規軍と呼べないテロリストになり果てたジオン軍を(少なくとも表向きは)切り捨てていた。さらに宇宙世紀0100年を契機に自治権を放棄し完全に連邦政府の統治下に入ることが決まっており、反連邦運動のシンボルであるジオン勢力はいずれ消滅することになる。

もはやモナハン・バハロ達ジオン政府には求心力すら無く、亡きシャアの亡霊にすがりフル・フロンタルという偶像を用意することで、かろうじてジオン共和国及びネオ・ジオン軍(袖付き)が成立している状態であった。

カーディアスはそんな「袖付き」へラプラスの箱の道標となるユニコーンガンダムを譲渡すべく手筈を整える。

この前段階として試作機にあたるシナンジュ・スタインが譲渡(強奪に偽装)される等して計画は進められたが、実際にはフロンタルには開放する気は毛頭無く、ただ「箱」の持ち主=連邦を脅す相手がビスト財団からジオンへと移り、これにより利権を引き出してジオンを存続させることが目的であった。

しかし、カーディアスもそうした可能性は想定しており、ユニコーンに組み込んだラプラスプログラムは相応しくない相手には「箱」の座標を開示しないようにされており、ユニコーンの担い手が「ジオンの再興」に固執する狭隘な主義者ならば、「箱」が開くことは無いと、受け渡しに訪れたスベロア・ジンネマンに警告している。


こうして「箱」は鍵の試練という条件付きながら開放に向け受け渡されるかに思われた。

しかし、財団と連邦の共生関係を続けることを目論む妹のマーサ・ビスト・カーバインの差し向けたロンド・ベルの介入により失敗する。

これまで長らくサイアムの暗殺を断念してきた連邦政府にとっても、最大の懸念事項であった箱の所在そのものが譲渡計画により浮上するであろうこの機会こそが、サイアムも「箱」も全てを持ち去る最大の好機であった。

「箱」の譲渡は失敗に終わり、その鍵となるユニコーンガンダムを巡り、箱を手に入れたいジオンと箱を消し去りたい連邦、うまく両者を阻止し今後も癒着関係を続けたいマーサの三つ巴の戦いに突入。

ユニコーンガンダムは数奇な運命を経て、カーディアスの息子であるバナージ・リンクスの手に渡り、成り行きでそれを回収したネェル・アーガマは3つの勢力から狙われる陰謀の中枢となった。

かくして、短期間の小規模戦ながら様々な爪痕を残すことになる「ラプラス事変」が幕を開ける。


ユニコーンのラプラス・プログラムに導かれた旅路の果て、サイアムのもとへ辿り着いて「箱」の正体を知ったバナージとミネバ・ラオ・ザビは、第七章碑文は決してニュータイプ論を正当化させるものでも忌避するものでもなく、100年前の人々が新たな可能性を信じて地球の重力を振り払い新天地へと旅立つ同胞たちへ向けて、祈りを込めて贈った善意の言葉であったはずだと気づく。

始まりは罪悪感からの無責任な根拠無き慰めの言葉に過ぎなかったかもしれない。それでも宇宙移民政策は人口増加解決のただの棄民政策ではなく、スペースノイドは人類の新たな可能性を信じて希望を以って送り出されたのだという事は、その未来を生きる人類には周知されるべきであり、そして何より、「その先にある人の持つ可能性を信じたい」としてバナージ達は「箱」の開放を決断する。


宇宙世紀0096年5月4日、ミネバによって全世界に「箱」の持つ真の意味が公表された事でラプラス事変は終結を迎え、「箱」の魔力は今度こそ完全に消滅した。


放送の中でミネバは告げる。

「人間の業を否定して、ニュータイプの地平に救いを求めても何も始まらない。世界を変えるには自分達が自ら変わっていくしかなく、そして人はニュータイプにならずとも変わっていくことのできるだけの力を持っている。だから百年前の人々と同じように、善意を以って次の百年に想いをはせて欲しい。自分達の中の、可能性という名の内なる神を信じて


歴史的影響

ラプラス宣言」、「ミネバ・ラオ・ザビ殿下の演説」として、地球圏全域に響き渡った呼び掛けではあったが、人々はただ目前の生活を続けていくことに精一杯であり、二ヶ月もしない内には各コロニーのワイドショーで取り上げられる程度にまで、世界は平穏へと戻っていった。

更にその後一年が経過してなお、世界の枠組みは大きく変化することなく、日々は続いていったのだった。


民衆にとってラプラスの箱は、連邦が危惧するほどの価値を持たず、早い話どうでもよかったのである。

こういう話に関心を示すのは一握りの暇人だけであり、現状維持するしかない、現状維持でいい自分達には関係がないのだから。

また、劇中ではネェル・アーガマのオットー・ミタスが「たった……それだけ?」と正体を知った際に唖然としていたが多数のスペースノイドが同じ考えだったのだろう。

何せ、箱そのものは事実だけ見れば「宇宙世紀が始まった時に起きた事件の遺物」「一年戦争を経て意味合いが大幅に変わった物」に過ぎず、いまさら公表されてもそれ自体にはいまさらすぎる時代遅れなネタでしない。

この宣言の後に、「箱」の秘密を知り隠蔽に関わってきたマーセナス家のリディ・マーセナスが政界入りしていることからも、もはや100年前のスキャンダル程度では今を生きる世代には政府転覆の価値など無いことが伺える。


とはいえ、公表するものがジオニズムの再興や反連邦テロの奨励に掲げれば、そうした血気盛んな層への大義名分となりえた可能性は存在する。

しかし、実際にその後で現れたテロリストはこうした内容とは無関係である。

その意味では、何も変わらなかったというより、世間が無駄に混乱や暴動を起こさないよう、最も穏便で無意味になるように公表の仕方を選んだという、ミネバの演説内容がその思惑通りに果たされた結果でもある。


そもそも宇宙世紀0090年代には既に結束力が低下し、連邦もジオンも興味の無い庶民を、一部の権力者と軍人だけがヤケクソでジオンに固執していた体たらくであり、地球連邦からの独立といった目標自体がスペースノイドにとってすでに魅力的なものではなくなっていた。

何より、経済力の高いスペースノイド(エンゲイスト・ロナなど)は地球連邦政府中央議会議員にまで進出しており、“志ある者”は在相応しい立場に、それも自分の実力で上り詰めていたのである。もはや定義の曖昧な進化を待つ必要も、それに基づいた条文も必要なく、時代はすでに条文を追い抜いていたのだ。

スペースコロニーやサイドは「国」の名前こそ持たないが、すでに連邦政府からの干渉を受けることなく自立しており、もはや「国号なき国家」と呼んでいい程に実質独立していた。その影響でジオン・ズム・ダイクン存命の時代からスペースノイドは爆発的に数が増えており、アムロ・レイの育ったサイド7が0079年代の時点で新造されたコロニーだったことを考えても棄民政策というのは当初の話で早い段階からすでに世界の主流は数が多くなおかつ伸びしろがあるスペースノイドへと移っていたのだった。

第一地球に住めないからと宇宙に捨て続ければやがて宇宙の方が多くなり、母数=需要が高い以上そちらに経済、政治等様々な活動の主体が流れるのは当然である。


さらにはコロニーは完全なる計画都市で自然環境との兼ね合いが念頭に置かれておらず、地球よりもはるかに平等かつ下級市民でも裕福な暮らし、地球で言う「平民」ならそれ以上の生活を送れる文字通りの新天地だったのである。(例として挙げるなら、スラム出身のジュドー・アーシタらガンダムチームがモビルスーツの操縦や整備ができる、サイド3でも最底辺の階層出身のシーマ・ガラハウら海兵隊やマッチモニード隊の面々がMSや戦艦といった精密機械を難なく扱える教育を受けられる、一般市民のカミーユ・ビダン父親の設計したMSの設計図を見ただけで内部構成を把握、それのコクピットのレプリカを自作など)


かつて、ガルマ・ザビの国葬でギレン・ザビはアースノイドを一握りのエリートと称したが、実際は全く逆で、アナハイム社のメラニー・カーバインは「技術職が普及したスペースノイドこそがエリート」と断言した。宇宙に捨てられたはずの人々は、いつのころからか力をつけ、時代の主流を担えるほどにまで成長していたのだった。それこそラプラスの箱無しで、である。

ダイクンが提唱したジオニズム思想が価値を経たのはスペースノイドの立場が弱かった当初のころで、立場が安泰になればいちいち持ち出してくる必要もない。ジオニズムの風化・普遍化はもはやダイクンが生きていたころからすでに決められていたことだったのだ。


同時に連邦が力を失っていくのも必然の出来事だったといえる。なぜなら、いくら宇宙軍を増強しようが、その宇宙軍を動かすのは結局スペースノイドになるから、スペースノイドが繁栄して軍事権を握り、実質自立していくのは、仮に一年戦争が起こらなかったとしても確実であった。

また同時に、ジオン残党軍の消滅とジオンの復興が不可能なこともまた必然だった。連邦社会においてスペースノイドが進出していけば、「スペースノイドの市民権獲得」というジオニズムは連邦により果たされることになり、もはやジオン残党軍にはやることがない。ジオン残党軍はもはや時代に必要なくなり、大義の無い無意味で邪悪なテロリストになり下がってしまった。

一世を風靡した「ニュータイプ」論も、「宇宙移民者の輝かしい未来」から「心を読む超人集団」、「達人パイロット」と次々意味が軽くなっていき、最後は「昔そんなのがいたけど、大抵不幸だったらしい」と、ある種の昔話や「サイキッカー」というオカルトの領域まで落ちぶれた。

そしてニュータイプ研究の被害者であるゾルタン・アッカネンは「たかが数十年で進化なんて夢見すぎ」と、こうしたニュータイプは「宇宙に適応した新人類」などではなくただの突出した超人に過ぎないと根底から否定している。


ジオニズムは普遍化する中でその意味に飽きられていき、ニュータイプは浸透する中でその意味が本来のものとはかけ離れてしまった。形は違うが、どちらも時代の変化の中で意味を失くしていったのは同じである。

そもそも、理論、法則とはどんなに複雑化していても何年経っていても、同じ解き方をすれば同じ意味になることが大前提であるはずのもので、そうでないならその理論は間違っている。

たかが三十年足らずで意味が二転三転してしまうような理論が、重要なはずがなかったのである。

それは、そうして二転三転していくものに付随して秘密の持つ意味も二転三転した「箱」もまた同じであった


結局、100年という月日は、その間に人が重ねた世代は、サイアム・ビストという“個人”の覚悟など嘲笑うかのように、「呪い」と「祈り」さえも風化させ、どうでもいい塵にしてしまっていたのであった。


更には『鍵』として用意したはずのユニコーンガンダムがラプラス事変で見せた超常現象の数々から(2号機と共に「シンギュラリティ・ワン(技術的特異点)」とされた)とは重要度が逆転してしまい、『鍵』こそが新たな火種となるという、どこまでも皮肉な結末となってしまった。

そして政財界に進出した経済力の高いスペースノイドたちも一部の者はのちの時代にマフティー動乱コスモ・バビロニア建国戦争ザンスカール戦争木星戦役などさらなる戦乱の火種へと変わっていくこととなる。

箱を原因として新たな戦争が起こるのを避けたいというミネバの願いは果たされることになったが、それは希望や祈りによるものではなく、まして諦めや呪いによるものでもない、自分には関係ない、どうでもいいという単なる無関心によるものであった。


本当に成したかった事がなんら達成されないという『結末』を知らないで世を去れたのは、サイアムにとってせめてもの救いだったのかも知れない。

誰かが、何かが悪いというわけでもなく、ニュータイプもジオニズムも、そしてラプラスの箱もまた時代が変われば日常や常識となり、その画期的な価値が歴史に埋もれてしまうのだろう。

90年代のスペースノイド、そしてスペースノイドの社会進出を受け入れた地球連邦を含め、すでに人類はマーセナスよりも先を歩いていた。

言ってしまえば『機動戦士ガンダムUC』とは、時代の変化を読めなかった、取り残された人間たちの徒労、そして同時にそれで起きた戦闘や混乱を若者達が尻拭いする骨折り損のくたびれもうけ物語に過ぎなかったのである。


スーパーロボット大戦では

様々な作品が共演するスパロボ世界においてはニュータイプの参政権保障と地球連邦の昔起こしたスキャンダルだけではパンチが弱すぎるため、他作品と絡めた解釈がなされている。

初登場となる『第3次スーパーロボット大戦Z天獄篇』では原作同様物語の戦乱に深くかかわっており、御使いサイデリアルとその下部組織クロノによる人類の飼育に関するエルガン・ローディックの演説映像が秘匿されており、箱を開放すると全世界のネットワークに公開されるよう仕向けられていた。この映像公開はヴェーダを通じてリボンズ・アルマークが行い、のちに地球を支配していたサイデリアルへの反乱のきっかけとなった。


スーパーロボット大戦BX』ではEXA-DBがもう一つのラプラスの箱と呼ばれ、アクセス端末としての機能が追加されアナハイムに狙われていたが、開示に伴い無効となった。


スーパーロボット大戦V』では空白の10年と名付けられた本来の宇宙世紀憲章の存在を恐れた連邦政府によって意図的な隠ぺいが行われ、マフティー動乱と合わせてガンダムの世界観から宇宙戦艦ヤマト2199の世界に流れるきっかけとなった。

平衡世界に当たる宇宙世紀世界においても原作に比べ一触即発の空気が漂っていたためバナージやミネバ、フロンタルらの意思によってあえて公開しないという選択肢がとられた。

またシャアもかつてこれと接触したが切り札として使うには戸惑いがあったと言及されている。


機動戦士ガンダムNT』『機動戦士Vガンダム』の時代である『スーパーロボット大戦30』ではすでに開示済みであり、地球連邦の権威は失墜。ザンスカール帝国が台頭するようになった。

今作では箱の開示はクエスターズが関与していたとされ、アクシズショックゼロレクイエムの二つの事件を通し、人類は平和を手に入れたが、その平和が恒久に続くのか、それともすぐに終わるのかの実験として開示を促し、サイアムは目を背けていては真の平和は訪れないとあえて乗る事にしたという。

結局、箱の開示による平和は1年しか持たなかったもののエンジェル・ハイロゥが新たな心の光となり、人類は未来へと歩きだすこととなった。



余談

作中においては歴史に大した影響を与えることがなかったものの、開封されるタイミング次第では宇宙世紀の歴史を大きく変える可能性があったのもまた事実である。

特にスペースノイドの独立が声高く叫ばれた一年戦争前夜やニュータイプの存在が確認され始めた一年戦争中〜後期、ティターンズによるスペースノイドへの弾圧が極まっていたグリプス戦役期に開封されていれば箱とニュータイプを旗印にスペースノイドが結集して打倒地球連邦政府を掲げて大規模な政治運動が起きていた可能性もあった

フロンタルが劇中で語った通り、政治力とはタイミング次第なのである。


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