世界で最高の試合だった。あんなドラマを作れるスポーツは他にない。
野球はその点では完璧だと思う。
ロサンゼルス・エンゼルス監督 フィル・ネビン
概要
WBCの第5回大会。この大会は過去に開かれたWBCの中でも、様々な波乱に満ちた大会となった。
元々は2020年に開催されるはずだったが、前年より世界に猛威を振るったパンデミックであるコロナ禍により第5回大会は無期限延長となり、間にプレミア12は開かれたものの、最終的には開催が2023年3月までずれ込んだ。
参加国は過去最多の20カ国となる。
そして開催されると、前年に開かれた2022年FIFAワールドカップカタール大会に匹敵するほどの大変な盛り上がりを見せることとなった。
特に大谷翔平を擁する日本代表(侍ジャパン)は、圧倒的な強さとフィクション顔負けのドラマチックな展開を繰り返して優勝、世界中で大きな話題を呼ぶこととなった。
主な代表チーム
日本代表(侍ジャパン)
歴代最強との呼び声も高い日本代表チーム。
特に今大会での日本は、前哨戦に当たる第一ラウンドより、(大半のチームが格下であったという事情もあったとはいえ)大差をつけての圧勝を繰り返した末に準決勝、決勝ではギリギリの接戦を制しての勝利をもぎ取った。
かつて北海道日本ハムファイターズで多くの人材を育て上げてきた栗山英樹が監督を務め、言わずと知れた二刀流である大谷翔平は元より、打撃陣は前年度三冠王に輝いた村神様こと村上宗隆をはじめとして、吉田正尚、近藤健介、岡本和真をはじめとする優れたパワーヒッターを擁し、機動面においては出塁率において圧倒的な安定感を誇る近藤健介、世界大会において必ず活躍する頼れるトリプルスリー山田哲人、競馬好きのチームメイトをして「アーモンドアイより速い」と言わしめる韋駄天の周東佑京を招集。守備でも甲斐キャノンこと東京五輪で金メダルに導いた正捕手甲斐拓也、「源田たまらん」とファンをうならせる鉄壁の守備職人源田壮亮といった攻防全てにおいて控え選手ですら交代要員ではなく必要な場面で役割を持てる最高の戦力が揃う。
さらにはメジャー挑戦日本人の通訳として活躍する水原一平の尽力で史上初となる日系アメリカ人のメジャーリーガーである、ラーズ・ヌートバーを加えて第一ラウンドから準々決勝まで大量得点で連勝を重ねていった。
攻守に優れたチーム編成であることは間違いないが、特に驚異的だったのはここぞというところで勝負にもめっぽう強い精神力とチームの団結力で、特に準決勝のメキシコ戦では敗退間近にまで追いつめられた9回裏に劇的な逆転勝利を挙げたことは世界の野球ファンを驚かせた。
しかし、何よりも世界を震撼させたのは、投手陣の層の厚さであろう。今大会の日本の投手陣は参加各国が舌を巻くほどの実力者揃いであり、大谷翔平、ダルビッシュ有を筆頭に、前年に完全試合を達成した佐々木朗希、日本最高峰のピッチャーとの呼び声も高い山本由伸など、世代を問わずに数多くのピッチャーが躍動。佐々木朗希以外にも戸郷翔征や高橋宏斗、宮城大弥、大勢といったまだ22歳以下の若手投手が大舞台でその才能を世界に見せつけた。決勝戦では後述の“銀河系打線”とも称されたアメリカのトップクラスの打者陣をわずか2得点に抑え込み、日本の勝利に大きく貢献した。
とはいえ、全体的に見ると4番の村上がグループリーグで終始不調だったり、チーム全体で満塁のチャンスを何度も逃したり、ダルビッシュが韓国戦でホームランを浴びて3失点の先制を許すなど意外と暗雲を立ち込めていた試合内容も多く、何かがかみ合わなければどの試合でも敗北する可能性があった。それだけにメキシコ戦での村上の最後のサヨナラ安打、ヌートバーのファインプレー、戸郷や大勢のピンチに強い投球、岡本や吉田の希望を繋いだホームランなどドラマ性の多い試合がひしめいており、全編通して漫画ですら描けないような展開が続いた。
アメリカ代表
言わずと知れた世界のスーパースターチーム。また、前回のWBC優勝国でもある。
今大会では、史上最高打者の呼び声高いマイク・トラウトをキャプテンに、魔球とも称された変化球であるエアベンダーを使いこなすデビン・ウィリアムズや、5本塁打11打点の大暴れを見せたトレイ・ターナー等の活躍が目立った。
野手は実力者揃いであったが、一方で投手力の低さが目立ち(一応、トラウトはクレイトン・カーショーやジャスティン・バーランダー等の実力者にも声をかけていたが出場を辞退されてしまった)、これが祟って一次ラウンドではメキシコ等のライバルを相手に苦杯をなめさせられ、あわや一次ラウンド敗退一歩手前のギリギリのところまで追いつめられることとなった。後述の決勝戦でも投手力の差が明暗を分けたと言われている。
今大会では日本の決勝戦の相手であり、WBC初となる日米戦による最終決戦が繰り広げられた。
また、普段は大谷とともにエンゼルスでプレイしているトラウトが、最終回にて直接対決(しかも走者なしの完全な一騎打ち)を繰り広げ、フルカウントまでもつれ込んだ熱戦が特に漫画のような展開として話題になった。なお、両者は決勝戦を告知するフライヤーを飾り、入場行進でも共にチームの旗手を務めるという、これまた漫画のようなお膳立てもなされている。
メキシコ代表
大谷翔平、トラウトと同じくエンゼルスに所属するして名ピッチャーパトリック・サンドバルと、レフトの守備を担当していた外野手のランディ・アロザレーナが活躍した。
リーグ戦である第一ラウンドでは唯一アメリカに勝利し、準決勝では日本と戦った。
特に日本戦では、アロザレーナの守備により、本来ならホームランになる打球が悉くフライに取られており、アロザレーナ自身もヒットを連発し、日本代表を最後まで大いに苦しめることとなった。
また、アロザレーナの過去であるキューバからの亡命と相まって、日本でも一躍脚光を浴びる選手となった。
中国代表
未だ発展途上ではあるものの、野球選手養成アカデミーや海外からの優秀な育成スタッフなどを呼び込み、大きく強化に努めるもリーグでは全敗となった。
しかし、元ソフトバンクホークスの「ミギータ」こと真砂勇介(父が中華人民共和国籍)や、東海大菅生高校に所属していた梁培など日本野球をルーツに持つ選手たちを迎え入れた打線は日本相手に奮戦し、試合後大谷も「中盤まで勝てるかわからなかった」と彼らを高く評価した。真砂は試合前、チームメイトだった侍ジャパンメンバーと再会して談笑する姿もあり、ファンを喜ばせた。
また、日本戦に途中登板した王唯一投手や孫海竜投手は名前がポケモン関連ワードを彷彿させたため、ポケモン界隈の間で話題になった。王唯一選手は日本の強力打線を失点2、孫海竜もピンチを迎えながら失点なしでまだ逆転できる点差に抑えた勝負強さを見せ、日本でも称賛の声が上がっている。
韓国代表
日本の宿敵である韓国代表は、日本のヌートバーと同じくアメリカ系出身であるトミー・エドマンを加え、メジャーリーグで活躍するキム・ハソンや「韓国のイチロー」と評される爽やかイケメン外野手イ・ジョンフを中心に迎え撃つ。
投手も2009年WBCで出場経験のある日本キラーのキム・グァンヒョンが日本打線を苦しめ、更にはダルビッシュから3回に3点を奪って日本に予選敗退の危機すら感じさせた。
しかし、中盤から投手層の薄さが露呈し大きく失点して敗北。韓国メディアは代表を大きく非難し、日本に対しても棘のある言葉を続けた。
少し前から日本と韓国は政治的にもギスギスした関係が続いていたが、今回の敗北や日本のWBC優勝を見届けると韓国も一転「野球と書いて大谷と読む」と絶賛し、イ・ジョンフも「もう一度、僕らが飛躍する姿を見せるしかない」と奮起するコメントし、韓国野球界も強化のために日本との交流戦を提案する動きを見せるなど良いライバル精神が芽生えようとしており、これには韓国に対して対抗心を持つ日本の野球ファンも好意的な反応が多い。
チェコ代表
今大会、初出場となる代表チーム。
第一ラウンドで日本と戦い、代表選手の強烈なキャラクター性から話題になった。
というのも、チェコでは野球はまだプロチームが成立しておらず、代表に選ばれた選手も殆どが本業を持ちながら野球をプレイしているアマチュアたちであった(その様子を日本メディアでは「二刀流選手の国」と評した)。
そんな中、チェコ代表の先発ピッチャー、オンジェイ・サトリア投手は120kmほどのスピードしかないが高い制球力のストレートとチェンジアップで大谷翔平やヌートバーといったメジャーリーガーを三振に取るなどの活躍を見せ、バッターも日本国内最強のピッチャーと名高い先発佐々木朗希相手に2ベース→エラーで先制して日本の野球ファンを騒然とさせた。
また、チェコ代表に加わった元メジャーリーガーであるエリック・ソガードのドラマ、先発登板した佐々木朗希のデッドボールに端を発した両チームの選手同士の心温まる交流など、数多くのドラマ性から、対戦相手である日本からも試合後も人気を集めた。
オーストラリア代表
初戦で強豪国韓国を破り、グループリーグ突破に大きく前進。日本には敗れたものの2位で決勝トーナメントに進出した。
また、日本の完全なホーム故に他国の応援団は非常に少なかった中で、代表のティム・ケネリー選手の娘フローレンスちゃんの応援する姿が「小さな応援団長」と注目を集め、オーストラリアの試合を応援する日本人観客も徐々に増えていった。
また、練習の合間にユニホーム姿でコンビニへ買い物に行く選手たちの姿が「パワプロ君みたいだ」と少し話題になった。
イタリア代表
欧州野球の隠れた実力者であるイタリア代表は、エンゼルスで大谷のチームメイトであるデビッド・フレッチャー(弟のドミニク・フレッチャーも代表入り)を始め、ニッキー・ロペスやビニー・パスカンティーノ等多くのメジャー経験者が主力とする強豪国。監督はかつて野茂英雄とバッテリーを組み、メジャー殿堂入りも果たしているマイク・ピアッツァ(ピアザ)で、試合前の入場時には東京ドームでも大きな声援が送られた。
選手ごとに用意された多彩な守備シフトはまるでイタリアサッカーの堅い守備を思わせるような堅牢さを誇り、相手打線を苦しめた。
大谷もこの守備シフトに捕まるが、サードがガラ空きだったことに気付き、なんとバントを敢行。虚を突かれたイタリアは守備で送球ミスをしてしまい、ここがターニングポイントとなって形勢を逆転されてしまった。
なお、控え投手がボッキ、ニットーリと日本語でネタになりそうな名前だったことも話題になった(ボッキ選手は「ボッチ」という表記も可能だが、どっちにせよ話題にされることは避けられなかったと思われる)。
また、イタリアベンチにはエスプレッソマシンが常備されており、こちらも話題となった。
ニカラグア代表
悲願の初出場を果たした中央アメリカの国。
まだ21歳と若く無名だったデュケ・エベルト投手がかつて日本をも破った強豪国ドミニカのメジャー打線を3奪三振で抑え、これに注目したメジャーのデトロイト・タイガースが即座に彼とマイナー契約を結ぶというアメリカン・ドリームが見られた。
プエルトリコ代表
- 悲劇の兄弟
ドミニカ代表
- 優勝候補と目されながらも、最終決戦に散る。
キューバ代表
- 奮闘するNBP組
ベネズエラ
- 躍動した南米の雄。
台湾代表
- 2勝2敗の末に…
オランダ代表
- 幸先良くも…
イギリス代表
- クリケットの母国。野球の挑戦。
総評
大会の試合日程や選手の選出、そして大会ルールの不平等さだけでなく、世界全体(しかも本場のアメリカ国内)での注目度では未だに多くの課題を抱える大会ではあるが、集客は第1次ラウンド全体で100万人超と前回大会から2倍近く伸びており、関連グッズ売り上げも第1次ラウンドの時点で過去大会の記録を上回っているという大きな躍進を遂げた。
また、上記のニカラグアのデュケ・エベルト投手のようにサッカーのFIFAワールドカップで見られるような世界の選手市場としての側面や、日本対チェコ戦のような敵味方関係なく試合後選手へ拍手を送るスポーツマンシップの体現が見られたように選手たちが参加してよかったと思える大会へと成長する兆しを見せ、低迷が危惧されていた野球界全体には大きな活力を与えたと思われる。
日本においても大谷翔平の活躍を再び日本で見れたことや、ラーズ・ヌートバーの活躍でグローバルに野球を楽しむ視点、優勝までの漫画を超えたドラマ性と、選手・ファンを含めて多くの貴重な経験を得ることが出来、これからの野球史において未来永劫語り継がれる大会となるであろう。
最後に、今大会の決勝を見届けたメキシコ代表のベンジー・ギル監督が残したコメントを残しておく。
日本が勝った。しかし、今夜の試合は野球界そのものの勝利だ
余談
- エンゼルスの呪い
準決勝のメキシコvs日本、決勝のアメリカvs日本には大谷翔平、マイク・トラウト、パトリック・サンドバルなどの強力な選手が出場しているが、彼らはいずれもロサンゼルス・エンゼルスの所属である。
ただ、肝心のエンゼルスはメジャーリーグの弱小チームとして有名であり、それをネタに「大谷・トラウト・サンドバル・フレッチャー(イタリア代表)がアナハイム刑務所から仮釈放」「エンゼルスのスターたちが娑婆の野球を楽しむ」等と日米の野球ファンからいじられることになった。
ただし、エンゼルスは他球団と比較して国際大会に主力選手を各国代表に貸し出してくれることに協力的なチームであり、彼らが選手の代表選抜に加わる事を許したことで今大会が過去にない盛り上がりを見せたとも言えることを追記しておく。
一説では大谷のWBC参加に対しエンゼルスから「決勝は大谷に投げさせないでほしい」という声もあったとのことだが、試合前にエンゼルスのネビン監督が「世界最高の選手2人が出場する試合を見たくない者などいるだろうか?」と期待に胸を躍らせていたのも事実である。
- 真の世界最強チーム?
第一ラウンドから圧倒的な強さを見せ、見事全勝優勝を果たした日本代表だが、練習試合にて中日ドラゴンズとの戦いで2-7の大敗を喫している。今大会のメンバーは、練習試合を含めて中日以外のチームにはすべて勝利している為、日本が優勝したことで更にこの勝利が思いがけない注目を浴びることとなった。
これ故に、真の世界最強チームは中日とまで言われることに。
ただ、この段階では投手も野手も調整中の段階であったこと、大谷・ダルビッシュ・ヌートバーといったメジャーリーガーがまだ試合に出場していなかったこと等も留意する必要はある。もしも侍ジャパンの選手が万全な状態かつメジャーリーガーの合流した状態であれば勝敗の行方は違っていたかもしれない。
- プロ選手たちですら憧れのオオタニサン
日本のプロ野球選手たちも世界規模では優れた選手が揃うが、その彼らですら大谷の打撃には目を惹かれるほどで、子供が憧れのプロ野球選手を見るような目で彼の打撃を見ているシーンは印象的である。壮行試合で対戦した監督たちは「(気持ちはわかるが)試合に勝とうという貪欲さが足りない」と苦言を呈するような有様だった。また、他の国も試合中、大谷と塁で対面すると笑顔を見せたりする場面があったり、チェコ代表ので日本と戦ったサトリア投手は試合後大谷から三振を奪ったボールにサインを求め、応じてもらったことに感激していた。
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中居正広:前年度の体調不良で一時出演そのものも危ぶまれたが、奇跡的な復活で今大会の侍ジャパン公認サポートキャプテンに選ばれる。語彙力にさらに磨きがかかっており、決勝戦で彼が大谷の姿を評して言った泥だらけのストッパーは大会屈指の名言となった。
現役時代の恩師だった栗山監督を含め、リアル野球BANの出演もあってか今回の侍ジャパンメンバーとも面識がある。今回はテレビ局から声がかかり、大会前から選手たちを取材した。優勝後会見ではかつてチームメイトだった大谷に「僕のこと覚えてますか?」と質問するも「まぁ、なんとなく」と軽くあしらわれる弄りを受けた。
石橋貴明:自身のYouTubeチャンネルで決勝戦前に「アメリカと日本が戦い、最後に大谷が登板し、トラウトから三振奪って世界一に」と半ば希望のような予言が全て的中し、試合後には本人曰く「『北の国から』の最終回以来」の大号泣をしてしまったという。
津田篤宏(ダイアン)、中岡創一(ロッチ):試合中に観戦している様子が一瞬映った。
鈴木誠也:当初はメンバー入りを打診されるもケガにより断念。しかし彼が使用する予定だったユニフォームは球場に持ち込まれ、優勝メダル授与式でもメダルをかけられる。顔写真を貼られて遊ばれたりもしていた。村上の不調を気にかけ、インスタグラムで彼を弄るような動画を投稿してエールを送り、村上はそれを見て奮起したのか準決勝、決勝で勝敗を決する完全復活を遂げた。
黄瀬涼太:黒子のバスケの登場人物。決勝前、大谷翔平がチームメンバーを鼓舞する際に、今日だけは憧れるのをやめましょう。と、劇中での彼の名セリフである憧れるのはもうやめる。と似たスピーチをしたことで話題になった。