この記事を読む前に以下を理解し、冷やかしなどの目的でこの呼称を使うのは控えましょう。
- 「唯一王」と言う呼称はあくまでスラング、すなわち非公式。
- どのような意図で使われようと、ブースターが好きか興味ないかにかかわらず、この手のスラングを嫌う人はいる。
- この記事はブースターがいかに「対戦面で」不遇なのかの解説に重点を置いており、それ以外の扱いは考慮していない。
概要
ブースターは『ポケットモンスター』シリーズの初代から登場し、人気ポケモン「イーブイ」の進化形の一種という恵まれた立場にある。
しかし、対戦においてはありえないレベルの不遇ポケモンであり、他の進化形はおろか同タイプ内で比べても見劣りが目立った。
当初「イーブイは1回のプレイで1匹だけ入手可」という仕様であったこともあり、存在自体が半ば「罠」や「地雷」のように認識されたほどである。
攻略本の一つ『間違いだらけのポケモン選び』が記載した「避けたほうがいい炎属性の進化。炎ポケモンマニアでもない限りはこんな苦行じみた進化はさせるべきではないだろう」というあまりにも辛辣な、しかし否定できないアドバイスは、その後も長く語り継がれることとなった。
世代が進むごとに強化も受けてはいるものの焼け石に水。ライバルは増えるばかりでもはや競争にもならない。本項ではブースターが辿ってきた、その底辺の頂点としての軌跡を振り返る。
予備知識
※本項でも最低限の解説は行うが、基本的な設定や仕様について分からない場合は「ブースター(ポケモン)」「ほのおタイプ」「ポケモンバトル」等の項目を参照のこと。
- 対戦の大まかな流れ
- 世代ごとのハードとタイトル
ハードの下位互換や、過去作のダウンロード販売などは省略。
世代 | ハード | タイトル |
---|---|---|
初代 | ゲームボーイ | 赤・緑・青・ピカチュウ |
第2世代 | ゲームボーイカラー | 金・銀・クリスタル |
第3世代 | ゲームボーイアドバンス | ルビー・サファイア・エメラルド |
〃 | 〃 | ファイアレッド・リーフグリーン |
第4世代 | ニンテンドーDS | ダイヤモンド・パール・プラチナ |
〃 | 〃 | ハートゴールド・ソウルシルバー |
第5世代 | ニンテンドーDS | ブラック・ホワイト |
〃 | 〃 | ブラック2・ホワイト2 |
第6世代 | ニンテンドー3DS | X・Y |
〃 | 〃 | オメガルビー・アルファサファイア |
第7世代 | ニンテンドー3DS | サン・ムーン |
〃 | 〃 | ウルトラサン・ウルトラムーン |
〃 | Nintendo Switch | Let'GO!ピカチュウ・イーブイ |
第8世代 | Nintendo Switch | ソード・シールド |
〃 | 〃 | ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール |
第9世代 | 〃 | スカーレット・バイオレット |
- 各世代の大まかな仕様変更
・初代の「とくしゅ」→第2世代で「とくこう」「とくぼう」に分離
・第3世代まで「物理技と特殊技はタイプごとに設定」→第4世代以降「技ごとに個別判定」
・第6世代にて「フェアリータイプ」追加
- ブースターのステータス
HP | こうげき | ぼうぎょ | とくこう | とくぼう | すばやさ | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
初代 | 65 | 130 | 60 | 110※ | 110※ | 65 | 430 |
第2世代以降 | 65 | 130 | 60 | 95 | 110 | 65 | 525 |
以下 | 参考値 | ||||||
イーブイ | 55 | 55 | 50 | 45 | 65 | 55 | 325 |
シャワーズ | 130 | 65 | 60 | 110 | 95 | 65 | 525 |
サンダース | 65 | 65 | 60 | 110 | 95 | 130 | 525 |
エーフィ | 65 | 65 | 60 | 130 | 95 | 110 | 525 |
ブラッキー | 95 | 65 | 110 | 60 | 130 | 65 | 525 |
リーフィア | 65 | 110 | 130 | 60 | 65 | 95 | 525 |
グレイシア | 65 | 60 | 110 | 130 | 95 | 65 | 525 |
ニンフィア | 95 | 65 | 65 | 110 | 130 | 60 | 525 |
※「とくしゅ」を第2世代以降の仕様で換算した場合こうなる。
・他の進化形と使われている数字は全く同じで、それぞれが入る場所が異なるという特徴がある。
・「こうげき」は現在から見ても高い水準にある。
・何気に「こうげき」と「とくこう」の差が少ない、いわゆる「二刀流」が可能な唯一の進化形である。ただし、その分他のステータスには低い値が多く入っているということでもある。
・「とくぼう」もこのタイプとしては高いが、「HP」「ぼうぎょ」が低いので総合的な耐久性はそこまで高くない。
なお、このステータスを界隈では「種族値」と呼んでいるので、以下それに準じることとする。
「ほのおわざ」→「炎技」、「とくこう」→「特攻」、「とくせい」→「特性」、「変化技」→「補助技」、「イーブイの進化形」→「ブイズ」なども界隈でよく使われる表記を優先する。
初代
まず、当時の炎技は全て特殊扱いで早速高い攻撃種族値を持て余していた。物理技のレパートリーは乏しく、それを活かせる技はノーマル技のみであった。『ピカチュウ』で「スモッグ」が追加されるも、威力20・命中70と到底実用に耐えるものではなかった。
ただし、「とくしゅ」の仕様から特殊技を種族値110換算で放てていたため、まだ火力面は大きな問題になっていなかった。
この時代は氷タイプが猛威を振るっていた。優れた威力と命中率に加え、相手を高確率で氷漬けにする「ふぶき」が強く、覚えられるポケモンは間違いなく持っているレベルであった。
ブースターに限らず当時の炎タイプは氷技への耐性を持っていなかったので、この強力な技に成す術なかった。
一方の炎も「ほのおのうず」の仕様が「先制できる限りずっと俺のターン」という壊れ技で、ブースターも使うことができた。
しかし、素早さ種族値65では先手を取れるポケモンは限られており、リザードンやキュウコンで使う方がずっと扱いやすかった。
氷タイプは炎技が弱点(威力2倍)なのは今も昔も変わらなかったが、初代の氷はルージュラとフリーザー以外水タイプを複合していたため炎は等倍。そして弱点の水技で返り討ちにされたことから、炎タイプの肩身は狭かった。鈍足でやはり先手を許しやすいブースターは、その中でもかなり不遇であった。
同期のブイズと比べてみても、「ふぶき」が使えるシャワーズや、様々な要因により公式大会で驚異の使用率を誇ったサンダースには既にこの時点で圧倒的大差を付けられていた。
炎タイプ自体が不遇な環境でもブースターが「唯一王」と言われていたのはこの同期の2種がブイズの優等生として初代から君臨していたことによる相対評価という面が大きい。
後に『ポケモンスタジアム』が発売されると前述したイーブイの入手性は若干緩和されたが、この根本的な問題から状況はほとんど変わらなかった。
ちなみに『ポケモンスタジアム2』の一人用モード「ウルトラカップ(全ポケモンがレベル100)」には最低難易度最後の相手として出てくるのだが…
ブースター以外のポケモンは全て進化前で、コイキングやら序盤虫やらまともな技も持たないような種族の中に混ぜられていた。
この時点で公式に「ブースターは弱い」と認識されていたとも考えられる。
第2世代
新たに登場した鋼タイプは炎が弱点、「にほんばれ」を使えば炎技強化・水技弱体化と、炎の相対的な強化が行われたこの時代。
しかしブースターにとっては同時に行われた「とくしゅ」分離によって特攻種族値が実質15ダウンするマイナスの影響を受けたスタートとなってしまった。
物理技ではそこそこ高威力なノーマル技「おんがえし」、初代で氷と並ぶ2強であったエスパータイプを狩れるゴースト技「シャドーボール」を得られたものの、タイプ不一致なので結局そこそこ強い止まりであった。
そもそもエスパーポケモンは第1世代からの弱体化で使用率が減っていたので、今更「シャドーボール」を貰っても大してありがたくなかった。とは言え、当時「シャドーボール」を覚えたのは特攻寄りのポケモン揃いであったため、攻撃の高いブースターは最もシャドーボールを使いこなせたポケモンではあった。今にして思えば、ブースターの最も輝いていた時期だったかもしれない。
一応「のろい(鈍い)」という積み技もあった。捨てても惜しくない素早さなので一見相性が良さそうに見えたが、歪な耐久種族値から効果は限定的で、水タイプが出てきたら終わる点も解消できなかった。
なお、この世代で実装された「タマゴ」によって本格的にイーブイを量産できるようになったため、前世代ほどブースターへの進化を強固に止められることはなくなった。……もちろん推奨されることもなかったが。
第3世代
「もらいび」の特性を得た。
しかし、元々炎タイプに炎技は半減なのであえてブースターに撃つ相手もそうおらず、そもそも特攻依存である炎技の威力が上がったところで、攻撃の高さが売りのブースターにはあまり関係無かった。
ちなみに、シャワーズは「ちょすい」、サンダースは「ちくでん」で、初代ブイズはいずれも「自タイプの技を無効化する」効果で揃えられている。ただし、残り2種は発動時に得られる副産物が「HP回復」となっており、ブースターだけが「火力増強」で分かれている。
新ルールのダブルバトルは、ブースターの弱点、高威力、範囲攻撃、物理扱い、多数の習得者と条件の揃った地面技「じしん」が幅を利かせたため、低防御のブースターにとってはやはり居心地が悪かった。
しかもジュペッタの登場によって、「シャドーボール」の使い手No.1の座を追われている。
新たな600族として君臨したメタグロスにはタイプ上有利であったが、ここでも素早さ種族値“5の差”が仇となり、「じしん」で弱点を突かれて返り討ちにされるケースが多発した。
イーブイが技マシンに対応した兼ね合いで「あまごい」が使える炎タイプという珍しい個性は生まれたが、これとシナジーのある「かみなり」や水技が覚えられるといったことは一切なく、使ったところで意味がないのが実態だった。
なお初代リメイクとなった『ファイアレッド・リーフグリーン』のストーリー攻略においては、「シャドーボール」でキクコのゴーストやゲンガーに突っ張れるので、そちらで使えなくはなかった。
当時同様にエスパーポケモンを使えば良いというのは禁句。
第4世代
前半(『ダイヤモンド・パール』期)
物理/特殊の分離により、炎技からも物理扱いで放てる技が出てきた。
技レパートリーにもテコ入れがなされ、
- 120という高威力な物理技「フレアドライブ」の追加
- 相手を火傷にする「おにび」が技マシン化
- 特殊で残った大技「オーバーヒート」の習得者大幅拡大
- 炎ポケモンの最終進化系は軒並み草特殊技「ソーラービーム」を習得可能に
等、従来のポケモンも大幅に動きやすくなる例が続出した。
では、ブースターがどうなったのかと言うと……
「フレアドライブ」を覚えなかった。結果、タイプ一致の物理技が威力65の「ほのおのキバ」しかないという事態に陥ってしまう。
これはイーブイ(攻撃55)の「てきおうりょく」+「おんがえし」の火力を大きく割り込み、高い攻撃種族値を全く活かせないどころか再び進化の意義を問われるまでになってしまった(実は新たな進化形リーフィアの「リーフブレード」も負けていたのだが、こちらは約1%の僅差に付けており、むしろ「リーフブレード」の習得難度の方が難点とされていた)。
ならば諦めて特殊型で育てればいい(実際、当時は「かみなりのキバ」等を巡っても同様の状況が散見されていた)かと思えば、炎の最終進化系で唯一「ソーラービーム」も覚えなかった。
このような状況で「シャドーボール」が特殊技化しており、どちらを取っても結局中途半端な火力にしかならないという意味で、ものすごく消極的なジレンマが発生している。
この時期、同類視されたポケモンにエンテイがいた。
「準伝説」という恵まれた立場に反して、攻撃が高いのに「フレアドライブ」を覚えない、無意味に「あまごい」は覚えるといった共通点から、「唯一神」と呼ばれ2種で傷の舐め合いをさせるようなネタがよく作られた。
もっとも、当時から希少な特殊技「ふんか」を覚え使いこなせる、「ソーラービーム」も当然完備するなど最低限の動きはできており、ブースター側からの思い込みに過ぎなかったと後に結論付けられることとなるのだが……。
トリパでは
第4世代では、素早さ関係を逆転させられる画期的な新技「トリックルーム」が実装された。鈍足なブースターとは相性が良いように思えるが、素早さ65というのは意外と微妙な数値で、特に炎タイプにとっては苦手な地面や岩により鈍足が多いことから、やはり利敵になりやすかった。
仮にこれを成功させたとしても、致命的に技が足りない事実は何も変わらず、容易に止められる。
「トリックルーム」は実質4ターンしか続かないため、この間に相手を殲滅してしまえるほどの爆発力が求められた。どうしても炎タイプを投入するならばより鈍足で火力も高いバクーダやコータスということになってきて、結局ブースターなどお呼びでなかった。
後半(『プラチナ』以降)
マイナーチェンジに際してブイズにも新技が追加されたが、ブースターに来たのはまたも特殊技の「ふんえん」。一応火傷率が高いといった利点もあったが、何度でも言うが本種は攻撃種族値の高さが売りのポケモンである。
いっそ攻撃も特攻も共に捨てて耐久に特化させてしまい、これでタスキ等を潰しながら状態異常をばら撒くということも真剣に考慮されるようになった。なんならそれが一番強いとまで言われた。
一方、サブウェポンでは「ばかぢから」を得ており、そこそこ有用と評価された。とは言え、これも反動によって連発できるものではなく、元々低い物理耐久が地に落ちることにもなった。
耐久と言えば、回復技に欠けることも懸念点であった。
特に同期・同タイプで両刀気味のウインディが『ハートゴールド・ソウルシルバー』で「あさのひざし」を習得しており、耐久型としても下位互換じみたことになってしまった。そもそもウインディはここまで防御が低くなく、「いかく」という強特性まで有していたので、物理面では最初から完勝していた。差が壁になったと言った方が正確だろう。
ブイズ内では「あさのひざし」はエーフィの習得技となっており、ブースターに回ってくる見込みは薄かった。
そしてなにより、同類と見られていた唯一神ことエンテイの「フレアドライブ」習得である。
映画の前売り券に絡んだ特殊な色違い個体限定ではあったが、これによって不遇を完全に脱出し、ブースターからすれば勝ち目のない競合相手がまた増えたのであった。
なぜブースターはフレアドライブを覚えられなかったのか?
「フレアドライブ」に関しては、メタ的な事情が関わっているとする説がある。
まず、これまでにも触れてきた通り、初代ブイズの3種は何かと共通設計にされる傾向があった。
これは習得技にも当てはまる特徴で、「Lv.64で補助技」「Lv.71で高威力特殊技」「Lv.78で特殊範囲技」と、いずれも近似した性質の技を覚える設定になっていた。
では、仮にブースターに「フレアドライブ」を与えるとどうなるか、当然他2種にもタイプ違いの高威力物理技を与えることとなるだろう。
それに該当する技がないのならば何も問題はなかったのだ。最悪新しく作ってしまえばいい。
しかし該当する技が存在していたことが話をややこしくした。
威力120、命中100、PP15、10%(当時)の反動ダメージ、タイプ準拠の状態異常………ピカチュウ系統の専用技「ボルテッカー」と完全に一致してしまっていた。
今でこそピカチュウと双璧を成すポケモン界第二の看板と扱われるイーブイであるが、当時はまだピカチュウだけが唯一絶対的な大御所とされていた時代。
まして「ボルテッカー」はピカチュウ系統の中ですら特別視される技で、これを覚えていることが配布イベントの目玉とされることもあるほどの貴重品である。
ポケモン全体の中で人気は上位という理由だけで、ブイズにおいそれと与える訳にはいかなかったのだ。
仮にサンダースが確定で覚えてしまうことがあれば、そうした営業戦略に支障してくる危険性さえあり、最早あってはならない話だった。
ついでに言うと、シャワーズもサンダースも攻撃種族値には2番目に低い65が入る、純然たる特殊型である。高威力物理技など、与えたところでどうせ使われない。
ならば、これについては最初から見送ってブースター1種に割を食わせておく方がよっぽどマシである。後述のフレアドライブに関する考察も合わせ、テコ入れするにしても莫大な調整が必要な弱さなのだから、対戦で使えなくとも大した問題ではない。
こういうわけで、ポケモン界真の王者に対するある種スケープゴートのような形で、唯一王は唯一王であり続けた……という説である。
ブースターだけが「ソーラービーム」を覚えなかったことも、「かみなりのキバ」止まりの物理電気が続出したことも、同じ理屈で説明できる。
もっとも、ブースターが「ほのおのキバ」を、サンダースが「かみなりのキバ」を覚えるLv.43で、シャワーズは「アクアリング」を習得していた。
…牙を使わないどころか攻撃技ですらない。
水タイプに牙系の技が実装されなかったことが一因と思われるが、いずれにしても、初代ブイズの関係などその程度のものだったとも言え、やりようはいくらでもあったのではとの指摘もある。
無論、あくまで仮説である。大真面目に真実と捉えたり、これを元に公式に当たり散らさないように。
第5世代
前世代から技構成は大して変わっておらず、新たに追加されたタマゴ技も補助技ばかり。
使うごとに一段階ずつ素早さが上がる炎物理技の「ニトロチャージ」が登場するも、威力50なので決定打になり得ず、ブースターの素早さでは最速でも一回撃った程度では130族を抜けない。
ちなみに素早さ一段階アップで130族を抜ける最低種族値ラインはメタグロスなどがいる70。またもたった“5の差”に泣かされることとなった。
最速ならガブリアス(素早さ102)くらいなら抜けたので、全く無駄ではなかったが、抜いて何ができるんだと言われたらそれまでである。
隠れ特性(夢特性)では
第5世代ではPDW連携によって通常プレイとは異なる特性を持つ個体が出現するようになった。
これによってエーフィが「マジックミラー」という強特性を得てライバルだったフーディンとは明確に異なる路線を歩み始めるなど、恩恵を得たポケモンも多く出た。
では、ブースターに与えられた夢特性はというと……「こんじょう」である。
状態異常になれば攻撃が1.5倍になるという特性であったが、ただでさえ鈍足で耐久にも不安があるブースターに状態異常のリスクまで加わるのは正直かなり使い勝手が悪かった。
さらに炎タイプの仕様上火傷になれないため、他の「こんじょう」持ちと違い「かえんだま」が使えず、「どくどくだま」を選ぶしかないのも地味に辛かった。ついでに言うと、今回の状態異常玉は入手性に難があったので、準備段階から手間がかかった。
また第5世代限定の「こんじょう」に対して、当初「ばかぢから」は第4世代限定技とされ、両立不可能であった。この点は『ブラック2・ホワイト2』で解消されており、一応「からげんき」とのコンボなどは成立していたが、それならノーマルタイプで技範囲もブースターよりは広いリングマやオオスバメでやった方が余程効率が良いという始末であった。
それだけならまだいい。ついに恐れていた事態が起きてしまった。
新ポケモン・ヒヒダルマの登場である。
手ごわすぎるライバル
ヒヒダルマはブースターをも超える驚異の攻撃種族値140であり、炎タイプ最強の攻撃力というアイデンティティを奪っていった。
素早さやHPも上回り、「フレアドライブ」も当たり前のように習得。そこから更に新特性の「ちからずく」で火力を増強してくるというゴリ押しを具現化したような存在であった。
これによってヒヒダルマは「フレアドライブ」を威力234という不一致「だいばくはつ」級の威力で振り回すことができた。しかも「ちからずく」には珠に命を吸われないという効果もあり、ノーリスクでもう1.3倍にもできた。
手間暇かけて「こんじょう」を発動させたところでブースターの完敗だったのである。
耐久力と合計種族値こそブースターの方が勝っていたが、ヒヒダルマは先手を取りやすいうえに取った瞬間大抵の相手を消し飛ばせたので、恐れるものは反動ダメージくらいであった。要するに「フレアドライブ」の使い手として必要な能力が全て揃っていた。
炎技以外の習得技も充実しており、「ストーンエッジ」「じしん」「とんぼがえり」等に加え、なんとブースターの数少ない取り柄だった「ばかぢから」まで覚えてしまう器用っぷり。
まさにブースターが夢見ていた種族値や技のレパートリーを当代風にアレンジしたようなスペックをヒヒダルマは有していたのだ。
他にも、バシャーモが夢特性の「かそく」と「とびひざげり」の強化により、一気にトップメタに躍り出た。単に「とびひざげり」が強いだけでなく、「ばかぢから」と同じ格闘技であったので、(対戦ゲームではそれなりにあることだが)バシャーモ対策がそのままブースターに刺さってくるということにもなった。
ブースターと同速で、高めの耐久と広い技範囲を誇るエンブオーの登場も痛いところ。当時はバシャーモと同複合であったためそちらの劣化と侮られることも多かったが、差別化は十分可能であり、そうでなくともブースターにとってはヒヒダルマに並ぶ脅威であった。
さらに、ウインディも格闘物理の「インファイト」や電気物理の「ワイルドボルト」といった高威力技を次々に習得し、「しんそく」の優先度まで上がって物理型が大幅に強化された。
特殊まで含めるなら、シャンデラやウルガモスといったポケモンの出現があり、キュウコンも夢特性で伝説級の「ひでり」を獲得。ますますブースターを起用する理由が消えていった。
ブースターにも変化が無いわけではなかったものの、周囲はそれ以上の速さでどんどん強くなっており、格差は広がってゆくばかりであった。
新たな道具でも
第5世代では「しんかのきせき」という道具も登場。進化前のポケモン限定で防御・特防が1.5倍になるという優れもので、この道具によりポリゴン2やサマヨールなどが大躍進した。
当然ブースターに持たせても何の意味も無かったが…そう、そのまさかである。
進化前のイーブイがこれを持つとブースターの特防とほぼ並んでしまう。その差は約2%。当然防御の方は圧勝である。
あくまで数値上の話でイーブイ時点では火傷を撒くなどもできなかったので、実際にはそこまで立場を脅かされることはなかったのだが、攻撃に次ぐ高さだった特防も最早何の自慢にもならなくなったことは確かであった。
後輩?
だが、そんな唯一王に新たな親友が登場した。クイタランである。
「単炎タイプ」「ブースターと同速の素早さ65族」「半端に高い攻撃・特攻」「その代償に低く留まる防御・特防」そして「『オーバーヒート』や『ニトロチャージ』など有用な技を覚えない」と、下手をするとブースター以上の悲惨さで「新・唯一王」に推薦する声まで出たほどである。
そしてクイタランの図鑑番号「631」を逆さにすると、ブースターの図鑑番号「136」になる……意図的に仕込まれたネタなのだろうか?
第5世代までの総評
ブースターが対戦で活躍できない原因は、鈍足・低物理耐久かつメジャーなタイプで弱点を突かれやすいという打たれ弱さと、タイプ一致技にも事欠く貧相なラインナップによる負の相乗効果と見て差し支えない。
合計種族値自体は高いところにありながら、ブイズ特有のアンバランスな配分によってそれを有効に機能させられていない。上手く嵌ったブラッキーなどの例もあるだけに、今後再配分や不足箇所への補強が行われることも考えにくい。
この時点で、ブースター以下の素早さと物理耐久を併せ持つ最終進化系はパッチール、コロトック、アゲハント等、本当に数えるほどしか存在しなくなっていた。
攻撃種族値130以上で威力80以上の一致物理技が使えないのはブースターのみであった。
攻撃>特攻の炎タイプで威力100以上の一致物理技が使えないのもブースターのみであった。
まさに唯一王……。
実のところ、ブースターの愛好家から「フレアドライブ」習得が熱望がされていた一方で、単に高威力物理技の象徴というだけであってブースターとの相性はさほど良いわけでもないという意見も多かった。
エンテイやヒヒダルマなどがこの技を振り回せたのは高めのHPと素早さあってのことで、そうではないブースターにとっては反動のリスクの方が大きいのではという考察からであった。
早い話が、鈍足なので後攻になる可能性が高く、削れた状態でドライブして反動で1ターンで自滅するのがオチというわけである。
どうせ被弾前提なら、それこそエンブオーか誰かで「もうか」でも発動させてやった方が強いということにもなってきて、結局誰かの劣化に甘んじる悲しい未来が待っているとも推測された。
故に、炎タイプの物理先制技の実装や、リーフィアの「リーフブレード(元はジュカイン専用技)」のようにバシャーモの「ブレイズキック」が欲しいという声もあった。
ブイズ同士では
このような中、唯一例外と言えるような事象が発生した。
世代末期の2012年12月上旬にPDWで開催された、イーブイとその進化形計8種類(当時)のみが使用できるローテーションバトル、「イーブイカップ」である。
出場者が減ったところで絶対的な弱さは何も変わらないため高が知れているとも思われたが、実際には「こんじょう」+「からげんき」を誰にも半減されずに撃てる点が大きく評価され、懸念点の素早さも「ニトロチャージ」やエーフィの「トリックルーム」でカバーできる範疇であったことから大活躍した。
また、リーフィアの草・虫の技範囲を唯一半減できたため、物理アタッカー同士で競合するどころか、メタとしても積極的に起用された。
極端な特殊ルールではあったものの、ブースターが初めて実績を残せた環境であったと言える。
第6世代
遂に「フレアドライブ」を習得できるようになった。メガシンカの選定等を巡って、従来に比べて「対」や「組」といった縛りが緩くなったことが一因と見られている(よって「ボルテッカー」がサンダースらに配られたわけではない)。
これでブースターが覚醒する…かと思われたが、実際は上記の考察の通りであった。
低いHPと素早さに対するサポートをしっかり行わなければならず、やはり気軽に振り回せるものではなく、結局それなら他のポケモンでいいということになってしまった。
特殊ルール再び
この世代で登場したニンフィアを交え、名称も「イーブイフレンドリーマッチ」に変えて、例のブイズ大会が帰ってきた。
ニンフィアの妖ウェポンを唯一半減でき、念願の「フレアドライブ」で前回以上の火力を発揮できたことから一層の活躍をし、使用率1位という快挙をなした。
第8世代
「ニトロチャージ」の技マシンがまさかの消滅。これにより自力での素早さ補強が不可能になってしまった。
代替なのか「マジカルフレイム」を獲得したが、これは特殊技でまた妙なジレンマが再発している。しかも、何故かさしたる損失の無かったニンフィアも習得してしまっており、元々特殊ベースな上に鋼も呼びやすいことから、ブースターよりも炎の攻撃技を使いこなしていた。
新要素のダイマックスはHPが一時的に底上げできる(最大2倍)ことから、ブースターとの相性は良いとされた。ダイマックス中は「フレアドライブ」が反動ダメージ無しの「ダイバーン」になることも好都合であった。
他にも、「あなをほる」が「ダイアース」化することで威力130の溜め無し技として使いつつ自慢の特防にバフ。素で使っても時間稼ぎになるので相手のダイマックス枯らしができる。ついでに「こんじょう」型ならば「どくどくだま」の発動補助にも使えると、有用な技になった。
「アイアンテール」も「ダイスチル」化することで命中と防御の不安を共に補強できた。
とは言え、相手も当然同様の恩恵を受けられたわけである。
ガオガエンやエースバーンといったポケモンの増加で炎の競合は増々激化してもおり、依然としてブースターに回さなければならないような役割は見出されなかった。
耐久面も、元が低いので物理特化「珠」一致抜群技あたりからダイマックス込みでも確定1発にされるケースが出てきた。
この結果、ポケモンホームの集計によると「鎧の孤島」配信前まで使用率は常にブイズ最下位をひた走り続けた。「鎧の孤島」で何か改善があったわけではない。むしろランキング圏外にまで落ち込んで動静が不明になっただけという悲惨な結果であった。
人気投票企画ポケモン・オブ・ザ・イヤーでも、他のブイズが地方ランキング30位以内にランクインする中、ブースターのみ圏外。悲しい……。
なお全くの余談だが、上記のクイタランは第7世代で唐突に「ほのおのムチ」という専用技が与えられるも、第8世代で早くも種族値傾向の近いマルヤクデが習得するという、別方向で微妙な扱いを受けている。
とはいえ不遇は脱しているわけで、差別化もできないわけではないので、ブースターと比べれば評価は良いと言える。
第9世代
まだまだ課題は山積であったにもかかわらず、「ばかぢから」「マジカルフレイム」「アイアンテール」が没収されてしまった。これによって物理技のサブウェポンはノーマル技と「あなをほる」「かみつく」「にどげり」と新技の「くさわけ」のみとなった。
特に「ばかぢから」に至っては2度目の没収で、今回は世代後期の環境調整でも返してもらえなかった。
「ニトロチャージ」の技マシンは復活したが、「くさわけ」で十分ということか当初は非対応にされていた。こちらは「碧の仮面」配信時に再対応とされている。
「くさわけ」に関しては低威力技なので決定打にはなりにくかったものの、ブースターにとっては珍しい弱点タイプへの役割破壊技となっている。
補助技では「めいそう」を獲得したが、特殊強化では当然旨味は少ない。
「フレアドライブ」については不変であったが、特性で反動を消せるヒスイウインディが新たに参戦してきたので相対的に霞んでしまった。岩複合なので「もろはのずつき」も可能で、原種譲りの「ワイルドボルト」も備えると、範囲についても申し分無かった。
一応「藍の円盤」ではタイプ一致物理の新技となる「やけっぱち」を習得しているが、独特な使用条件で素撃ちではやはり火力が足りなかった。
同時に地面技の「ねっさのだいち」も習得したが、特殊かつ大半の炎タイプにばら撒かれているため、かえって先に倒されるリスクの方が高くなっている。
新要素のテラスタルによって、不足を補うことはできた。例えば格闘になって「テラバースト」を放てば、デメリット無しに「ばかぢから」と同等の打点を確保できた。
しかしながら、相手も当然同様の恩恵を受けられたわけである。
テラスタルには耐性を変化させて確定数をずらすという使い方もあったが、素の耐久が不安定なブースターの場合、変えたところで結局押し切られるというケースも出てきた。
そしてなにより、炎タイプ以外も炎タイプになれることで、これまで以上に競合関係が熾烈になった。一致技の扱いも怪しいブースターを代替することなど、「テラバースト」頼みの付け焼刃でも容易にできてしまえた。
その他の恩恵としては、タイプ変更によって火傷になれるようになったため、「かえんだま」を使えるようになったということくらいか。
とは言え「こんじょう」の使い勝手もほとんど変わっておらず、下手をするとテラスタルしない状態のハリテヤマやヘラクロスにも負けかねなかった。リングマに至ってはガチグマという超強化がなされて帰ってきた。
これは身内であったはずのブイズも例外ではなかった。リーフィアである。
先方も不安定さを抱えていたとは言え、ブースターよりは遙かに効率的であり、なにより「ようりょくそ」という圧倒的な素早さブーストを有していた。それを起動する「晴れ」とのシナジーが乏しかったために微妙視されていたという側面も強く、今回のテラスタルで一気に解消していた。
要するに、「元から炎だったブースターよりも炎化したリーフィアの方がずっと強い」との評価がなされてしまったのである。加えてリーフィアは「くさわけ」も覚えられ、タイプ一致なのでこちらの扱いもブースターより上手かった。
止めと言わんばかりに「碧の仮面」では草炎複合のオーガポン(かまどのめん)まで登場してしまった。単純に物理アタッカーとして最強格の強さを誇るだけでなく、「くさわけ」や補助技まで充実していて隙が非常に少ない。さらに特性「かたやぶり」で「もらいび」すら無効化してしまえるのだから、ブースターには為す術も無かった。
結果、イーブイを除くブイズの中での使用率は全レギュレーションで最下位。ブースター、お前は今泣いていい……。
余談だが、この世代のフィールド上における連れ歩き機能でも、炎タイプの宿命か、ブイズでは唯一泳ぎモーションが無くフローターの上に乗せられていた。つくづく唯一王である。
第9世代までの総評
フレアドライブさえあれば戦える……という期待はあっけなく潰えた。
「ほのおのキバ」に比べればマシだが、この鈍足や低耐久では1発撃つだけでも一苦労であり、ただでさえ短めな場持ちをさらに縮めるデメリットはやはり大きかった。
なにより、「好きだから」という個々人によるもの以外で「フレアドライブ」の使い手をブースターにしなければならない合理的理由は現状皆無である。
結果として「フレアドライブを使う妄想をしていた時代が一番楽しかった」と評されることもあるほど、ブースターの根本的なスペック不足を露呈させることになった。
ブースターは今なお、ブイズとしても、炎タイプとしても最弱の地位を欲しいままにしている。
確かに限定的なルールで一時的に輝いたことはあった。また「ブイズパ」を通常ルールに持ち込む縛りプレイにおいても、ブースターの存在は必須という考察は多くあった。
とは言え、それも求められたのは「炎タイプの耐性」に過ぎず、ブースターである必要はどこにも無かった。何らかの手段でそれを確保できるなら、他の進化形でも兼任・代行できる役割でしかなかったということがテラスタルで実証された。
技の改廃という事情もあったにせよ、肝心のメインウェポンすら満足に使いこなせない状態では、仮に全ての技が揃っていたところで立場は大きく変わっていなかったものと思われる。
数々のテコ入れも、悉く他のポケモンの方が使いこなして逆にブースターの活躍の余地を奪っていく有様で、この先も状況を変えることは困難であると言わざるを得ない。
外部コラボでも
2012年に発売された『ポケモン+ノブナガの野望』。コーエーテクモの『信長の野望』とのコラボで、『ポケモン』としては珍しいシミュレーションゲームであった。
ここでイーブイが主人公のパートナーに選出されるという大出世を果たした。
しかし当時の『ポケモン』本編は第5世代であり、当然コラボもその仕様をベースに進められた。
すなわち、堂々と「ほのおのキバ」を振り回すブースターがそこにいたのである。
しかも、本編では単体攻撃の技が範囲攻撃化した例も多い中、「ほのおのキバ」の範囲はきっちり自身の目の前1マスのみ。もちろん進化は非推奨であった。
このコラボでは物理/特殊の区別を付けず「こうげき」に一本化された関係で、本編以上に炎ポケモン全体が競合相手となってもいた。
ただ、防御面も「ぼうぎょ」に一本化されたおかげで、低い防御と高めの特防が平均されてまともな値になっていたことは救いであった。
また、ブースターに限らず全種族の使用技が固定されており、ヒヒダルマに「だいもんじ」、シャンデラに「ほのおのうず」、グレイシアに「こごえるかぜ」など疑問符の付く組み合わせもいくつか発生していたため、ブースターだけが突出して扱いにくいというわけでもなかった。
強いポケモンが強くなりすぎないよう、命中率や火力を意図的に抑えることでバランスを取っていたとも考えられる。
特性に関しては「こんじょう」に代わって「とうこん」と「ほのおブースト」というオリジナルのものが設定されていた。
順に「最大HPの1/3を切ると一度だけHPを全回復し、1ターン『こうげき』を上げる」 「隣の味方が炎技で攻撃する時、そのポケモンの『こうげき』を上げる」という効果であった。
余談
2023年WBCの中国代表には「王 唯一(ワン ウェイイ)」という名前の投手がおり、彼の後に継投として「孫 海竜(スン ハイロン)」という選手が続いたため、ポケモンファンの間で「ブースターからカイリューに交替した」と話題になった。
王唯一選手はガチパ編成だった侍ジャパン(しかもそのエースは600族の絶対王者との共通点まで指摘される珍事が発生)相手に何度もピンチになるも2失点で抑え、続く孫海竜選手も2イニングを無失点と好投してマルチスケイルカイリューさながらの活躍を見せた。一時は逆転する可能性すら見せた粘り強さもあり、試合後インタビューでは大谷も「素晴らしい試合だった。中盤は勝敗が分からなかった」と彼らの活躍を称えた。
ついでに、中国代表のユニフォームはブースターと同じ赤と黄の配色でもあった。
関連タグ
唯一神(エンテイ) クイタラン ほのおのキバ フレアドライブ
とも湯:唯一王をメインに据えた企画を行っていた。