東京湾
とうきょうわん
概要
神奈川県(三浦半島)・東京都・千葉県(房総半島)に囲まれている。湾内の天然の島は少なく、神奈川県側では猿島、千葉県側では浮島が最大である。東京都の夢の島、月島・佃島、平和島や、神奈川県の扇島や八景島なども有名だが、これらの島はいずれも埋め立てでできた人工の島である。神奈川県にはこのほか、陸繋島が人工的に分断されてできた野島という島もある。
比較的水深が浅くかつ一定であり、沿岸に干潟が広がっていた時代には漁業資源に恵まれていた。現在は干潟の大半は工業用地や住宅地として埋め立てられてしまい、水質の悪化もあって漁業は衰退している。
東京や横浜などの大都会の繁栄は、天然の良港である東京湾あってのことであるが、出入り口にあたる浦賀水道が狭いため、船の衝突事故がたまに起きる。
高度経済成長期には、産業計画会議により東京湾の大部分を埋め立て中央部に空港を配置する「ネオ・トウキョウ・プラン」なる壮大な計画が発表されたことがある。この計画自体は実現しなかったが、提言の一部は東京湾アクアラインや東京モノレール、新東京国際空港(現・成田国際空港)として実現することとなった。
環境
江戸湾(東京湾)の環境を人為的に破壊した歴史は古く、徳川家康によって利根川の流れそのものが作り替えられ、本来は江戸湾に流れ込んでいた利根川が現在の銚子市に流れる様になった。
埋め立てなどにより、自然の海岸線は盤洲(小櫃川河口三角州)くらいしかない。つまり、湾の形も本来から大幅に変わってしまっており、東京湾沿岸のほとんどは埋立地である。近年も羽田空港の沖合展開などの埋め立て事業が行われており、この影響で潮の流れが滞り環境が悪化した場所もある。また、たとえば東京ディズニーランドの建設に環境面から反対する地元民も多くいたのだが、オリエンタルランドと協力関係にあった地上げ屋やヤクザなどによる誘導もあって、結果的には反対していた地元民も抗議を取り下げることになったという歴史もある。
水温は概して外洋よりも高い傾向にあるが、これは一説には都市熱などの人為的な原因が大きいと思われる。
潮干狩りに行くと子供達に「絶対に水に顔をつけるな」と教えるほどに大腸菌が多い。なぜなら、東京では下水道の整備を急ぐために雨水と汚水を一緒に処理する「合流式」を採用したので、降雨時は処理が追いつかず汚水と雨水が混じった排水が垂れ流されてしまうからである。また、アカエイも多いこともあり、基本的に海水浴には適さない。
- このため、2020年の東京オリンピックの開催時には、遊泳競技や水上競技の開催候補地としては懸念材料があまりにも多すぎると批判を受けたこともある。
本来は鯨類(クジラやイルカやスナメリなど)やアシカやウミガメやサメなどの大型生物も生息していた。冬の風物詩として「クジラまわし」という言葉が残されており、これは袖ケ浦などで冬にナガスクジラ科が採餌行動を頻繁に行っていた事の観察記録であると推測されている。
関西の一部で鯨を捕り過ぎて数が減ったために他の地方や東日本に捕鯨業者が進出した際は、(鯨神・竜宮・恵比寿等への信仰があったことと環境汚染の問題があったので)日本ではもともと捕鯨に反対する人々が非常に多く(参照)、捕鯨の拡大は各地で数多くの問題を引き起こしたとされている。しかし、当時の知見では捕鯨の非持続性や破壊性が認識されておらず、短期間で莫大な利益を生み出すことから政権によるサポートを受けやすく、結局は各地に捕鯨が伝搬していった。
東京湾の周辺では、数々の小規模な沿岸捕鯨の他に、三浦半島と鋸南町の浮島周辺で組織的な捕鯨が開始され、鋸南町でツチクジラの捕鯨が行われていた時代には一帯は「鯨の都」とも呼ばれていた。
しかし、三浦浄心が『慶長見聞集』にて「このままでは東京や関東の海からクジラが消え去ってしまう」と危惧していた通りに大型鯨類が壊滅し、今では種類を問わずクジラ自体があまり見られなくなった。
シャチも、戦前から戦後の前後に大量に捕獲されるまでは日本列島の各地に分布していたとされており、東京湾にも時折姿を見せていたらしく捕獲記録も複数残されている。
また、絶滅したとされるニホンアシカがいた名残として、「海獺島(あしかじま)」という無人島があり、明治期に駆除されて消え去るまではよくみられたとされている。
また、ジンベエザメやホホジロザメやイタチザメなどの比較的に有名な大型のサメだけでなく、ウバザメ(太平洋では絶滅寸前ともされる)やメガマウスなどの非常に貴重な大型のサメが確認されたこともある。ウバザメの回遊生態からしても、本来は東京湾にある程度回遊していた可能性も少なくない。
東京湾に限らず、日本列島は本来の状態ならどこの沿岸にも鯨類をはじめとする大型動物が生息していただろうと指摘されている。鯨類が海獣としては最も生息範囲が広く、哺乳類であるために海面近くで長時間を過ごし、活発な海面行動を行うだけでなく往々にして人懐っこい事例が多く、海岸から観察できる程に沿岸に近づく種類も存在している為、世界中の沿岸に最も普遍的に生息していた大型動物類であった。
近年
いまだに状況は芳しくはないとはいえ、社会の意識や技術や知見の蓄積もあり、高度成長期よりは水質やゴミ問題、基礎生態系のダイバーシティなどが改善傾向にある。たとえば、『ザ!鉄腕!DASH!!』による「ダッシュ海岸」プロジェクトも、視聴者の環境保全の意識の向上に貢献していると思われる。
わずかに残された浅瀬や干潟である三番瀬や盤洲、谷津干潟や富津干潟は、現在でも生態系が比較的残されている貴重なエリアであり、場合によっては漁場にもなっている。
谷津干潟などを中心に野鳥が増え、かつては「江戸前ブランド」として名を馳せた魚類の多様性も、最悪の状態からは改善しつつあるとも言える。上記の通り、有害とはいえアカエイが多く見られるのも生態系や環境が一時期よりは改善したためである。
メガファウナでは、スナメリは依然として危機的な状況にあるが、たとえば数種類のイルカが少数ではあるが湾内に生息する様にはなった。
- スナメリは各地で地方個体群同士が独立しているため、東京湾の個体群は消滅寸前とも言われている。
また、マッコウクジラは食用としての需要が低く、ザトウクジラとシャチは観光資源としての世論が形成されたため、これらの種類は現在の日本列島の沿岸では比較的に回復がはじまっており、近年の東京湾南部で確認される事例が(年に数回またはそれ以上という程度ではあるが)増加しつつある。
ただし、地球温暖化と都市熱による海水温のためか、南方の生物が湾内でみられる様になり、なんとサンゴも定着しつつある。また、温暖化の影響により、逆にこれまでの生物が追いやられる状態になりつつあり、ワカメなどの海藻やアワビやサザエなどの養殖に深刻な影響が出ているとされる。