オンベレブンビンバ
おんべれぶんびんば
「オンベレブンビンバ」とは、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第37話のサブタイトルである。
2022年9月18日の第36話「武士の鑑」にて、畠山重忠・重保親子、稲毛重成の非業の死が描かれた。特に中川大志演じる重忠は、番組初期から登場していた人気キャラクターであり、その男らしく潔い死に様に多くの視聴者が涙する。そして物語の展開的には、彼の死の原因を作った北条時政の追放が迫っており、来週はどうなるのかと、皆が次回予告を見守った正にその時、画面に映し出されたのは……
「オンベレブンビンバ」
という衝撃的な次回タイトルであった。
あまりに意味不明かつ前衛的なタイトルにSNS上では
「来週のサブタイが謎すぎる」
「ググっても全くヒットしない謎の言葉」
「新たなパワーワード。衝撃すぎて、紀行が頭に入らなかったよ」
「まさか三谷幸喜の新造語!?(笑)」
「『鎌倉殿』を見てない人たちからすると『ズンドコベロンチョ状態』になっている未来しか見えない」などの声が続出する事態となった。
考察1
三谷幸喜はかつて手掛けたドラマ『竜馬におまかせ!』で「ふぉげらばり」(=Forget about it=そんなことは忘れて気楽にいこうぜ)と日本語読みさせた前科があるため、この謎の文字の羅列にも何らかの意味があるのではないかというもの。
また、劇中で時政は三男の時連が時房と改名した際に「ときふさ」を「トキューサ」と聞き間違えたことがあるため、今回も何かの単語の聞き間違いではないか、という説もある(だが、何をどう聞き間違えたら「オンベレブンビンバ」になってしまうのかは気になるところである)。
考察2
「オンベレブンビンバ」はイタリア語で「可愛い子(恋人、子供等)のための影」という説。
実際に、オンベレにはombre(ombra)=「影」、ビンバにはbimba=「少女」という発音のよく似たイタリア語の単語がある
この考察では「Ombre=影」とは、愛妻りくに寄り添い続け宗時・政子・義時・実衣・時房・政範ら子供達を守ってきた時政を指し、「bimba(bambino?)」はこれから(史実溺愛した)四男の政村が生まれる、かつ愛息・泰時、次男・朝時、三男・重時がいる義時の事を指し、「影」たる時政退場、並びに「可愛い子」である政村誕生もそろそろだろうとしている。
実際、史実における時系列的には37話は牧氏事件~平賀朝雅の変の時期と重なるし、36話ではのえ(義時の後妻)が悪阻のような症状を見せていたうえ、史料によると政村が生まれたのは畠山討伐のその日とされている。
ただなぜ唐突にイタリア語のタイトルが出てくるのかは謎ではあるが。
あまりのインパクトに、畠山重忠の退場の余韻が完全に持っていかれてしまい、さらにネット上では『僕のかんがえたオンベレブンビンバ』『鎌倉殿オンベレブンビンバ知ったかぶり選手権』といったオンベレブンビンバ大喜利が開催された。
スタッフは「一部ネットで流れたイタリア語が由来ではない」と(上記の考察2を)否定、「37話を見ていれば、その意味がわかる」とも明言した。そして37話にて「オンベレブンビンバ」の真相が明かされた。
時政は実朝を出家させて平賀朝雅を鎌倉殿に据える事を画策。三浦義村からその計画を知らされた義時と政子が「もはや謀反ではないか」と相談していた時、何とその時政がやって来て「美味い酒が手に入ったから、久々に皆で呑もう」と言い出した。彼の真意を測りかねつつ、義時・政子に加えて、実衣と時房も集まり、親子5人の酒盛りが始まる。
その席上、故郷・伊豆国の酒を呑んで陽気になった時政が「♪オンベレブンビンバ、オンベレブンビンバ」と奇妙な言葉を唱え始めた。
何事かと訝しむ子供たちに時政は返す。
「忘れたのか、大姫が教えてくれたまじないじゃ」と――
即ち真相は、時政が在りし日の(スピリチュアルにハマっていた頃の)大姫に教わったまじない「オンタラクソワカ」を間違えて覚えていたものであった。
ある意味事前予想の「考察1」と「考察3」の合わせ技である。
「これを唱えるといい事がある」とニッコニコの時政であったが、あまりにもトンチンカンな詠唱に、「そうじゃないだろう」と政子・義時・実衣・時房が、「正しいまじない」を口に出し合う、のだが……
政子「ウンダラホンダラゲー」
義時「ビンタラボンチンガー」
時房「プルップ(」政子「ちょっと!実衣が今集中してるんだから」時房「はい…」
と、揃いも揃って悉く間違えており、最終的に実衣が思い出した「ボンタラクーソワカー」が正解ということで一同合意。皆で声を揃え「♪ボンタラクーソワカー、ボンタラクーソワカー」と唱えて、笑い合った。
……なお、上述の通りこれも間違いであり、大合唱する一同を映しながら、ナレーション(長澤まさみ)が「正しくは、『オンタラクソワカ』である」とツッコむ、『ナレ訂正』が入る始末であった。
あれだけ視聴者をざわつかせた「オンベレブンビンバ」であったが、ドラマのシーンでも北条一家による『オンタラクソワカ』のうろ覚え選手権となっており、この回一番のギャグシーンとなった。
この回には他にも
- 飲みの後で、かつて源頼朝挙兵前には北条家の日課であった、庭の茄子畑を皆で耕す様子。
- 和田義盛が実朝に、かつて上総広常が参戦時の振舞いを頼朝から叱責された逸話を披露する。
- ただし、さも自分(義盛)に起きたかの如く語り上げており、同席していた八田知家に「違う」とツッコまれた。
- その広常が頼朝への呼び名として使った「武衛」を、実朝にも使わせてほしいと義盛が頼み込み、その直後に三浦義村(=上総介に「『武衛』というのは親しい者に使う言葉だ」と嘘を吹き込んだ張本人)が「みんな武衛だ」と遮って現れる。
- なお「武衛」は頼朝が伊豆配流前に就いていた官職である右兵衛権佐の唐名であり、史実の実朝も鎌倉殿就任時は右兵衛佐に任じられていた。頼朝が配流後もずっと「佐殿(すけどの)」と敬称されていたのはこのためであり、それを唐名で呼べば頼朝も喜ぶ、という配慮からこの提案がされた。しかし、その由来を知る由もない東国武士には単に「頼朝が喜ぶ」というところだけが伝わっている。また、実朝はこの時期には格上の右近衛権中将に昇っており、「武衛」呼びは単なる非礼なのだが、もちろん義盛にはそんなことはわかっていない。
- 余談ながら、38話にてついに武衛の真の意味が実朝から義盛に明かされた。その際、実朝が「昨年までは武衛だったのだが、今はもう羽林だ」と言っていたため、義盛は「羽林」と呼ぶように。ちなみに羽林とは近衛府という役所の唐名であり、近衛大将(羽林大将軍)や近衛中将(羽林将軍)を「羽林」と呼ぶことがある。ちなみに本ドラマでは呼ばれなかったが史実における兄の源頼家は最終官位が左衛門督だったため衛門府の唐名である「金吾」と呼ばれることもある。
など、「鎌倉殿の13人」前期における懐かしいネタや話題が散りばめられたシーンが登場した。
さらにこの回の紀行では義時の子孫である北条時頼・赤橋長時・北条時宗が建立した寺院を取り上げており、まさかの展開に時宗クラスタも歓喜した。
なお、某新聞のTV欄では第37話のタイトルが「北条父子の骨肉の争い牧氏事件勃発」に変更され、視聴者を困惑させた。これを受け「オンベレブンビンバって掲載できない言葉なのか」とさらにネタにされることになった。
……が、他方、この回では
・畠山の一件を契機とし、父の権勢を削いでいく方策を次々と打っていく義時と政子
・情勢の変動によって冷静さを完全に失い、無謀とも取れる策を夫に勧める妻・りく
・そんな妻と共にある事を決心し、それを果たすための策――実朝を鎌倉殿から追い落とすという暴挙に走る執権・時政
――等々、後世において「牧氏の変」と称される、北条家の決別の時が近づいている様子もまた、刻々と描かれている。
加えて、上記の酒宴に関連しても
・「オンタラクソワカ」が大姫から伝えられたのは、今回と同様に北条の家族が集う場であったが、前回と比べると各々の地位こそ高くなったが、列席する者の数は半分以下になっている
=地位と引き換えにするかの如く、家族を失ってきたという残酷な現実
・しかもその「唱えると幸せになる」まじないを、場にいる者が誰一人として正確に唱えられない
=この場にいる者全員は幸せになれないとも取れる皮肉
・そもそも、妻の策謀に乗ると決めた時政が「やり残したこと」として開いたのがこの酒宴
=成功しても失敗しても、この家族が集まることはもう二度と出来ないと時政が考えている事実
……と、本作特有のギャグパートに見えて、その実、この先に義時らが迎えるであろう事態――
『北条一家が揃って笑顔で笑い合える日は、この日を最後にもう来ることはないのではないか』と想起させるこの描写は、多くの視聴者の腹筋をブレイクすると同時に寂寥感を感じさせ、視る側の感情を大きく乱高下させる事態となった。
本編にて
3代鎌倉殿・源実朝が公暁に襲われて非業の死を遂げたのち、母・実衣に焚きつけられ、伯父・義時と三浦義村の罠にはまった阿野全成(源頼朝の異母弟)の四男・時元が謀反を企み、自害に追い込まれる事件が起こった。
義時は息子を焚きつけた実衣を時元同様重く罰することを主張するが姉の政子は反対、詮議が全く進まないその間に次期鎌倉殿をめぐって幕府は朝廷と交渉し、九条兼実の曾孫・三寅(後の九条頼経)を迎えることで双方妥協した。
三寅を鎌倉に迎えたその日、政子は尼将軍になることを宣言、政治の世界に身を置き対立する義時から実衣を無罪放免とすることに成功した。
……抱きあって「ぼんたらくんそわかー」とまちがった呪文を唱える姉妹、
父・時政はすでに亡く、政治の世界に生きる義時も、時房もそこにはいなかった。
なお今回もしっかりと、ナレーション(長澤まさみ)が「正しくは、『オンタラクソワカ』である」とツッコむ、『ナレ訂正』が入る始末であった。