概要
バラムツ(漢字表記:薔薇鯥、学名:Ruvettus pretiosus)は、条鰭類スズキ目サバ亜目クロタチカマス科バラムツ属に分類される硬骨魚類である。
1種のみでバラムツ属を構成している。深海魚。多脂魚。
脂が乗って美味いからと調子に乗って喰い過ぎるととんでもないしっぺ返しを喰らう、「一応は食べられるけど要注意なお魚」の代表格となっている。
分類学チャート
標準和名 | バラムツ |
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他の和名 | インガンダルマ、ダルマ、アブラウオ、インガダルミ、タマカマス |
学名 | Ruvettus pretiosus Cocco, 1833 |
英語名 | oilfish, costor-oil fish |
分類 | 顎口上綱 硬骨魚類 条鰭類 新鰭類 真骨類 棘鰭上目 スズキ系 スズキ目 サバ亜目 クロタチカマス科 バラムツ属 バラムツ |
名称
学名のうち、属名 Ruvettus (ルウェットゥス、ルヴェットゥス)は、本種のイタリア語名である "ruvetto(ルヴェット)" からラテン語の文法に沿って造語された新ラテン語である。イタリア語 ruvetto は「キイチゴやブラックベリーの茂み」や「ブラックベリーやラズベリーの果実」を意味するラテン語 "rubus(ルブス)" を語源としており、この語 rubus の指小辞である "rubō(ルボー)" は「小さな茨(いばら)」の意味を持ち、イタリア語の "ruvo(ルヴォ)" に通ずる。ここで本種の形質と属名の繋がりが見出せるわけで、本種の体を覆う「棘状の硬い鱗」を「キイチゴなどが枝に具えている鋭い棘」に譬えたうえでの命名であることが判る。
種小名 pretiosus (プレティオスス)は「価値の高い」「貴重な」を意味するラテン語 "pretiōsus(プレティオースス)" をそのまま転用している。
英語では "oilfish(オイルフィッシュ)" と呼ばれており、その身から採れる大量のワックスエステルは機械油の原料として取引されている。また、食べると下痢などを起こすことから、「ひまし油魚」の意味で "costor-oil fish(カスターオイルフィッシュ、キャスターオイルフィッシュ)" とも呼ばれる。
標準和名「バラムツ(薔薇鯥)」は、本種の体を覆うバラ(薔薇)の棘のような棘状の硬い鱗に由来している。ムツ(鯥)に似た外見をしており、四国方言で「むつこい(あぶらっこい、味がしつこい)」ことから「ムツ」の名で呼び慣わしてきたが、実際のムツ(スズキ目スズキ亜目ムツ科ムツ属の魚)とは亜目という高い分類階層で系統が違い、バラムツは、スズキ目サバ亜目クロタチカマス科バラムツ属の魚である。
他の和名(別名)としては、大東諸島の地方名が知られており、当地では同じクロタチカマス科の魚であるアブラソコムツと区別せず、「犬が(尻から脂を)垂れる」や「犬が(下痢で)だれる」の意味で「インガンダルマ」、または、「(人間の尻から脂が)垂れる」の意味で「ダルマ」と呼ばれている。また、高知県では、「脂っぽい魚」ということで「アブラウオ」と呼ばれる4種類の魚のうちの一つである)。沖縄県では「脂が多くて胃が弛む(たるむ)」ことから「インガダルミ」と呼ばれる。ほかにも、「タマカマス」という地方名も見られるが、詳細は不明である。
形質
体長は1.5メートル前後で、中には3メートルに達するものもいる。
全身の鱗には卸し金のような骨性の棘状突起物があり、逆撫ですると怪我をする。
第2背びれと尻鰭後方には離鰭(りき)がある。
世界中の温帯域から熱帯域に分布し、水深数百メートルの深海に棲息するが、夜間には浅海まで浮上してくることが多い。
日本では、北海道および福島県から高知県までの太平洋沖、ほかに分布する。
バラムツは、深海魚の例に漏れず、深海で浮力を得るため、水圧に押し潰されてしまう浮袋を具えない代わりに大量の体脂肪を総身に蓄えている。つまり、多脂魚の一種である。
しかし、その脂肪の主成分の種類がヒトにとっては問題で、ヒトを含む大半の哺乳類が消化困難で、とりわけヒトには消化不可能な「ワックスエステル」である。
バラムツは、体組織の25パーセントほどが脂肪であり、その脂肪のうちの90パーセント以上をワックスエステルが占めている。
食材としての特徴・注意点
味については、皮下の総身に過剰なほどワックスエステルが乗っており、どこを食べてもマグロの大トロに近い濃厚な味がするという。
野食家(野生食材の研究家)を自称するyoutuberの茸本明は、クロマグロの大トロに近い中トロが最も近いとし、また、キハダマグロに無くクロマグロにある爽やかな後味をバラムツに感じるという。茸本と同じく野食料理系youtuberのホモサピも、マグロの大トロに近い中トロに譬えている。
マグロに近い調理法が可能で、とにかく美味い。トロを数段上回る味とも称される。
一方で、バラムツは、その尋常じゃない量のワックスエステルのため、食べすぎると翌日お尻から脂が漏れ出すことになる。
要するに、ヒトがバラムツを食べるということは「美味ながら消化不可能なワックスを食べる」に等しく、「口にした分だけ下の口からワックスを垂らす」ことを意味する。
なお、ワックスエステルを過剰に摂取すると脂漏性皮膚炎を発症する危険性がある。平たく言えば、皮膚から脂が沁み出してしまうことがある。
浅海まで浮上してくる夜間に、刺し網や延縄で混獲されてしまう(一般的な食用魚に混ざって獲れてしまう)ことが多い。厚生労働省はイワシ定置網>で混獲された本種の間違った流通を報告している。
他方、大型魚だけあって引きが強く、遊漁(レクリエーションフィッシング)ではよく標的にされている。
茸本明によれば、一般的ではないにしろ、世界で広く食されている。特に中華圏や東南アジアなどでは市場に出回っている。
下剤代わりに利用している国もあるという。
一方で、販売を禁止しているのは、日本、イタリア、韓国の3か国に限られる。
また、アメリカ合衆国や日本などでも、ホワイトツナ(ビンナガ)、タラ、クエ、サワラなど、色見や加工後の見た目で区別しづらい魚種への偽装や寿司の代替魚として紛れている場合もある。
日本でも以前は流通・販売されていたが、1970年(昭和45年)9月4日に厚生省(現・厚生労働省)から発せられた環乳第83号(食品衛生法第6条第2号)により、販売禁止になった。
もっとも、商取引を成立させてはならないだけで、釣り人が自分で調達したり、釣ったものを友人・知人に譲ったりは行われている。
また、噂を聞きつけて体調不良覚悟で食しに出向く人も少なくはなく、釣り系や生き物系youtuberなどが、食材の研究(※茸)や度胸試しなどを謳って食べることがある。
一度に食べるときは切り身3枚ほどにしておき、食後3~5日間はオムツをして生活することが推奨されている(量が多ければ日数も増やす)。期間中ずっと自宅に引き籠もっていられる人でない限り、オムツをしておかないと出先で「お漏らし」をやらかして社会的ダメージと負い、ともすれば周囲に迷惑を掛けかねない。
前述した茸本明は、会社員かつブロガーであった若い頃、食後数日を自宅で過ごしたうえで「もういいだろう」と出社したところ、見事にやらかし、社内とインターネット上で時の人になってしまっている。
茸本が言うところでは、“お漏らし必至の魚を食す人々の世界”において、漏らす量やタイミングの調整などに失敗した状況を指して「失格」と呼ぶらしい。
バラムツ同様の注意を要する魚
バラムツと同じくその身に大量のワックスエステルを含有しており、日本国は食品衛生法で販売禁止にしている。
バラムツと同じく同じく全身が大トロのような美味であるが、本種の脂質は人体でも消化されるため、産地では合法的に流通している。もっとも、含まれている脂質自体の量がすさまじいため、大量に食べるとキャパシティオーバーに達して下痢を起こす危険性がある。
バラムツと同じく「バラ(薔薇)」を冠した和名をもつ魚。こちらはシガテラ毒を有している危険がある。しかも海域や食べた物の差で毒の有無が変わるため、判断が難しい。
pixivでの傾向
食べ過ぎれば「お漏らし」を避けられないということから、pixivではスカトロと関連付けされることも多く、R-18ならびにR-18G指定作品が相当数存在する。「食材にされている魚で唯一R-18ネタにされている」わけでないが、その頻度は圧倒的である。