ライナー・ブラウン
らいなーぶらうん
「帰れなくなった故郷に帰る 俺の中にあるのはこれだけだ…」
ウォール・ローゼ南区第104期訓練兵団を次席で卒業した、大柄な体格の少年。
筋骨隆々としており、角張った輪郭と鼻の形が特徴的。
冷静かつ気のいい性格で、責任感が強く、面倒見も良い。仲間から厚く信頼されるリーダー的存在で、年長者なだけあって同期から兄貴分として慕われている。作者によれば104期の男子の中ではライナーが一番モテるらしく、その頼り甲斐のある性格から男女問わず人気があった事が窺える。
ミカサという歴代最高の才能という存在に隠れがちだが、同期の中でも飛び抜けた身体能力を持ち、危険な作戦を前にして冗談を言えるだけの肝の据わったところもあり、それに見合うだけの膂力も持ち合わせている。
現に女型の巨人に捕まえられ握り潰されそうになりながら、指を切って脱出する程の能力を見せつけた。
巨人に襲撃されたウォール・マリア南東の山奥の村の数少ない生き残りで、故郷に帰るという一心で生きており、絶対に曲げられない信念を持つ者同士として、エレンに深く共感している。ベルトルトとは、同郷のなじみであり、よくともに行動している。
巨人に囲まれる状況下でも、全く取り乱さずに現状を冷静に分析し答えるだけの精神力がある。
3～4ｍ級巨人七体同時殲滅作戦時には、「もしくはこいつ(剣)を奴らのケツにぶち込む」とギャグをかますほど。これは初陣等の新米兵士に対して上官が冗談や軽口を叩くことで、緊張をときほぐしリラックスさせるというベテラン兵士のそれである。たとえそれで読者の間に変な疑惑が流れようとも。（下記参照）
同期の良い兄貴分である一方、普通に美少女に弱い少年らしい姿もあり、クリスタの女神の如き姿には（結婚したい…）と素直すぎる感想を心の中で述べていた（後に、（結婚しよ）に進化）。
しかし女神に惚れるその言動に反し、9巻でのユミルとの会話で「女の方に興味があるようには見えない」と言われた際に「あぁ…」と返していた事や、上記のケツ発言から、読者間ではゲイ疑惑がかかってしまっている。
要注意！以下、特に理由のある重要ネタバレが読者を襲う！
ネタバレ概要
「もう俺には何が正しいことなのか、わからん…」
「ただ…俺がすべきことは自分のした行いや選択した結果に対し、戦士として、最後まで責任を果すことだ!!」
その正体は、5年前にシガンシナ区の内門を破り、ウォール・マリアを陥落させた鎧の巨人。
ベルトルト（超大型巨人）やアニ（女型の巨人）とは人類と敵対する「戦士」としての仲間である。
第57回壁外調査で女型の巨人ことアニに握り潰されそうになったのも実は演技で、アルミンとジャンの前で女型の巨人と戦うふりをしてわざと捕まり、アルミンが推測したエレンの本当の配置場所をアニに伝えていた。
エレンもライナーのことは頼れる兄貴分として信頼し、同じ強い信念を持つ者として尊敬していた分、自分の故郷を壊滅に追いやった張本人と知り裏切られたショックから怒りを露わにしていた。
実は実直過ぎる性格が災いして仲間への情と使命との間に精神を病んでいる。
ウォール・マリアを陥落させ大勢の人間を死に追いやった罪悪感から逃れるため、自分は壁内の平穏を守るための「兵士」と思い込み現実逃避してきた。
しかしその結果、人類の敵である「戦士」としての人格と、人類を守るために戦う「兵士」としての人格に分裂してしまい、時折自分が「戦士」であることを忘れベルトルトと会話が通じなくなる事もあった様子。
実際に鎧の巨人として正体を明かしたにもかかわらず、突然調査兵団としての昇進の話をしたりするなど、エレンもユミルも兄貴分だったライナーの異常な言動に驚愕を隠せないでいた。
壁を壊した張本人にもかかわらず、仲間たちを命掛けで守ろうとしたのは「兵士」としてのライナーの本心からの行動であり、また「戦士」の時も仲間たちへの罪悪感を抱き続けていた。
ちなみに「戦士」としてのライナーもクリスタに好意を持っており、単に任務に重要な存在なだけではないようである。
後にシガンシナ区で調査兵団と戦い兵団を壊滅寸前まで追いやるが、エレンたちの反撃によってベルトルトを失う形で敗走。仲間たちの中でただ一人ジーク、ピークと共にマーレ国に帰還する。
4年の月日が過ぎたマーレ編では、マーレ国と中東連合の戦争に参加していた。その顔には髭を生やし、すっかりおっさん面かつ軍人然とした面構えになったが、体重が10キロ以上も減り、見た目にも明らかにやつれている。精神的なストレスと、「任期」（つまり余命）が残り2年であることが関係していると思われる。
現在戦士候補生として訓練に励んでいるガビは従妹にあたるが、ライナーの苦悩は全く知らず、能天気に「鎧の巨人」を継承すると意気込んでいる。ライナーはそんな彼女に複雑な思いを抱いている様子。
壁内での殺戮・裏切り行為に対する罪悪感から生じた精神疾患は現在も尚ライナーの心を蝕み続けている。
普段こそ年長者の戦士として大人の振る舞いを見せるものの、その裏では戦士候補生時代やパラディ島での思い出を振り返りながら、虚ろな目でライフルを口に咥える、という半ば無意識的な自殺未遂にも及んでいる。
それでも尚ガビやファルコ達を心の支えとし生きていたが、パラディ島への宣戦布告の当日、騙されたファルコの案内により4年ぶりにエレンと再会を果たす。
マーレを訪れた目的をライナーに尋ねられたエレンはかつてのライナー達と同じだと答え、なぜ自分の母親を含む、壁の中で住んでいた多くの罪のない人間が踏み躙られなければならなかったのか、と問う。
それに対しライナーはパラディ島以外の全人類の救済のためだと答え、自分を苦しめ殺すために来たのだろうと問い返す。
だがエレンはそれを否定し、ライナーと同じように海を越え、敵と共に過ごしてきたこと、壁の中の人間も外の人間も変わらないことを2人に語り、ライナーが抱いてきた苦しみに理解を示す。
しかしライナーもまた彼の心からの同情に対して土下座の格好で「違う！」と否定し…
「時代や環境のせいじゃなくて…俺が悪いんだよ。お前の母親が巨人に食われたのは俺のせいだ‼︎」と、エレンの言葉を拒絶し全ての責任は自分にあったと涙を流しながら告白する。
更には…
「もう…嫌なんだ自分が…俺を…殺してくれ…もう…消えたい…」
と取り返しのつかない程の失態と罪を重ねてきた己の人生に深く絶望し、エレンに自らを殺すよう懇願する。
ライナーの精神は「兵士」という逃げ場を無くし罪悪感に追い詰められ、心はもはや折れる寸前だった。
そしてヴィリー・タイバーの演説が佳境に差し掛かったころにエレンがライナーとファルコの目の前で巨人化。ライナーはファルコを守るために巨人化するも、生きる意思を失っていたため巨人の治癒能力が働かず仮死状態に陥ってしまう。
レベリオ区を急襲した調査兵団によってマーレ軍が壊滅状態になり、顎の巨人・ポルコがエレンに捕食されようとしたその刹那にガビとファルコのライナーに助けを求める声を聞き
「どうして…お前らは…俺を…死なせてくれないんだ…」
最後の力を振り絞り、エレンからポルコを奪取すると、エレンも力を使い果たし離脱する。
戦闘終了後、ガビとファルコが調査兵団の飛行船に乗り込んでパラディ島へ向かったと知ると、ジークの裏をかくためにも戦力が整うのを待つのではなく、今すぐパラディ島へ攻め込むべきと進言。
複数の飛行船と共に到着したパラディ島シガンシナ区でエレンとジークの接触を防ぐべく戦う。
しかし「戦鎚の巨人」の力を得たエレンにポルコ、ピークと襲いかかるも苦戦を強いられ、遂にエレンとジークの接触を許してしまう。
エレンが「地鳴らし」発動のために壁の硬質化を解くと鎧の巨人の硬質化も解かれてしまい、壁の破片をまともに受け重症を負ってしまう。先の戦闘で力を使い果たしていたライナーは傷の修復も進まなかったため、ガビにより無人の民家に匿われる。
その後、アルミンやミカサ、コニー、ジャン、ガビとファルコ、そして結晶から目覚めたアニと共に「地鳴らし」を止め、世界を救うために、かつては一度袂を分かった仲間たちと再び手を組むのであった。
上記の顔ぶれにオニャンコポン、イェレナ、車力の巨人(ピーク)、テオ・マガトらを加えて食事を摂る。イェレナの皮肉によりジャンに自分とアニが関わっていたことを暴露させられる。
マルコを殺した経緯と理由を話し終えた後ジャンの制止を無視してその心情を吐露し続けた為、怒りと悲しみを爆発させたジャンに全力で殴られてしまうが、ガビの身を挺した謝罪により一時ジャンの暴力は収まった。
「地鳴らし」を止める為アズマビトの飛行艇を確保するべく港は向かうが、フロック率いるイェーガー派が地鳴らしを止めまいと先回りして待ち構えていた為戦闘になる。船で港を離脱し大陸で飛行艇の整備をすることになり、乗船の時間を稼ぐ為鎧の巨人となりアニの女型の巨人と共に最前線で時間を稼いだ。
犠牲を伴いながらも大陸に辿り着き、名も知らぬ人を1人でも多く救うべく飛行艇での離陸を果たす。
(なお戦うことを放棄したアニにパラディ島での独断を含めた過去について謝罪し、ガビとファルコを託している。)
飛行艇内では、人を救うために人(大切な仲間)を殺さなければならないという苦しみを共有したことでかつての仲間たちと改めて絆を結び直す。
また同時に、エレンの意図と彼が背負う、悪魔にならなければならないという地獄の苦しみに対して同情の念を露わにする。
そして遂に飛行艇でエレンの進撃の巨人本体に追いつき、その一部となったジークの獣の巨人に戦いを挑む。
そして最後の戦いから3年後…ライナーは連合国大使としてパラディ島へ和平交渉に向かうのであった。
「何度見てもヒストリアの筆跡は美しいな。いい匂いもする」
既婚者であるヒストリアに劣情を抱く姿を読者に見せつけた。
ジャンと軽口を言い合えるほど関係も改善されており
全てのストレスから解放されたのか訓練兵時代に近い性格に戻り(元々あれが素の可能性もある)ようやく戦士としての苦悩から解放されたのであった。
マーレ人の父とエルディア人の母とのハーフである。母親がエルディア人であったため、ライナーも収容区で暮らすことになり、父親と一緒に暮らすことができなかった（上記からもわかる通り、エルディア人の血を少しでも継いでいれば純血でなくても巨人化は可能）。
「戦士」となれば名誉マーレ人として自由な生活が許され、父親と一緒に暮らすこともできる。ライナーは家族全員で一緒に暮らすために「戦士」となったのである。
だが、マーレ人がエルディア人との間に子供を授かることは極刑に値する重罪であり、露見を恐れた父親はライナーに捨て台詞を吐いて雲隠れしてしまい、願いは叶わなかった。
戦士としての訓練を受けていた当時は、これといった特徴もなく平凡な成績だったがマーレへの忠誠心が認められて戦士候補生に選ばれた。だが裏を返せばそれだけで、ポルコ・ガリアードによると戦士候補生に選ばれた7名ではドベとのこと。それから程なくして7名中6名が正規の戦士になることが決定し、ライナーは我慢強さを評価されて鎧の巨人を継承する。
この決定にポルコは不満を漏らしていたが、後にポルコの兄であるマルセルが、弟が巨人化能力を得る＝戦場へ赴くことがないよう裏で手を回していた事を白状した。
(但しポルコはライナーより忠誠心以外の成績自体は上だったろうが、鎧の巨人の存在意義とは『マーレの盾』であり、マーレ軍からみても『忠誠心がずば抜けており、その上で我慢強い』という評価であるライナーは鎧をほぼ先んじて内定できていたのでは？という考察がある。
また、幾らマルセルが当代の戦士候補生の中で恐らくトップであろうとはいえ、当時は戦士としての実績を上げていない候補生にして子供の提言がマーレの重要兵器である巨人の担当者の採用基準にどこまで影響を与えられたのかは怪しい所である)
また、「戦士」を目指すきっかけとなったのが母親であるカリナ・ブラウンの涙を流す姿を見たこと、そしてカリナの「マーレ人に生まれていれば…」という言葉を聞いたことである。
なお、カリナは再登場した際、因果なことに地鳴らしの巨人たちの姿を見て死を覚悟し、それがきっかけでライナーに対する仕打ちを心から後悔、母と子として1からやり直したいと思い直すに至っている。
そして最後にはライナーと和解することができている。
エレンの非情な決断が、結果としてブラウン親子を救ったのである。
エレンとの対比
ウトガルド城攻防戦辺りまではエレンとあまり絡みはなかったのだが、正体を明かして以降はエレンに明確に敵視され、エレン巨人体と幾度も激突するなどエレンの宿敵であるかのような描写が激増した。
さらに、マーレ編においてはエレンが敵国へ単身で潜入、罪悪感に苛まれながらも非情な決断を下して一般人・エルディアの血を引く同族を含めたマーレの人々を巨人の力で大虐殺する＋自分は被害者を装って現地人を利用するというかつてのライナーの行いを繰り返すような行動をしている。
襲撃の直前にエレンに「やっぱりオレは…お前と同じだ」と語りかけられる場面もあり、作者自身もエレンとライナーを対比して描いていることが明らかとなった。
「お前と同じだ」発言がどのような観点から同じと言われたのかについて、以下の様に複数の点が考えられる。
- A.人を助ける為に人殺しになった
- B.半端なクソ野郎(敵やいずれ自らが殺す相手に情が湧いてしまっている)
- C.自分で自分の背中を押して地獄を見た
- D.壁の向こうは自分が思っていたものとは違っていた
この点について作者のはっきりとした説明や補足は無かった為不明であるが、後にライナーはAだと推測し、エレンはBの点で回想している。
こうしてみると、確かに両者は性格的には結構似ている。
エレンに関して言えば悩みを吹っ切った後の冷酷さや爆発力が桁違いである点が明らかにライナーとは違うが、それはそれとして悩むときはとことん悩むこと、苦悩が極まって「自分は死んだ方がいい」と泣きわめいた経験があることは共通である。
母親との関係に関しては2人は対比的である。
かつてエレンの母親であるカルラが「だからこの子はもう偉いんです。この世界に生まれて来てくれたんだから」と生まれてきただけで皆特別であり、自由であると己の存在を肯定する言葉を息子であるエレンに残したのに対し、ライナーの母親であるカリナは「マーレ人に生まれていれば…」と特別でなければならないという期待と重荷を背負わせ、己の存在を否定する言葉を息子であるライナーに残している。
また、カルラが若くして死に、エレンも9年後に世を去ったのに対し、ライナーとその母親は和解した上でしっかり生き延びている。
- 作者である諫山創先生一番のお気に入りキャラで学生時代に尊敬した先輩をモデルにしたらしく非常に愛されている。その方向性は著しく歪んでいるが。
- 海外では当初、かなりヘイトを買う役回りにもかかわらずピンチを寸前で回避して生き延び続けたため、鎧の巨人の海外名「アーマードタイタン」と、脚本の都合でなかなか死なないキャラを揶揄する「プロットアーマー」を併せて「プロットアーマードタイタン」と罵倒されていた。
マーレ編以後は、ライナーがそうやって脚本に愛されて良い思いをするでもなく死んだ方がマシな目に遭わされ続ける有様になったことから、その手の罵倒がなくなった。
……というより、むしろ「死にたがっているのに脚本に守られて死なせてもらえない」という半ば呪いの装備扱いの文脈で同情的にそう呼ばれるようになった。
- ライナーはエレンに対し時代や環境ではなく自身が全ての元凶であると語っているが、どう見積もっても壁内での惨劇は全て自身に起因するという考えには無理がある。
まずマーレではパラディ島の人類は悪魔であり、彼らを打倒することこそ人類の救済である、という思想教育が徹底されている。実際に島に行かない限りその情報に疑念を抱くことは難しいだろうし、もしそれに異を唱えれば、実質死刑である楽園追放処分となってしまうだろう。
またライナーの母親は自分がライナーの父親に捨てられたのは島の悪魔のせいであると思い込み、その考えをライナーに言い聞かせていた。そして戦士に選ばれ島を訪れて以降は、もし功績をあげられなければ家族共々楽園追放になってしまう可能性があり、始祖の巨人奪還に全力で取り組まなければならない状況にあった。
なお壁内への攻撃を開始した当時のライナーはわずか12歳の少年である。むしろそんな環境下で兵士として有能な働きを示し、さらには仲間たちに対する心からの親愛と気配り、そしてそれゆえの罪悪感による憔悴はライナーが本来持つ優秀さと繊細さ、善性を示すエピソードとなっており、アルミンとミカサ以外の人間でエレンが特に親しみを抱く要因ともなっている。
- また、「エレンの母親が巨人に食われた」真の元凶をあえて挙げるとすれば誰かというと……？
- ライナーの自殺未遂シーンは諫山創先生が〆切ギリギリになりながらも汗だくパン一で一心不乱に描いた逸品でお気に入りシーンの為か現場にも飾っており、自宅ではコマを引き延ばして壁に貼ってる程で如何に彼が作者に寵愛を受けてるかがわかる素晴らしいエピソードとなっている。
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