特徴
ノックアウト方式のオープントーナメント制の大会である。参加資格は第1種区分のチームに限定されているものの、オープントーナメントと言われるのはその区分のチームであれば、プロだのアマチュアだのチーム形態だの問わずに参加できることが可能である。そのため、同じクラブのトップチームとサテライトチームが本選や予選で激突...なんてこともある。なお、J1リーグとJ2リーグに在籍するチームは自動的に本選シードを得られるので予選が免除される。
J1リーグがその年の『リーグ戦日本一』を決める大会であるとすれば、その年の『トーナメント戦日本一』を決める大会がこの天皇杯である。
優勝チームにはJ1リーグ王者との統一戦とも言える大会であるスーパーカップの出場権が与えられ、更に優勝チームがJ1ライセンス保有チームであればACLの出場権も併せて与えられる。
かつては第2種区分である高校サッカー部とクラブユース(U-18)の各チームにも出場資格があったが、第2種区分の大会とのスケジュール調整が困難になった結果、2015年度以降は参加資格から外れる形となった。
基本レギュレーション
本大会への出場クラブは基本的に88チーム。
うち47チームは各都道府県代表チーム枠であり、残りの41チームは本選シード枠である。
本選シード枠の内約は、J1在籍の20チーム、J2在籍の20チーム、ベストアマチュアシードに選出された1チームとなっている。
ベストアマチュアシードは、JFL前年度優勝チーム(※優勝チームがJ3昇格となった場合に限り次点となる昇格しない前年度最上位チーム)または全日本大学サッカー選手権大会前年度優勝チームが獲ることになるが、どちらかとなる場合の基準は、JFL在籍チームか大学チームのどちらかが前年度天皇杯本選でアマチュアチームの中での成績最上位となっていることである。
都道府県代表チームとベストアマチュアシードチームが1回戦を戦い、勝ち残った24チームにJ1・J2の40チームを加えた64チームで2回戦から4回戦は単純なトーナメントが行われる。
2回戦は「J1対1回戦突破チーム」「J2対決」が基本。
ベスト8の時点で再抽選が行われ、決勝への戦いへと向かっていく。
試合会場は基本的に上位カテゴリリーグ在籍チームのホームスタジアムを使用するのが基本である。尚、下位カテゴリリーグ在籍チームのスタジアムをできるだけ使うという原則もあるが、何故か「Jリーグ規格に準じたスタジアム」でなければ行うことが出来ない仕様になっていて、更にメディア中継に選ばれた対戦カードの場合はメディア中継ができると判断されるスタジアムの使用が優先される。
決勝戦は年が明けた1月1日、東京・(新)国立競技場。
ただ最近は日本代表のスケジュールの関係で、年内に決勝が行われるケースも増えている。
優勝すると、チーム強化費として1億5000万円を獲得できる。また、1回戦勝利で50万円など、1試合ごとに勝利賞…じゃなかった強化費が懸っている。
なお、天皇杯の主催は日本サッカー協会及びJリーグであるが、出場チームを保有するクラブは主管権を持っていない。主管権は試合会場がある各都道府県のサッカー協会となるためである。出場チームの普段の本拠地で試合が行われるのが基本であるが、ホームチームを応援するスタジアムDJはおらず、淡々としたアナウンスで試合は進行していく。ただし、天皇杯開催に気合いが入っている協会の場合は熱いアナウンスを流すことがある。もちろん決勝となれば関野浩之氏によるお馴染みの熱いアナウンスが流れる。
番狂わせ
天皇杯では最早お馴染みとなった現象。下位カテゴリのリーグに在籍するチームが上位カテゴリのリーグに在籍するチームに勝つ瞬間こそ、この大会の最大の特徴と言っても過言ではない。カテゴリ差が1カテゴリしかない上のチームに勝つのは(ニュアンス的に)アップセットと呼ばれ、学生チームが実力差がない社会人チームに勝つのは番狂わせとは言われないが、2カテゴリ差以上の上のチームに勝ったり、学生チームがJリーグ在籍チームに勝つのはジャイアントキリングと称される。
2021年度大会(第101回大会)では...
- J2のブラウブリッツ秋田が1回戦にて北海道代表である北海道リーグの北海道十勝スカイアースにPK戦まで縺れ込んだ結果敗退。
- J1の横浜FCが2回戦にて青森県代表であるJ3のヴァンラーレ八戸に1-2で敗退。
- J1の横浜F・マリノスが2回戦にて静岡県代表であるJFLのHonda FCにPK戦まで縺れ込んだ結果敗退。(※NHK-BS1での生中継対象カード)
- J1のFC東京が2回戦にて千葉県代表である関東大学リーグ1部の順天堂大学蹴球部に1-2で逆転され敗退。
- J1のサンフレッチェ広島が2回戦にて京都府代表である関西リーグ1部のおこしやす京都ACに1-5の大量失点で敗退。
- J2のレノファ山口とモンテディオ山形が、各々JFLのヴェルスパ大分を相手に1回戦と2回戦にて敗退。
……などといった番狂わせが起きた。
2022年度大会(第102回大会)では2回戦でJ2以上のチームが地域代表にすべて勝利し番狂わせは起きないと思われたが、3回戦で横浜F・マリノス、川崎フロンターレ、浦和レッズ、FC東京が相次いでJ2勢に敗退。それでもベスト8に6つのJ1チームが残る展開であったが、J2下位に沈んでいたヴァンフォーレ甲府がコンサドーレ札幌、サガン鳥栖、アビスパ福岡、鹿島アントラーズといったJ1勢を相次いで撃破。リーグ戦7連敗、18位で迎えた決勝戦では上位のサンフレッチェ広島にPK戦の末競り勝ち、J1相手に5連勝、クラブ史上初の天皇杯制覇という番狂わせとなった。
都道府県予選
シードされないチームが本選出場をかけて争う場である。どの予選も本選への出場枠は1つのみであり、これは高校や大学の全国大会だと枠が複数あることで知られる東京都の予選も例外ではない。
また、予選大会の管轄は各都道府県協会となっている一方、どの予選大会も天皇杯予選専用の大会になっていないという特殊さがある(※全ての大会が「天皇杯予選を兼ねている」形式としている)。例えば、天皇杯東京都予選の正式名称は『東京都サッカートーナメント』である。その他だとサッカー王国・静岡県の場合だと『静岡県サッカー選手権大会』となっており、一時期は「スルガカップ争奪」という冠付きの大会名であった。
『魔境』と称される特定の地域予選
そのレベルの高さから予選内ではシードとなるJ3リーグチームでも本選出場が極めて困難となった結果『魔境』と称されている。以下からは代表的な魔境を紹介する。
- 東京都予選と神奈川県予選
共に代表的な魔境であり、『天皇杯予選三大魔境』の一角とそれぞれ称されている。その主な要因は学生チームである。全国から有望な選手が次々と加入してくる学生チームのせいで、J3チームが毎年と言われるぐらいアップセットされるのが最早珍しくなくなってしまったほどである(※SC相模原の項目も参照のこと)。また、レベルの高い環境に身を置いた経験を得て卒業した学生や契約満了となった元Jリーガーが2地域の地域リーグ(関東リーグ)や都県リーグに在籍する社会人チームに相次いで加入することも珍しくなくなっており、そういった社会人チームが前述の影響もあってそのカテゴリに留まりながらも実力を上げていっている点も予選突破の困難さを際立たせている(※実際にFC町田ゼルビアとSC相模原が地域リーグチームに競り負けて予選敗退したことがあった)。ちなみに東京都予選においては、2010年度大会において東京ヴェルディユースチームが決勝でJFL在籍の横河武蔵野FCを延長の末破って本選初出場を掴んだ歴史もある。
- 静岡県予選
『天皇杯予選三大魔境』残りの一角。一次予選(事実上の準々決勝まで)と二次予選(事実上の準決勝と決勝)がある。ただ、一次予選から二次予選へと進める枠は参加チーム数の多さとは裏腹に1つしかない。その上、J3リーグ在籍の藤枝MYFCとアスルクラロ沼津、そして、『Jへの門番』ことJFL在籍のHonda FCという全国リーグ在籍の3チームが二次予選で待ち構えている。また、現状の静岡県予選参加組で一番実績があるのはJ3リーグ在籍の2チームではなくHondaである為、その2チームですらHondaを恐れる事態に陥っている。なお、2021年度では一次予選を突破した常葉大学サッカー部に藤枝MYFCが二次予選準決勝で競り負けており、カオスさが更に増すこととなった。2023年は、藤枝のJ2昇格とHondaのアマチュアシード枠連続選出という2つの傾向もあり、シードが得られないアスルクラロ沼津が予選において優位に立ちつつあるが、そんな沼津の足元を藤枝市役所サッカー部や常葉大学サッカー部、そして沼津にとっては予選での一番の天敵である静岡産業大学サッカー部など、下から這い上がろうとするチームが虎視眈々と狙っているので、予断は許されないものと思われる。
- 茨城県予選
結論から言うと魔境となった要因は『茨城県二大学生クラブ』である流通経済大学サッカー部と筑波大学蹴球部。流通経済大学はトップ・セカンド・サードの3チームが全て二次予選シードとしてエントリーされており、筑波大学もトップチームのみだが二次予選シードとしてエントリーされている。茨城県サッカー界では鹿島アントラーズと水戸ホーリーホックを除けばこの2つの学生クラブが保有するチームが抜きん出た実績を持っており、ジョイフル本田つくばFCを始めとする地域リーグ以下に在籍するJリーグ入りを目指すチームですら歯が立たない状況がよく目立つ。ただ、ジョイフル本田つくばFCが2019年度の予選で初めて決勝進出を果たしたこともあり、この学生2クラブの牙城が崩れることと予選そのものが益々カオスになることが今後期待される。2023年は流通経済大学サッカー部のサードチームである流通経済大学FCが茨城県リーグ1部に降格した関係で二次予選シードからは外れることが確実視されており、ハードルは減りつつあるが、それでもこの2クラブの牙城が簡単に崩れることはないと思われる。
- 青森県予選
魔境となっている要因はJ3リーグ在籍のヴァンラーレ八戸、JFL在籍のラインメール青森、地域リーグ(東北リーグ1部)在籍のブランデュー弘前、そして学生チームの八戸学院大学サッカー部の4強が形成されている点であり、それら以外のチームが突破するのはあまりにも容易ではない。そして、2019年度ではブランデューが予選を勝ち抜く寸前まで行ったため(※準決勝でラインメールに1-0、決勝でヴァンラーレに1-1からのPK戦3-4)、今後この4チームの何処が勝ち抜いてもおかしくない状況になった。なお、2021年度からヴァンラーレ・ラインメール・ブランデューの3チームがサッカーフェスティバルという名目で対抗戦を行うことが決定しており、これが青森県予選のレベル上げとハードル上げに直接貢献するのは間違いないと思われる。
- 大阪府予選
J3リーグ初参入が決まったFC大阪やJFLで戦い続けるFCティアモ枚方といったスーパーシードコンビが居るが、それを臆することなく崩しにかかる学生勢の存在はとても厄介である。2022年は関西大学サッカー部がこの2チームを倒して本選出場権を獲得した。2023年は、枚方は勿論のこと、万全な補強を行ってJ3に臨もうとするFC大阪も引き続き予断は許されないものと思われる。
メディア中継
本選の中継を担当するのは共催の立場にもあるNHK、そして有料放送局であるスカパー!の2局のみである。また、スカパー!の場合は原則としてサッカーセットに加入しなければ視聴することが出来ない仕様となっている。一方で、スカパー!以外の民放テレビメディアによる本選中継は現時点で一切ない。
そしてそのことと関係しているかは不明だが、原則として本選でのメディア中継は広告を映像に乗せて流すことが規約上出来ない。これは、2021年度大会の自チームの試合を配信した鈴鹿ポイントゲッターズからのニュースリリースにて明らかになっている。当然、中継を行う場合は、JFAに対して放送権料を支払うことになる。
反面、予選の中継は天皇杯専用大会になっていないことも関係しているのか、中継時の広告掲載が認められているようで、実際にスポンサーが必要となる民放テレビ局による予選大会の中継も実現している。民放テレビ局による中継は、栃木県予選、長野県予選、宮崎県予選で行われていることが確認されており、内、長野県予選と宮崎県予選はYouTubeにてサイマル配信も行っている。