CV:屋良有作(1985年版)、諏訪部順一(『2021』版)
概要
クーデターでピリカ星の独裁者となったギルモア将軍が、権力維持のために設立した情報機関「PCIA」の長官。
ナチスのような軍服に身を包んだピリカ人で、常にサングラスをかけている。
原作と映画では容姿が大きく異なり、原作ではサングラスに軍帽、軍服といった古典的なものだが、映画版(1985年)ではバイザーと一体化したヘルメットを被り独特のスーツを着るなどSF色が強いものである。顔付きも原作のロボットを思わせるような起伏の少ない寸胴なものから、より地球人に近い立体的な顔立ちで描かれ、性格もやや間抜けかつ小物感の目立つものになっている。
『2021』版では、(本作のパピ達と同様)手の形状や等身も含めてより地球人に近いデザインで描かれ、衣装も原作に近いものになっている。性格も常に冷静沈着で、過去作に比べ全体的にシリアスな雰囲気を漂わせている。
ギルモアの腹心であり、トップとしては無能気味な将軍が独裁政権を維持出来ているのも、彼の手腕による所が大きい。
事実総統であるギルモアに対しては面従腹背であり、自身への反乱を恐れて「人間は信用ならん」と吐き捨てるギルモアに対し、「自分の人気が無いのをよ~く分かってらっしゃる」と陰口を叩くなど、ドラコルル自身も含むところがある様子。
彼を称するのに最も的確な表現として、「大長編ドラえもん史上屈指の切れ者」という言葉が存在し、強大な力を持つ割に頭が働くとは言い難い者が多い劇場版悪役の中でも一際異彩を放っている。
身体は手のひらサイズで、旗艦のクジラ型戦闘艦もジャイアン一人(子供)に負けてしまうレベルではある(とは言え、並の地球人を火傷させるぐらいの能力はある)が、ドラコルルの異常なまでの注意力と洞察力は他の悪役の追随を許さない。
パピ曰く「ずるく抜け目のない性格」「悪知恵の働く悪魔のような男」であり、徹底した情報戦と情勢を弁えた、非常に狡猾かつ的確な判断力を有する。
言うなれば、『宇宙小戦争』という作品はドラコルルとの知略戦が大きな縦軸となっている。
その上、部下のアイデア・意見が適切なら即座に採用する度量や、原作漫画・『2021』版では敗北時に上司として自ら降服交渉に出向く責任感も持ち合わせるなど、意外にも部下達との人間関係は悪くない一面もある。
こうした面も、人間を信用しない"お山の大将"なギルモアとは対比となっている(ただし、パピ曰く「一度でも約束を守った事が無い」らしく、流石にギルモア程ではないがドラコルル自身もどこまで他人を信用しているかについては不明である)。
このように部下達との人間関係も良好なため、「ジャイアンの隙を突いてポケットに探査球を飛び込ませてパピを発見(それに成功した部下には後の昇進を約束する)」、「素早くスモールライトと静香の間に割り込んで巨大化を妨害」、「周囲の環境から隠れているパピの発見の困難さを進言」、「ラジコン戦車の操縦系統を迅速に解明」等部下達の有能な部分を活用する事が出来、ドラコルル個人の知謀をさらに補強している。
その結果、ドラえもんやパピ達反乱勢力を一網打尽にして捕まえるという完全勝利を収め、彼らを死刑にする直前にまで追い込んだ。
しかしスモールライトの効果に期限がある事を知らなかったために、ロコロコが「最後の言葉」を長々と喋っている間に丁度スモールライトの効き目が切れてしまい、巨大化したドラえもん達5人と対峙する羽目になってしまう。
この後の演出は、原作漫画とアニメ映画によって若干異なる。
原作者の藤子・F・不二雄自身は、「ドラえもん映画の悪役キャラクターの中では最も優れた一番の策略家であり、倒す手を考えるのに苦労し、結局後付け設定によるご都合主義に頼るしかなかった」と自嘲しており、次回作に登場する最強の敵にほぼ同等の強敵なのかもしれない。
末路
原作漫画版
ジャイアンやのび太は政治犯が収容されている刑務所の建物を破壊するが、部下達がパニックを起こしかける中、冷静に機甲部隊を呼ぶよう指示している。彼の指示通り戦闘ヘリと戦車が出動してくるものの、元のサイズに戻った地球人には歯が立たず壊滅させられてしまう。
PCIAのクジラ型宇宙戦闘艦で自ら決戦を挑む。ドラえもん達もこの巨大艦には決め手を欠き、ピリカ軍戦車の熱線を使って(なお、原作で使った相手は静香だが、『2021』版ではスネ夫が使っており、1985年版でスネ夫がやった戦車への踏み付けは、『2021』版ではドラえもんが行っている)撃退しようとするが止まらない。
そこでジャイアンがクジラ型戦闘艇に飛び乗り、自身の着ていたセーターを前面に被せて視界を奪った状態で袖を手綱のように操り、最後は海上に墜落させる。
ここでドラコルルは着水したクジラ型戦闘艦になおも立てこもるが、ジャイアンは「出てこないとこのまま沈めるぞ」と最後通告。降伏交渉に出てきたドラコルルをつまみ上げて将軍の行き先を尋問するがドラコルルは「知らない、本当だ!」と慌てながら告げている。
1985年アニメ映画版
真っ先にのび太が巨大化した時点で、泡を食って発砲を命じるが、元のサイズに戻ったのび太には虫に刺された程度にしか通じない。怒ったのび太が捉えようとするが、ギルモアや部下と共に装甲車で逃げ出してしまう。
その後、戦闘ヘリや機甲部隊を出撃させるのは同じだが、見た目に「あからさまに人を殺していると取れる」表現を回避するためか、ヘリのデザインは地球のものとは全く異なる構造のものに変更されている。またこれでも目などの敏感な部分を狙えば殺傷出来る事から、ジャイアンが「おい皆、目を気を付けろ!」と言っている(原作ではドラえもんが言っている)。
雲霞の如くやって来るヘリが鬱陶しかったが、そこへ自由同盟の戦闘シャトルも合流、ヘリを駆逐してみせ、のび太達は歓声を上げる。
しかし、そこへ放たれた熱線によってシャトルの2機が撃墜される。
それは、PCIAのクジラ型戦闘艦によるものだった。自由同盟の攻撃は、装甲が厚過ぎて効かない。
そこへ被撃墜を見て激昂したジャイアンが飛び出し、クジラ型戦闘艦に飛び乗って、セーターを前面に被せて海上に墜落させる。
原作にはあったピリカ軍の戦車を使って攻撃するシーンもコンテまでは起こされていたようだが、これはカットされている(映画のパンフレットに使われていた)。
その後、ドラコルルは救命ボートで脱出・逃亡しようとするが、そこをジャイアンに捕まって将軍の行き先を尋問される。するとドラコルルは諦めたように脱力し、「空港だ」と自白する。
『2021』版
「他人を信用しない人間が下から信用される訳がない」という信念を有しており、自分の進言や忠告すら信用しないギルモアに対しては懐疑的であると同時に、部下達との信頼関係を重視している。
一方で、その有能ぶりや人望の厚さ故に部下達から何でもかんでも頼りにされる事も多く、さらに任務中にもかかわらず上司のギルモアから別の用事を押し付けられ、パピを捕まえる前にピリカ星に帰還せざるを得なくなったりと、中間管理職故に苦労する一面も垣間見える。
原作・1985年版との大きな違いとして、地球で静香を人質にパピを捕らえて連行する際、一度ドラえもん達にしてやられる形でパピを逃している。
その後、パピを捕らえるために姉のピイナを人質に取るなど、改めて策を展開する形でパピを自ら投降させ、ドラえもん達や自由同盟を追い詰める。
さらに自由同盟の地下組織の場所を突き止めて部下達を襲撃させ、リーダーとドラえもん達には地下通路から脱出されたものの、逃げ延びて街に潜伏していたドラえもん達を強奪したスモールライトの情報をあらかじめ流しておいた事でPCIA本部に誘き寄せ、罠に嵌める事に成功する。
しかしこの時ドラえもん、ジャイアン、ロコロコの三名は拘束出来たものの、のび太だけは石ころぼうしが脱げないという偶然のアクシデントにより姿が見えなかったため、ドラえもん達の咄嗟の機転で逃亡を許してしまった。
このように、終盤までほぼ完璧とも言える程の智将っぷりが描写されていた過去作に比べると、頭の回転の速さに関しては過去作以上に磨きがかっている一方で、些細な見落としが後々ミスに繋がる一面も目立つ。
パピ達の処刑を行う直前、巨大化した静香とスネ夫が港に現れただけでなく、戴冠式でのパピの演説に心打たれたピリカ市民達が暴動を起こし、挙げ句の果てにPCIA本部に押し寄せてきたため、そちらの対応まで見舞われる羽目になる。その際、部下達が次から次へと自分の元を頼ってきたために「自分では何も判断出来んのかお前達は!?」と激昂し、遂には「いい加減にしろ!!」と流石にキレていた。
遅れて元の大きさに戻ったのび太、そしてドラえもんとジャイアンに対し「ぼんやりするな!撃て、撃て!」と部下達に指示を飛ばすが、ジャイアンの威嚇で部下達は吹き飛ばされ、それでも乗り込んできた市民達をも掻い潜りながら、ギルモアを連れてヘリで逃亡。
PCIA兵達を蹴散らした巨大なドラえもん達にリーダーや市民達は驚くが、パピ達に事情を聞かされると市民に生存を伝えるため放送局へ向かう事になり、ドラえもん達は地下組織の人達にパピを託す(原作及び1985年版では、パピはドラえもんの四次元ポケットの中に隠れていた)。
巨大化したドラえもん達の反撃、そしてスネ夫と静香の合流にも怯まずに無人戦闘ヘリや戦車で時間稼ぎを行うが、スネ夫から全機無人機と告げられた事で一気呵成に攻められる(ただし、最初の攻撃でジャイアンは頭に若干ダメージを受ける。そのため目に注意を呼び掛ける相手がジャイアンからドラえもんになっている)。
そこでドラコルル達は、唯一地球人にも有効打を与えられるクジラ型戦艦に乗艦し、「今度こそ決着を付けてやる」とばかりに高火力兵器(被弾すれば確実に即死する程の破壊力)と巧みな戦闘指揮で優位に立つ。しかし、ヘリと戦車で追い込んだところへトドメを刺すため全エネルギーを集中させて必殺の攻撃を放とうとした瞬間、5人が奪い取った戦車(ドラえもん、ジャイアン、静香)とヘリ(のび太、スネ夫)を利用した集中攻撃を受けて主要兵装が全壊し、戦闘不能になってしまう。
何とか海まで逃げようとするも、ビルから飛び移ったジャイアンが戦艦を踏み付けた事で大ダメージを受け、遂に飛行不可となって海に不時着する(なお、今回のジャイアンは原作や1985年版と違い、シャツを使った視界封じを使わなかった)。
降伏を迫るジャイアンに対し潔く自分達の敗北を認め、「部下達を安全に退艦させる」という条件付きで全面降伏する。ドラえもんがその条件を約束すると、逃げたギルモアが空港に向かおうとしている事をドラえもん達に告げるが、「だが、(どうせ)逃げられはすまい。今頃はもう…」と上司の末路を予測したところで物語からは退場となった(予測通り、ギルモアもその後自由同盟と民衆によって行く手を阻まれ、完全敗北となった)。
そのラストでの潔い立ち振舞いや、過去作から既にあった人気の高さをさらに昇華させたような劇中での悪役としての魅力やカリスマ性、演じた諏訪部氏の人気や演技力、敵として潔く部下のことを考えるなど様々な要因が相まってか、映画ドラえもんの悪役の中でも非常にカッコ良い悪役となっている。
こうした事もあってか、映画公開後は『2021』版の彼のイラストが大量にpixiv内に挙げられるようになり、今や該当タグの付いたイラストの大半を占める結果となっている。
副官
CV:武田幸史
『2021』で新キャラとして登場した、ドラコルルの直属の部下の男。本名は不明。
恰幅の良い体格で、服装は1985年版のドラコルルのものに近い。
本作のドラコルルを引き立てる役割を担っており、上司ほど頭の回らない、やや直情的でどこか間の抜けたキャラクターとして描かれている。また、パピに対してアカンベーやお尻ペンペンといったおどけた態度を見せたりと、コミカルな一面もある。
一方で、何か意見する度にドラコルルに窘められているが、それでも文句一つ言わずに彼の命令に従い、ピンチの時は命懸けで助けようとするなど、忠誠心は非常に厚い。また、ドラコルルが皆まで言わずともその意志を汲み取り、部下達に的確な指示を出すなど、彼自身も単なる無能という訳ではない。
クジラ型戦艦を陥落させられ、ドラコルルがジャイアンに捕まった際、銃を抜いて果敢に助けようとする忠誠心を見せる。
だが、ドラコルル本人に「我々は負けたのだ」と制止されたため、最後まで彼に付き従い、共に降伏した。
余談
1985年版でドラコルルを演じた屋良氏は、映画ドラえもんの出演は本作が初。大山版ドラえもんの劇場版には本作を含めて5作にゲスト出演しており、ほとんどが悪役としての登場だが、『ブリキの迷宮』のように善人を演じた事もある。
『2021』版でドラコルルを演じる諏訪部氏は、2015年度の誕生日スペシャル『のび太特急と謎のトレインハンター』に登場するボスキャラクター・モサロを演じていて以来約7年ぶりのシリーズ出演となる。
また、『2021』版にて副官を演じた武田氏は前々作の映画でタラバを演じており、あちらは上司のゴダートに対する忠誠心は皆無という、本作の副官とは真逆のキャラクターとなっている。
関連項目
メジューサ:旧映画版の前作に登場した悪役。ドラコルルを「最弱にして最強」と評するならば、こちらは「最強にして最恐」と評するべきだろう。リメイクされた際に印象が大きく変わったのも共通するが、彼(彼女)の場合は過去作からの変更点がかなり多い。
サベール隊長:過去作から美形悪役にリメイクされた映画ドラえもんの悪役繋がり。「無能な上司に仕える有能な部下」という点も同じである。リメイク版を演じたのも人気俳優である。
アブソリュートタルタロス:『2021』版と中の人繋がりの敵キャラクター。個人の戦闘力は雲泥の差だが、お互いに「『シリーズ最強の敵』との呼び声が高い」「策略家として非常に頭が回る」という共通点がある。