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バフォメット

ばふぉめっと

バフォメット(Baphomet)とは、近世に山羊の頭に人間の体を持つと位置づけられた、西方キリスト教世界に措ける有名な悪魔。
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曖昧さ回避編集

  1. キリスト教に措ける有名な悪魔。本項で解説。
  2. 女神転生シリーズ』に登場するキャラクター。→邪神バフォメット
  3. メギド72』に登場するキャラクター。→バフォメット(メギド72)
  4. エミルクロニクルオンライン』におけるパートナー装備の一部およびNPC。→バフォメット(ECO)
  5. 同人18禁コンテンツ『魔物娘図鑑』に登場する種族。→バフォメット(魔物娘図鑑)
  6. インディーゲーム『Helltaker』の二次創作キャラクター。原作者公認。→BAPHOMET, THE MYSTERIOUS DEMON

概要編集

1300年頃に、十字軍で活躍した騎士修道会・テンプル騎士団が時の為政者フィリップ4世の糾弾を受けた際、彼等がこの悪魔の偶像を崇拝していた、と言う風評が元で広く世に知られるようになった。


一名「サバトの山羊」。ジェームズ・R・ルイス(James R. Lewis)著『Witchcraft Today: An Encyclopedia of Wiccan and Neopagan Traditions』によると、ウィッチクラフトのシンボルと誤解される(が、事実ではない)。

少なくともメインストリームのネオ・ペイガン(新異教)信仰において役割を持っていない。

バフォメットを山羊頭の存在と位置づける出典は19世紀のエリファス・レヴィであり、18世紀まで行われた西洋の魔女狩りとも時期的に合わない。


名前の由来編集

イスラム教における預言者マホメットムハンマド)の誤読から創造されたとされるが異説も多く、マホメットと洗礼者ヨハネが混交した説、ギリシャ語の“baphemetous(五芒星形)”説(クリストフ・フリードリヒ・ニコライ)、中世ラテン語の“baphus(天)”説(フレッド・ゲティングス『悪魔の事典』で可能性があるとされた説)がある。

イスラム教の神秘主義スーフィズムについての著作で知られるイドリース・シャーの『The Sufis』では、アラビア語で「理解の父」を意味するアブー・フィハマト(Abu fihamat)が元であるという説が唱えられた。

死海文書研究に関わったヒュー・J・ショーンフェルドはバフォメットはアトバシュ暗号による創案であり、還元される原型は知識を意味するギリシャ語の「ソフィア」に音が似たヘブライ語の文字列になるとしている。


ジェームズ・R・ルイス著『Witchcraft Today: An Encyclopedia of Wiccan and Neopagan Traditions』ではギリシャ語のbapheとmetisの組み合わせで「知識の吸収(absorption of knowledge)」の意という説を紹介している。


エリファス・レヴィは『高等魔術の教理と祭儀』祭儀篇・第15章においてBaphometは「カバラ風に」逆に読むべきとし、Templi Omnium Hominum Pacis Abbas(人類の遍き平和、神殿の父)の略称TEM OHP ABであるとしている。


バフォメットのイメージ編集

バフォメットの名が文献に登場するのは、14世紀初頭のテンプル騎士団に対する本格的な弾圧が行われた頃である。騎士団員の悪魔崇拝の裁判記録も、男の顔という言葉もあれば女や猫の顔だったというもの、両性具有だったする言葉もあり、顔の数も双頭や三頭だった、偶像の材質も木製、銅製と種類もばらばらで、その供述はまるで統一されていなかった。

“本物のバフォメット”像は全くの不明とされ、パリのサン・メリ教会の正面入口にある二本角と翼を生やして髭を蓄え、乳房を有した悪魔の浮彫像がバフォメットであるという説、ブルゴーニュ地方のコート・ドール県エッサロワで出土した箱の蓋に刻まれた男女両性像の浮彫が源流という説がある。


1818年、オーストリアの歴史学者ジョセフ・フォン・ハンマー・プルグスタルは豊かな乳房を垂らした有角の男性的存在の像をバフォメットのものとして提示した。

彼は聖杯伝説(Grail romances)も援用してテンプル騎士団をグノーシス主義の一派オフィス派(オフィスはギリシャ語で「蛇」の意)と結びつけてもいたが、学術的に受け入れられることはなく否定された。


現在の山羊頭に鳥の翼を持つバフォメットの姿は、19世紀フランス人オカルティストであるエリファス・レヴィが描き1856年刊行の『高等魔術の教理と祭儀』祭儀篇に掲載した「メンデスの山羊」が元である。

元の絵は白黒で、解説部分でも頭部の色や翼になっている鳥の種類についての言及はない。

センシティブな作品

二本角の間にあるのは「知性の松明」で、股ぐらの「ヘルメスの杖」が生殖器のかわりとなっている。周辺の腹部は鱗で覆われている。そこから円輪を挟んで乳房から下までを鳥の羽毛が覆っている。乳房は「魔術のスフィンクス」のそれであり、人間性をあらわしているのはそれぞれ男性の腕と女性の腕(『高等魔術の教理と祭儀』祭儀篇・第15章にある解説部分ではどちらがそうかは明言されていない)で構成される両腕である。

世の悪魔の中でもエリファス・レヴィのバフォメットはザ・悪魔とも言えるものである。悪魔と聞いて一番に思い浮かぶのが山羊頭のコレ、という人も多いだろう。

ただしレヴィ自身はバフォメットを霊的な実体とは見なしていなかったようで、「メンデスの山羊」の絵の各モチーフの象徴的解説のあとに「象形文字としては、なにも山羊であって子羊であってはならない理由はないのだ」と記している。

彼自身はサタンの存在も信じず、罪や堕落といった欠陥の擬人化だと同じ場所に書いている。


メンデスの山羊編集

メンデスの山羊の「メンデス(Mendes)」とは古代エジプトの都市である。メンデスとはギリシャ語名であり、エジプトの言葉による名称は「ジェデト(Djedet)」といった。

この都市の守護神がバ・ネブ・ジェデト(Banebdjedet)であり、羊の頭を持っていた。


エリファス・レヴィは1854年の『高等魔術の教理と祭儀』教理篇・序章で「メンデスの『両性具有』山羊の象形文字的形姿」というワードを出しているが、バ・ネブ・ジェデト神に両性具有要素があったとはされていない。四柱の神のバー(魂)を象徴する四つの羊頭を持つ姿でも描かれるが、そのメンバーはラー=アトゥムシューゲブオシリスであり全員男神である。


古代ギリシャのヘロドトスの著作『歴史』二巻ではメンデスの聖獣は山羊という記載が登場する。実際は羊だったのを取り違えたらしい。本文では「羊」のほうも言及されており、こちらは「山羊」と違って生贄にささげられていたという。

当時現地にいた山羊はOvis Longipes Palaeo Aegyptiacaという現代では絶滅した種であり、山羊のようにスマートであった。「羊」のほうはこれと別種のヒツジ品種だったのかもしれない。

山羊が生贄にささげられない理由としてメンデスの住人がパン神を十二の神々より古い「八神」に含めていたからである、と書かれている。『歴史』のメンデス解説箇所によると、皆が見ている前で「山羊」と人間の女性が交わる事件があったという。こうして、淫猥なニュアンスを併せ持った「メンデスの牡山羊」のイメージが生じる事になった。


バフォメットの扱い編集

レヴィの「メンデスの山羊」は本人によってタロットにおける大アルカナ15番「悪魔」の中心に居る「暗黒の皇帝」を描いたものと記された。

その後に製作されたタロットデッキの一つ「ウェイト版タロット」(1909年発売)における「悪魔」の絵の元となった。


1897年に刊行されたフランス人魔術師スタニスラス・ド・グアイタの著書『黒魔術の鍵(La Clef de la Magie Noire)』に逆五芒星とバフォメットの頭部を組み合わせた図案が登場。

Sigil of Baphomet

このマークはサタン教会などサタニスト達のあいだで広く用いられるようになった。


アメリカ合衆国ではサタニストにも信教の自由が認められている。そうした団体の一つであるサタニックテンプル(悪魔寺院)は公共の場に宗教的モニュメントを置く事の是非を問うために巨大バフォメットの設置を試み、その度にマジョリティ層であるキリスト教徒たちと衝突している(2014年オクラホマの例、2018年アーカンソー州の例)。政教分離に矛盾しないものとして公共施設に十戒のモニュメント等を置けるなら、悪魔崇拝のそれも可能なはずである、という論陣を張っている。

オクラホマでの事例では最終的に裁判所が聖書・キリスト教モチーフモニュメントに違憲判決を出す形でバフォメット像を置くのも撤回、という流れになっている。


レオナールとの関連編集

『高等魔術の教理と祭儀』祭儀篇・第15章「妖術師の魔宴」において「レオナール親方(Master Leonard)」について言及されているが、単に伝承の紹介といった塩梅であり、レヴィは(彼自身が肯定的に記す)バフォメットとレオナールを明確に同一視するコメントをしていない。

この章において彼はサバトにまつわる猥雑な言い伝えを「物語」「悪夢」「夢」と呼んでおり、ゴーフリディ神父のような異端審問で告発された人々を語るにあたっても「夢想」という言葉を使っている。

レヴィはこうした話について「悪夢だけがそのような事柄を産み出すことができ、またそうとしか説明できないのである」としている。


前述のようにジョセフ・フォン・ハンマー・プルグスタルはバフォメットをグノーシス主義の一派と結びつけていたが、ヨーロッパ在来の多神教とは関連づけてはいない。

エリファス・レヴィはグノーシス派の『魔宴(サバト)』の儀式が「モプス」という結社によってドイツに持ち込まれたが、その際に「『カバラ』の山羊」から「『ヘルメス』の犬」にとって代わられ、「『メンデス』の山羊」のかわりに小さな犬の像が儀式の場に置かれたと記している。


レヴィがテンプル騎士団と同様に肯定し重んじる「秘教」側の偉人達、例えばティアナのアポロニウスやローマのユリアヌス帝の清廉さや、身につけたまま娼館に行ったり、女性と交わると効果をなくす護符「万能符」の存在をあげ、「酒池肉林の『魔宴(サバト)』は従って、真の魔術師の集会とは言えないのである」と記している。レヴィが想像する歴史においても、バフォメットとレオナールとの間に連続性は存在していないと言える。


創作における言及編集

キング・オブ・モンスターズ:国際研究機関モナーク(MONARCH)がリストアップした怪獣の名称の一つとして言及。

ダンジョンズ&ドラゴンズ:デーモン・ロードの一体として登場(『魔物の書Ⅰ』 デーモン・ロード紹介)。「獣のプリンス」の異名をとりミノタウロスのような姿をしている。


関連タグ編集

悪魔 獣人 ヤギ山羊

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