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前史編集

──当時はシリーズ化して続いて行く……という予感はあったんでしょうか?

西尾大介欠片も思ってなかった。多分、誰も思ってなかった。1年だって怪しかったのに(笑)。

(『ふたりはプリキュア』総集編Blu-ray/DVD発売記念インタビューより)


鷲尾天当初はこんなロングランではなく、半年 - 1年で終了する予定と聞かされていたんです。

(ハフポストでの2019年時点のインタビュー記事より)


プリキュアシリーズが誕生したのは、(元を正すと)かつて同時間帯で放送されていた『おジャ魔女どれみシリーズ』において、急なシリーズ延長繰返しによりスタッフの疲労が限界に達したことに端を発する。これは(同シリーズに限らず)長期シリーズでは必ず起こる弊害であるが、上記のどれみシリーズの場合、上層部の安易な命令とスタッフの段階的な交代をほとんど行わなかった(つまり、ほぼ同じスタッフを延々と使い回し続けていたこととなる)ために大問題となっていた。その結果、『どれみ』をこれ以上続けるのは限界として、『明日のナージャ』という新作アニメが制作されることになった。しかし、何故か「どれみシリーズとほぼ同じスタッフを継続すること」という条件を上層部から提示されたため、制作スタッフの疲弊はほとんど解消されなかった。


上層部はこの作品を、最低でも2年ものとして考えていたため、もし人気が出たら(前述の『どれみ』と同様に)さらに続編を作りたい、と目論んでいた。……が、現場スタッフが上層部の安易な商業主義に反発するかの如く、自分達がやりたいことだけを貫いた作品作りを徹底した(加えて、1年での終了を前提にスケジュールを組んだ)ため、玩具販促の面で芳しくない結果が続き、上層部は(現場の目論見通りに)『ナージャ』を1年で終了させてチームを解体する決断を下すこととなる(逆にいえば、安易なシリーズの継続で疲弊したスタッフを解放するに至ったともいえる)。


(『ナージャ』2年目キャンセルに関する詳細は『明日のナージャ』の項目を参照)


そして、予定していたスケジュールが突然空いてしまったことで、それを穴埋めする作品が必要になった。男児向け作品に転換することも検討されたが、引き続き女児向け作品を制作することになり、その間にその次の番組を制作するために必要なスタッフの体制(作風、スタッフ等)を整えることになった。


しかし、『どれみ』時代からこの時間帯を支えて来たスタッフ抜きで女児アニメを得意としている人材を揃えることは難しく(しかも、『ナージャ』続編の放送キャンセルが決定したのが2003年夏に入る前だったこともあり、番組を設立するまでの時間は半年強しかない状態であった)、作品のプロデューサーに任命された鷲尾天氏は女児向けアニメに関して全くの未経験者という有様であった。


女児向けアニメの経験がなかった鷲尾氏は、自分が面白いと思う要素を全面に出すこととした。彼が好んでいたのはバディものの刑事アクションドラマや不良マンガであり、それを変身ヒーローに当てはめることで「性格が真逆な女子同士がひょんなことからバディを組んでヒーローとなり、パートナーである妖精を悪の怪人から守るため、互いに軽口を叩き合いながら対人格闘を行う」という、当時の女児向けアニメでは全く前例がない企画が生まれた。


当時の女児アニメの常識からすると傍から見るとふざけているとしかいいようがない内容であったが、女児アニメの常識を知らなかった鷲尾氏は至極真面目かつ熱意を持って提案。「女子ならではというのはわからないけど、女であろうが男であろうがワクワクするものは同じはず」と信じて疑っていなかったのだ。そして、鷲尾氏はその思いを込めて、後にシリーズを代表する言葉となる「女の子だって暴れたい」の一言を企画書に書き加える。


これが現在までのプリキュアシリーズ全体における代名詞となるのだが、この時点では誰も想像すらしていなかったのだ。


この企画書に納得していなかった上層部は、鷲尾氏に対して企画の修正を促すが、鷲尾氏は、「もし企画が通らなかったらプロデューサーを降板する」と、頑として修正を拒んだ。また、『ナージャ』の急な打ち切りで他プロデューサーを検討する時間的な余裕もなかったため、本来ならボツとするべき企画を通さざるを得なくなってしまったのである


鷲尾氏自身も、プリキュアという作品はニチアサ8時半枠の女帝として長く君臨していた関弘美氏の世界観を根底から壊すこととなるため、上層部からの嫌味を受けるばかりか、『どれみ』を支えてくれたファン層からの強い反発もあるであろうと危惧していた。そこで鷲尾氏は時間がない中でスタッフを集めるに当たって、以前から親交があった西尾大介氏をシリーズディレクター(監督)に抜擢。彼を東映アニメーションの中庭の噴水前に呼出し、「俺と共に修羅の道を行くことに付合ってくれ」と頭を下げて頼んだ。頼まれた方の西尾氏も(鷲尾氏同様)女児アニメ経験は皆無で分からないことだらけであったが、その熱意に感じるものがあったのか、「分かった。もし作品が上手く行かなかったら、謝って逃げちゃおうか」と、傍から見れば物騒なことを言いつつ、この無謀なプロジェクトに参画したのである(後に鷲尾氏は「2003年プリキュア三顧の礼」と呼んでおり、このタイミングがプリキュアという番組企画がスタートした瞬間としている)。


現場スタッフには、主に西尾氏が当時SDとして手掛けていた『エアマスター』制作スタッフから有志を募る形で揃えることが出来、放送開始まで時間がない中で命懸けの制作が開始された(プリキュアが格闘戦を駆使するのはアニメ版『エアマスター』の名残ともいわれているが、西尾氏としては「当たり前のことをやっているだけ」としている。プリキュア戦闘演出やドラマの作り方においては、西尾氏が降板したシリーズ第3作『S☆S』から大きく方向性が変わったが、「全身を使った激しいバトルが主体」ということについては、現在までプリキュアシリーズ全体に継承されている)。


作品作りを参考するに当たり、鷲尾・西尾両氏は、映画『48時間』『ダーティハリー』、テレビドラマ『噂の刑事トミーとマツ』『白バイ野郎ジョン&パンチ』などを参考としたが、いずれも女児向け作品ではなかった。


こうして作られた『ふたりはプリキュア』という作品は当然の如く当時の女児向けアニメとは大きく異なる感性の作風に仕上がった。こういう作風のアニメは絶対ヒットしないことは目に見えていると思われていた(ある意味「こういう作風は絶対にヒットしないこと」を実証するための実験作という認識でしかなかったといえる)。当然ながらこの時点では、シリーズ化する予定など毛頭なかった。さらに、『ナージャ』不振の影響もあり、中部日本放送制作・TBS系列で放送中であった『美少女戦士セーラームーン』実写版がバンダイ女児向けグッズ販促メインとなっていたので、仮に『ふたりはプリキュア』が不振に終わったとしても、女児向け販促状況自体には全く影響がないと踏んでいた。それに、鷲尾氏率いる制作スタッフ陣には「企画時点での放送期間は1年であるが、あまりに人気が無かった場合は半年で打ち切る可能性もあること」が上層部から示唆されていた。『ふたりはプリキュア』が前半・後半とに分けられているのは、公式では「物語がダレないための構成」としているが、シナリオ上は半年で打ち切りに至った場合でも自然に完結しそうな形となっているため、もし打ち切りに至ったとしても、都合が良かったといえるかもしれない。


もし、『ふたりはプリキュア』が『ナージャ』以上の商業的な大失敗を喫し中途半端な形で終了してしまい、後に制作される番組以降もスタッフが揃わない等で駄作が連発するなどの混乱が起きれば、最悪の場合、日曜8時半のアニメ枠自体が廃枠に追込まれる…ということが起こりかねないのではと、当時のコアなニチアサファン層では不安が膨れ上がっていた。そんな不穏な空気の中、『ふたりはプリキュア』が2004年2月1日、遂に始まった。しかし…。


予想外の大ヒット編集

皮肉にも、前述の『ナージャ』終了に伴う混乱が原因で作られた『ふたりはプリキュア』の、あまりに斬新過ぎる内容が逆に受けて子供達の間で話題沸騰となって大人気を集めるという結果となったのだ。


おまけに、上述のアニメファン層においては「日曜8時半枠の危機」の危惧が煽られた結果として『ふたりはプリキュア』に対しては(『ナージャ』への八つ当たりめいた批判で『どれみ』ロスのフラストレーションがガッツリガス抜きさせられたことも手伝って)「まぁ『ナージャ』よりかは」という意識が生じてしまい「廃枠に追込まれるなら、キチンとプリキュアを応援しよう」という空気感も蔓延する(もっとも、『どれみ』ロスによるファンからの理不尽なプリキュア叩きは、この時期にも一応は存在していた。ただし、リアルタイムファンはこの時点では、この時間帯からはナージャ騒動もあって「卒業」しており、そうした批判は当時には一部に留まっていた。『どれみ』ロスに伴うプリキュアバッシングは、寧ろ「どれみ世代」が「子育て世代」となって、親として視聴層に戻って来た平成最後期 - 令和以降に、一部に留まっていたリアルタイム時の批判が「時間帯に戻って来たどれみ世代」に取込まれて再燃してしまったもので、これは今でも根深いものとなっている)。


そして何よりショックであったのは、プリキュア関連玩具売上が『どれみ』シリーズピーク時をも早々に上回ってしまったことである。これは誰も予想していなかったことであった。


このように、放映を開始した途端に予想外の人気を獲得して商売的にも成功を収めたため、番組のメインスポンサーであるバンダイからすれば良いことであったが、困ったのは東映アニメーション本体の方であった。ここまで爆発的にヒットしてしまうと番組を半年どころか、1年で終わらせることは難しく、続編制作が急遽決定される。これによって、番組最終回まで辿り着かせるために必死に制作しながら続編構想を練るという苦労を背負うこととなる。


スタッフ達の懸命な努力もあって、続編『ふたりはプリキュアMaxHeart』は2005年2月6日より放映された。


さらに、同年4月16日にはシリーズ初の劇場版『映画ふたりはプリキュアMaxHeart』が公開され、以降年1 - 2回のペースでプリキュアシリーズ映画作品が公開されている。


一方『ふたりはプリキュア』TVシリーズ及び劇場版制作に関しては、女児向けにまだ不慣れな状態のまま2年続けての制作であった上、当初想定されていなかった続編の急な決定も重なり、『どれみ』時代と同様に非常に壮絶なものとなった。番組制作面については、続編のタイトルが締切日ギリギリとなっても中々決定せず、鷲尾・西尾両氏が「もう一杯一杯だね」と話す程『MaxHeart』という本編内容と直接無関係のものとなってしまったり、『Max Heart』第11話における作画崩壊といった作画を整える余裕がない回が存在していることから、当時の壮絶な状況が窺える。さらに劇場版2作目では、一部の女児が泣き出すという大失態を起こしてしまう(雪空のともだちプリキュア同士の戦いも参照)。


こうして、シリーズディレクター(監督)の西尾大介氏が疲弊による限界に至っていると早々に感じた鷲尾氏は、西尾氏を監督から交代させるべきと上層部へと発案。西尾氏は『MaxHeart』の放送終了をもって監督を降板することとなった。


『ふたりはプリキュアSplash☆Star』における低迷期編集

『MaxHeart』の次番組については、新キャラを追加して初代プリキュア3年目を継続させる案もあった。実際、作品主人公が「なぎさ」&「ほのか」であることを変えるのにスタッフから反対の声があったためである(この時点で『プリキュア』には「ブランド化」や「主人公交代によるシリーズ化」といった着眼点はない)。


しかし、『ふたりはプリキュア』(続編『MaxHeart』も含む)は監督・西尾氏あっての作品であると感じていた鷲尾氏は仮に監督を交代しても『プリキュア』を続けるならば、キャラも世界観も1度白紙に戻して『プリキュア』という作品自体を「再構築」して、『プリキュア』という作品の継続を目論んだ。


さらに、この頃から『ふしぎ星の☆ふたご姫』の好感触による2期の制作決定に加え、女児向けゲームとして「ある作品」が登場した。それら作品の「キラキラかわいい」作風への話題が好感触として大きくなる萌芽が見えていたことから、『ふたりはプリキュア』でのバトル時に暗い画面で不安を煽る路線に対し、一部で「目新しいだけでいずれ限界が来るのではないか」「キラキラ可愛い路線番組が盛り返せば、プリキュアの武器となって来たハード路線は諸刃の剣となり、逆に足枷となる(仮に子供を味方に付けても親を敵に回してしまうこととなり、家庭にも見捨てられる)のではないか?」との疑問点が出ていた。


そこで、女児向けアニメ制作としては初めてとなった『ふたりはプリキュア(無印・MH)』の成果に気を良くした(このことについて、鷲尾氏は後に「油断した」と評している)鷲尾氏は「もし『プリキュア』を続けられるなら、初代や『MaxHeart』の様なやり方ではなく、本当の意味で女子達に向けた上で親達も納得&安心して見てくれるであろう、キラキラ可愛くて美しいプリキュアを本気で作り上げてみたい」と考える様になる。


こうして、当時の女児向けとしては前例がなかった「世界観もキャラも継承しないが、コンセプトだけは継承する」という試みが行われることとなった。そして、このコンセプトに基づいて生まれたのが『ふたりはプリキュアSplash☆Star』である。


ところが、『MaxHeart』最終期である第3期までは売上は好調であったが(売上は34億であり、これは第3期同士での比較なら、歴代プリキュアシリーズで過去最高)、『Splash☆Star』開始時から落ちてしまう。


つまり、前述した「ある作品」……即ち、女児向けTCAG元祖とされている『オシャレ魔女ラブandベリー』(通称:ラブベリ、2004年秋期 - 2008年)台頭である。


さらに、同時期に展開されていた『ふたご姫』好評による第2期の突入や、ライバル会社より満を持して送り出された『きらりん☆レボリューション』の登場(身も蓋もないことをいえば、この時期は良質な女児向け作品の豊作であると同時に、ライバルメーカーによって各家庭に対してプリキュアへの疑問点を問われた無意識的な対プリキュア包囲網の成立)まであいまった。


『Splash☆Star』はプリキュアシリーズの存続における使命を背負わされた作品であったが、『ラブベリ』には押しに押され、『ふたご姫』『きら☆レボ』などの下位作品からも(追付かれこそしなかったものの)追撃を許し、関連商品の売上が想定よりも悪くなってしまう(約半減)。


もともと、『Splash☆Star』は2年ものとして企画されていたが、この業績不振によって2年目をキャンセルさせられる憂き目に遭う(皮肉にも、『ナージャ』と同じ状況となったといえる。しかし、当初からスタッフ側が(スポンサーや上層部が勝手にプランニングしていた2年単位での計画を「自分達のことを欠片も考えてくれなかった身勝手な都合」と切り捨てて)1年での終了を前提に動かしていた『ナージャ』とは異なり、『Splash☆Star』は元から続編を前提とした作品であったため、ここにきて1年で終了するためのハードワークが起こってしまう事になった)。


『Yes!プリキュア5』でのV字回復編集

当然、『Splash☆Star』の翌年をどうするかについて議論され、企画会議では「もう、(プリキュアではない)別のアニメを作るべきでは?」という声も巻き起こった。この時点での『プリキュア』は、無印および『MaxHeart』の大ヒットはあまりにも斬新過ぎたために起きた一時的なブームでしか無く、これ以上シリーズを続けるのは難しいという認識が強まっていた。


通常であれば、ここで大人しくシリーズを終了させ、別の作品に切替えるのが常識であるが、『Splash☆Star』での突然の2年目のキャンセルという状況下ではスタッフを新たに招集する余裕は無かったため、『Splash☆Star』と同じスタッフ陣で繋ぎの別作品を1年間放送させ、その間に別の女児向けアニメ作品の企画準備やそれを作れるスタッフ・制作体制を整えることが決まる(この事で、ただでさえ『Splash☆Star』終了のためにハードワークを強いられていた現場は、さらに次作の準備作業まで上乗せされ、さらにハードワークな状態となってしまう)。


しかし、現場のトップである鷲尾氏は「自分の女児向けは『プリキュア』しかノウハウがない(同じスタッフでやるなら続けさせろ)」として、それ以外の作品を作ることを拒絶(この時点での鷲尾氏は、一旦リセットすればスタッフ使い捨てにもなりかねない程の多大なハードワークに突入することは予想しており、それを防いでスタッフを守るためにも「あくまでも予定通り『S☆S』2期目」を当初より希望し続けたが、商業成績という数値の前には叶わなかった。プリキュアの継続は、この時点で3年かけて多少なりとも培ってきたノウハウを流用できるため、その分、スタッフ負担を軽減できる、スタッフを少しでも守れる、という心積もりもあった)。いずれにせよ、当時はこの次作を以てプリキュアを今度こそ終了させる方針であったと同時に鷲尾Pが、これからもプロデューサーとして作品を作らせて貰えるかどうかの最後のチャンスであったといえる。


かくて再度追い詰められた鷲尾プロデューサーは、このチャンスを何とか起死回生に結び付けるため、これまでプリキュアシリーズに関わってくれていた東映グループ所属女性社員達に「どんな作品が好きか、見たいか、作りたいか?」というリサーチをかける。そして彼女達からは、当たり前と言えば当たり前であるが「チームものが良い」「恋愛のキラキラは欲しい」「主人公の手が届かないイケメンなんかいらないけど、寄り添ってくれるイケメンの存在は必須」等々、過去作の存在を念頭に置いたド定番の意見が頻出した。しかし、それらは男性向けから発展した方法論しか持ち得なかった鷲尾にとっては逆に新鮮な(そして、鷲尾天という年配男性が「女子のために」と考えていたことを「全否定」する)意見であった。


かくて、こうしたリサーチ結果を念頭に再度鷲尾プロデューサーの好みであるヤンキー漫画『ソウルブラザー』概念を組込み、再度設定レベルからリセットした『Yes!プリキュア5』が製作された。


結果として『プリキュア5』は、前述の意見を導入したことが功を奏したのか、一気に人気を回復させた。さらにラブベリへの対抗策として同年に稼働開始したプリキュアデータカードダスも、『魔法つかいプリキュア!』まで続く大長寿アーケードゲームとなり、ゲーム面でもラブベリをけん制することが出来た。また、データカードダス内で発展したモーションキャプチャー技術は『フレッシュプリキュア!』以降の3Dダンス技術に転用される利点も後に生まれた(後々になって考えるとキッズ向けアーケードゲーム競争激化発端でもあったことも忘れずに)。


これを受けてスポンサーや上層部は、本来『プリキュア5』放送期間中に予定していた別の女児向けアニメ作品企画やスタッフの段階的な準備を急遽取止め、『プリキュア5』2期目製作を指示する(事実上、シリーズ終了の危機を何とか回避することに成功したといえるが、結果的に「作品が不振で打切られたため繋ぎ番組を作り、放送中に本来のまともな作品準備をする→その繋ぎ番組が好評であったため、まともな作品準備を止めてその繋ぎ番組放送期間を延長する」という無駄なサイクルを2度もやらかしてしまったことになる。また、プリキュア売上枠が拡大することにより、バンダイ内部の作品も含めた、他の女児向けアニメの資本的な吸収及び少女漫画原作・児童向けの(純粋な)魔法少女アニメの衰退が始まるキッカケともなった)。


しかし、鷲尾はこれまでの経験総括(=こんな修羅場は作品のためにも、何よりスタッフのためにも長くは続けられない)から、この時間枠でのコンテンツ継続のためには前任者の考え通りの世代交替が必須として、前もって「これ以上プリキュアをやるにしても終えるにしても、自分(鷲尾)は『5』に関しては2期目となる『Yes!プリキュア5GoGo』までしか面倒は見ない(=別時間枠に行かせて欲しい)」と宣言しており、彼はプリキュア制作現場からはこの作品を最後に去ることとなる。


年単位交代制による安定的シリーズ化へ編集

『5GoGo』後のシリーズ作品に関する検討は、(ある意味)『Splash☆Star』以来のシリーズ存続の分岐点とも言えた。


『プリキュアの父』である鷲尾氏が現場を去ることになり、「これからシリーズをどうして行くのか」という議題に対しては2つ案があった。一つ目はプリキュアシリーズを終わらせること。もう1つは好評であった『プリキュア5』第3期を全く別のプロデューサー指揮下で作らせることであった(なお、『プリキュア5の3期目』については、約14年半後に番外作品『キボウノチカラ〜オトナプリキュア‘23〜』として実現している)。


だが、結果的にはそのどちらでもなく『プリキュア5』の3期目を作らず、『ノイタミナ』(当時は「墓場鬼太郎」)からニチアサに復帰していた、元SD・梅澤淳稔氏を新たなプロデューサーに起用した上で、今までとは繋がりがない全く新しい作品『フレッシュプリキュア!』が制作されることとなった(なお、『フレッシュ』より前の時期のプリキュアシリーズで完全新作を作られたのは、前年実績が芳しくなかったからであったのだが、『フレッシュ』の企画が始動した春頃には、当時放映中『Yes!プリキュア5GoGo』は前年の同期超えを達成した実績を有する作品であったことは強調しておく。『5GoGo』は後半こそ陰りを見せていたが、その時点では『フレッシュ』企画は既に固まっていて、内容に影響は与えていない)。


また、鷲尾氏の前任として『ニチアサ女児向け枠の母』との呼び声高く、梅澤氏ともタッグを組んだこよもある関弘美氏がプロデューサーより上の立場であるテレビ企画部長(企画)となった。


関氏には1つの悲願があった。それは「1年単位で作品(キャラコンテンツ)を切替え、日曜8:30枠での恒常化を行う」というものである。


制作したアニメ人気が出ると、(当然ながら)スポンサーや上層部は「商業上安定している作品は人気が完全に尽きるまで終わらせるべきではない」と考える。だが、現場としては1から作る必要がある作品に何年も拘束され続けてはいずれ疲弊してしまう。プロデューサーを務めていた時の関氏は『どれみ』 - 『ナージャ』に至るまで、その矛盾に悩まされ続けていた。


そんな彼女は、『無印』以降の5年間でシリーズ延長とテコ入れを繰返したことで「キャラ代替わり」が定着しつつあることと『プリキュア5』でのV字回復という実績を念頭に、自身の考えを実行出来るコンテンツであると感じていた。そして以下の改革を実行する。


  • それまで、鷲尾氏としての女児向けアニメブランドであった『プリキュア』の名称を『東映アニメーション専用女児向けバトルアクションアニメシリーズ』という解釈に変更した上で、事実上シリーズを存続させる(これは、名称および基本的なスタイルを使用した方が別の名称・設定のアニメを制作するよりは、日曜8:30枠が『ナージャ』の様な突発的な番組終了によるゴタゴタを避けられ、安定してシリーズを存続させられると踏んだためでもある)。
  • 『どれみ』や『無印』『MH』の時の様なスタッフの過度な疲弊(特にスポンサーのからの要請を主な原因とする「人的リソース消費財化」即ち「スタッフの使い潰し」)を回避するため、作品の世界観の切り替えや、シリーズディレクター・シリーズ構成・キャラクターデザインなどの交代も1年単位で実施する。その際、1年単位でスタッフやキャラが異なっていてもシリーズとして成り立たせる様にする。(つまり、作品開始から終了までを計画的にパッケージングすることを可能とする。これは関氏と梅澤氏の「師」である「ニチアサの父」籏野義文氏の教えとも合致する)。

これらを実現するため、関氏は梅澤氏と共にスタッフへと働き掛ける。この新体制で作られた初の作品である『フレッシュプリキュア!』以降からは実際に定着する。


プリキュアが表立って「シリーズ化」と「ブランド化」を意識した戦略を練ることが出来る様になったのは、ここからである。上層部やスポンサーが望む「コンテンツ長期安定化」はプリキュアをブランド化することによって実現させつつ、作品自体は1年単位で完結、主要スタッフは1年単位で交代することで現場負担を軽減させたのである。こうして『どれみ』からずっと続いていた疲弊問題は、多少なりとも緩和された。


以降のプリキュアシリーズは、『スーパー戦隊シリーズ』『平成→令和仮面ライダーシリーズ』などと同様、ニチアサ女児向け固定アニメシリーズとして正式に定着する様になった。


それ以外にも新たな試みが多く行われ(中学生層へのアプローチ・作風変化・オールスターズシリーズ開始など)、シリーズとして最も大きな転換点となっている。


よって、鷲尾氏が担当した第1 - 5作までを「第1期」、梅沢氏が担当した第6 - 9作目までを「第2期」と呼ぶことも多い(第10作目からはプロデューサーも現場スタッフ同様に頻繁に交代する様になって行くので、プロデューサーによって○○期と分類するのはやりにくくなっている)。


2012年、関氏は『スイートプリキュア♪』をもってテレビ企画部長から企画開発スーパーバイザーへと栄転したため、現場からは離れた。その翌年には梅澤氏も『スマイルプリキュア!』を最後に、後任である柴田宏明氏へとシリーズを引き継ぐ。


以上のことから、プリキュアシリーズの交代制度が定着するまでの流れは、鷲尾氏が基礎を作り、関氏や梅澤氏がその実績と(師匠である故・籏野氏の教えをベースとした)長年の経験とを踏まえて昇華させた結果とされる。


『ハピネスチャージ』における2度目の低迷期、そしてモチーフ重視の製作手法へ。編集

第11作『ハピネスチャージプリキュア!』が放映された2014年は、『Splash☆Star』以来の大きな試練を迎えることとなった。この頃には『プリティーシリーズ』(2010年展開開始)と『アイカツシリーズ』(2012年から展開開始)、それに『アナと雪の女王』(2013年公開)といった、プリキュアシリーズにとって見れば強敵といえるコンテンツが台頭。さらに、本来は男児向けとされた『妖怪ウォッチ』が予想に反して大ヒットしたことにより、プリキュアシリーズは『Splash☆Star』以来の大きな冷え込みを経験する。これに関しては、バンダイがディズニーに関する版権を獲得していることと『妖怪ウォッチ』が好調であったことを指して、後に「自社製品がカニバリを起こした」と反省した程であった。


この時の反省を踏まえ、翌年の『Go!プリンセスプリキュア』からは、子供達が興味を引きそうなモチーフを作品ごとに設定し、それを全面に押し出すことが意識される様になる。コスチュームデザインは勿論、世界観やストーリー、美術設定まであらゆる要素がそのモチーフで統一される様になった。


モチーフを表現するためにはシリーズ伝統を崩すことも辞さなくなっており、スイーツ(お菓子)というモチーフが選ばれたため、従来のバトル演出ではそれが出来ないとして「肉弾戦封印」がされた『キラキラ☆プリキュアアラモード』(2017年)や、『ヒーロー』というテーマが導入されたのを機に初めて男性レギュラープリキュアを登場させた『ひろがるスカイ!プリキュア』(2023年)、動物をモチーフとしている故に怪物化した動物への攻撃を防ぐことを表現するため、その相手に対して捕獲を目的とするチェイスアクションを主体とした『わんだふるぷりきゅあ!』(2024年)はその典型でもある。


現在の状況編集

シリーズ自体の評価は現在も安定しており、特に映画売上は(近年のアニメ映画ブームの恩恵もあってか)好調であるものの、マネタイズ主軸を「玩具販促」とする方針から徐々に転換を模索している向きが見られる。


玩具系グッズ売上高は『HUGっと!プリキュア』の101億円(上半期のみであると51億円)を計上したのを最後に売上高が低調続きの状態となっており、『ヒーリングっど♥プリキュア』以降は少子化やコロナ禍の影響もあり上半期売上げが40億円未満状態が続いている。かつて玩具売り場の棚の一等地にあったプリキュア玩具についても、20周年を迎えた2023年頃には『リカちゃん』や『すみっコぐらし』などに棚を明け渡すことも多くなっているという(参考)。


この商業的不振について、バンダイ代表取締役社長(当時)を務めた川口勝氏は「TV放送のみやればすべて上手く行くという時代はなくなって来ており、色々と工夫をしないといけないでしょうし、これまでと同じことをやっていれば同じ様な売上がついて来るという状況ではないと思っています」とコメントしている。


これはプリキュアシリーズだけの話ではなく、「女児向け玩具を販促するためのTVアニメ」という在り方自体に要素的限界が出ていることの指摘でもあり、他のTVアニメ連動コンテンツも女児向け分野ではコロナ禍を境に軒並み成績を落としている。


女児向けおもちゃは大人向けの需要を獲得することが特段難しく(プリティーシリーズのように最初から大人向け商品の展開を視野を入れていたものに関しては例外)、仮面ライダーシリーズのようにプレミアムバンダイでさらに収益を増やすことが難しいのが特に挙げられる。現にS.H.Figuartsのような大人向け商品でプリキュアシリーズを展開したものの、思ったより売り上げが伸びなかったといった現象が起きている(そういう意味ではアイカツやラブライブなども同じといえなくもない)。


こういう時勢もあってか、2019年にバンダイ・トイ事業部は従来の「ボーイズトイ」「ガールズトイ」男女分けを廃止して統括している。


このためか、現在ではYouTube動画及びテレビ番組内でのコラボや、キッズコスメ『Pretty Holic』を立上げるなど、小学生以上の視聴者を取込むことを目指している。


『Pretty Holic』は2021年より立上げられたが、玩具とは逆に右肩上がりの成長が続けられており、その後のアニメ本編にも『Pretty Holic』要素が販促要素としてかなり前面に取扱われている。プリキュアシリーズマネタイズにおける転換点を象徴するブランドでもある。


玩具以外のシナジーとして近年力を入れつつあるものにショーイベントがある。


プリキュアシリーズのショーイベントの始まりは初代からあり、劇団飛行船によるマスクドミュージカル(着ぐるみ舞台劇)がそれである。これは現在でも『プリキュアアドリームステージ』の名前で途切れなく続いている。


その後、2010年代になると女児向けアイドルアニメ黄金期となり、他作品ではライブイベントとのシナジーでコンテンツを盛り上げるのが主流となったが、プリキュアシリーズでは長らくジャンル違いということもあってそのやり方に手を出していなかった。


しかし、2018年よりその年の放映作の曲を中心とした『プリキュアLIVE』が始まり、コロナ禍の2020年を除いて毎年続く様になる。2019年からは最終回放映後に後日談の舞台劇とライブと声優座談会をセットで行う『プリキュア感謝祭』も始まった。これらは現在では公演から暫くの間は配信でも鑑賞できるようになっている。


2023年にはシリーズ20周年記念としてさらに数多くのイベントが企画され、どれも収益的には大成功している。ただ、これはプリキュアイベント成長期がコロナ明けとタイミングが重なったことが大きく、逆にコロナ前からグリーディングイベントとのシナジーで人気を博していた『ガールズ×戦士シリーズ』はコロナ禍でそれが出来なくなってシリーズ打ち切りの憂き目に遭っている。


20周年前後での時期は『プリティーシリーズ』、『アイカツシリーズ』も休止状態であり、この時期でのプリキュアシリーズのイベントでの成功は残存者利益の側面が極めて大きい。これからどの様に成長させて行くかは課題である。


ショーイベントの新しい試みとしては、2.5次元舞台劇『Dancing☆StarプリキュアThe_Stage』(2023年)もある。全メンバーを高校生男子という設定にすることでイケメンアイドル好きの女性層をファンに取り込むことを狙っている。これも一定の成功は収めており、2025年には続編の公演が決定している。


一方で、メインシリーズの内容面でも『ひろがるスカイ!プリキュア』を境に変化が見られている。春映画の枠が無くなったのを機に、初期メンバーを全員揃える期間を長めに設定したり、悪役会議を省略して日常エピソードを増やしたりするなどのテコ入れが行われている。


このように、シリーズ存続のための模索は現在も続けられている。



総括編集

今となってはプリキュアが1年ごとにリセットを繰返すことは当然のことと世間に受入れられているのだが、鷲尾時代は世代交代に困惑する視聴者も多く、作品を惜しむという観点からも残念がる視聴者も多かった。梅澤時代もその傾向はあったが、2011年頃にはほぼ定着したといえる。実際、時代に合わせたスタイルへのシフトに対応しやすくなり、その後のブランド確立も相まって「鷲尾Pは生みの親、梅澤Pと企画の関氏は育ての親」とする声も多い。


現在では女児向けアニメの中では最長シリーズとなっている(同一の世界観では、未だにアニメ版の『美少女戦士セーラームーン』シリーズが最長である。それを除外した場合で見ても、最長は『おジャ魔女どれみシリーズ』である)。


2010年代に入るとジュエルペット、アイカツ、プリティーシリーズ、ガールズ×戦士シリーズなどの登場によって、女児向けコンテンツでも「キャラと世界観の世代交代をしつつブランドは共通する」ことはごく当たり前になっているが、それまでは「男児向けとは異なり、女児向けコンテンツは(もしキャラを変えるなら)1からやり直さなければならない」という考え方が常識であったのである。


なお、各作品の関係者、特に担当声優に対しては「人気次第ではシリーズが終わるかもしれないので頑張ってくださいね 」と発破をかけるという。ただし、これはどのシリーズ作品にもある当然の危機管理による忠告であり、同じニチアサである仮面ライダーシリーズや戦隊シリーズに出演する役者達に対しても同じことを言われるという。


スポンサーの影響力の強さも相まって、(見方を変えれば)子供向け番組というのは常に崖っぷちの中で作られているのだと言えるだろう。


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