概要
宮崎駿原作の漫画およびアニメ『風の谷のナウシカ』に登場する、強大な力を持つ巨大人型人造生物。
遥か昔に突如出現し、「火の七日間」と呼ばれる最終戦争で世界のほとんどを焼き尽くした。
尺の都合上からか、漫画版とアニメ版とで巨神兵の扱いは大きく異なる。
アニメではイメージで映された光る棒か槍のようなものを持った赤黒い人影の姿か、身体が溶けかけた不完全な形態しか映されなかった。しかし、漫画版および短編特撮映画『巨神兵東京に現わる』(以下「短編映画版」)では完全な個体の姿が描かれており、肩から背中にかけて発光する突起状の部位が突き出した(短編映画版では胸にもある)細身で筋肉が剥き出しになったような赤褐色の胴体、ヘルメットのような丸みを帯びた頭部、下顎を覆い隠してしまうほどの上顎の長い牙…などの特徴がある。
また、資料によれば男性器など「不要にも思える」器官を持つのも生物らしさを際立たせている。
とこの記事には元々書かれていたが、それは同人誌にて描かれた設定資料である。
その他にも巨神兵は二次創作や誤解された設定が多く、半ば言ってないセリフシリーズになっている側面も。
アニメ版
序盤から終盤にかけて、本作品の物語の根幹に大きく関わる重要な存在として登場する。
とてつもない巨体と圧倒的な武力によって世界を焼き尽くした恐るべき神として語られており、人々は世界が滅んだ日の出来事を「火の七日間」として伝承で残している。
冒頭やミトとユパの語りのシーンで見られる、燃え盛る街並みの中を炎に照らされながら巨神兵の群れが進軍する光景は、ほんの数秒間だけであるにもかかわらず視聴者に絶大な印象を与えた。火の七日間で世界を焼き尽くすと巨神兵は全て死んで骨(劇中では化石と呼ばれる)となってその一部は千年経って尚、大地に横たわっており、オープニングや冒頭でもその頭蓋骨などが描かれている。
だが、全ての巨神兵が死んだわけではなく、地下の遺跡の形で起動前の状態で眠り続けていた個体がいた。原作漫画版でもアニメ版でも、この個体を巡って物語は動く。
劇中では、工房都市ペジテが地中に眠る遺物を掘り起こしている際、偶然生きたままの巨神兵の繭が発掘され、この情報を掴んだトルメキアが巨神兵強奪のためにペジテに侵攻を行う。
その後、トルメキア軍は航空機(超大型船)による本国への巨神兵の空輸を試みたが、移動中に何らかの理由で蟲に対して攻撃を仕掛けてしまい(巨神兵の重量が飛行の妨げになることがクシャナの台詞で触れられており、これが原因で蟲のテリトリーを犯した可能性が示唆される)、逆に航空機が蟲に襲われてしまう。
結果、航空機は操縦不能に陥り、ナウシカが住む風の谷に墜落。ここからナウシカたちの物語が始まった。
その後、墜落の報を聞きつけたクシャナ率いる部隊が風の谷に到着し、「航空機による本国への空輸」から「墜落した現地での巨神兵覚醒」へと方針を切り替えるため村を占拠。巨神兵も風の谷の城へ運び込まれる。
クシャナは当初、巨神兵を利用して腐海を一掃するために培養していたが(一方、トルメキア本国については「本国の馬鹿共は巨神兵を玩具にしようとしている」という大意の言葉をクシャナが口にしていることから、単なる絶大な威力をもつ兵器として用いようと巨神兵を欲していたのがわかる)風の谷に押し寄せる王蟲を迎撃するため、仕方なく未熟のままの巨神兵を覚醒させてしまう。
覚醒した巨神兵は王蟲の群れに対してプロトンビームを放つ。放たれたビームは核攻撃と同等の破壊力を有していたが、それでも無数に押し寄せる王蟲に対しては一時凌ぎにしかならず、その波を止めるには至らなかった。
そして、巨神兵は再度ビームを放つも、未熟な状態で覚醒させた身体が負荷に耐えきれず腐り落ちていき、ついに絶命してしまう。
この際にクシャナが言い放った「薙ぎ払え!」や、クロトワの「すげぇ…世界が燃えちまうわけだぜ…」「腐ってやがる…早過ぎたんだ」というセリフはあまりにも有名。
ラストシーンでは骨格だけになった巨神兵の姿が確認できる。
劇中の描写だけを見ると、「謎の古の技術によって生み出された巨大な化け物」としか言いようのない扱いになっているが、「火の七日間」で世界を蹂躙するシーン、そしてとてつもない威力を誇るビームで王蟲の大群を薙ぎ払うシーンは、ジブリ作品の中でも屈指の名場面として語られている。
映画冒頭の「火の七日間」で世界を蹂躙するシーンでは、
- 上半身のみ写り、複数体で縦に並び進むカットで、かすかに地上に建物の残骸が見える程度の大きさの頭部に目以外の発光体がある巨神兵。(タイプM)
- 全身を写し、複数体で横に並んで地上を踏み鳴らすようなカットで、巨神兵は全身写っているにもかかわらずその足元の地上の建物はほとんど全く見えず(破壊され焼き尽くされてる超高層ビルの残骸などが映っているがこれは「巨神兵の足元」ではなく、「足元の遥か先」である)、地面が微かにだが丸みを帯びているため、地球規模の大きさであると思われる。(タイプL)
の少なくとも2種類の大きさの巨神兵が確認でき(タイプ名は便宜的につけたもの)、巨神兵に等級があることがわかる。また本編でも
- 未成長の状態で発進し、王蟲の大群をなぎ払い腐り落ちた個体。恐らく映画冒頭に登場する巨神兵よりも小さいと思われる。(タイプS)
- 朽ち果てた巨大な頭蓋骨となっている個体(タイプM?)
- ツノの生えた頭蓋骨の個体(タイプM?の特殊個体)
の3種類が登場しており、書籍、空想科学読本では王蟲を薙ぎ払ったものと同サイズの巨神兵に7日で地球を焦土に変えさせるには数千体が必要と考証されているため、大きさに合わせ役割を分担していたと思われる。さながら、タイプSは国同士の争いで使える程度の威力、タイプMは核兵器のような抑止力として使える威力、タイプLは戦争ではなく、人類全員での集団自殺。地球破壊特化というところだろうか(完全覚醒した場合、タイプSでも劇中以上の力であった可能性も大いにあるため一概には言えないが)。
ちなみに火の七日日間で世界を蹂躙する巨神兵達はどれも自身の身体ほどの長さがある杭、あるいは槍のような、発光する棒状のものを右腕に杖のように握りながら燃え盛る大地の上を整然と歩いていく。
映画冒頭では繁栄を極めた旧世界の巨大科学文明が巨神兵を造るも、それに滅ぼされた様がタペストリーの形で解りやすく描かれている(絵コンテでは「人は造化の神をまね巨神を造った」「ひとたび造られると巨神は火を吹き荒れ狂い、もはや誰もそれを止めることは出来なかった」とある)。
後述するように原作版では人間かそれ以上の高い知性をもっていたが、アニメ版では人間の言葉をある程度は解している様子はあったものの、そこまで高い知性をもっていたかは不明。
原作
以下は物語の核心に迫る内容なので閲覧に注意してください。
上述の通り、アニメ版ではただの怪物でしかなかった巨神兵だが、原作となる漫画版ではより詳細な成り立ちや活躍が見る事ができる。
その正体は、1000年以上前に人類によってある目的の為に創造された巨大な兵器である。
物語終盤、「火の七日間」以降の世界が、世界再建を目的に生み出された浄化の神・「墓所の主」によって司られてきたことが明かされる。
墓所の主がナウシカに語ったのは、旧世界末期の惨状だった。
有毒の大気、凶暴な太陽光、枯渇した大地、次々と生まれる新たな病。数百億の人間が、生きるためにどんなことでもする恐慌状態の世界。
そんな環境下でも世界中で戦争は続き、もはや人間同士での調停が不可能と判断した当時の人々が「圧倒的な武力を用いて人類全ての争いに終止符を打つ」、その為に創造された人工の「調停と裁定の神」、それが巨神兵だったのである。
ナウシカの生きる時代でもその圧倒的な力は健在。その巨体で街や山を破壊し、口から放出されるプロトンビームは核兵器に匹敵する威力を誇った。
また、額から威力が低いプロトンビームの放出も可能であり、さらに身体から羽らしきものを生やして空も飛ぶなど、どこまでもナウシカたちの持つ技術では考えようのない存在であった。
「火の七日間」は前述で述べた人類の争いに対しての裁定の一環と見られ、メイン画像のように人類と高度に発達した文明に修復不可能なほどの壊滅的大打撃を与えた。
アニメ版ではオープニングで焼き尽くされた地平線の彼方に去っていく巨神兵がその前の描写のように整然と列をなさず、少し体勢を崩しており、彼らが力尽きることを示唆するかのような描写があるが、漫画版でも骸が残っている描写があるため、こちらも同様に「火の七日間」後には生物としての死を迎えたと思われる。
劇中では、アニメ版と同様にペジテ市の地下深くから発見され、これが発見されたことが新たな争乱の火種となるのも同様である。ただし、巨神兵を利用する目的が大きく異なっており、トルメキア軍が土鬼諸侯国連合の聖都シュワへ侵攻するための最終兵器の役割が期待されていた。
更に、アニメ版にはなかった「巨神兵の骨格と繋がった箱(発見した工房技術者は巨神兵の制御装置と考えていた)」と「秘石」が付いているなどの差異もあり、発見直後の巨神兵はまだ起動前で「肉」がついていなかった。
この秘石を巡って物語が大きく進み、紆余曲折を経て孵化した時、巨神兵は秘石を所持していたナウシカを自身を産み出した正統な母親として認識。認識後は彼女と行動を共にするが、話し方や思考力は幼児のそれと同程度のものしかなく、抑えられない破壊衝動故かナウシカに接触してきた兵士をプロトンビームで殺害して楽しんだり、ナウシカに咎められて怯えるなど精神的に未熟だった。
しかし、彼女に「オーマ」という名を与えられたことで覚醒、知能が飛躍的に向上。高い知性を持つと共に裁定者たる自覚を示し、巨神兵が本来持つ目的と能力を多分に発揮してナウシカの旅の助けとなった。
最後は、ナウシカの意に従って墓所の主を死闘の末に倒し、ナウシカに看取られながら生命活動を終えた。
劇中では、ナウシカが抜け落ちたオーマの牙に「東亜工廠」との烙印が押された商標を見つけており、過去に存在した組織(おそらく字体からして日系企業)が製造した可能性が示唆されている。
巨大ロボットとしての巨神兵
漫画版で巨神兵と呼ばれるもののほとんどは古代文明の「エンジン」によって稼働する巨大ロボット(の遺跡)であり、人間が乗り込むコックピットの描写などもある。このエンジンこそ作中に多数登場する飛行船の動力であり、ペジテ市が巨神兵を発掘した動機である。
しかし、劇中で活躍する人工生体兵器としての巨神兵(オーマ)はエンジンもパーツも出土しない、巨神兵としては異例の存在として語られている。
時折「巨神兵の設定の変遷」などと語られ誤解されることもあるが、このようにロボットの巨神兵と生体兵器としての巨神兵は作中での呼称が分けられていないだけで、設定は明確に区別されているのである。「巨大な神の兵」という呼び方から推測すれば、オーマのような人工の神としての巨神兵こそが本来巨神兵と呼ばれたものであり、ロボット型には別の呼び名があったのかもしれないが詳細不明。
巨神兵の製作秘話
当時のアニメ版の作画担当の一員として『新世紀エヴァンゲリオン』でお馴染みの庵野秀明も携わっていた。
巨神兵の少し前かがみでゆっくり歩行するデザインは、庵野秀明が連日の徹夜でスタジオを亡霊のように歩行する姿から作り出されたとされている。
また、エヴァンゲリオンの素体のデザインは巨神兵へのオマージュであるとも言われている。
2012年に公開された短編映画『巨神兵東京に現わる』にも登場。こちらでは突如現れた災厄として描かれ、東京を焼き尽くすが、その正体や背景は一切語られない。ちなみに、この短編映画は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の前座として上映されており、さらに劇中のナレーションは、綾波レイを演じている林原めぐみであった。
関連イラスト
タグはそのものを描いたイラストのほか、巨神兵を彷彿とさせるイラストにも付けられる。
あまりにも印象に残る出番だったためか、他のジブリ作品同様パロディも盛んに行われている。
関連タグ
風の谷のナウシカ 火の七日間 オーマ ナウシカ プロトンビーム
巨神 巨人 核兵器 オベリスクの巨神兵 ロボットの神様 ゴジラ
ロボット兵:いわずもがな。
ギャオス・ギャオスハイパー・邪神イリス:ガメラの敵怪獣達。平成ガメラシリーズでの生み出された背景・理由が巨神兵と類似しているだけでなく、同シリーズにはシン・ゴジラ同様に庵野や樋口なども直接的・間接的に関与している。口からレーザー光線状の攻撃を発射する。徳間書店が関係しているのも同様。
徳間ガメラ:巨神兵同様に古代文明の遺産であり、高い知能や飛行能力、ロボット的な要素に少女との交信等、共通点が見られる。