概要
金田一少年の事件簿ノベルス第1巻『オペラ座館・新たなる殺人』の登場人物。
CV:平田広明(劇場版アニメ)
人物
劇団「幻想」所属の若手スターで、オペラ座館オーナー黒沢和馬の娘・黒沢美歌の元婚約者。27歳。
男でも目を見張るほど美しい風貌を持つイケメン…だがそれは表の顔で、裏の顔は愚劣かつ外道。
女癖が悪く、かつての劇団員やファンに手を出しているという黒い噂が絶えない。黒沢美歌も能条が他の女性に乗り換えたのが原因で自害した、などという噂まである。
誰彼構わず罵り、妻の能条聖子の死に対してもわずか1日で些細な事とばかりに吐き捨て、師である黒沢和馬にすら暴言を吐くその姿は、金田一一に醜悪さを感じさせるほどのものだった。
3人目の標的としてアイスピックのような刃物で襲われ、自身がクリスティーヌの恋人ラウルに加えて演じていた、大道具係のジョセフ・ビュケに見立てられ首を縄で絞められかけるが、金田一らの介入で事なきを得た。
ネタバレ
「おれは美歌を愛していたんだ。美歌は、おれの人生のすべてだった。その気持ちは、今も少しも変わっていない」
「黒沢先生。どうでしたか、おれの演技。少しは、巧くなりましたか?」
オペラ座館・新たなる殺人の真犯人「ファントム」その人である。
上記の様な愚劣かつ外道な姿は全て演技であり、本来は黒沢美歌への愛と、黒沢和馬への尊敬を抱いた誰よりも実直な青年だった。
彼が下劣な男を演じていた理由…それは4年前彼の下に届いた黒沢美歌の遺書が始まりだった。
美歌は真上寺聖子(真上寺は旧姓)の「能条が欲しい」という目的で、彼女にけしかけられた緑川由紀夫・滝沢厚に、口にするのも憚られるおぞましい仕打ちを受けたのだ(ここにはあえて記載しない。ヒントはビデオテープとこれとこれ。さすがに映倫に引っ掛かったのか、劇場版では仕打ちの内容が差し替えられている)。
そして能条は4年の時を経て、聖子、緑川由紀夫、滝沢厚の3人を殺害した。
殺人は決して肯定されるべきではないが、彼の気持ちを思うと他に選択肢があったのだろうかと思えてしまう。
最後は金田一によりその本性を暴かれ、「ビデオテープを誰にも見せずに始末する代わりに真実を話す」という約束を守った剣持勇にテープを渡され、それを川に破棄。
4年間続けてきた『悪党・能条光三郎』の演技を終えて、舞台から降りていった。
裁判第一審では無期懲役刑が科される予定らしく、黒沢和馬は能条の社会復帰を心より望んでいる。
原作ノベルスでは、解決編で真相を話す際に美歌の件を思い出して泣きじゃくり、「聖子を抱いて寝るのがケダモノを抱いているようで非常に嫌だった」と告白し、泣きながら警察に身柄を拘束された。また、酒をどれだけ飲んでもちっとも酔えなかったこと、何を食べても味を感じられなかったことも判明し、心はもちろんだが、身体も相当ボロボロだった様子。
終盤には金田一が彼の素顔に気付くきっかけになった、真久部画伯が描いた彼と美歌が寄り添う様子を描いた肖像画が登場している(挿絵にも書かれ、非常に穏やかな顔で描かれていた)。
アニメ映画ではそれらのエピソードはカットされ、『たまに泣き笑い顔になる』『たまに不自然な表情を見せる』(崖から飛び降りる演技をする、鬼畜を演じたかと思えば美雪に笑いかける、被害者3人が死んだ後で「俺は勝った、勝ったんだー!ハッハッハッ」と泣きながら喜ぶ)など、非常に情緒不安定な様子が表現された。それはそれで鬼畜に見えるから恐ろしい。また、ふとした時に、目を見張って「きょとん」とした顔をする。
帰省すると見せかけて滝沢のアパートに向かう様子、逮捕される前に一度だけ講演し、控室で金田一と話し合う様子も描かれた(後者のシーンには印象的なやり取りが登場する)。
美歌と聖子以外にも、彼を気に掛ける女性が2人ほど登場する(そのうちの1人――『もう1人のファントム』は、彼の命を救った人物である)。物語前半に彼が非常にモテることを皮肉る人物がいるのだが、本来は女癖の悪い人物というよりは、助けたくなってしまう人物なのかもしれない。
さりげなく「オペラ座館・第三の殺人」に初代ファントムと共に1コマだけ登場している。
スピンオフ「犯人たちの事件簿」の第三の殺人回には登場せずに終わり、このスピンオフのあの迷台詞は言わずに終わった(やることが多かったのは鏡を運ばされた緑川と滝沢なため、能条があの台詞を言うとしたら「ゴール(滝沢のアパート)までの道のりが長い」かもしれない)。
地獄の傀儡師とは関わりがないが、地獄の傀儡師と彼の高校生時代の友人に同じトリックを使われたことがある。
また、別のノベルス作品で死体の硬直の仕方を例に出された。
この事件以降、本来は実直な心優しい性格でありながら外道を演じ、自分を被害者側の人間と思わせた上でそのまま命を絶とうとした犯人たちも現れ、彼らを「能条タイプ」と呼ぶ読者がいる事から、能条光三郎が読者に与えた影響は大きいと言える(余談だが、彼が登場した時期辺りから、俺様・ツンデレが流行り出している)。
4年間演技を続けてきた執念、終盤まで登場人物のほとんど(と読者)を騙し、その本質が高潔だったギャップから『金田一少年』の中でも人気の高い犯人である。
ちなみに声優の平田広明は、TV版のいつき陽介を演じている。
能条タイプと逆能条タイプ
「本来は優しい心を持ちながらも復讐の完遂の為に嫌われ者を演じる犯人」は基本的に「金田一少年の事件簿」に登場し、他の「推理漫画御三家」である「名探偵コナン」や「Q.E.D.」、その他推理作品にはほとんど登場しない。これは「金田一」が本格ミステリーの要素たる、フーダニット(誰が犯人か)・ハウダニット(どんなトリックを使ったのか)・ホワイダニット(動機は何なのか)の釣り合いを重視する作品だからと考えられる。
「コナン」や「Q.E.D.」などは、基本解決編で事件(騒動)の全貌を一気に説明する場合が多く、「コナン」に至っては、原作者が殺人ラブコメ(エンタメ作品)と称しているため、ホワイダニット(動機は何なのか)をかなり簡略している。
また「能条タイプ」は、推理漫画では扱いがかなり難しいタイプの犯人である。今にも殺されそうな性格の悪いゲストキャラが生き残っていたら(特に負傷するだけで生き残っていたりしたら)、それだけで怪しいからである。能条の場合は作者が「読者に能条を最後の標的に見せかける」という巧妙な展開を見せるなどして、犯人だと予想しにくくする工夫を見せている。
ちなみに同じく能条タイプである、鬼火島殺人事件の犯人も、ド肝を抜くトリックで、犯人候補から一度外れる芸当を見せた。
本稿では反対の逆能条タイプについても解説する。
能条タイプの特徴
普段は悪態や他人を貶すような言動や行動をとることが多く、登場人物(と読者)のほとんどから反感を買い「殺されてもしょうがない」と思われる。しかしそれは周囲を欺くため・大切な人の名誉を守るため・復讐すべき被害者の懐に潜るため・無関係な人間を巻き込まないための演技であり、実際は善良で心優しい性格であり、それゆえに復讐に走ってしまったことが判明する…という経緯を持つ犯人を指す。
例
- 犯行の動機が大切な人を殺された、もしくは自殺に追い込まれたことに対する復讐である。
- 手にかけた被害者は悪人で、過去に起こした事(いじめや性暴力・保身のための殺人等)に関しての、反省をしていない(中には「再犯上等」・自己正当化・犯人に詰め寄られてもなお言い訳する者までいる)。
- 復讐を果たすまで外道や小悪党を演じ、一に嫌悪感を抱かれ、第三者と読者からも恨みや反感を買ってしまう。
- 無関係の人物は絶対に手にかけない。
- 共犯である人物を守るため、自分1人が犯人だと最後まで貫き通す。
- 復讐を果たした後は責任を取るため、自殺しようとする。
- 劇団のスターや座長・会社の社長・映画監督など、組織の主戦力やトップであることが多い。
- 恋人の恥辱を映したビデオの始末、友人への伝言や見舞い、亡くなった恋人の葬儀など、事件後に一たちに頼み事を託すことがある。
逆能条タイプの特徴
上記の能条タイプとは対照的に、普段は優しい態度をしているが、真犯人であることが判明すると開き直って狂気的な言動をとったり、自分勝手で滅茶苦茶で私利私欲な動機であるため、能条タイプの犯人とは逆に全く同情されない。ある意味人間らしいとも言え、『コナン』ではよく扱われる。
金田一37歳の事件簿では、動機が復讐ばがりではなくドロドロしたモノが増えており、それに合わせて逆能条タイプも増加傾向にある。
例
- 動機は私利私欲、過去の事件に関しての口封じ等、全く同情できない自分勝手な動機である(※一応復讐が目的の者もいるが、無関係な人間も殺したり、大怪我を負わせたりしている)。
- 加えて被害者に落ち度はない(※一部を除き、やることやってるヤツらもいる。だがどっちもどっちである)。
- 殺害方法が残忍(顔を潰す、四肢を切断する、心臓を抉り取るなど)。
- 利用できるものは何でも利用する(テロリスト・恋人・共犯者など)。
- 正体が判明するまで一に好感や哀れみを抱かれ、一たちと友好的に接したり、情報提供・検死等で一に協力したり(嘘の情報を提供する場合もあり)、危険から守ったりする。
- 不動高校の教師、一や美雪の友人、友人の恋人など、一たちの身近な関係者や協力者であることが多い。
- 一や美雪など無関係な人物に対しても、トリックや過去の秘密に気付いたり、計画の邪魔になると判断すれば容赦なく殺す(もしくは殺そうとする)。
- 真相解明後に自分は悪くないと開き直ったり、共犯者に罪を擦り付ける等悪あがきをするが、最期は自殺するか、他人に殺害される。