ファイブスター物語
ふぁいぶすたーすとーりーず
概要
四つの恒星系と一つの遊星で構成されている「ジョーカー太陽星団」を主な舞台に、科学文明がその頂点を極め緩やかに衰退を始めている世界で、光の神・アマテラスとその妻である人工生命体ファティマ・ラキシス、そしてファティマと共に最強の人型戦闘兵器を駆る戦闘人間・騎士(ウォーキャスター)たちの、数千年に及ぶ光と影の歴史、文明と人々の営みの因果と帰結を描く壮大な叙事詩。
1984年に放映されたTVアニメ『重戦機エルガイム』の世界観と物語をメカニックデザインとキャラクターデザインを務めた永野護が再構成・発展させたものをベースとしている。
ジャンルとしては一応、サイエンスフィクションに分類されているが、実際には欧米で言うサイエンスファンタジーにあたり、作者である永野自身は「おとぎ話(神話)である」と公言している。
そのため、作中には時空を超える絶対者としての神や悪魔、天使や幽霊、妖怪や魔物といったものまで登場するほか、メタ発言や楽屋オチまで飛び出すゴッタ煮のような世界観となっている。
宇宙と次元をまたにかけた何世代にも渡る壮大な物語もさることながら、作品を象徴する存在とも言える人工生命体ファティマ(オートマチック・フラワーズ)と科学の様式美が生み出した究極の人型戦闘兵器ゴティックメード(2013年の設定改訂前はモーターヘッド)の繊細で得も知れぬ美しさもまた、本作を楽しむ上での大きな魅力となっており、ガレージキットやプラモデルとしていくつも立体化されている。
本作は、何世代にも亘る人々の歴史が記された作中世界の年表が連載開始時以前より公開されているのが特徴で、読者はどのような出来事が起こるかを予め理解して物語を俯瞰することになる。本編の展開は第1話から時間の流れに従って進められているが、所々に読者に印象付けるまたは重要な伏線として過去や未来の場面が挿入される。例えば物語は第1部のエンディング部分から始まり、再び第1話の冒頭に戻りエンディングに向かって物語は進んでいく。
しかし年表で歴史上の大きな出来事が明らかになっていても、登場人物がその中で「何を考え、どのように生きたか」までは年表には記述されていない。歴史の表舞台や裏舞台が描かれることにより、歴史の詳細が明らかになっていく(ただし、それまでの年表をはじめとした設定の細部が修正されることは時々行われており、新設定では年表自体が大きく修正された)。それらをつまびらかにしながら歴史という物語を動かし、世界の姿を再構築して提示する手法を本作品はとっている。
作品の経緯
テレビアニメ『重戦機エルガイム』でキャラクターデザインとメカニックデザインとして抜擢された永野護は、デザインを練る上で作品上には出ない膨大な裏設定の創作も行っていた。これらが後に角川書店から出版された『重戦機エルガイム』のムックにて、登場人物やメカニックの設定として公開したことからこの作品の企画が始まる。その背景設定「The Five Star Stories」は、歴史年表と数々の設定・多数のイメージボードなどで構成されていた。
1985年春の『エルガイム』終了後、永野と角川書店は「The Five Star Stories」の漫画化を構想し、永野の趣味のロックを題材とした習作『フール・フォー・ザ・シティ』(『FOOL for THE CITY』、略称『FFC』)の発表を経て、1986年4月号より『月刊ニュータイプ』上で『ファイブスター物語』の連載が開始された。なお、『FFC』の登場人物が『ファイブスター物語』の年表に登場しているなど、両作は世界を同じくしている。
以来本作品は作者がネトゲにハマったり映画作ったりなど様々理由で休載を挟むも続行中である。
1989年3月11日には原作の第1話(単行本第1巻)をアニメ化した劇場版が公開された。
近年は作者がアニメーション作品『花の詩女ゴティックメード』(略称GTM)を製作するとして2004年12月号をもって休載していたが、GTMは2012年11月1日に全国劇場公開を果たした後、『月刊ニュータイプ』2013年5月号から本編の連載が9年ぶりに再開。物語の筋は休載前からの引き続きだったが、モーターヘッドがゴティックメードに差し変わるなどのデザイン・名称・設定の大改変がなされた(この設定の大改変それ自体も物語の出来事の一つとしてメタ的に組み込まれている)。
基本設定
- ジョーカー太陽星団
イースター、ウェスタ、サザンド、ノウスの4つの太陽系と、移動性太陽系スタント遊星によって構成され、物語の主な舞台となる世界。
「本作は飽くまでお伽話であってSFではない」という作者の意図から、星団の全ての恒星と人の住んでいる惑星は、現実の地球と同じ公転周期と公転速度を持つといった敢えて不自然な設定が採用されている。また、本作そのものが主人公アマテラスの「神話」であるという観点から、神や悪魔は登場しても特定の宗教と呼べるものは存在しない。
半永久機関や恒星間飛行、テレポーテーションの実現、大陸すら吹き飛ばす大量破壊兵器と自己再生機能をもつロボット兵器の製造など、その科学・技術力は現在の地球と比べて遥かに高いレベルにあるが、それらの多くは星団暦よりも数千年前に構築された技術の残滓に過ぎず、緩やかに衰退している途中にある。
ジョーカーの人々は成長・老化の速度が現実の人間に比べて遥かに遅く、成人するまでに90年かかり、その寿命は約300歳(平均寿命は280歳)となっている。そのため修養や学習につかえる期間がとても長く、ジョーカー星団の科学技術の発展の遠因となっている。
ジョーカーにおける人間同士の戦争は基本的に領土争いであるため、バスター砲や核兵器のような土地まで破壊・汚染してしまうような大量破壊兵器は用いられず、モーターヘッド(ゴティックメード)同士の近接白兵戦を中心として行い、戦闘はお互いに損害を必要最小限に留めることが通例である。
- 騎士(ウォーキャスター)
本作における騎士とは超人的な身体能力を持ち、『戦争の全権代理人』として戦闘兵器(MH→GTM)で戦うことを生業としている人々。
その力は時速数百キロという速度で走り、コンクリートを素手で破壊し、銃弾やレーザーさえ目視で回避できる。強力な騎士ともなれば素手のままでも勢い良く振れば衝撃波によって常人の兵士たちを薙ぎ払い、ましてやスパイド(実剣)を持って振るえば50m先にある戦車を両断することすら可能である。
実力の高さによって様々な称号があるが、特にその時代において星団最強の実力を持つ騎士は『剣聖』と呼ばれる。
ただ、その超常の能力ゆえに行動や交戦規定が星団法によって厳しく制限されており、特に私闘で一般人を殺傷したりすると厳罰に処せられることになる他、一般人からの嫉妬ややっかみによる差別を受けることも多い。
一般には騎士の発現率は極めて低いものの、騎士の遺伝情報自体は全星団の人々に行き渡っており、王族や貴族では特に発現することが多いが、平民の家から強力な騎士が現れることもある。
基本的には国家騎士団などに召し抱えられることになるが、傭兵騎士として各地を放浪する者も少なくない。また、騎士の能力自体は発現していても才能や実力に乏しかったり、家柄の低さや経済的な理由から自分のファティマやGTM(MH)を持つことが出来ない騎士もおり、そういう者達は不逞騎士を取り締まる騎士警察官や隠密・諜報任務を行う忍者といった職に就くことになる。
時代の推移と共に血が薄まって騎士の力は落ちていることが語られており、星団暦4100年代の頃にはゴーズ騎士団のように肉体の機械化や薬物の使用によって前世紀の実力を維持する者もいた。
当初は『ヘッドライナー』(天を獲る者)と呼ばれていたが、2013年の設定大改変からは『ウォーキャスター』へと変更された。
- 純血の騎士
星団暦よりはるか昔に存在したファロスディー・カナーン超帝国において創りだされた超常の戦士達のことであり、後世の騎士達の『オリジナル』とも呼ぶべき存在。
星団暦における騎士とは次元を異にする戦闘能力の高さを持ち、単独で一国を落とすことすら可能であったという。しかし、制御不能となると敵味方を問わず殺戮を始めるため、AD世紀では皇帝を始めとする者達の洗脳能力によって厳重にコントロールされていた。
彼らが子を成すと必ず騎士かダイバーが生まれるとされる。星団歴の騎士は彼らの血が一般人と混血し血が薄まった結果生まれたものである。後世でも極めて稀だが、純血の騎士の遺伝子が完全な形で発現する者がいる。
- ダイバー(魔導士)
先天的に備わる超能力『ダイバー・フォース』を持つ人々を指す。太古の超帝国において支配階層にあったハイブレンが遺した力であるが、騎士よりもさらに稀な存在である。かつてはハイブレンが騎士たちを精神制御し、支配していたが、長い時間を経て騎士たちの血が薄まり制御下を離れた結果、身体能力に優れた騎士たちがダイバーを使役するようになり主従関係が逆転した。
ダイバーの身体能力は常人と変わらず、騎士と戦った場合はダイバーフォースを行使するより早く首を斬り落とされてしまうため、隠密任務や後方支援といった任務が多い。
極稀にダイバーと騎士の両方の力を併せ持つバイア(ツバイ)と呼ばれる存在が生まれることもあるが、その発現率はダイバーの発現率よりもはるかに低い。
2013年の設定大改変以降はバイターへと呼称が変更された。
- ファティマ
騎士と共にGTM(MH)に乗り込み、管制システムとして騎士の操縦を補助する生体コンピュータの役目を持つ人工生命体。
その演算能力は、多様なパターン処理への対応能力と安定性において、通常のコンピュータの追随を許さない。新設定では正式名称がオートマチック・フラワーズ(AF)とされ、「ファティマ」は戦闘時以外に使用される通称となった
詳細はファティマ(FSS)の記事にて。
- モーターヘッド(MH)
科学の様式美が生み出した究極の決戦兵器たる巨大人型ロボット。
騎士の力と動きを完璧にトレースし、そのパートナーたるファティマたちの管制制御を受けることで、音速を遥かに超える動きと攻撃を繰り出すことができる。敵の攻撃からの回避能力や防御力も非常に高く、ミサイルや戦車・空中戦車(エア・バレル)、火砲といった通常兵器ではかすり傷をつけることさえ困難であるため、MHを倒せるのは、基本的に同じくMHによる近接白兵戦のみである。
2013年の設定大改変において、ゴティックメードへと設定が差し替えられた。
詳細はモーターヘッドの記事にて。
- ゴティックメード(GTM)
2013年以降の設定大改変によってMHに代わって登場するロボット兵器。
「ハーモイド・システム」という半永久機関によって動き、その天文学的な出力エネルギーは馬力に換算すると「京」を軽く超える。
MHに比べると非人間的なデザインとなっているが、「GTMを倒せるのは同じくGTMだけ」と言われるなど、究極万能兵器である点は同じ。
詳細はゴティックメードの記事にて。
- マイト
ジョーカー星団の技術系職位制度における最高位。
MH(GTM)、ファティマ、宇宙船の製作に携わる職人の中でも最高の能力を持ち、検算・検証をしなくとも設計図の製作や完成時の状態を完璧に予見できる能力と、通常の人間には不可能な複合した専門能力を持つ。これは単なる天才ではなく、喪われたダイバーフォースの一つたる物質を変換する能力『ルシェミ』が形を変えて遺伝し、発現したもの。
騎士やダイバーよりもさらに貴重な存在であり、星団の科学と産業に重大な責務を担う分、数々の特権を有し、戦時下にあっても中立的な立場から自由に好きな場所へ行き来できる。
2013年の設定大改変以降は『ガーランド』という呼称に改められた。
- 星団法
星団暦2000年代初頭に定められた、星団の全ての国にまたがる国際法的法律。
主に超常の力を持つ騎士やファティマの交戦規定や行動の制限、一般人の人権保護などが厳しく定められており、度々改正などの会議が行われている。
ただ、制定者の一人である天照命の息子のアマテラスをはじめとしてボード・ビュラードやクローム・バランシェ、ダグラス・カイエンなど本作の主要人物には違反者がメチャクチャ多い。