🥔概要
ナス科ナス属の多年草。デンプンを蓄えた地下茎(芋)を食用とする。デンプンの採取や酒造にも用いられる。またの名を「馬鈴薯(ばれいしょ)」。
ジャガイモの芽にはソラニンなどのアルカロイド類が含まれるが、品種改良により毒性は弱められた。ただし日光に当たった芋は緑化し毒成分が増えて味がえぐくなる。これを無理に食べると死亡する例もある。
現在では小麦、米、トウモロコシと共に「 世界四大作物 」の一角を占め、アイルランド、イギリス、ベルギー、中欧、北欧などでは主食として扱われている。寒さに強く、比較的長期(とはいえ穀類には大きく劣るが)の保存も利くため方々で重宝され、世界史にも影響を与えた。
普及
南アメリカ大陸のアンデス山脈原産。当初は野生に近く毒性の強いものだったため毒抜きの必要があり、その習慣から乾燥芋の一種である保存食「チューニョ」が誕生した(現代でもペルーでは常食されている)。
インカ帝国に至るまでアンデス高地文明では主要な作物として広く栽培されていたが、彼らが芋(重く水分が多いため、輸送と保存に向かない)をカロリー源とするにも拘らず高度な文明を作りだせた理由として、前述のチューニョの存在(水分が抜けているため軽く、長期間保存できる)を指摘する研究者もいる。
16世紀、インカ帝国を征服したスペイン人によりヨーロッパにもたらされ、花を観賞するために植えられていたが、気候が厳しく土地の痩せたアイルランドでは17世紀に農作物として普及した。
三十年戦争(1618~48年)で荒廃したドイツでも栽培が奨励され、プロイセン王国のフリードリヒ2世(フリードリヒ大王)は家畜(主にブタ)の餌とされていたジャガイモを自ら食し、普及に努めた。
フランスの農学者アントワーヌ=オーギュスタン・パルマンティエは、七年戦争(1754~63年)でプロイセン軍の捕虜となり、そこで与えられた食事にジャガイモが出た経験から、帰国後はジャガイモの栽培と普及に努めた。
貴重な作物であるというイメージを植え付けるため、畑に見張りを立てた上で、夜に農民がジャガイモを盗みにくるのをあえて無視させたという。また、著名人を招いた晩餐会にジャガイモ料理を供し、王妃マリー・アントワネットにジャガイモの花束を贈るなど広報活動に努めた。
上記のアイルランドでは農民の主食として定着したが、それ故に19世紀半ばにジャガイモの疫病が大流行したことで悲惨な大飢饉となり、餓死や島外への脱出によってアイルランド島の全人口は大飢饉前の僅か半分(800万人⇒400万人)になった。大飢饉後、人口は緩やかに回復したが現在に至っても大飢饉以前の人口には戻らないままである(現在の全島人口は約600万人)。又、この時、小麦などのジャガイモ以外の農産物に関しては通常通りに採れていたにも拘らず、イギリス本土在住の地主達によって地代として徴収されて島外に輸出され(飢餓輸出)、当時、アイルランドを統治していたイギリス本国政府はこの事態に手をこまねくばかりで無策・無能ぶりを晒した。ジャガイモ飢饉によってアメリカなどではアイルランド系移民が急増し、アイルランド本国ではアイルランド語話者が激減して英語にとって代わられるなど文化的影響も多大であった一方で、アイルランド人の間で元々強かった反英感情は更に悪化し、20世紀のアイルランド独立に繋がっていく。
日本へは17世紀頃、オランダ商人により持ち込まれ、ジャカトラ(現在のジャカルタ)を経由して伝来したため、「ジャガタライモ」と呼ばれ、次第に「ジャガイモ」となった。江戸時代後期には北海道や東北地方などの冷涼地で栽培が広がり、アイヌの食文化にも取り入れられた。
明治維新以降、外国から優秀な品種が移入した。上記の通り冷所に強い作物であることから、日本の過半数のジャガイモは北海道で生産されているが、次点がなんと鹿児島県。「鹿児島で芋って言ったらサツマイモじゃないの!?」というイメージを完全に裏切ってくるデータである。僅差で長崎県も主要な産地として名が挙がる。九州に多い火山灰地にはサツマイモだけでなくジャガイモも向くこと、比較的温暖な地域なので早めに生産と収穫が出来ることで付加価値がつけやすい(全国的に高く売れる)のが強みである。
第4位の茨城県は鹿児島・長崎にダブルスコア近い差をつけられてしまっているが、2016年のピザポテト危機の際にカルビーにジャガイモを供給して援助した。
主な品種
男爵:アイリッシュ・コブラー種の日本名。普及に努めた川田龍吉男爵に因む。
メークイン:細長い形状で肉質が固くねっとりして、煮物に多く利用される。Make inではなく、May queen。現代人からするとメイクイーンのほうが分かりやすい。
キタアカリ:男爵を線虫(ジャガイモの大敵)に強くした品種。
とうや:「黄爵(こうしゃく)」とも(男爵の上位の公爵と、黄色いことをかけている)。
インカのめざめ:アンデス産の小粒で食味が良い種と、アメリカの品種の半数体を交配させ、日本の長日条件下で栽培できるように開発した2倍体の品種。食味は良いが収穫量、生産量は少なくジャガイモのなかでは高価。
デジマ:長崎県で交配・育成された品種で、長崎県を中心に九州で多く栽培される。品種名は江戸時代に外国への窓口であった長崎の出島にちなんだもの。
アンデスレッド:皮がサツマイモのような赤紫になる紫ジャガイモの代表的品種。その皮の色はニンジンと同じくカロチンに由来する(白いジャガイモはカロチンをほとんど含まない)。
タワラヨーデル:上記アンデスレッドの突然変異種。アンデスレッドを含むジャガイモの多くが失っていた原種の強靭な性質が隔世遺伝で蘇ったという現代の奇跡とも言うべき品種。
デストロイヤー:皮が芽の部分を除いて黒く染まり、独特なコントラストから某プロレスラーにちなんで名付けられた品種。
シャドークイーン:豊富なアントシアニンを含み、外側が黒っぽく、中身が濃い紫色の品種。
用途
普通に納得できるものから「?」なものまでいろいろ……
料理
ジャガイモをメインの食材として料理に使う。
このような料理として、日本では、肉じゃが、ポテトサラダ等がある他、上記の歴史的経緯もあってドイツやイギリスをはじめとした欧米諸国においてはフライドポテトを始めとする多数のジャガイモ料理がある。
インド料理や韓国料理にもジャガイモを主要な食材としたものがある。
また、じゃがバターのように蒸したジャガイモに手を加えないものも、立派なジャガイモ料理である。
加工食品
代表的な物としてポテトチップスがある。
製造過程で焦がすと体に良くない成分が出てくるので、ポテトチップス用の焦げにくい品種もある。
保存食
古くは、冬の寒さを利用して冷凍、乾燥を繰り返し、さらに踏み潰して水分を抜いたものを保存食にしていた。フリーズドライの一種といえる。上述の南米原産地のチーニョがそれである。日本でも寒冷地農村で作られていた伝統的保存食で「しみいも」「ちぢみいも」「しばれいも」と呼ばれた。
なお注意点として 【ジャガイモは冷蔵庫で保管してはいけない】
生のジャガイモを冷蔵庫で保存するとデンプン質が分解され、その結果、加熱調理時に多量に発癌性物質(アクリルアミド)を生み出してしまう。英国の食品基準庁が注意喚起するほど体に良くないらしいので、気を付けよう。
一時保管する場合は、冷暗所に置いておくのが望ましいとされる。
デンプンの採取
小学校でよく行われる、「ジャガイモに(含まれるデンプン)にヨウ素液をたらすと青紫色になる」ヨウ素デンプン反応実験でもお馴染み。
(余談ではあるが同じくデンプンが含まれているタピオカでも反応する)
酒造
蒸留酒の原料にする。
日本でジャガイモの焼酎が造られている他、海外においてもジンやウォッカの原料になる。
鑑賞
食品として流通する芋のイメージとは裏腹に、五角形の1枚花弁の可憐な花をつける。この為ジャガイモ畑の開花を鑑賞する者もすくなくない。花の色は紫と白のグラデーション。色合いは品種によって異なり、けっこう奥が深かったりする。
武器
「?」な使い方であるが、戦闘時に敵へ投げつける。
フレッチャー級駆逐艦のオバノンは、1943年4月5日未明、近距離で日本海軍の潜水艦と鉢合わせになった時、目標が近すぎて砲の俯角が足りず、乗組員が手近の保管庫に収められていたジャガイモを投げつけた。
ことわざ
ドイツの諺「火中のじゃがいもを拾う」
誰かのために自分の身を危険に晒して困難に挑むこと。日本語の「火中の栗を拾う」に相当する。
関連イラスト
関連タグ
フライドポテト ポテトチップス ポテトサラダ じゃがバター スマイルポテト トルネードポテト ポテトフライ
ファーストフード:ハンバーガー等のメニューと一緒によく食べられている。
西田敏行:一時期、ジャガイモイメージで語られたこともある。
Minecraft:食料アイテムの一つとして登場。もちろん(?)芽付きの有毒なものも実装されている。
ザクザクチップスフォーム:ジャガイモ(を薄く切って揚げたお菓子)がモチーフのライダー。