概要
和名 | スクミリンゴガイ |
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学名 | Pomacea canaliculata |
英名 | channeled apple snail |
分類 | 腹足綱 新生腹足上目 リンゴガイ目 リンゴガイ上科 リンゴガイ科 Pomaceinae亜科 リンゴガイ属 |
殻長 | 2~8cm |
分布域 | 南アメリカのラプラタ川流域 |
スクミリンゴガイは、リンゴガイ科に属する淡水棲の大型巻貝である。
俗にジャンボタニシと呼ばれるが、日本に元から生息していた在来種のタニシ類(マルタニシ、オオタニシ、ヒメタニシなど)とは科すら異なる全くの別種であり(タニシ類はタニシ科)、南アメリカ原産の外来種である。
寒さに弱い為、東北以北の寒冷地や山地にはほぼいないのだが、関東以南の本州・四国・九州・南西諸島の平地ではいたるところで見られる。
稲やレンコンなどの水生植物系作物を食害することから農家の敵とされ、防除対象になっている。
卵には神経毒がある為注意。
さらに広東住血線虫の宿主でもあるので、生食は厳禁。
危険なので触れた後はすぐに手を洗おう。というか素手で触れるな。
形態
殻口は大きく、角質の蓋を持つ。
殻の色は黄褐色~黒褐色で、10~15本の縞を持つ。
在来種のタニシと比較すると、螺塔(螺旋の上部)が小さく、肩をすくめているような見た目からスクミリンゴガイと命名されたとされている。
タニシと比べ、触角が異様に細く長いことも特徴。
空気呼吸用の管を持つ。
生態
流れが緩やかで水温が高い平地の淡水域を好み、原産地では大河川の周りに広がる広大な氾濫原湿地などに生息する。
日本では主に平地の水路や池沼、水田などに生息し、特に水田地帯に多い。
鰓と肺を両方もつ為、貧酸素環境や湿った陸上でも活動が可能で、雨上がりや夜間に陸上を歩いていることがある。
貝殻には乾燥耐性があり、蓋を閉じれば長期間の乾燥すらものともしない。
食性は雑食性で、様々な水中の有機物を食べるが、主食は水生植物。
水際の陸上植物も摂食する。
タニシと異なり濾過摂食は行わない為、水質浄化能力はない。
繁殖期は特に無く、水温が高ければ年中繁殖する。
子貝を産むタニシとは異なり、水辺の植物や壁面などに毒々しい蛍光ピンクの卵塊を産み付ける。
水路や水田でこれを見かけたことがある人も多いだろう。
卵には神経毒のPcPV2が満たされており、卵時代の天敵はヒアリの仲間以外存在しないとされる。
熱帯の南米が原産の為か低温耐性は低く、0℃で25日、-6℃で24時間以内に死亡する。
寿命は2年程度。冬や乾期には土に潜って休眠する。
完全な乾燥状態では大型の個体で最長11ヶ月、湿潤状態では中・大型個体のごく一部が29ヶ月以上生存し、休眠状態で3年近く生存する能力がある。
天敵一覧
天敵がほぼ外来種な上、コイツらまで繁殖されるとシャレにならないので、駆除の為に放流するのはやめておいたほうが良い。
逆に言えば日本本来の生態系が残された場所では天敵がほぼいないと言える。
一時期港を騒がせた、南米原産危険なアリ。
ほぼ唯一の卵時代の天敵である。
皆さんご存知の北アメリカ原産侵略的外来種。
なんでも食べるのでもちろん食べる。
稲や野菜を食害し、穴を掘り堤防をも破壊する南米原産の外来ネズミ。
貝類も大好物であり、原産地でも食べている可能性が高い。
実は侵略的外来種な大型魚。貝類も大好物。
タニシやシジミが主食の大型魚。
中国原産の外来種。
現産地での天敵のひとつ。
セスジビルやウマビルなど、水田に棲む蛭の仲間は貝類を主食とする種も多い。
スッポンを使った駆除方法がある。
食べるらしい。
巻貝を好んで捕食する水生カメムシ。
体長が小さいので捕食できるのは幼貝のみ。
貝を食べるのは本種だけではなく、タガメやゲンゴロウなどの他の水生昆虫も食べることがある。
陸にいれば他の貝も普通に食べる。
- 蛍の幼虫。
食べると書かれていることもあるが真偽は不明。
食べるならもっと増えてそうだが・・・
北米から中南米まで生息するトンビの仲間で、巻貝が主食。
現地ではジャンボタニシ()もよく食べる。
貝類が主食で、特にスクミリンゴガイと同じくリンゴガイ科の在来種であるタニシモドキ属を好んで食べるが、帰化したスクミリンゴガイも積極的に食べる。
猛毒の卵巣はきちんと取り除いて食べるようだ。
外来種問題
朝鮮半島、台湾、中国大陸、東南アジア、ハワイなどに定着しており、世界と日本両方の侵略的外来種ワースト100に選定されている。
日本には1981年に台湾から和歌山県に食用として移入され、その後は農家の副業として日本各地養殖されていたが、日本人には不評で採算が合わなくなり、養殖は衰退、廃棄として池や川に捨てられたり、逃げ出したものが稲を食い荒らすようになり、駆除対象となった。
現在は生態系被害防止外来種(元要注意外来生物で特定外来生物候補)リストに掲載される侵略的外来種とされ、各地で駆除対策が実施されている。
滋賀県では飼育、愛知県では放流が禁止されている。
人間社会への被害
水中に生える植物ならなんでも食べ、稲や蓮根、水芋、マコモダケ、ジュンサイ、菱、イグサなどの水生植物を栽培する農家にとっては死活問題となる。
米農家からは忌み嫌われており、皆さんとても殺意が高い。
スクミリンゴガイが侵入した水田の収穫量は激減し、時には水田が丸裸にされることもある。
空気呼吸と乾燥耐性により、なんと湿っていれば陸上でも活動可能なので、雨上がりに畦道を移動して隣の田にも移動してしまい、小さな稚貝は細い水路すら伝って広がる為、一枚でも田に入れば瞬く間に周囲一体に広まることになる。
苦肉の策としてジャンボタニシ農法という、本種を除草に使用する農法も開発されたが、均平な代かきや微妙な水管理などの様々な管理が必要であり、難易度が凄まじく高い為、推奨はされない。
また、神経毒が含まれた卵塊や、本種に寄生していることがある広東住血線虫の感染による健康被害も問題である。
生態系への被害
スクミリンゴガイが侵入した水域からは食害により水草が消滅し、在来種のタニシや水生昆虫、魚、カエルなどの様々な生物が減少することが知られている。
これはスクミリンゴガイが水生植物を食べることで、植物を利用する生物がその場から絶滅し、環境が激変したことで他の生物も減少していくという負の連鎖が起きていると考えられる。
各地の希少な水田雑草がこれにより地域絶滅しており、石垣島と西表島では本種の影響により在来種のマルタニシが絶滅している。
駆除について
専用の捕獲器や薬剤も存在するが、基本は地道に捕獲し潰す。
卵は水に浸かると死ぬ為、見つけ次第棒などで水に掻き落とすことが有効。
それでも完全な駆除はほぼ不可能であり、地道に駆除しながら低密度を保つしかない。
『ザ!鉄腕!DASH!!』でトラップを作り捕獲する企画を放送したところ、ぬか床で221匹捕獲でき罠として有効なことが判明した。
天敵を導入する駆除方法もあるが、ハブとマングースの例を見るように、この駆除方法は基本ロクなことにならないので、やらない方が無難である。
近縁種(リンゴガイ科)
日本では科単位で植物防疫法により輸入制限がある。
リンゴガイ属
ラプラタ川水系に生息する近縁種。
スクミリンゴガイよりも低温に弱く、日本本土では越冬出来ないが、西表島などの南西諸島には帰化しており、水田への被害や、貴重な水草の食害等の被害を出している。
スクミリンゴガイと交雑することが知られており、沖縄では交雑個体が多く見られる。
スクミより卵の粒が少し小さい。
Pomacea bridgesiiというリンゴガイ科の巻貝のアルビノ個体を観賞用に養殖したもの。
たまに同名でスクミリンゴガイのアルビノ個体も流通する。
日本ではペットショップや熱帯魚店でよく販売されており、金魚や熱帯魚のタンクメイトとして飼育されるが、水草水槽に入れると食害されるので注意。
卵の色も少し違う。
フロリダからキューバに分布し、ハワイなどに移入。
ギアナにいる種。
アルゼンチンに分布。
Marisa属
南北アメリカ原産で、アンモナイトのような貝殻の形が特徴。
熱帯魚のタンクメイトとして流通する。
タニシモドキ属
南アジア~東南アジアの淡水域にルソンタニシモドキやミドリタニシモドキ、ニャチャンタニシなどの近縁種と共に生息するリンゴガイ科タニシモドキ属の巻貝。
タイやベトナム、中国南部などでは食用とされ、近年は帰化したスクミリンゴガイもこれと同様に食されている。
卵は緑っぽい。
マキアゲタニシ属
アフリカに分布する左巻きのグループ。
中央アフリカに分布。タニシではない。
ナイジェリアに分布。
なぜかインドの西ガーツ山脈にある湖に隔離分布する種。
関連タグ
ジャンボタニシ:俗称。スクミリンゴガイはタニシとは異なる種である。
タニジーム:本種をモチーフの一つとした特撮怪人。