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ベンケイガニ

べんけいがに

十脚目ベンケイガニ科のカニの総称。特にその中の1種の種の和名。本項目では後者について解説する。
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概要編集

和名ベンケイガニ
学名Orisarma intermedius (De haan, 1835)
分類節足動物門汎甲殻亜門多甲殻上綱軟甲綱真軟甲亜綱ホンエビ上目十脚目抱卵亜目短尾下目イワガニ上科ベンケイガニ科
甲幅4㎝
分布日本では千葉県(太平洋側)・秋田県(日本海側)以南の本州四国九州・及び南西諸島全域。国外では朝鮮半島中国台湾の他、西部太平洋からインド洋広域(但し、東アジア以外のものに就いては実態不明)

名称編集

漢字表記は弁慶蟹。

属名Orisarmaは、ラテン語で「ori」は「東洋」を意味する「orientalis」の省略、「sarma」はベンケイガニ科のカニを意味する「sesarma」の省略(猶、「sesarma」自体の語源は不詳)。

種小名intermediusラテン語で「中間の、中程度の」という意味。

シノニムはSesarmops intermediusnaなど。

(Sesarmopsは「sesarma」+「ops」で、「ops」ラテン語で「顔」「風貌」という意味)

余談だが、本種の属するOrisarmaの和名はクロベンケイガニ属とされ、現在本種が属さないSesarmopsの和名はベンケイガニ属とされ、和名の捻れ状態にある。

英名はBenkei Crab、Flower Crab。

漢名は中型倣相手蟹、無歯相手蟹、漢氏蟷臂蟹など。

形態編集

歩脚を広げた状態(さしわたし・レッグスパン)では12㎝以上になる。基本的には雄が雌よりも大きい。南西諸島の個体は、九州以北のものに比べて大型化するという見解もある。

体色は茶褐色から黄褐色が基色で、頭胸甲の前縁部が濃い朱色や臙脂色、鉗が赤橙色で指部が白色というものが一般的だが、頭胸甲全域が赤いものや、全身が燻んだ茶褐色のものもいるなるなど、個体差は大きい。棲息環境や餌資源など後天的に変化したと思われる事例も知られている。いずれの場合も、老成した雄個体が色合いが派手で、雌や若い個体は淡く地味である場合が多い。

頭胸甲は滑らかで光沢を有する。アカテガニと比べると額の隆起は大きく、正中溝が明確である。頭胸甲自体にやや厚みがある。眼窩外歯の後方側縁に明確な1歯があり、側縁は僅かに内側に凹む。胃域と心域との縫合線(H溝)は明確。鰓域上の斜行する隆起線はアカテガニよりも目立つ。

鉗脚は左右同大で、雄成体のそれは雌成体と比して太く大型化する。可動指は内側に彎曲すし、上面に顆粒列は無く平滑。掌部外面は小顆粒に覆われる。上面に櫛状歯列を持たないが、内面に8~10顆粒が列をなす。

歩脚の前節及び腕節には剛毛が生じる。

生態編集

河川下流域から河口域付近のヨシ群落を中心とした塩生湿地や、河川敷土手で見られることが多い。用水路の割れ目や水田石垣の隙間に身を隠している場面もよく見られる。海岸近くの森林草地民家庭先でも本体と共に巣穴が見られることもあるが、アカテガニほど乾燥には強くない。遡上能力はかなり高く、河口から河川に沿って20㎞以上遡った地域で見つかることもあるが、高標高地点では見つからず、寧ろ海食洞暗渠化した水路など、低地で暗めの環境を好む。

基本的には夜行性で、薄暮時から夜間に掛けて特に活発になるが、曇天時や雨天時、日当たりが悪い林床部では日中に活動することも少なくない(特に若い個体)。

食性は雑食性で、主食は落ち葉植物種子だが、有機物であれば大抵のものは食べる。打ち上がったや干涸らびたミミズも食べれば、残飯生ゴミに集っていることも珍しくない。分解者の性質がやや強いが、捕食者の性質もあり、俊敏なゴキブリフナムシ同種の小型個体などを捕らえることもある。アカテガニと比べてやや肉食性が強く、捕食頻度も高いという見解もある。


九州以北の日本での繁殖期(抱卵期)は7月から9月で、台湾などでは周年繁殖している可能性が高い。交尾自体はその1~2ヶ月ほど前に行われる。雌は大潮の夜にや河口に大挙して集まる。集まった雌は海水に浸かって全身を震わせて卵を海に放つ。放たれた卵からは即座にゾエア幼生が孵化する。ゾエア幼生は浮遊生活を3~4週間ほど送り、メガロパ幼生に変態して着底する。1ヶ月半ほどメガロパ幼生で過ごし、沿岸から河口域に進入し、甲幅4㎜程度の稚ガニに変態する。

性成熟には2年ほど要し、自然下での寿命は5~10年以内だとされる。

(これは生理的な最大寿命では無く、飼育下では15年以上生存した例もある)

人との関係編集

一般に食用にはされない。稀にクロダイカサゴなどの釣り餌に使われることがある。


身近な水生生物ということで、水族館動物園で展示されることも多い。また、ペットショップ熱帯魚店で売られることもある。成体に関して言えば最も飼育が容易なカニの一つで、陸場を多く取ったアクアテラリウムか、大きな水容器(この中で脱皮を行うので、飼育個体が充分に動き回れる程度の大きさが必要)を設置したテラリウムで飼育する。餌にニンジンオキアミといったカロテノイドを多く含むものを与えると、発色がより赤く鮮やかになる。相当大型の飼育容器を用いて、シェルターを大量に用意すれば複数飼育も可能だが、基本的には単独飼育が推奨される(単独飼育であれば、長辺30㎝程度の水槽で終生飼育可能)。


分布が広く、東海から近畿及び南西諸島では、個体数は安定的であることから環境省レッドデータブックへの掲載はないが、河川改修(三面コンクリート張り河口堰の建設など)や水質汚濁、繁殖期の陸上移動中の交通事故死により、減少傾向を示す地域もあり、また、近縁種と比べて小規模な河川での個体数が平均的に少ないことなどから、千葉県・愛媛県の絶滅危惧Ⅰ類指定を筆頭に、1都10県の地方レッドデータブックに掲載されている。

近縁種編集

日本のベンケイガニ科は21属43種が確認されている。

その中で、本種と似た環境に棲息し、サイズも近く分布域が広いものには、クロベンケイガニ・アカテガニ・クシテガニ・ユビアカベンケイガニ・カクベンケイガニ、フタバカクガニがいる。

識別には以下の表が参考になると思われる。


和名学名頭胸甲の表面頭胸甲の色彩眼窩外歯の後方側縁鉗脚掌部外面鉗脚可動指上面鉗脚掌部の色彩鉗脚指部の色彩歩脚生活環境
ベンケイガニO. intermedius (De haan, 1835)平滑で、鰓域の隆起線が発達する黄褐色から赤褐色幅が広く、よく隆起する1歯小顆粒に覆われる平滑赤橙色白色剛毛がよく発達する河口から中流域。陸場でも見られる
クロベンケイガニO. dehaani (H.miles Edwards, 1853)平滑で、鰓域の隆起線が発達する茶褐色から黒褐色幅が広く、よく隆起する無歯、またはごく痕跡的粗い顆粒に覆われる平滑茶褐色から紫褐色白色剛毛がよく発達する河口から中流域。水場からあまり離れない
アカテガニC. haematocheir (De haan, 1833)平滑で、鰓域の隆起線は発達しない茶褐色から赤褐色幅が広く、隆起しない無歯平滑平滑赤橙色から濃赤色白色。時に黄色剛毛を生じる河口から中流域。陸場でもよく見られる
クシテガニParasesarma. affine (De haan, 1837)短毛束が散在し、鰓域の隆起線が発達する茶褐色から灰褐色幅が広く、やや隆起する無歯小顆粒に覆われ、雄は櫛状歯列を備える6~9顆粒が並ぶ茶褐色から黄褐色濃赤色剛毛の発達が悪い。長節の幅が広い河口の塩生湿地。大規模化河川以外ではあまり見られない
ユビアカベンケイガニPa. tripectinislar (Shen, 1940)平滑で、鰓域の隆起線が発達する茶褐色から灰褐色。雲状の模様が入る幅がやや狭く、やや隆起する無歯平滑で、雄は櫛状歯列を備える13~23顆粒が並ぶ茶褐色から灰褐色黄橙色から赤橙色剛毛を生じる。長節の幅がやや広い河口の塩生湿地。泥深い環境を好み、流木やゴミの下によく集まる
カクベンケイガニPa. pictum (De haan, 1835)平滑で、鰓域の隆起線はある黄褐色から灰褐色。花崗岩に似た模様が入る幅がやや狭く、やや隆起する無歯平滑で、雄は櫛状歯列を備える9~20顆粒が並ぶ黄褐色黄褐色。時に白色剛毛を生じる河口から岩礁海岸。海水に近い高い塩分を好む
フタバカクガニPerisesarma bidens (De haan, 1835)短毛束が散在する。鰓域の隆起線がある茶褐色から濃褐色幅が広く、やや隆起する1歯小顆粒に覆われ、雄雌共に櫛状歯列を備える11~13顆粒が並ぶ茶褐色から黄褐色黄褐色から黄橙色剛毛を生じる。長節の幅が広い河口の塩生湿地。泥深い環境を好む。マングローブでもよく見られる

関連タグ編集

ベンケイガニ科 カニ 十脚目 甲殻類 節足動物 無脊椎動物 水生生物

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