概要
トヨタ自動車が製造・販売を行っている最上級セダン。排気量は5000cc(ハイブリッド)。車両価格は安くても約2000万円。
製造はベルトコンベアー式ではなく、仕上げは熟練の職人が手作業で丹念に行う。ちなみにその「工房」は、長らく(関東自動車東富士工場→)トヨタ自動車東日本静岡工場(静岡県裾野市)に置かれていたが、該当工場廃止に伴いトヨタ自動車元町工場(愛知県豊田市、ちなみにトヨペットクラウンもここで作られる)に移転している。
いわゆるショーファードリブン(オーナーが運転するのではなく、専属の運転手がいる車。リムジン)であり、企業や法人から役員用車両として購入されることが多い。
一方で富裕層が個人で購入する例や、個人タクシーとする例も少なからずある。この場合は販売店によってはある程度の前払い金をお願いする事もあるそうである。用途や製造方法が特殊であるが故に、「(購入する意思と資金があっても)普通の人は購入出来ないのでは?」と思う人もいるが、このように問題なく購入できるのでご安心を(お金が用意できるかは別のお話)。
特に2代目は国産唯一無二のV型12気筒自然吸気エンジンを採用していたため、自分でも運転したいという人は後を絶たなかった。
だが2代目の末期では価格の高さや、スポーツカー顔負けの激悪燃費(JC08モードで7.6km/L)が時流にそぐわないということで、上記の役員用車両としての立ち位置もセダンであればレクサスLSや、或いはアルファードなど高級ミニバンのハイブリッドカー仕様車に置き換えられてしまう例も少なくなかった。
そのため3代目ではV8+ハイブリッドという形式に変更されている。
海外では「Yakuza_Car」という洒落にならない蔑称が付けられている。
歴史
初代は1967年に誕生したが、2代目が登場したのは1997年。モデルチェンジまで30年もかかっている。その2代目も2017年2月に生産終了になるまで、20年にもわたり生産・販売され続けた。
もっとも、実際には細かい改良は随時施されており、下記の画像のデボネアのようにモデルチェンジもままならず「走るシーラカンス」と化すまで放置されていた訳ではない。
これは、頻繁なモデルチェンジで客の耳目を集める必要がない車種であること、元の設計がしっかりしていたため、マイナーチェンジで時代の流れに追随できたことの証左と言われる。
初代
初代(VG20)は1967年に当時トヨタ自動車の最高級車であった「クラウンエイト」の後継車として誕生。このクラウンエイト、皆さんご存知「クラウン」の上位モデルで、日本で初めてV8エンジンを搭載した乗用車でもある。
このモデルから採用された「センチュリー」とは、英語で「世紀」という意味。明治100年、トヨタグループの創設者・豊田佐吉の生誕100年を記念して付けられた。
鳳凰をあしらったエンブレムや、直線基調の車体、当時としては珍しかった角型のヘッドライト、左右で一体感のあるデザインのテールランプ(細手で横長のテールランプが中央のガーニッシュを挟み、それをメッキモールが囲むデザイン)は後のモデルまで継承されるアイデンティティとなった。
エア・サスペンションの採用も初代からである。
当時内閣総理大臣であった佐藤栄作によって公用車として採用され、以後内閣総理大臣専用車はセンチュリーが使用されることとなる。2008年からはレクサスLS600hLも併用して使用されている。
1987年に内装・外装に大きく手を入れたVG40が登場。とはいえ基本構造を一新したフルモデルチェンジとはならず、マイナーチェンジである。
1997年までの30年間作られ続けた。
2代目
「V12エンジンが載った国産唯一の乗用車」として有名な2代目は1997年登場。
この頃には、クラウンを超える高級車「セルシオ」が登場していたので、それを更に上回るレベルとなる事が求められた。
ブレーキ系統の2重化、仮に片バンクが故障しても走行可能なV12エンジンなど、初代以上に信頼性に並々ならぬ熱意を注いで開発された車両である。
一方で造形そのものはあまり変わらず、車に詳しくない人は見分けづらい筈。
(新型が旧型の横に並んだとき、旧型にお乗りの方が旧型感を意識しないように故意的に造形を合わせたとの事)
これも細々としたマイナーチェンジを繰り返しながら2017年までの20年の長きに渡って作られている。
2006年、この車種(2代目)をベースとした「センチュリーロイヤル」が皇室の御料車として宮内庁に納入された。
3代目
2017年10月27日から開催された「東京モーターショー2017」で3代目が初公開された。エンジンをV12からV8へ縮小してハイブリッド仕様になったほか、衝突回避システム「Toyota Safety Sense」も標準搭載されるようになった。2018年6月22日発売。(当時は、一度も前例のない自動車雑誌の増刊として新車速報誌も発行された。それほどまでに、複雑な生い立ちと存在感が注目されていた)。
外観は、2008年に登場した御料車「センチュリーロイヤル」に似た形で、歴代のデザインの影響を強く感じさせるものである。
前述のとおり環境問題でセンチュリーがハイブリッド車の大型高級セダンに取って代わられたり、景気不振や緊縮財政などで元々高級セダンを使用していたオーナー(ユーザー)も『トヨタ・アルファード/ヴェルファイア』『日産・エルグランド』などのより収容力があって実用性が高い高級ミニバン(特にハイブリッド車)に移行したり、極端な例では「高級車は維持費が高く燃費が悪いのでセンチュリーからプリウスにします」といった具合に車種に拘らないという昨今の時流や乗用車に対する価値観が変わりつつある国民性も相まって、センチュリーのみならずショーファードリブンはおろか高級セダンそのものに対しても厳しい社会情勢であったため、(正式発表前に自動車情報誌のリークこそあったものの)センチュリーというブランドそのものの消滅すら予想された。
しかしながら、高級車を買うにあたって
- (予算はともかく)外国車とかレクサスは派手に思われるから国産車が欲しい
- でも、量産のオーナーカー(レクサス・クラウン)は…
という日本独特のニッチな需要に応える形であったり、初代のように単にメーカーが作りたいだけ、顧客もちょうどよい車があるので買うだけといった理由なのかもしれないものの、見事に復活を果たした。
或いは、レクサスブランドが充分に成熟しても、頑なに「クラウン」を残しているトヨタ自動車なりのこだわりであったり、保守的とされる旧来の高級車オーナーからの需要に応えたものなのかもしれない。
なおこの3代目、基本構造はレクサス・LS600hLと同一である。
2023年9月6日、SUV仕様車の追加および購入受付開始を発表した。同年10月から販売されている。
こちらは名前やデザインこそセンチュリーだが、プラットフォームから別物の車となっており、GA-Kプラットフォームを採用し、FFベースの4WD車となっている(基本構造は北米向けのSUV、グランドハイランダーやレクサス・TXと同じ)。パワートレーンは3,500cc V6エンジンにモーターを組み合わせたPHVで、後輪はモーターで駆動するようになっている。
販売実績
基本的に輸出はしておらず、国内の法人需要を中心とした国内専用車であるが、中国や香港などに少数輸出実績がある。
特殊ドメスティック(国内向け)な需要に特化しているため、超がつくほど保守的なスタイリングで、多くの操縦系統を二重化・冗長化し絶対的な信頼性を得ていることなど、高級車としては世界にも類を見ない、とても個性的な存在となっている。またボディカラーのラインナップが横文字ではなく「摩周」「瑞雲」などの日本語、さらには一時期のみの導入とはいえ国産の乗用車唯一の12気筒エンジン搭載車であったことなど、様々な面で他の日本車とは一線を画した存在でもある。
定価は1960万円からと高額であるが、国産ゆえの圧倒的な信頼性の高さとほとんどの生産工程が熟練工員による丁寧でハイレベルな手作業(※)であることを考慮すると、これでも同等の外国車と比較しても破格の安値であるとする向きもある。(但し、夢のない話をすれば日本専売でさほど台数が出ないセンチュリーの場合、ラインを組むほうがコストが掛かるかもしれない…)
※ボディの塗装を例に挙げると。仕上げまでに1週間を要する7コート5ベイク塗装は、間に3回の水研工程を挟み、さらに最後にバフ研磨を行う。
特別なセンチュリー
センチュリーロイヤル
すでに述べたとおり、2代目を基に製作された「センチュリーロイヤル」が御料車として宮内庁に納入されている。
3代目に似た外観であるが、前面と左右の扉に掲げられた菊の御紋、円形の「皇1(1~3,5)」のナンバープレート、観音開きの扉、そして国産乗用車で最大クラスのレクサスLSより1~2周りは大きな車体が特徴。外からの視認性を向上させるために、後部座席の窓ガラスが大きくとられている。
天皇皇后両陛下の公用車(皇1)、寝台車(皇2)、国賓用に防弾装備が更に強化された車両(皇4、皇5)などバリエーションがある。
それまではプリンス自動車(のちに日産自動車に吸収された)が製作した「プリンスロイヤル」が使われていた。
さらに2019年には第126代天皇 徳仁陛下の即位記念行事に用いるため、3代目を基とした御料車(皇9)及び同じく3代目ベースのオープンカー仕様(皇10)の2台が宮内庁に納入される事が明らかになった。メルセデス・ベンツやロールス・ロイス、日産、BMWさらにはホンダなど7社を検討した末に本車が採用となり納入され、即位記念行事である祝賀御列の儀と伊勢神宮内宮への親謁の儀において使用された。
この他に、御料車を持ち込むのが難しい遠隔地の行幸や、通常公務に使われる車両、皇族方の車両や、随行員用の車両(供奉車)に通常型のセンチュリーが用いられている。
ちなみに、トヨタにおける開発コードは「大きな車」。通常車種の開発コードは数字とアルファベットの組み合わせであり、この時点で異質である。
車種の性格上、一般販売はされていない。
内閣総理大臣専用車
内閣総理大臣(首相)の公用車。
現在使われているのは3代目センチュリーとLS600hL(ハイブリッド ロングホイールベース)の2車種で、この内3代目センチュリーは2020年4月に存在が報じられた。
何れも、車体は黒(神威)、窓は防弾ガラス、車体にも同様の防弾処理が施されている。
2代目までは前バンパー上に、3代目はグリル内に青色のライトがついており、首相が乗車中にこれを点灯させる。ナンバーは下3桁ないし2桁が「0」のいわゆるキリ番であるのが慣例。
通常、首相の乗車中は少なくとも2台の警護車が随行する。
運転手は総理大臣官邸の職員である内閣技官が担当している。
ストレッチリムジン
初代にのみ純正(メーカー製)のストレッチリムジンが存在した。
スポーツモデル
3代目にはセンチュリーのスポーツモデルであるセンチュリーGRMNが2台だけ存在する。トヨタ自動車の第11代社長の豊田章男が2017年の東京モーターショーでイチローとの公開対談をした際に「センチュリーのGRMN仕様を作りたい」と話し、2018年9月に公道でお披露目した。豊田社長はこれを自分で運転している。2019年の箱根駅伝には白のセンチュリーGRMNが大会本部車として投入され、同年の東京オートサロンのトヨタブースに黒いセンチュリーGRMNが出品された。普段、白は東京本社、黒は豊田市のトヨタ本社で社用車として使われているらしく、運が良ければ公道を走る姿を見られるかも知れない。ちなみにナンバープレートの数字はどちらも「18-67」。車名の由来である豊田佐吉の生誕年にあわせたもの。
余談
- この車の2代目に搭載されていた1GZ-FE型V12エンジンは直列6気筒の1JZ-GTEと基本設計が共通であり、1JZ/2JZ搭載車や社外の1JZ/2JZ換装用マウントが存在する車にも簡単に搭載できる。実際にトップシークレットの永田和彦がスープラに、URASの野村謙がS13シルビアに搭載したケースがある。前者はツインターボ+NOSで武装して958馬力を発揮し、イタリアはナルド高速周回路で最高速358km/hを記録した。
- オーナーがセンチュリーに乗って集まるオーナーズミーティングが何度か開かれている。Googleの画像検索のとおり一見すると独特…いらぬ誤解をされそうな光景であるが、主催者団体『鳳凰倶楽部』も参加者らも当然ながら純粋なセンチュリー愛好家である。
- 個人タクシーの場合、料金はクラウンやフーガ、シーマなど他の車両と同じ(東京都内に限る)なので、空車で流していたら乗ることができる。
- 新車価格の高さとは裏腹に中古車は安値で流通しており、2代目は現役時代でも100万円を切ることが珍しくなかった。これは車種の性格上、中古車になった時点で価値が激減することが理由。また公用車として使用されていた場合、中古市場に放出された時点で走行距離が数十万kmの過走行車となっていることも珍しくない。このため若者やヤンキーが手を出すこともあるが、先述の燃費の悪さに加えて維持費が非常に高価(自動車税が88,000円、13年超過の場合は101,200円)なため、乗り続けるにはある程度の経済力を要する。