概要
トヨタブランドのフラグシップ(旗艦)モデル。1955年から現在まで、モデルチェンジを重ねながら70年に渡り製造・販売が行われている。
戦後のトヨタはセダンに「冠」を意味する車名をつけており、(例:カローラ=花冠、コロナ=太陽冠)、クラウン=王冠もその系譜に連なるものである。
そのためエンブレムも1962年発売の2代目以降、トヨタマークではなく王冠がつけられている。
長らく国内専売で伝統的なFRセダンとして知られていたが、2022年以降の現行モデルはセダン/ステーションワゴン/ハッチバック/クロスオーバーの4つのボディタイプで国際的に展開されている。
ボディタイプ
代名詞であるセダンが最も有名だが、代によってはステーションワゴンやライトバン、ピックアップトラック、2/4ドアハードトップクーペ、クロスオーバーSUVまで存在する。
また「皇冠」の名で展開する中国では、クラウンの名を冠したミニバンの「クラウンヴェルファイア」も販売されていた。
このあたりの多様性はカローラと同様である。
同じセダンタイプの中でも、「クラウンマジェスタ」や「クラウンアスリート」などの派生車が存在した。
タクシーや教習車、パトカーでよく用いられていた「クラウンセダン(XS型)」や「クラウンコンフォート」はクラウンと名がついているが、実質的にはX80型マークⅡの派生車である。
国内専売セダンとしてのクラウン
基本的にはカローラ同様癖が少なく、ブランドに絶対の信頼を持つ、乗り心地の良いコンフォート系セダンである。
高級乗用車としてのみならず、業務用車(官公庁の公用車、企業の社用車、タクシー、ハイヤー、教習車、パトカー)としての需要も高かった。
レクサスが登場してからは先端技術の搭載は2〜3番目程度に甘んじてはいるものの、トヨタブランド最高級セダンという立ち位置は長らく変わっていなかった。
その信頼の厚さから、新型車が出るたび試乗せず買う「指名買い」の顧客を多く抱えてきた。
クラウンの汎用性はまさに「高級なカローラ」。高級セダンは欲しいが、外車やレクサスだと目立つ・仕事に支障が出るなどの人にはぴったりである。またレクサスの最安セダンであるIS(470万円)に比べて100万円ほど安いのも魅力。クラウンよりは安くて大人っぽいセダンが欲しいならカムリを買えばよく、こうして階層ごとにセダンを用意しているのがトヨタの強みでもあった。
日本車のセダン・FR車が不人気と言われている現代でもクラウンは根強く売れ続けており、ブランド力の確かさが覗えた。
日本国内需要に最適化されていたため、実質上兄弟車に当たるGSとは対照的に車両幅のワイド化もかなり抑えられていた。近年は中国市場も意識してるのか巨大化していったものの、15代目でも1,800mmであった。十分大きいようだが、1,850mmや1,900mmの車幅が当たり前になりつつあるミドル~アッパークラスではよく抑えられている方である(車格が1~2クラス下のグローバルモデルのカローラスポーツとMAZDA3の車幅が1,795mmであるといえば、その頑張りぶりが分かるだろう)。15代クラウンのプラットフォームはレクサスLSやLCと同じGA-Lを使っているが、わざわざ幅の狭いクラウン専用のGA-Lを作り直しているほど。
その代わり縦置きエンジンが載るボンネット×後部座席含めてゆったりできるキャビン×多数のゴルフバッグが載るトランクの掛け算のせいで、全長は昔からそこいらのステーションワゴンよりも長い。1967年発売の3代目ですでにレヴォーグ並の4,665mmに達しており、15代目は4,910mmにもなった。
挑戦の歴史
上記から保守的なブランドイメージのあるクラウンだが、実際にはかなりの挑戦と試行錯誤がされてきた歴史がある。
そもそも1950年代、外国車のノックダウン生産や部品流用が当たり前であった時代に、日本で初めて作られた純国産車がクラウンであり、その出自からして挑戦とは無縁ではないのである。
各時代の先端技術が最初に投入される場合も多く、日本車で初めてトラクションコントロール(TCS)、オートクルーズコントロール(ACC)、乗用車用ディーゼルエンジン、横滑り防止装置(ESC)などを搭載した。
4代目までは米国などでも販売されており、トヨタの初期の国際展開の尖兵を担っていた。
奇抜なデザインの例としては、1971年から1974年まで製造・発売されていた4代目がある。スピンドルシェイプと呼ばれたそのデザインの斬新さ故の見切りの悪さや、夏季におけるエンジンのオーバーヒート多発などから、同時期に発売された競合車種のセドリックおよびグロリアに市場を奪われてしまった。
これにより「クラウン史上最大かつ最低の失敗作」と紹介されるも、その特徴的なデザインやパトカー・タクシーから潰され役までこなした映画や刑事ドラマ等の活躍から「クジラ」の愛称で親しまれ、オーナーズクラブが存在するなど愛好家も多い。
また、1991年10月からから1995年8月まで製造・販売が行われていた9代目は、逆にあまりにもおとなしく、高級感が感じられないデザイン故に、またしてもスポーティーを売りにしたセドリックおよびグロリアに市場を奪われてしまった。故にこれまた「失敗作」と言われている。
ただしこちらは指名買いでもセドグロ同様に先代の流用だったセダン&ワゴンやこの代から出たマジェスタに保守派や若者らのユーザーが流れていき、モデル途中でデザインの大幅な変更を行った事である程度傷の拡大を抑える事は出来たが…。
2013年には限定生産だが『ドラえもん』の「どこでもドア」のカラーを踏襲したピンクのクラウンアスリートが登場した。
2018年発売の15代目は、伝統的なコンフォート路線から一転「ニュルブルクリンクで鍛えた」をウリにスポーティー路線に走って賛否を生んだが、これは欧州系のFR車を嗜好する30~50代も取り込んで、平均年齢65歳と言われるクラウンのユーザー層を若返らせようという狙いがあった。
しかし日本におけるセダン需要が教習車くらいになりつつある事(タクシーやハイヤー、パトカーでさえもミニバンやSUVに取って代わられている)や、日本国内専用モデルでは収益につながらないという状況は何も変わらないどころか、ますます厳しさを増していた。そして…
変革の刻
コロナ禍中の2020年11月11日、東京新聞が「2022年を目処に、クラウンをセダンからクロスオーバーSUVにボディスタイルを変更する」と報じた。
その2週間後の11月23日放送のトヨタのオウンズメディア『トヨタイムズ』で、当時同メディア編集長だった香川照之が映像の中で次期型クラウンを見て驚愕する映像があった。
その後も様々な噂話が自動車情報誌に度々掲載されていたが、クラウンがセダン単一ボディで無くなることは確実視されていた。
そして2022年7月15日、16代目が発表された。
以下の点で画期的なクラウンとなった。
- 周囲から予想されていた(そしてトヨタ自身匂わせていた)通り、クロスオーバーSUVが乗用車の主流となっている昨今の自動車事情を鑑み、3種類のクロスオーバー型を用意した。SUVとセダンを融合したノッチバック型の「クラウンクロスオーバー」、ステーションワゴン型の「クラウンエステート」、走りを重視したというショートスタイルSUVの「クラウンスポーツ」が用意される。セダン以外のボディタイプが設定されるのは、2007年生産終了のクラウンエステート以来。またFRのセダン仕様(車名はそのまま「クラウン」)も設定され、計4種類での展開となる。
- セダンのみナロー版のGA-Lプラットフォームで、他3種類はカムリやハリアーなどと共通のGA-Kプラットフォームとなる。
- 全幅は1,800mmを大きく超えて1,840mm~1890mmにまで拡大。セダンの全長は(14代目中国仕様では既に一度超えていたが)5,000mmの大台を突破した。
- 電動専用車となる。通常の2モーター式ハイブリッド(THS)の他にプラグインハイブリッド、ターボエンジン+1モーターハイブリッドの『デュアルブーストハイブリッド』、燃料電池と実に4種類もの電動システムが展開される(ただし選択できる電動システムはボディタイプによって異なる)。
- セダンのみ縦置きエンジンのFR。他3車種は横置きエンジンの前輪駆動(FF)にリアモーターと後輪操舵(4WS)機能を追加した形式の、ハイブリッド4WDとなる。内燃機関は全ボディタイプで直列4気筒のみとなり、V6エンジンは消滅した。
- 長らく日中専売であったのをやめ、世界40カ国にグローバル展開する。
- シリーズ化に伴い、クラウンのみを扱う専門店「THE CROWN」を新規オープン。一つの車種を専門に扱う店舗は異例。一般の店舗でも取り扱うが、専門店のみの特別仕様車も発売される。
モータースポーツ
セダンはFR・大排気量ではあるものの、乗り心地重視の設計と長く重いパッケージングのせいか、モータースポーツとは縁が少ない。
初代は1957年8月から9月にかけてオーストラリアで行われたラリーレイド・モービルガストライアルに出場して完走を果たし(これがトヨタ史上初のモータースポーツ参戦と公式でされている)、2代目は1963年5月に鈴鹿サーキットで開催された第1回日本グランプリでクラス優勝を遂げている。しかし3代目以降は2000GTやセリカ、マークⅡ三兄弟、レビン/トレノなどの、よりモータースポーツに適した車種が現れたため採用例を探すほうが難しくなった。
何より顕著なのはトヨタの扱いで、実は同じプラットホームを採用していた(ちなみに12代目のものだったとか)マークXはGR SPORTに加え2度もGRMNが発売されたが、クラウンはGRパーツすら存在せず、スポーティなグレードとして「クラウンアスリート」や「RS」が設定されるのみ。センチュリーにすら非売品とはいえ存在するGRシリーズが、クラウンには一切無い。これは近年のイケイケなトヨタをもってしても、「クラウン」というブランドの扱いには気を使わなければいけない、という事実、そしてブランドの重さを示しているといえるだろう。
ただし15代目は、埼玉トヨペットがスーパー耐久ST-3クラスに、これまで競技用車として採用していたマークXが消滅したことに伴い、その代替車種としてRSを投入。デビュー戦の2020年富士24時間レースで早くもクラス優勝を飾っており、その年のクラス総合2位となった。
余談
- 日本を代表する高級車である(と、トヨタが位置付けている)からか、大きな賞の副賞として採用される事もある。代表的なものとしてはゴルフの中日クラウンズの優勝賞品であるほか、長らくプロ野球日本シリーズのMVPの副賞としても知られた(1955年から1997年まで)。特にプロ野球日本シリーズのMVPに関しては、あの長嶋さんが通算4台も獲得している一方で、種茂雅之(東映)、高橋慶彦、ジム・ライトル、長嶋清幸(いずれも広島)は獲得出来なかった。種茂についてはほかに土橋正幸もMVPを受賞してしまった結果土橋にクラウンを譲るハメになってしまったため(ただしそれ以外の副賞は種茂が獲得)、あとのお三方に関しては・・・・・・お察し下さい・・・
- 2代目後期~6代目(4代目は中期~後期)のイメージキャラクターを俳優の山村聰が担当し、4代目後期~6代目では吉永小百合も加わった。また、7代目のキャッチコピー「いつかはクラウン」のナレーションを担当したのは石坂浩二である。
- カービューでは10代目(S15)までを「クラウン」とし、11代目(S17)からを「クラウンロイヤル」としている。