モーションパターン(MS)
もーしょんぱたーん
モビルスーツのインターフェースは、基本的に二本のスロットルレバーと二枚のフットペダルという、極めて単純な構成となっている。
このような操作系で、“巨大人型兵器”という想像を絶するほどに柔軟なマシーンを制御できているのは、ひとえにコンピュータ(光コンピュータあるいはバイオ・コンピュータ)が、予め[[オペレーティングシステム(運用時代、所属組織によって異なる)にあらかじめインストールされた、無数のモーションパターンの中から“最適な挙動”を瞬時に選択・実行する、事実上のオートマチック・システムを採用しているためである。
パイロットは基本的に、上記のインターフェース機器によって機体の進行方向(前後左右、及び上昇下降)とスラスターの加速度、そして武装の選択とトリガーの『判断』を行うのみであり、このパイロットによって入力された指令に従って、コンピュータがカメラ画像から得た自機と敵機、及び周辺地形の位置関係(加えて戦闘濃度ミノフスキー粒子下に於ける僅かなセンサー情報)から、最少稼働の――あるいは相手の意表を突いたモーションを選択・実行することで、撃破・回避を行う。
よってモビルスーツにおいて最も重要となる『運動性能』は、機体(ハードウェア)のみならず、このモーションパターン(ソフトウェア)の精度にも、大きく依存する事となるため、適切なモーションがインストールされていない場合は、ガンダム試作1号機が宇宙戦闘で撃墜寸前まで追い詰められたように、機体性能を引き出す事ができなくなる。
その他、偵察任務から拠点への帰投、パイロットに不測の事態が生じた場合などには、オペレーティングシステムを介した完全オートパイロットも可能となっている。
なお、このモーションプログラムによるオート制御(の一部)を切って、手動操作を行う事により、実戦において更なる優位に立ち、あるいは予め用意されたモーションでは対応できない不測の事態を乗り越える事も可能だが、その難度は極めて高い。
モビルスーツを開発したジオン公国は当初、モーションキャプチャのような、同様に四肢を持つ人間の動きをトレースするシステムを模索したが、コクピット内において、人が飛跳ねするスペースの確保とパイロットの体の固定方法や、体格の差によって起こりえる機体とのミスマッチといった問題点が生じた。更には、『地面』のない宇宙空間を機動するマシーンであるモビルスーツには、背面・脚部に装備されたスラスターを用いての、いわゆる『ダッシュ移動』『ダウン回避』のような、人間には不可能な(思考できない)挙動も含まれるため、モーションキャプチャ式の研究は早い段階で打ち切られる事となった(ある意味これを実現できたものがGガンダムにおけるモビルトレースシステムである)。
そこでジオン軍が考案したのが、旧兵器同様にレバーやボタン、ペダルにより基本操作を行い、それに予め必要と考えるモーションプログラム(歩く、走る、ダッシュ、撃つ、etc.)をインストールした自動制御オペレーションシステムを組む込む事で、ある程度動きをオートマチック化するというものであった。
こうして初の実戦型モビルスーツ・ザクⅠには、AMC(アクティブ・ミッション・コントロール)と呼ばれるオペレーティングシステムが組み込まれて完成し、ルウム戦役で圧倒的な戦果を挙げる事となった。
ただしジオンは思考による直感的な操作を諦めていた訳ではなく、(パラレルワールドではあるものの)リユース・P・デバイスといった切断した四肢からの神経信号伝達を利用した非人道的な研究が進められており、戦後の連邦やアナハイム・エレクトロニクスではサイコ・ニュートライザー、インテンション・オートマチック・システム、ネオ・サイコミュ・システムなどサイコミュを用いて思考だけで操作する機体をいくつか試作している。
対して、一年戦争においてジオン軍にモビルスーツ開発で後れを取った地球連邦軍は、試作機であるRXシリーズに学習型コンピュータ(推論・仮定型論理量子コンピュータ)を搭載。パイロットがコマンドに無い動きをすると思われる場合、コンピューターが既存にあるモーションプログラムから近似のコマンドを抽出して提案し、それが実行に移された場合はデータベースへ蓄積する、ICN(推論型ナビゲーション・コントロール)を採用した。
このRXシリーズの内、近接戦闘に特化したガンダムに偶然搭乗したアムロ・レイは、有視界戦闘において驚異的な適応性を見せ、当該機体の学習型コンピュータに高度なモーションを多数蓄積させたのだった。
回収部隊によって引き取られたガンダムのモーションデータは、特に有用なものを選別した上で、制式量産型モビルスーツの廉価版光コンピュータ(光集積回路によって構成された、高性能量子コンピュータ)にインストールされ、対モビルスーツ戦経験の浅い連邦パイロットにであっても、互角以上に戦う事が可能となった。(なお、このRXシリーズによるデータ学習・蓄積と並行して、別途モルモット部隊と呼ばれる少数部隊が、先行量産機を用いて、同じくモーションパターンおよび戦術の研究・実験を行っていた)。
ジオン軍も、ドム以降の機体には連邦のICNに近いAAMC(アドバンスド・アクティブ・ミッション・コントロール)を採用し、モーションプログラムの精度を向上させようとしたが、一週間戦争以降の激戦によって既に多くのエースパイロットを喪っていた事がたたり、充分な学習蓄積を完了させる前に、戦時のパワーバランスは決してしまっていたとされる。
戦後――宇宙世紀0080年1月1日以降においては、地球連邦軍は一年戦争において活躍目覚ましかった熟練パイロット、あるいは士官学校で高い操縦適性を見せた候補生を集め、より隙が小さく、確実に先手を取り、そうでなければ後の先を取る事の出来る洗練されたモーションを専門に研究・制作する部隊、戦技教導団を編成し、小惑星ペズン基地においてその任務にあたらせた。彼らが制作した優秀なモーションは、アップデート・データとして地球連邦軍の全モビルスーツに行き渡り、逐次全モビルスーツの性能を底上げしていったのである。
この教導団自体は、宇宙世紀0088年にペズンの反乱において壊滅しているが、モビルスーツの稼働そのものに必要なモーションプログラムの運用、洗練は当然ながら以降も続けられており、宇宙世紀0123年のコスモ・バビロニア建国戦争においても、初めて“15mの巨人”を操縦したシーブック・アノーが、艦内ドックに懸架されたビームライフルに対して距離感を間違い、マニピュレーターによって掴み損ねた際に、「近くまで来たらオートを使え」と指示を受けており、更に宇宙世紀0153年のザンスカール戦争に至っても、ガンブラスターで大気圏突入を終えたオデロ・ヘンリークが、オートバランサーを重力下用に変更するよう注意を受けている。
新型機が開発される際、基本となる挙動を入力するテストパイロット。
その他にもエースパイロットには操縦のクセが近い専属のシューフィッターが宛がわれることがあり、新たに受領する機体に先んじて乗り込み、本来の乗り手となるパイロットのクセを覚え込ませたり、実戦に出撃する前の微調整に関わったりする。
主なシューフィッターはクリスチーナ・マッケンジー、ダントン・ハイレッグなど。
ゲーム作品『スーパーロボット大戦OG』シリーズにおいて、量産機となっているパーソナルトルーパーやアーマードモジュール、はてはグルンガストシリーズ等のスーパーロボットの機体制御にも、概ね同様の操縦システムが採用されておりTC-OSと呼称されている。
このため、シナリオ中にリュウセイ・ダテやリョウト・ヒカワ達もまた、上記の“オリジナルモーションパターン”のプログラミングを行っている。
なお、リュウセイは攻撃モーションの前後に、“見栄切り”や“(天上天下無敵剣の)構え”を入れては、ライディース・F・ブランシュタインに、「余計なものを入れるな」と削除されている(基地公開の見学に来る一般人には人気があるとの事)。
熟練者であれば即席でモーションのカスタマイズが可能であり、例として、量産型ゲシュペンストMk-Ⅱ改が使用する“背負い投げ”は、カイ少佐がウェンディゴとの戦闘中に敵の高速反応に対応するためにフェイント込みで組み合わせてカスタマイズしたパターンがゲシュペンストmk-2のアップグレードに伴いインストールされたものである
初の人型機動兵器ゲシュペンストがロールアウト後、カーウェイ・ラウを隊長としカイ・キタムラ、ゼンガー・ゾンボルト、ギリアム・イェーガー、エルザム・F・ブランシュタイン、ホーカー・テンペストといったメンバーによる教導隊が結成、モーションのマニュアル入力、実行を繰り返し膨大なモーションパターンを蓄積、洗練させOSとして完成させた。
教導隊が解散し、アップデートは停止していたがインスペクター事変後に殆どを新メンバーに刷新して最結成、モーションパターンや新型機の実践証明等が行われるようになった。(各々専用機を持っているのだが、基本的に運用されるのはブルーに塗装された主力機体である量産型匕ュッケバインmk-2)