競馬のレースは菊花賞であり別物であるので注意。こちらを参照
概要
菊花章は日本の勲章の一つ。明治の制定以来の最高位勲章である。勲等は大勲位で、現在もこの勲位のみ廃止されていないため、「大勲位菊花章」あるいは単に「大勲位」とも称される。
等級は大綬章(大勲位菊花大綬章)と頸飾(首飾りの意、大勲位菊花章頸飾)に分けられる。厳密には頸飾が最高位。
かつては他にそのまま「大勲位菊花章」と称する独立した三等級目の勲章も存在したが、これは実際には頸飾・大綬章の副章としてのみ利用され、単独での授与例が全く存在しなかった。のちに平成15年(2003年)の制度改正以降は、大勲位菊花章は独立した勲章から頸飾・大綬章の副章扱いに正式に改定された。
大勲位の意匠は旭日章を踏襲した姿と言える。中央に赤い「旭日」が配置され、周囲に太陽光線(旭光)が伸びるスタイルは旭日章・桐花章に類似する。
特に桐花章と類似したスタイルで、八方の光線の更に外縁には十字状に光線が四方にのみ伸びている。加えて、外周部を菊の花及び葉の意匠で円状に囲む。光線の及ばない四隅にそれぞれ菊の花が配置されている。鈕(章と綬の間にある金具)も桐花章・旭日章の桐葉に対し、菊花が用いられる。
頸飾においては、中央を七宝製緑色の菊葉に抱かれた金色の菊花とし、それに古篆字の「明」と「治」、七宝製緑色の菊葉に囲まれた金色の菊花の3種文様の金具を繋げて楕円形の連環とする。
副章は大綬章と頸飾で共通し、大綬章同様のスタイルで、通常胸部に佩用して使用する。副章は上記の通り、大勲位菊花章と独自の名を持つ。
世界的には騎士団勲章としての性格を持つ。
この場合の事実上の団長格は天皇である。
授与者
天皇、皇族
現在、大勲位菊花章頸飾を佩用するのは天皇と上皇のみ。制定以後の歴代の天皇は全員が佩用している。
大正天皇と昭和天皇のみは皇太子時代に頸飾を授与された。また、軍人時代の皇族のうち、元帥に上った者にも頸飾が授与されたが、生前に頸飾が叙勲されたのは小松宮彰仁親王・伏見宮貞愛親王・伏見宮博恭王・梨本宮守正王のみである。
いわゆる戦後においては、天皇以外が頸飾に叙勲されたことは無い。
大勲位菊花大綬章は、皇太子・親王である皇族は全員叙勲されている。また、王でも叙勲された例が多いが、戦後は王においては桐花大綬章を叙するとしたために叙勲されない(また、王は1947年の皇族一斉離脱以降存在しない)。
外国人
外国の君主にのみ大勲位菊花章頸飾が授与される。その他の外国の元首(大統領)などには原則として大勲位菊花大綬章が授与される。首相など、元首でなければそれより格下の桐花章・旭日章などになる。
運用の例外は殆ど無い。初期には、皇帝が頸飾・国王が大綬章などの格差をつけたことがあったが、国王の中にはこの儀礼差に抗議するものもあった。現代ではEmperor称号を持つものが日本の天皇以外におらず、全ての来日君主に等しく頸飾が授与される。これは女性君主でも同じ。
過去に君主ではない王族としてはイギリスのコノート公アーサー王子とグロスター公ヘンリー王子、ドイツのハインリヒ皇子のみが叙勲されている。うちアーサー・ハインリヒ両氏は明治天皇の大喪の礼に参列したことで叙された。
大統領では、ブラジルのゲイゼル大統領とアメリカのアイゼンハワー大統領のみが授与された。何れも日本との交流の周年記念などの特異な事情が関連しているとされ、以後はアメリカの大統領であっても頸飾が授与された例は一度も無い。
大勲位菊花章は、頸飾授与者にも同時に授与されている。また、大勲位菊花大綬章においては王太子(女性含む)や、女王の配偶者の叙勲例(※王妃の場合は宝冠大綬章)がある。
国民
臣民(国民)に叙勲された例は極めて少ない。
大勲位菊花大綬章の場合、初期には太政大臣三条実美、左大臣で元薩摩藩最高権力者島津久光、右大臣岩倉具視に授与されたのにはじまり、明治天皇の外祖父である中山忠能、昭和天皇の外祖父で藤氏長者の九条道孝などに授与例が見られる。
他は元帥、海軍軍令部長、東宮御学問所総裁の東郷平八郎など、殆どの例が元老、内閣総理大臣、貴族院議長、枢密院議長、元帥など「位人臣を極め」た者に限られて叙された。
第二次大戦後(憲法改正後)に至っては、田中耕太郎最高裁判所長官を除けば内閣総理大臣経験者にしか授与例が存在しない。しかも殆どは没時追叙であり、しかも総理在籍日数が1年未満のものは一つ下の桐花章止まりである。主に没時叙勲の者は基本的には同時に「正二位」に叙される。
改憲後に生前叙勲されたのはたったの三人(吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘)しかいない。彼らの没時に大勲位菊花章頸飾が追叙されており、同時に「従一位」に叙されている。「正一位」は昭和時代以降不在のため、事実上の最高栄誉が与えられることになる。
なお、議員在職中に暗殺され急逝した安倍晋三は、没後に大勲位菊花章頸飾を受勲し従一位に叙されるなど先の三人と同格と扱われたが、戦後は一部の高齢議員の名誉的叙勲を除き現職議員が勲章を叙されることが無いため、菊花大綬章は同時叙勲の形で受けている(※菊花章頸飾を叙される国民において菊花大綬章に叙されていない者は、同時に菊花大綬章にも叙されるという慣例による)。
なお、大勲位菊花章頸飾に至っては、制定以後現在までに叙されたのは伊藤博文、大山巌、山縣有朋、桂太郎、井上馨、松方正義、徳大寺実則、大隈重信、東郷平八郎、西園寺公望、山本権兵衛、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、安倍晋三の15人のみ、うち生前に叙勲されたのは伊藤・大山・山縣・桂(ただし死去直前)・松方・東郷・西園寺の7人に限られる。
民間人に対しては叙勲された例が現在に至るまで一度も無い。