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概説編集

週刊少年サンデー1990年から1992年まで連載された、あだち充漫画作品。


単行本は全11巻。愛蔵(ワイド)版および文庫版が各全6巻。コンビニコミック版が全5巻。


現代から遥かに遠い未来の、地球から遠く離れた「とある過去の地球とよく似た惑星」を舞台にしたSF人情時代劇。あだち作品の慣例としてラブコメめいた展開もあるが、メインヒロインがであるため、そちらは抑えられ気味ではある。青春群像劇やスポーツ漫画の大御所として一時代を築いた作者にとっては、非常に珍しいSF時代劇(時代活劇)と、そして連載当時にブームとなっていた環境問題への提言をテーマとして盛り込んだ作品。(そのため風刺作品としての側面もある)


なおSF時代劇(あるいは時代劇風のSF)なので本編内に折に触れて時代考証に口出し無用(=時代や風俗歴史の解釈に関しては完全に架空である事が前提でありリアリティも考えてないので一切ツッ込むな)の一コマが何回も出されている。(特に初期)


あだち作品お馴染みのメタネタも健在だが、担当編集や自身が直接登場してのネタ振りは珍しく少ない(それだけ「本気」だったと取れる)作品。また折に触れて少年サンデーおよびビッグコミック系雑誌に連載された漫画作品のパロディを小ネタ的に盛り込んでいる。


2021年に舞台化が予定されている。


あらすじ編集

これは遠い未来の話です。


火消し「い組」の若手である七味は病弱な母と慎ましやかに過ごす少年であったが、その母は長らくの病からぽっくり亡くなる事に。七味は母親の遺言に従って、江戸の片隅にある「からくり長屋」の世話人である彦六を訪ねる。


そこで彦六から聞かされたのは、自身には腹違いの兄妹弟が6人もいる事。

その全員が、この「からくり長屋」にて兄妹弟肩を寄せ合って助け合い生きている、という事だった。


からくり長屋に住んでいるのは胡麻、麻次郎、芥子の坊、菜種、陳皮、山椒、そして七味の7人兄妹弟。揃いも揃って個性的な曲者揃い。時にケンカや行き違いもありながら、出会った兄妹弟はトラブルを起こしつつ巻き込まれつつ日々をこなしていく。


そんな兄妹弟に何故か関わっていくのは、この江戸を頂点に日の本の国を治める奥川将軍家。特に将軍家のわがまま姫である琴姫と、そんな姫の父と言われてつい納得してしまう奔放な将軍様。

実は彦六の正体は将軍様の側用人。からくり長屋の兄妹弟の正体は、その将軍様の奔放ぶりが祟ってこさえられてしまった将軍様のご落胤たちであった。

ただ、その後の追跡調査で兄妹弟の中でただひとり、将軍様のご落胤ではない者(つまり父親が異なる赤の他人)がいる可能性が浮上する。それは、ふとしたきっかけで(父親の正体は知らぬままで)からくり長屋の兄妹弟たちにも伝わってしまうが、兄妹弟たちは「それでも自分たちはこの長屋に縁あって集った兄妹弟だ」として絆を深め、これを一蹴。将軍様もこれを尊重して懐深く「たとえ、まぎれた子どもでも自分に託してくれた以上は自分の子として面倒を見る」と宣言し、子どもたちを見守る事を決意する。


さらには何ゆえか江戸で無頼に生きる浪人である浮論も、些細な出来心から、からくり長屋の兄妹弟たちに関わっていく。


ある日、遠い空から隕石が落ち、それからしばらくして、将軍様のもとに異人が流れ着いたと知らせが届く。珍しもの好きの将軍様は嬉々として流れ着いた異人であるバン艦長を客人として招き江戸に住まわせた。バン艦長は異国の珍しいものや便利なものを世の人々に教えていくが、しかし、その一方で彼の持ち込んだ技術は知らず知らずのうちに代償や弊害がつくものであった。


やがて、からくり長屋の兄妹弟たちは自らの母親たちを供養するため、墓参りのための巡礼行脚を行おうと目論む。むろん、その裏には未だに教えられぬ自分たちの父の手掛かりを得たいという思いがあった。


からくり長屋の兄妹弟たち、浮論、将軍家、さらには将軍家を内心疎ましく考える将軍の弟、立浪名古山藩の殿様である貴光に、そのバカ息子の省吾。そしてバン艦長。


呑気な兄妹弟たちの行脚旅は、取り巻く人々の思惑も引きずり絡み合わさり、江戸を、日の本すらも左右させかねない大きな歴史のうねりとなっていくのである。


……だから、これは未来の話なんだってば。


登場人物編集

からくり長屋編集

  • 七味
    • 本作主人公。火消組「い組」の若手であったが、母の死をきっかけにからくり長屋へと居を移し、兄妹弟たちの存在を知らされる。気風良く義理人情に篤い江戸っ子気質であるが若いがゆえに向こう見ずな部分も否めない。兄弟中では第4子で四男。将来を嘱望された腕利きの火消しではあったが、転居したためにフリーター同然の日雇い生活者(助っ人稼業)となった。(本来、からくり長屋の子どもたちは顔も見ぬ父親から潤沢な養育費を与えられているが、七味は自身に腹違いの兄弟がいた事に激怒したために、それを勢いで蹴っている)
  • 菜種
    • 本作のヒロインの一人で、からくり長屋の兄妹弟の紅一点。第5子の長女。長屋の家事を一手に引き受ける。七味とは年が近い事もあり遠慮が無く粗暴に接する事も多い。その一方で兄の麻次郎に懐くブラコンでもある。
  • 胡麻
    • からくり長屋の兄妹弟の最年長。すなわち第1子の長男。噺家(落語家)であり時折、人を喰ったようなギャグを飛ばす。某4番キャッチャーその中の人を彷彿とさせる、あだち作品お馴染みのデブ枠。
    • 弟妹のほぼ全員が武術の腕が卓越している中では単なる一般的な能力の持ち主。とはいえ大局観と戦略眼には逸品の冴えを持っており一般的な能力の持ち主でありながら誰が死んでもおかしくない、一流刺客の襲撃がワンサカな墓参行脚の中で誰ひとり欠けることなくじょうずに立ち回り自らのみならず全員生きて、からくり長屋に戻れたあたり、その並外れた幸運も含めて、ただ者と言い切る事もできない人物。(子どもの頃に集落の占い師のばあさまから「この子は天下を取る」と予言され、弟の麻次郎も殿様になった兄の姿を描いている)
  • 麻次郎
    • 放浪癖のある次兄。Theイケメンな第2子次男。剣術・埴輪念流免許皆伝の達人にして流浪の絵師。時折イメージとして描いた絵の光景が現実になるため、どこか異様に達観した人生観を持つ。ただ、だからと言って人間関係が乾いているわけではなく、兄弟たちの事は誰よりも大事に思っている。
  • 芥子の坊
    • 頼りにならない兄二人に代わり、どっしりと下の妹弟たちを見守る第3子三男。ただ、大飯喰らい・大酒呑み・女好きという三拍子が揃った破戒僧でもある。怪力の持ち主であり喧嘩には天性の才がある。
    • 子どもの頃は地元では知らぬ者のいない暴れん坊な札付きの悪童で、帰省の際にはその顔を見られたダケで商店が軒並み閉店し、子どもは泣き親が決死の形相で慌てて抱き帰り、同心になってた幼馴染みは顔を合わせて開口一番「絶対に死刑にしてやる!」と血相を変えるほど。
  • 陳皮
    • 学者肌の第6子五男。まだ幼いが、その小さな体に膨大な知識と知性を持つ天才児であり稀代の発明家。実母を飢饉で亡くした過去を持つ。のちにバン艦長が持ち込んだ様々な技術の危険性に誰よりも早く気付き、戦慄する事となった。しかし、その技術の一端で食糧を増産させる事が出来て、飢饉が起こる可能性を劇的に抑える事が可能となる現実を目の当たりにした時には「今、必死に生きて無為に死んでいく命を確実に救うのか」「今、犠牲を出しても未来に安心を残すのか」(人を救う道を選べば将来の破滅を加速させるが、将来の破滅の回避を選べば飢饉の恐怖から逃れて喜ぶ人々から希望を奪う人殺しとなりかねない)という板挟みに晒され苦しむ事になる。からくりの武器なども作れるが使うのは下手。兄弟の中で武術に長けていない一人。
  • 山椒
    • 身軽で忍者技を駆使する第7子六男。まだ言葉もおぼつかない幼子であるが、忍術の冴えは天下一品。母親は伝説のくノ一であったという。

将軍家と縁者編集

  • 奥川秋光(将軍様)
    • 江戸城に住む将軍様にして、からくり長屋の兄妹弟たちの父親。御忍びで市井を遊び回るのが大好きなお人。もっとも今は大人しくなった方で、若いころは身分を隠して全国行脚の旅をしていたが、それが、からくり長屋の兄妹弟たちが生まれるそもそもの原因となっている。将軍の重責はそれなりに果たしているが、一方で自由闊達な在り方を愛しており、子どもたちにも自分の事は構わずに自由に生きてほしいと考えている。いい加減な人物であるが武術の腕前は天才であり兄弟の大半が武術に優れているのもその血をひいているともいえる。
    • 本作におけるパロディとネタ発言の大家であり、御忍びとなれば浮浪雲になりたがり「春らんまん1/2」などと事ある毎にサンデー作品を駄洒落る、本作屈指のメタるだーでもある。
  • 琴姫(奥川 琴)
    • 将軍秋光の(公式の上での)一人娘で将軍家の姫。(実際には第6子の次女になるはずだが本人は当然知らない)周囲の家臣がわがまま放題に育てたため「自分の中の思いどおりにならぬ事は何もなく、また、それを阻む者は悪である」と考えるバカ姫。江戸城の改築の日雇いにやって来た七味を気に入り側に置こうとしては失敗する。一方で菜種とは(自分の都合を押し付けて彼女の家事を邪魔して怒らせ叱られたため)犬猿の仲。
    • 珍しもの好きの新しもの好きは父親譲り。バン艦長のもたらした西洋知識に感服しカウガールスタイルを好んでいる。
  • 彦六
    • からくり長屋を管理している大家さん。しかして、その正体は将軍秋光の側用人にして最大の懐刀。奔放な上司にムチャ振りされては必死に対処する、胃薬が手放せない真面目な苦労人。長屋の兄妹弟たちに対しては自らが見守ってきた事もあり「もうひとりの親」同然の立場だったりする。
  • 半蔵
    • 公儀お庭番を勤める風賀忍者。彦六の命を受け、兄妹弟たちを護衛している。
    • 山椒とは同郷であるため、彼にはこっそりと忍の訓練を施している。
  • 奥川貴光
    • 将軍の弟で立浪名古山百万石を差配している殿様。常に笑顔を絶やさぬ好好とした人格者で、フリーダムな兄の最大の理解者……という顔の裏では兄の気質に危惧を感じており「しっかりと国家を管理しなくては」という、かなりアブない思想を心の内に秘めている。そのために将軍である兄を内心疎んでいて、兄の評判を下げて世論の幕府に対する反発を醸し出す裏工作や、地元の地下にて武器になるおもちゃを量産させるなど密かにクーデターを企んでいる。
    • からくり長屋の兄妹弟たちの事は、それこそ疎ましく感じており、のちには彼らに懸賞金をかけて刺客を送るまでになる。
  • 奥川省吾
    • 貴光のバカ息子。ワガママ放題の琴姫とはまたベクトルが異なり、粗野にして乱暴な弱肉強食の実践者。平和な世の中の何もかもが気に入らない、弱いやつが弱いなりに生きているのが腹が立つ(弱い庶民はさっさと殺しておくべき)と豪語する正真正銘の修羅。若様の顔の裏で夜盗山賊の頭領をしていた。

その他編集

  • 浮論
    • 不思議な巡り合わせで七味や菜種をはじめとするからくり長屋の兄妹弟たちに関わる事になる、陰気な浪人。剣術の達人で用心棒稼業をしていたが、のちに奥川貴光の配下として裏仕事を請け負い人斬りとなった。
  • バン艦長
    • 乗っていた船が難破して浜辺に打ち上げられた異国人。自称、アメリカ人。のちに将軍に江戸へ招かれて外国の様々な知識を披露するようになる。が、その活動に伴って川の魚や野の虫たちが大量死したり森林や山が壊されたりするなど、不穏なものが付きまとっている。
    • 実は彼の持つ技術は、この星のレベルで考えれば明らかなオーバーテクノロジー。その正体は滅び行く母星である地球を脱出して、長き宇宙の航行の果て、この星に辿り着いたマッドサイエンティスト地球人。(つまり、この世界観における地球はエコ概念や再生可能エネルギーを見出だすことが出来ず、また見出だしたとしてもそれを経済面や実用面にフィードバックさせる事に失敗しており、すでに滅びている)
    • のちに「より理解あるパトロン」である奥川貴光に加担。彼に様々な危ない技術(ミサイルとか核兵器とか……)を供与するようになる。
  • 赤丸
    • 貴光の配下として表に出せない活動を請け負っている忍者。かつて風賀と公儀隠密の座を賭けて争った火賀忍軍の頭目。風賀の頭目である半蔵とは因縁の仲。生粋の卑怯者かつ臆病者で逃げ足だけが早いものの、悪運だけは天下一品。普段は部下の火賀忍2人と共に三悪よろしく貴光の命を受けて賞金稼ぎとして兄妹弟の命を狙うが、いつもツメを誤って兄妹弟に無自覚に返り討ちにあったり、半蔵にしてやられたり、あるいは全く関係ないところで巻き添えとなり酷い目に遭うギャグ担当
  • ビリー
    • この惑星における「本当のアメリカ」からやって来たカウボーイの少年。元は黒船に乗ってやってきた国交樹立使節団のひとり。しかし貴光とバン艦長の企みにより使節団は謀殺の憂き目に遭う(実行犯は浮論)。使節団の一員であった父によって凶刃から庇われて逃がされ、ただひとりの生き残りとなった。
    • この経緯から日本人に対する印象は最悪であり、事ある毎に人に向かって警戒心剥き出しで高圧的に銃をつきつけるようになる。そして浮論を仇と憎み復讐を望むようになる。のち、からくり長屋の兄妹弟たちと関わり一行に加わってドタバタに巻き込まれ、苦難を共にするようになる。

余談編集

あまり触れられない事ではあるが、この『虹色とうがらし』はあだち充画業20周年記念作品の側面を持っている。


その事もあり、この作品は「あだち充が漫画家となって一番描きたかった作品」であったと言われており、『みゆき』『タッチ』『ラフ』などで培われた、あだちの作劇ノウハウの全てが注ぎ込まれつつ、あだちの大好きな落語時代劇(特に人情噺)とSFをブッ込んだという、まさに当時のあだち充の集大成とも言われるべき作品である。(すなわちそれは「80年代の集大成」と同義と言ってもいい)

サンデー編集部からも「かなり好き勝手にやらせて貰えた」とか。(当時の少年サンデーは2020年代にまで続く次世代である藤田和日郎椎名高志などが育って台頭しており、あだちが雑誌を無理に牽引していく必然性が弱くなっていた)


作者本人曰く、(ヒット作にして代表作ともなった)『みゆき』『タッチ』よりも(漫画「作家」としての)気合い(思い入れ)が入った作品であるとか。

とある席で高橋留美子と同席した際、この『虹色とうがらし』について延々と語りきり、高橋を「普段はそんな事は言わないのに珍しい」と驚かせた、という逸話まである。


そのため、あだち充ファンの中には、通常代表作とされる前述の作品よりも、本作こそをあだちの代表作として最推しする者もいる。(その反面、あだち充を「青春漫画家」「スポーツ漫画家」としてしか見ない層、あだち充は青春スポーツ漫画家であってもらわないと困ると考える頑なな脳筋層にとっては非常に面食らう作品であり、そうした層からは当然のように受けは悪い。困ったことに)


少女漫画家立川恵は(あだち作品は一通り好きだが、特に)本作のファンであることを公言しており、のちに本作と同じく環境問題への提言をテーマに据えた『夢幻伝説タカマガハラ』を執筆している。



関連タグ編集

あだち充 SF 時代劇

レトロフューチャー

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