概要
脚本:金城哲夫
監督:満田かずほ
特技監督:高野宏一
あらすじ
夜の湖。その湖畔に不気味な洋館があった。中には様々な動物に餌付けする怪しい老人がいる。
老人は大量の魚を持ち、ジラースと叫んだ。すると湖が泡立ち、不気味な鳴き声が響く……
山奥の静かな湖、北山湖。以前は訪れる人さえいなかったが、いつの頃からか魚が異常繁殖し噂を聞いてやってきた多くの釣り人たちで賑っていた。
湖に異変が起きていないか科学特捜隊へ調査が依頼され、ハヤタ、アラシ、イデがジェットビートルで北山湖へ向かった。
現場に到着した科学特捜隊はアラシが乗った特殊潜水艇S21号を北山湖に降下させ調査を行う。音波探知機や水中カメラなどを使った水中調査が行われたが、湖底に何の異常も認められなかった。
調査を終えた3人にムラマツ隊長は一日だけの特別休暇を与える。湖畔のホテルで休息をとる3人。
一方その頃、雑誌『少年グラフ』の久保友子記者と林カメラマンはモンスター博士の異名を持つ偏屈な老科学者、中村博士の屋敷へ取材に向かっていた。中村博士は人間嫌いなことで有名だった。
博士の屋敷で恐竜の話や恐竜を求めて15年前ネス湖で行方不明になった二階堂教授の話などを聞くことができた2人だったが、林カメラマンがしきりに動かしていたライターにカメラが仕込まれていたことが気づかれ博士の怒りを買い追い出されてしまった。
博士の取材に失敗した久保記者は、気晴らしにホテルで知り合ったイデと2人で北山湖へ夜釣りに向かった。しかし湖に着くと湖面が怪しく光るとともに波打ちはじめ、何かの鳴き声が聞こえた。そして湖にはゴムボートを漕ぐ謎の人物がいる。件の中村博士だった。
雑木林の秘密の入り口に入った博士を追う2人。洞窟のような通路を抜けると動物の剥製や気味の悪い恐竜の壁画が描かれた怪しい部屋が現れる。そこは昼間訪れた中村博士の研究室だ。
その時、暗闇から突然銃を持った中村博士が現れた。博士はふたりが尾行していたのに気づいていた。
博士は隠し窓を開けてジラースと呼んだ。大きな叫び声と共に、湖の中から博士が15年かけて育てたという巨大な恐竜、エリ巻き恐竜ジラースが出現した。博士はイデの通信機を破壊し、2人を研究室に監禁した。
イデと久保が行方不明になったと連絡を受けたムラマツとフジがジェットビートルで北山湖へと向かった。そのころ北山湖では調子に乗った釣り人の新田と林が魚を一気に捕まえようとカーバイドをばらまいていた。湖の中にいたジラースはそれに苦しんでついに姿を現した。到着したムラマツたちもジラースを発見する。
ジラースを攻撃する科特隊の前に中村博士が立ちふさがる。ジラースの姿を誇らしげに語る博士。ムラマツはあなたは間違っている、二階堂教授のような純粋な探求心を持ってほしいと説得する。すると中村博士は自分の顔をめくりあげる。その姿に絶句する科特隊の面々。
なんと15年前にネス湖で行方不明になったはずの二階堂教授その人だった。
世間から認められなかった博士は恐竜だけを追い求め、ネス湖でついにジラースの卵を発見しネス湖と環境が近いこの北山湖に運び込んでいた。
「暴れろ!」教授が叫ぶ。それに呼応するようにジラースが上陸する。教授もジラースに歩み寄るが、暴れ回るジラースに蹴り飛ばされてしまった。
そのころ、監禁されているイデ達は通信機をヘアピンで修理し、ムラマツたちに教授の洋館に監禁されていると連絡する。スパイダーショットでジラースを攻撃するアラシを残し、ムラマツたちは救助へ向かう。ハヤタは林の影でベーターカプセルを点火しウルトラマンへと変身した。
宙に投げた岩石を口から吐く白熱光で仕留めるジラースに対し、スペシウム光線で仕留めるウルトラマン。
早撃ち勝負に勝利しジラースを笑うウルトラマン。
挑発に怒ったかジラースはウルトラマンと格闘。もみ合った末に襟巻をはぎ取られてしまう。
襟巻を持って闘牛士のようにジラースをあしらうウルトラマン。
やがて湖畔に向かい合うジラースとウルトラマン。
ウルトラマンはすれ違いざまにウルトラ霞切りを叩きこむ。
一閃。
ジラースは口から血を流し絶命した。
ジラースの健闘を称えるようにその亡骸に襟巻を被せるウルトラマン。
教授は爬虫類を育てるだけでは満足できず、ついに恐竜を自ら育てるようになってしまったのかと語り合う科特隊の面々。
一同の目の前では物言わぬ躯となったジラースに、同じく瀕死の二階堂が這いずりながら叫んでいた。
「ジラース…ジラース…ジラァァース!」
余談
ゴジラVSウルトラマン
外見を見ればわかる通り、ジラースのスーツはゴジラの改造。(頭部は『怪獣大戦争』の、胴体は『モスラ対ゴジラ』のゴジラ(モスゴジ)のニコイチ改造という説が有力)
スーツは東宝からレンタルしたもので、「ゴジラ以外の怪獣にする」「スーツは傷つけずに返却する」という条件付きのものだった。そのためか作中では目立った格闘戦がない。
格闘戦
本話の格闘シーンは満田かずほ監督が台本を執筆し、ウルトラマンとジラースがまるで言葉を交わすように対峙・格闘する様が描写されている。
満田監督によると金城の脚本には「ウルトラマン対ジラース」としか書かれていなかったため執筆したとされる。
ジラース役の中島春雄が台本を所蔵しており、そこにはジラースは「いつもの怪獣と違ってキザなふるまいをする」、「バート・ランカスターや宍戸錠のイメージ」と記されている。
脚本との相違
準備稿2種と決定稿が現存しており、決定稿は完成作品とほぼ同じ流れになっている。
準備稿1では中村博士は研究所で働く下男にも化けており、科特隊の前に現れた際には下男→中村博士→二階堂教授と段階を踏んで変装を解いている。
準備稿2では科学特捜隊が特殊潜航艇ではなくボートで湖の調査をしていた。
さらに台本上では当初ジラースは襟巻をはぎ取られると戦意を喪失するとされ、あっさりと戦闘は終結している。
前述の満田監督の台本ではウルトラマンはジラースを弔う際に襟巻を被せるのではなく木を1本引き抜いて木の葉を散らしている。
中村博士/二階堂教授
「モンスター博士」の異名を取るマッドサイエンティスト。
北山湖の湖畔の洋館に研究所を開設し、ヘビやオオトカゲ、カラスなどを飼育している。
研究所の内装は洞窟を模しており、壁面には恐竜の大きな壁画が描かれている。
教授が子供向けの雑誌『少年グラフ』の記者たちの取材に応えた際、壁画を用いて恐竜の解説をしていた。
※画像。
その時に解説した恐竜は、ディプロドクス、ケラトサウルス、ステゴサウルス、トリケラトプス、そして厳密には魚竜に属するイクチオサウルス。
この他にプテロダクティルス、エリオプス、ディモルフォドンなどの名前も挙げていた。
15年前に話題になった「ネス湖の恐竜」を「ディプロドクスの一種だろう」と推測し、ディプロドクスについて「首の長さが20m(正しくは全長が20m)ある」と解説している。
しかし自身が「恐竜の王者」と称えるケラトサウルスの壁画には何やら仕掛けがあるようで、館内を盗撮していた記者を追い出してしまった。
その後北山湖畔で博士が不審な行動をとっているのを目撃した記者・久保友子がイデ隊員と共に館内を調べていたため、口封じのためふたりを監禁。イデ隊員の持っている流星バッジが通信機であることを見抜き破壊した。
ケラトサウルスの壁画は口の部分が開閉する構造になっており、ここから湖の様子を見ることができるようになっていた。
しかし、イデ隊員はヘアピン一本でバッジを修理して科学特捜隊に通報してしまった為に、彼らの脱出を許してしまう。
その正体は15年前にネス湖の恐竜の生き残りを捜索する探検隊に参加していたが行方不明になったはずの二階堂教授。恐竜を発見できず調査が打ち切りになってもなお単身調査を続け、ついにジラースの卵を見つけ環境の近い北山湖で飼育していた。
自分の育てたジラースが暴れ回る姿を見て歓喜し、攻撃する科学特捜隊を止めに入るなど、恐竜に対する歪んだ愛の持ち主。
ジラースに対し暴れるよう叫ぶが、興奮するジラースに蹴飛ばされてしまい、最後は倒れ伏したジラースに縋るように力尽きた。
ジラースが教授を蹴飛ばしてしまったのは凶暴化していて教授の指示を受け付けなかったとされることも多いが、教授が「暴れろ!」と叫んでいたことから「指示通り暴れたら足元の教授に気付かず誤って蹴飛ばしてしまった」と解釈する意見や、「中村博士の変装を解いていたため教授を認識できなかったのではないか」とする意見もある。
ゲスト出演
調子に乗ってカーバイドを湖に放り込んだ釣り人・林役は『ウルトラQ』の戸川一平役でおなじみ西條康彦。もう一人の釣り人・新田役は東宝特撮映画でおなじみの中山豊。
劇中で湖に飛び込んでいる西條だが、『ウルトラQ』では「クモ男爵」で氷の張った底なし沼のセットを泳いでおり「アレに比べればお湯のようなものだった」と述懐している。
実際に放り込んでいたのはドライアイスだったとか。
ちなみに冒頭でこのふたりと一緒に釣りをしていた釣り人は高野宏一。
イデ隊員とともに中村博士に捕らえられてしまう少年グラフの女性記者久保友子を演じているのは谷育子。ライターに仕込んだカメラで盗撮をしていたのがバレて追い出されてしまった助手の林一郎を演じているのは『ウルトラセブン』や『ファイヤーマン』にゲスト出演した岡村春彦である。
ホテルのボーイ(スロットカーのスタッフ)として古谷敏が顔出し出演している。
少年グラフの車
怪物のような派手な装飾が施された少年グラフの車(トヨタ・スポーツ800)。満田監督によると美術部に全部おまかせで指示を出したところ1話限りの登場ながら印象に残る派手な車になったとされる。
脚本上では「ゴルゴス号」という名前が付けられていた。
BGM
ウルトラマンが倒れたジラースに襟巻きをかける場面とラストシーンのBGMは『ガス人間第一号』の流用。それぞれ別々のBGMをつなぎ合わせており、ラストシーンのBGMは第37話でも印象深い場面で使用されている。
『ウルトラQ』では頻繁に『ガス人間第一号』のBGMが流用されていたが、本作では流用された場面はわずかである。
ロケ地
科特隊が休暇で泊まったホテルは下田温泉ホテル(現:下田伊東園ホテル橤岬)。アラシ隊員が豪快に食事をしていたのは海側テラスの芝生である。
次回に登場するホテルも同じ場所。
北山湖は伊豆の一碧湖。撮影が行われたのは第1話の放送日で、夜間のシーンは疑似夜景で撮影して放送までに下田温泉ホテルに戻ったとか。
中村博士の洋館については不明だが別の場所だったとする説が有力視されている。