別次元のドラゴンボールを目撃せよ
概要
鳥山明の漫画作品『ドラゴンボール』を実写化したアメリカの特撮映画。
配給は20世紀FOXで、制作が決まった際に実写化権を手にしたことを発表していた。
監督は『ファイナル・デスティネーション』シリーズのジェームズ・ウォン。プロデューサーは少林サッカーのチャウ・シンチー。
原作の孫悟空少年編〜ピッコロ大魔王編を再現した物語だが、内容は大幅に改変されている。
日本版の主題歌には浜崎あゆみが起用されている。
評価
- 原作におけるキャラクターおよび作品のコンセプトを無視するような設定変更の数々
- いくらまだインフレが始まる前の話がベースとはいえ、ハリウッド制作とは思えないほどチープで安っぽい演出の戦闘シーン
- 後に明らかにされた監督や脚本家の杜撰な制作姿勢
といったように原作の細かい要素をことごとく切り捨てて作られた、典型的な実写化失敗例の作品。日本国内だけでなく海外のファンからも酷評される結果となった。
約4500万ドル(日本円で約40億円)の制作費に対し、興行収入は約5600万ドル。広告費も含めれば赤字であり、世界的アクション作品の映画としては寂しい結果に。
公開前後は割と穏当な宣伝コメントを出していた原作者の鳥山明氏も、後のアニメ映画シリーズに携わることになった際には、本作にかなり批判的な評価を下している。
駄作になってしまった一番の原因は、監督のジェームズ・ウォンの原作に対する無理解である。
ジャスティンら主演俳優や、プロデューサーのチャウ・シンチーはいずれも原作の大ファンであり、本作には各種インタビューで並々ならぬ情熱を語っていた。
それとは対照的に、ジェームズは原作に対する興味を全く示さず、どれだけ彼らが原作を監督に勧めても、それを理解しようとはしなかったという。
制作の段階では、チャウや俳優陣はもちろんのこと、原作者の鳥山氏からも数々の異論・改善の要望が噴出したものの、ジェームズはそれらを全く聞き入れず、チャウが後の試写会やプロモーション活動をボイコットするまでの事態になった。
また、ジェームズと共に脚本を手掛けた脚本家のベン・ラムジーも、後年のインタビューで「原作に対する愛はなく、高額な報酬に目がくらみ、作品に対する情熱を持たないまま執筆してしまった」と語っている。ベンは同インタビューにて、「全てのドラゴンボールファンの皆さんに心からお詫び致します(要約)」と謝罪した。
登場人物
悟空一派
- 孫悟空:演 - ジャスティン・チャットウィン 日本語吹替 - 山口勝平
- ブルマ:演 - エミー・ロッサム 日本語吹替 - 平野綾
- ドラゴンボールを捜している少女。フルネームが「ブルマ・ブリーフ」と設定された。原作初期と同じく拳銃を使用する。
- 原作よりもタフで男勝り、ドラゴンボールの持つエネルギーを自身の発明に利用しようとしている。
- 亀仙人:演 - チョウ・ユンファ 日本語吹替 - 磯部勉
- ヤムチャ:演 - パク・ジュンヒョン 日本語吹替 - 江川央生
- ただのチンピラ。「砂漠の野党」という設定は原作準拠。ブルマのことが好きである。拳銃も使える。
- チチ:演 - ジェイミー・チャン 日本語吹替 - 小清水亜美
- 悟空の通っている高校のマドンナ的存在。
- 孫悟飯 :演 - ランダル・ダク・キム 日本語吹替 - 石丸博也
- 悟空のおじいちゃん。ピッコロによって殺害される。
ピッコロ一味
- ピッコロ大魔王:演 - ジェームズ・マースターズ 日本語吹替 - 大塚芳忠
- 復活した魔王。ラストまで生き残る。
- マイ:演 - 田村英里子 日本語吹替 - 甲斐田裕子
- ピラフ大王の登場が丸カットされたのでピッコロ大魔王の部下として登場した。ヤムチャに拳銃で射殺される。
ゲーム版
PlayStation Portableで2009年3月19日に格闘ゲームとして発売。なぜか戦闘シーンの無いヤムチャまで使える。通常攻撃は穴を掘るためのドリルで、必殺技はヤムチャカーアタック。
また、ゲーム版のみのオリジナルキャラとして原作のマジュニア(ピッコロ)に相当する「ネオピッコロ」が登場する。
システムは同じPlayStation Portableで発売された『真武闘会』シリーズをブラッシュアップしたものとなっており、スピード感溢れる戦闘が楽しめる。キャラクター総数は11人と少ないものの、バランスは比較的良好である。
ゲーム自体の出来は決して悪いものではないが、やはり劇場版の悪評が祟ったのか、初日売り上げが1200本と落ち込んでしまい、爆死同然の結果となってしまった。
ちなみに、劇場版では「僕」だった悟空の一人称が「オレ」になっている。
影響
映画『ドラゴンボールZ 神と神』での鳥山氏へのインタビューにおいて、本作を含めたドラゴンボールの映画シリーズの内情が明らかにされた。
本作以前の映画作品では、鳥山氏はキャラクターデザインを担当するのみでほとんど関わっていなかった(これは当時の多忙さも関係しているが)が、これは「映画のクオリティがいずれも非常に高く、製作陣を信頼していた」ため。
しかし本作については、本作の余りの不出来さや、それについて数々の改善要望を出したが全く聞き入れてもらえなかったことなどの失望感について語っており、「原作者にしか描けない世界観とストーリーを見せる」という考えの元『神と神』の作成に携わったと語っている。
その『神と神』以降、『ドラゴンボール超』のアニメシリーズ及び漫画双方の原案、『神と神』以降の映画シリーズである『復活の「F」』『ブロリー』『スーパーヒーロー』に至っては脚本を手掛けるなど(『神と神』のみ脚本は渡辺雄介が担当したが、9割以上が鳥山の手掛けた原案・プロット・物語を採用している)、積極的にドラゴンボール関連作に関わるようになっている。
『神と神』以降も関わり続けていることについては必ずしも本作の影響とは限らないが、本作について触れた際に「自分の中では過去のものになったドラゴンボールもいつの間にか放っておけない作品になったのかもしれない(要約)」といった発言もあり、本作の出来の対する反動で鳥山明が積極的に関わる一因になった、とファンの間ではまことしやかに囁かれている。
こうしたことから本作は、後の評価が高い作品の誕生に反面教師として貢献したと言われることもある。
余談
小説版では「サイヤ人はピッコロ大魔王の右腕」と語られており、また悟空がサイヤ人(カカロット)だという部分も映画と違って明言されている。なお上記のとおり映画のピッコロ大魔王は生き残る(エンディングで僅かに登場し生存を示唆する)が、小説版では死亡する。
本作の吹替を担当した声優のうち、孫悟空を担当した山口勝平は『ドラゴンボールゼノバース』『スーパードラゴンボールヒーローズ』でフューを、ブルマを担当した平野綾は『ドラゴンボール改』以降のデンデを演じている。また、ヤムチャを担当した江川央生は過去に『極限バトル!!三大超サイヤ人』で人造人間14号を演じていた。アニメ版で天下一武道会アナウンサーとレッド総帥を演じた内海賢二は本作でもシフ・ノリス(武泰斗をベースにしたオリキャラ)の吹替で出演している。
『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』は監督、脚本、主演を務めたフィリップ・ラショーがドラゴンボールのファンでもあったことから制作の際には本作を反面教師とした面もあった。
関連動画
【映画「ドラゴンボール エボリューション」オフィシャルトレーラー】
※2009年3月13日全国劇場公開・20世紀フォックス映画配給