曖昧さ回避
ゲーム『Caligula2』の登場人物→件(Caligula)
概要
体は牛で、頭が人間の妖獣。頭が牛で体が人間なミノタウロスの逆バージョン。
頭が良く、人間の言葉を解する。生まれ落ちるとすぐ予言を行い、間もなく死んでしまうが、その予言は必ず当たる。所謂予言獣の一種である。
特に災害がある年には「くだん」が生まれると言われる。
「くだん」に関する論争
近世に発生した伝説であるとみられ、その成り立ちや関連する語句の由来については様々な議論が行われてきた。
中国の白沢(ハクタク)にその原型を見る説のほか、「件」の文字を分解すると「人」と「牛」になるため、漢字から生まれた妖怪だとする説がある。
南方熊楠全集の第3巻(P470)には、紀州で「件」が飼われていて、それはもふもふしておらず蹄もないが「顔がまるで牛」で(牛面人身タイプ)、白痴レベルの知能なのに正しく予言をするので、「そこから『拠って件の如し』という語が生まれた」という話が収録されている。
柳田國男は、「『拠って件の如し』の言い回しが巷間に広まったのがいつなのかは分からない」と答えた。そのほか、「インドでは誓約の際牛を連れてくる」という習俗も紹介している。
一方、漢文学者の白川静によれば、「件」の字は、もと「人偏に半」だった可能性が考えられ、近世以前の文献に全然出てこないなど「『拠って件の如し』が この妖獣から生まれた説」は俗説であるとしている。
「件」を題材とした創作物についての逸話
西日本でしか知られていない妖獣だったため、內田百閒が1920年に『件』という短編小説を書いた際には「内田がでっち上げた珍獣」と誤解された。
『恐くて不思議な話が好き―白石加代子の百物語』によると、鴨下信一は「内田のでっち上げ」説を採り、ミノタウロスと関連づけた。しかし、実際には江戸時代後期にはすでに目撃談があり、明らかな誤りである。
小泉八雲は『日本瞥見記』に元同僚から聞いた話として、見世物師が美保関に来た時、遠雷とともに烈風が吹き、一座が不浄な「件」の剥製を持ってきたため美保神社の神の怒りに触れたとして神主に立ち退きを命ぜられたことを記載している(1892年8月31日)。
第二次世界大戦末期、神戸に「件」が生まれ「オハギヲ食ヘバ空襲ノ難ニ遭ワヌ」と予言したという。小松左京の短編小説『くだんのはは』にも牛面人身の「件」が登場し、石ノ森章太郎が漫画化しているが、これはこうした都市伝説に取材したものである。
水木しげるの『妖怪事典』には、幼少時に父親から聞いた話として、「件」が掲載されている。ちなみに御大が描いた「件」は、丸っこいもふもふした体に大きな丸い目をした、かなり可愛らしい人間牛である。
漫画家のとり・みきはその幼少時、近所に「件ハ嘘ヲ言ワヌ」という文言とともに、人面牛身の男の絵が描かれた看板を掲げた店舗があったことから「件」に興味を抱くようになった。
とり・みきは時事ネタを扱った作品集『事件の地平線』収録の『くだんのアレ』において、雑誌連載中に読者に呼び掛けて妖怪「件」について各地の情報を収集し、その中から興味深く感じた報告を紹介している。
- 別府温泉・八幡地獄の『怪物館』では、牛面人身タイプの「件」の剥製が展示されていた。しかし1963年に閉館となった際、残念ながら処分されてしまった。
- 広島県北部の伝承では、「娘が野良仕事をして昼寝をしていると、山からけだものが降りてきて、女に『わるさ』をする。後月満ちて生まれた異形の子供には、男親によってヘビクダン、ウサギクダン、猿クダンなどがある」という。また、類似の例として『日本俗信辞典・動植物編』の男性の牛姦によって「件」が生まれたという話を取り上げている。
その後発表されたシリアスな伝奇物の一本、『パシパエーの宴』は、これらの伝承に”南方熊楠の「牛」”を絡めたストーリーとなっている。
現代の件
眉唾モノの怪談ではあるが、現在も「件」の目撃談は存在する。ただ、その件は上記のような「人面牛身」ではなく、『くだんのはは』に出てくるような「牛頭人身」であり、赤い着物を着ているという。
曰く、空襲や大災害等で多くの人命が失われた地に突如霧が立ち込め、その中に単独または群れで現れる。肉食らしく、空襲で焼けた動物の死体を引き裂いて貪っていたらしいが、生きている者を襲ったという話は無い。
知性を感じさせるような言動はせず、予言どころか人語を発した話も無い。
目撃談は各地に存在するが、特に兵庫県が多いらしい。1988年の新聞「週刊朝日」には、六甲山付近にて首から上が般若になった牛がローリング族を追い回すという話が載っていたそう。ちなみに『くだんのはは』も兵庫県が舞台である。
中国の類話
様々な怪談を記録した『捜神記』に以下のような話が収録されている。
書記の男が牛車に乗っていたところ、車を引いていた牛が「天下は今にも乱れようとしております。私には大事な仕事があるのに、私を使ってどこへ行くのです?」と喋った。これに周囲は驚いたが、男は慌てずに「お前を家に帰してやるから、もう喋るなよ」と言って引き返した。しかし家に着くなり牛は「どうしてこんなに早く帰宅したのですか?」と訊ねた。
この件について男が易者に占ってもらうと「一家に災いが降りかかるどころか、戦乱によって江夏は滅びる」と言われた。慌てて家に帰った男が見たものは、家の前に集まる群衆と、その前で人のように2足歩行するあの牛の姿だった。
その後、張昌(李辰)が江夏に攻め入り、郡の将軍となっていた男が鎮圧に駆り出されたものの返り討ちにされた。男の一族は皆殺しにされ、江夏郡も滅びた。
この話に出てくる牛は別に人面ではないが、曖昧ではあれど件同様に凶事を予言している。
創作における扱い
登場する回がトラウマ回として知られる。
百年に一度出現する。牛以外の動物からも産まれ、必ず番で産まれてくる。雌が災いそのものを予言し、雄はその災いから逃れる方法を語り、死ぬ。
尚、番が別種になることもある(作中では、雌がウサギ、雄がインコだった)。また、人からは産まれないとのこと。
- 妖怪大戦争(2005年版)
三池崇史監督の考えにより、子供にトラウマを与える気満々の描写だった。
- 女神転生シリーズ
『ペルソナ2』では今まで上げたペルソナのランクを初期値に戻してしまうトラウマスキル「予言」を使う噂悪魔として登場。
『葛葉ライドウ』では貴人のような人面の牛の隠し悪魔「技芸属クダン」として登場。倒すと仲魔にできる「予言書」を落とすが逃げやすく倒しにくい。→クダン
乗り物として登場。見た目は原作通りの人頭牛身だが、作風が作風なのでシュールな雰囲気を醸し出している。
出番は少ないが人間を巻き込む大騒動の原因となった。
本妖怪そのものは登場しないが、とある方法で本妖怪の予知能力を得た人物が登場する。
- 恐怖新聞(2020年ドラマ版)
江戸時代から恐怖新聞の元になるお告げを予言していた存在。
主人公・小野田詩弦の前世の女ヤエが実の娘であるシズの腹の中の子を件に変貌させた。
寿命を手に入れて現世に生まれ落ちるべく、シズの胎内に留まり続けて彼女に未来予知の力を与えていたが、悪事を暴かれたヤエによりシズごと刺殺される。
しかし件は滅びておらず、今もなお寿命を奪うお告げを「恐怖新聞」へと形を変えて犠牲者達から寿命を吸い取り続けている。
この前世での罪が今世への因果となり、劇中において恐怖新聞を介した惨劇の数々となって詩弦を苦しめ続けている。
余談
- この「件」をモチーフにした小松左京の小説「くだんのはは」は「例の母親/あの母親」「人牛の母親」「(靖国神社が有る)東京都千代田区九段に居る母親(≒靖国神社に参拝に来た母親=息子を戦争で亡くした母親)」のトリプル・ミーニングとなっている。
関連タグ
キモ春香(形状がそっくり)
牛頭鬼(牛の頭に人間の体という件とは正反対の特徴の妖怪)
アブソル - “災いを予知して人に知らせる”という設定から、件をモデルにしていると云われるあくタイプのポケモン(実際にはモデルについては明言されていない。あくまで設定面等に基づいたプレイヤーの推測である)。