概要
今なお名作として語り継がれる『ウルトラセブン』の最終回(第48、49話)前後編のサブタイトル。
脚本:金城哲夫
監督:満田かずほ
特殊技術:高野宏一
双頭怪獣 パンドン(第48話)
双頭怪獣 改造パンドン(第49話)
登場
あらすじ
前編
深夜、就寝時に熱でうなされ飛び起きたウルトラセブンことモロボシ・ダン。そのままソガ隊員との交代でウルトラホーク2号に乗り定時の宇宙パトロールへと出動しようとするが、酷く顔色が悪くソガから心配される。
ダン(脈拍360…血圧400…熱が90度近くもある…原因は何だ?…この異常な症状が、もしや…?)
そこへ宇宙ステーションV3のクラタ隊長から「飛行物体発見、呼び掛けに応答無し、直ちに撃墜せよ」との連絡を受ける。
だがダンは目眩を起こし飛行物体に全くレーザーを当てられないどころか、逆に被弾してクラタから叱責の罵声を浴びせられてしまう。
クラタ「バカモン!搭乗者は誰だ?名前を言え、名前を!」
ダン「はい…モロボシ・ダンです…」
クラタ「モロボシ…?貴様、弾の撃ち方も知らんのか!?それでよくウルトラ警備隊の隊員が務まるな!」
そのまま気絶してしまったダンのホーク2号は地上に不時着、飛行物体はクラタのステーションホーク2号により撃墜され、ダンは大爆発を起こしたホークからクラタの連絡のおかげで間一髪助け出されていた。
そんな件の後、キリヤマ隊長は「地球が不穏な空気に包まれている、何者かが大規模な侵略計画を企てているに違いない」と推測し、防衛態勢を固めるようにと指示を出す。
重度の体調不良により思うように身体が動かせなくなってしまったダンは、セブン上司からM78星雲へと帰還するよう命じられる。
セブン上司「340号…いや、地球での呼び名にしたがって、ウルトラセブンと呼ぼう。君の体は過去の侵略者たちとの激しい闘いによって、多くのダメージを受けた。これ以上、地球にとどまることは非常に危険だ!ウルトラセブン、M78星雲に帰る時が来たのだ!」
ダン「しかし、この美しい星は狙う侵略者たちは後を絶たない。僕が帰ったら地球はどうなるんだ…?」
セブン上司「セブン、今は自分のことを考えるべきだ…。地球にとどまることは、死を意味するのだ…」
ダン「元の体には戻れないのか?」
セブン上司「それには、M78星雲に帰る必要がある。君の体は人間とは違うんだ!」
ダン「今は帰れない…地球に恐ろしいことが起こりそうなんだ!…このまま、放っておくわけにはいかん…」
セブン上司「ひとつだけ忠告する。闘ってこれ以上、エネルギーを消耗してはならん。M78星雲に帰ることができなくなってしまう。変身してはいかん!」
後日の深夜、再びV3のクラタから「ポイント580方面に、飛行船状の物体をキャッチした」という緊急通報が入るも、当番だったダンは意識が朦朧とし耳鳴りが酷かったために聞き取れず、謎の飛行物体の地球侵入を許してしまう。
ハッと気がついたダンが鳴らした非常警報により集合し、出動したウルトラ警備隊。飛行物体が着陸したため地上戦で分散攻撃をかけようとするも、突如現れたゴース星人によりアマギが拉致され、さらに飛行物体からは怪獣パンドンが出現した。
ダンはセブン上司の制止を無視してセブンに変身し、衰弱によるパワー減退に苦戦しながらもアイスラッガーをナイフにして斬りつけパンドンを撃破。しかし、変身を解除した直後に倒れてしまう。
メディカルセンターに運ばれるダン。キリヤマは「V3からの連絡が早ければこんな事態にならなかった」とセンターを訪れたクラタを責めるが、クラタは「連絡を取ったが、うんともすんとも返事がないので気になって降りてきたんだ」と事実を言い返す。
ダンはその時の当番が自分だと正直に名乗り出るのだが…。
クラタ「またお前か!一度ならず二度もミスを犯すなんて、それでも地球防衛軍の隊員か!?通信機が故障だなんて言わせんぞ!無線室で何をやっていた!?鼾でもかいて寝てたんだろう!」
と罵声を浴びせられてしまう。ますます苦しむダンだが、クラタは「自業自得だ」と切り捨て、さらにキリヤマに対して「人に文句を言う前にな、自分の部下の教育をするんだ!」と吐き捨ててセンターを後にした。
アンヌ「ダンは今、必死に死神と戦っているんだわ…」
ソガ「がんばるんだ、ダン!」
フルハシ「負けるんじゃないぞ、ダン!」
隊員たちが見守る中、ダンの呻き声は止まった…。
後編
何とか峠を越したものの、身体を調べられて正体がバレることを恐れ基地から抜け出してしまうダン。
それを知ったクラタは嘲笑する。
クラタ「フッフッハッハッハ!今度は脱走か…ウルトラ警備隊の恥じっさらしだよ、アイツは!」
クラタを睨みつけるキリヤマとフルハシ。
ソガ「違います!ダンはそんな奴じゃ…」
クラタ「ないと言うのかね!?じゃあなぜ姿を消した?怖くなったんだよ防衛軍の仕事が!」
ソガ「貴方はダンを知らないんだ!」
クラタ「あんなロクデナシのことなんか知りたいとも思わん!」
激しい言い合いになるソガとクラタ。
その時、ゴース星人に操られたアマギからメッセージが届き、全世界で地底ミサイルによる地球侵略が始まっていることが明らかとなる。
ウルトラ警備隊は調査の末、ゴース星人の拠点がクマガタケ地下にあることを突き止めるが、そこには拉致されたアマギが捕まっている。
だが、アマギ一人と地球全てを引き換えにはできない。
苦渋の決断により、マグマライザーによってアジトを破壊する作戦が決行された。
消耗の極まるダンはウルトラ警備隊に憧れるアキオという少年の作戦本部に匿われていたが、ビデオシーバーでこの作戦を知るとアマギを救おうと外に飛び出す。
再び変身しようとするもセブン上司の呼びかけに一瞬留まり、さらにそこへアキオから連絡を受けたというアンヌが現れ、ダンに優しく問いかける。
アンヌ「何故逃げたりなんかしたの?ねぇ、答えて」
ダン「・・・・・・」
アンヌ「・・・ダン?」
ダン「アンヌ!僕は、僕はね・・・人間じゃないんだよ・・・!M78星雲から来た、ウルトラセブンなんだ!」
ダン「びっくりしただろう・・・?」
アンヌ「ううん。人間であろうと、宇宙人であろうと、ダンはダンに変わりないじゃないの。たとえウルトラセブンでも・・・」
ダン「ありがとうアンヌ!」
意を決したダンは、アンヌに自らの正体と故郷へ帰還しなければならないことを明かす…。
ダン「今話したとおり、僕はM78星雲に帰らなければならないんだ。西の空に、明けの明星が輝く頃、ひとつの光が宇宙へ飛んでいく…それが僕なんだよ…さよならアンヌ!」
アンヌ「待って!ダン、行かないで!!」
ダン「アマギ隊員がピンチなんだよ!」
涙ながらに引き留めようとするアンヌを振り払い、ダンはアマギの救出と最後の戦いへ挑むために再びセブンに変身、ゴース星人のアジトへと乗り込む。
アマギを助け出したセブンはマグマライザーとすれ違う形で脱出に成功、ゴース星人のアジトも爆破された。
アマギを地上に降ろすセブン。しかしそこに、ゴース星人の最終兵器・改造パンドンが現れる。
すでに光線技を撃ち出すこともできないセブンの身体では勝負にならず、初戦以上の防戦一方になってしまう。
その頃、アマギを発見し救出した他の隊員たちに合流したアンヌ。
彼女の口から告げられたのは、衝撃の事実だった。
アンヌ「ウルトラセブンの正体は…私たちのダンだったのよ!」
言葉を失う隊員たち。
アンヌ「M78星雲から地球を守るために遣わされた平和の使者で、自分を犠牲にしてまでこの地球のために戦っているんだわ。でももうこれが最後の戦いよ。ダンは自分の星へ帰らなければならないの!!」
瞬間、大地に叩き伏せられたセブンがパンドンに踏み潰され、苦悶の声を上げる。
だがそれでも、セブンは立ち上がり向かって行く。
地球人以上に地球を愛した戦士が、そこにいた。
それは単なる他の星から来たヒーローではない。
ウルトラ警備隊の仲間だった。
キリヤマ「あっ、ダン!……行こう!地球は我々人類、自らの手で守り抜かなければならないんだ!!」
キリヤマが力強く隊員たちに呼びかける。
直ちにウルトラ警備隊はウルトラホーク3機全てで出撃。セブンの息の根を止めんとするパンドンに総攻撃をかけた。
フルハシ「ダン!離れるんだ!怪獣は俺に任せろ!!」
アマギ「ダン!!」
アンヌ「ダンは死ぬ気で戦っているんだわ!」
キリヤマ「体の具合が悪ければ悪いと、何故はっきり言ってくれなかったんだ…」
クラタ「モロボシ…許してくれ!」
これまで地球のために命がけで戦ってくれたダン=セブンを散々罵倒してしまったことを悔やみ、謝罪の言葉を口にするクラタ。
もう誰も、仲間の名をセブンと呼ぶ者はいなくなっていた。
ソガ「危ない!!」
息もつかせぬ集中砲火にたじろぐパンドン。
残された力を振り絞り、セブンは渾身の力でアイスラッガーを放つ。
だが……
なんとパンドンはアイスラッガーを掴み、奪い取ってしまった。
起死回生の一手を潰され、追い詰められたセブン。
その首を撥ねんと、パンドンがアイスラッガーを手ににじり寄る。
その時、パンドンの前方に飛来したクラタのα号が、これまでの罪滅ぼしとばかりに最後の猛攻を浴びせ、セブンは身構えるチャンスを得た。
執拗な攻撃にパンドンは怯み足を止めながらも、アイスラッガーをセブンへ投げつける。
待ち構えていたセブンはすかさずウルトラ念力でアイスラッガーを反転させ、パンドンの首を斬りつけた。
数秒の間を置いて首が落ち、そのまま倒れ伏す胴体。
ゴース星人による史上最大の侵略が、終わった瞬間だった。
クラタ「やったぁ…!」
セブンの勝利に、先程まで言い争っていたクラタとソガに笑顔が浮かぶ。
戦いを終えたセブンは最後の力を振り絞って立ち上がると、名残を惜しむかのように警備隊のメンバー、そして愛する地球の大地を見渡し、明け方の空へと飛び去った。
ソガ「ダンは死んで帰って行くんだろうか……もしそうなら、ダンを殺したのは俺たち地球人だ。ヤツは傷ついた体で最後の最後まで、人類のために戦ってくれたんだ!ダンを殺したのは俺たちなんだ!あんないい奴を……」
フルハシ「そんな馬鹿な!ダンが死んでたまるか!ダンは生きてる、きっと生きてるんだ!遠い宇宙から、俺たちの地球を見守ってくれるさ。そしてまた、元気な姿で帰ってくる!」
隊員たちが明けの明星を見つめるその先には、微笑みながら駆けていくダンの顔が浮かび上がっていたのだった。
ウルトラセブン 完
余談
台本は決定稿のみが現存しているが、細部の描写が異なっている。
- ダンが体育館でバスケットボールをする場面は台本上では「ドライバー技術装置」。
- 鉄棒をするダンを見守っているのはアンヌではなくゴース星人。
- 侵略の障害となるセブン=ダンを監視しているという設定。
- ダンを厳しく叱責するクラタに「やめて!」と懇願するアンヌ。
- ダンを匿った秋夫少年だったが、不甲斐ないダンに厳しい言葉を浴びせる。
ダンがアンヌに正体を明かすシーンは印刷台本に金城が手書きで修正を加えており、撮影直前まで熟考していたことがうかがえる。
特に有名なのは「西の空に明けの明星が輝くころ~」は台本上ではセブンの姿になってから「明けの明星が輝くころ、西の空を見てくれ。一つの光が宇宙へ飛んでいく、それが私だ」と告げているという点。
そのため「待って!ダン、行かないで!」「アマギ隊員がピンチなんだよ!」は台本上には存在しない。
ダンがソガとパトロール任務を交代する際にソガから心配される場面は『マイティジャック』のマイティ号のセットで撮影された。
ダンがアンヌに正体を明かす場面のロケ地は府中市の多摩川沿いにあった資材置き場。現在は住宅地になっており、撮影時点でも付近にはマンションが建っていたという。
ゴース星人に地球防衛軍極東基地が攻撃される場面は、ウルトラホークの発進バンクの撮影終了後、すなわち第1話の放送前には撮影していた。満田かずほ監督は「侵略者が敵なんだから最後は基地が襲われるだろうと特撮班が撮ったんだ。どうなるか分からないけど撮っとこうって」と語っている。
ちなみにゴース星人に世界の各都市が攻撃される場面は映画『世界大戦争』の核戦争のシーンの流用。これ以降も何度かウルトラシリーズで流用されている。
ダンがアンヌに正体を明かすシーンと改造パンドンとの戦闘シーンで流れるクラシック音楽は、ロベルト・シューマンの「ピアノ協奏曲イ短調」の第1楽章。満田監督はもともとラフマニノフの曲を希望していたが、これが満田監督の記憶違いでイメージに合う曲ではなかった。そこで冬木透が提案したのがこの曲だった。
使用された音源は1948年録音のディヌ・リパッティのピアノ、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮によるフィルハーモニア管弦楽団の演奏によるもの。一説には実相寺昭雄が所蔵していたレコードを使用したといわれている。『ウルトラセブン』のサウンドトラックCDにこの曲が収録される際には同じ音源が収録されていることが多い。
パロディー
「仮面ノリダー」シリーズ最終回「恐怖キングジョッカー男〜さらばノリダーの巻〜」で、前編の木梨猛の体調不良はモロボシ・ダンの体調不良の、後編で木梨猛がジョッカーとの最終決戦を前に、病院へ入院していた恋人のマリナの前に自ら仮面ノリダーの正体を明かし、マリナの目の前で変身するシーンは本作のパロディ&オマージュである。なお、病院に見立てたのは、当時河田町にあったフジテレビ社屋であった。
「機動警察パトレイバー」新OVAシリーズ第15話「遊星から来た女」で、此方は「ウルトラマン」最終回「さらばウルトラマン」とのリミックスであった。泉野明がイングラマンに変身し、野明が篠原遊馬へ正体を明かすシーンは正にセブン最終回のパロディであり、ご丁寧にクラシック音楽が流れる所まで再現されていた。序でに当該回は円谷プロの製作協力回でもあった。
読売テレビの深夜バラエティー番組「ムイミダス」の1コーナー「ウルトラドン」の最終回で題名もズバリ「史上最大の侵略」であり、ご丁寧に元ネタと同じ前後編構成になっていた。
数多くヒーローを倒した(ウルトラドンは怪獣名でヒーローが毎回敗北か不戦敗か引き分けに終わる)ウルトラドンであったが、史上最強のヒーローの前に絶体絶命の危機を迎える。
そして後編では唐突に「ウルトラドンの方がヒーローであり、ヒーローの方が悪役だった」と言う展開が起き、視聴者を唖然とさせた。ウルトラドンはヒーローへの報復を考えるが、同僚の巨大OLから「ウルトラドンはもう限界で、このまま戦えば死ぬ」と宣告される。
命惜しさからかヒーローの仕返しをスルーし、ウルトラドンは巨大OLと共に故郷へと帰還、最終回はヒーローの不戦勝に終わった。
『怪獣倶楽部~空想特撮青春期~』最終号のテーマは本話であり、主人公のリョウタが恋人のユリコに自分の趣味の活動を明かす場面が本話のクライマックスのオマージュとなっており、編集長のキャップが徹夜の執筆作業を決意する際に「マグマライザー、出動スタンバイ!」と言い放つ。
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ロベルト・シューマン:本作で使われたクラシック音楽の作曲者。