概要
有機化学において研究や学習の対象となる物質。炭素を主体とする骨格でできている。我々の身の回りにはびこっており、この世から(生き物以外の)有機化合物が消えればまず生活ができないといっても過言ではない。そもそも、生き物自身が複雑な有機化合物の塊である。
自然界に存在する天然物と人工的に合成した物質(合成物)とに分ける分類の他、高校の化学では脂肪族化合物と芳香族化合物に分けて分類する学習方法がとられている。天然においては、生体に必要なビタミン、遺伝子を司る核酸物質、三大栄養素の炭水化物・タンパク質・脂肪などの有機化合物がある。一方、合成物はビニール袋でおなじみのポリエチレン(他にもあるが)、ペットボトルの原料のポリエチレンテレフタラート(通称PET)、発泡スチロールの主成分であるポリスチレンなどが挙げられる。また、合成樹脂や合成ゴムなどもこれらに該当する。なおこれらの用語については以降の見出しで順次解説するが、記載していないものについてはそれぞれの記事を参照してほしい。
有機化合物の分類
先に述べたように、天然物と合成物とに分ける方法と、脂肪族化合物と芳香族化合物に分ける方法とがある。前者は主に高分子化合物の記事で説明するため、ここでは後者の分類を紹介する。
脂肪族炭化水素は炭素が鎖のように連なった構造をしているものと、環状になったものとがあり、それぞれ単結合のみでできているもの(飽和炭化水素)、二重結合あるいは三重結合を持つもの(不飽和炭化水素)とがある。
一方、芳香族炭化水素はアズレンやフランなどの一部の化合物を除き、ベンゼン環と呼ばれる環状の構造を持っており、脂肪族にはない特有の性質をもった化合物が多い。
また、これらに官能基と呼ばれる特定の性質を示す原子の集まり(原子団)がくっつく場合もある。官能基についてはリンク先を参照。
ここでは、高分子化合物分野を除く、高校までに学習する程度の、官能基がついた有機化合物もいくつか合わせて記載する。化学式については、数字は本来元素記号よりも小さく右側に添えるのだが、機種依存文字なので通常の大きさの数字で表している。
脂肪族炭化水素
物質名 | 化学式 | 主な使用用途 | 備考・その他 |
---|
メタン | CH₄ | 都市ガス・化学工業の重要な原料 | 天然ガスの主成分。最も単純な炭化水素。 |
エタン | C₂H₆ | 化学工業の原料 | |
プロパン | C₃H₈ | プロパンガスなど | 液化石油ガス(LPG)の成分の1つ。 |
ブタン | C₄H₁₀ | ガソリンの添加物 | 液化石油ガス(LPG)の成分の1つ。2つの異性体※1が存在 |
ペンタン | C₅H₁₂ | 寒地用ガソリンの添加物 | 3つの異性体がある |
ヘキサン | C₆H₁₄ | 有機溶媒 | 5つの異性体がある |
エチレン | C₂H₄ | 化学工業の重要な原料 | 植物の成長ホルモン |
アセチレン | C₂H₂ | 金属溶接 | 燃焼時に高温になる |
ブテン | C₄H₈ | | 6つの異性体がある。シス-トランス異性体を持つ |
シクロヘキサン | C₆H₁₂ | 有機溶媒 | |
芳香族炭化水素
物質名 | 化学式 | 主な使用用途 | 備考・その他 |
---|
ベンゼン | C₆H₆ | 化学工業の重要な原料・有機溶媒 | 発ガン性がある |
トルエン | C₇H₈ | | シンナーの主成分 |
キシレン | C₈H₁₀ | | 3つの異性体がある |
ナフタレン | C₁₀H₈ | 防虫剤 | ベンゼン環が2つ繋がった形をしている |
アズレン | C₁₀H₈ | | 7員環と5員環が合わさった珍しい芳香族化合物 |
ハロゲン化合物
ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)を含んだ有機化合物。特定のグループ名がないため、便宜上の名称。
物質名 | 化学式(示性式) | 主な使用用途 | 備考・その他 |
---|
メタノール | CH₃OH | 有機溶媒・燃料 | 体内に摂取すると失明する恐れ |
エタノール | C₂H₅OH | お酒の主成分 | リンク先の記事を参照 |
プロパノール | C₃H₈O | 有機溶媒 | 2つの異性体がある |
ブタノール | C₄H₁₀O | 有機溶媒 | 4つの異性体がある(鏡像異性体も含めれば5つ) |
エチレングリコール | OHCH₂CH₂OH | 冷却水内の不凍液の主成分 | |
グリセリン | C₃H₅(OH)₃ | 口内洗浄剤(モンダミンなど) | |
物質名 | 化学式(示性式) | 主な使用用途 | 備考・その他 |
---|
フェノール | C₆H₅OH | 合成樹脂の原料 | 弱酸性を示す |
クレゾール | C₆H₄(OH)CH₃ | 殺菌用消毒剤 | 4つの異性体がある |
ヒドロキノン | C₆H₄(OH)₂ | ゴムの酸化防止剤 | 2つのヒドロキシ基はパラ位 |
フェノールフタレイン | C₂₀H₁₄O₄ | 酸塩基指示薬 | |
カルボニル化合物
物質名 | 化学式(示成式) | 主な使用用途 | 備考・その他 |
---|
ギ酸 | HCOOH | 家畜の飼料の添加物など | 多くのアリが持つ物質 |
酢酸 | CH₃COOH | 食酢・溶媒など様々 | お酢の主成分。 |
プロピオン酸 | C₂H₅COOH | | 不快な臭気を発する。 |
酪酸 | C₃H₇COOH | | 足の悪臭の原因物質の1つ。2つの異性体がある |
乳酸 | CH₃CH(OH)COOH | 化学合成の原料 | 疲労物質の主成分。鏡像異性体を持つ |
シュウ酸 | (COOH)₂ | | ほうれん草の苦み成分 |
クエン酸 | (CH)₂COH(COOH)₃ | | クエン酸回路(TCA回路)で有名 |
安息香酸 | C₆H₅COOH | ナトリウム塩が食品保存料 | 芳香族カルボン酸 |
サリチル酸 | C₆H₄(OH)COOH | 医薬品の原料 | 芳香族カルボン酸 |
フタル酸 | C₆H₄(COOH)₂ | | 3つの異性体がある |
リンゴ酸 | CH₂CH(OH)(COOH)₂ | | 自然界ではリンゴやブドウなどの果物に多く含まれる |
エステル
物質名 | 化学式(示成式) | 主な使用用途 | 備考・その他 |
---|
ギ酸メチル | HCOOCH₃ | 塗料の溶剤など | ギ酸とメタノールのエステル |
酢酸エチル | CH₃COOC₂H₅ | 有機溶媒など | 酢酸とエタノールのエステル |
サリチル酸メチル | C₆H₄(OH)OCOCH₃ | 消炎鎮痛剤 | サリチル酸の誘導体 |
アセチルサリチル酸 | C₆H₄(OCOCH₃)COOH | 解熱鎮痛薬(アスピリン) | サリチル酸の誘導体 |
ニトログリセリン | C₃H₅(ONO₂)₃ | 狭心症薬 | ダイナマイトの原料として有名 |
窒素含有化合物
物質名 | 化学式(示成式) | 主な使用用途 | 備考・その他 |
---|
シアン化水素 | HCN | | 水を加えるとホルムアミドを経てギ酸とアンモニアになる |
アクリロニトリル | CH₂CHCN | 合成樹脂の原料 | アセチレンにシアン化水素付加 |
尿素 | CO(NH₂)₂ | 肥料や尿素樹脂の原料 | 尿の主成分 |
トリニトロトルエン | C₆H₂(NO₂)₃CH₃ | 爆薬 | トルエンの誘導体 |
ピクリン酸 | C₆H₂(NO₂)₃OH | 爆薬 | フェノールの誘導体 |
ニトロベンゼン | C₆H₅NO₂ | 化学工業の原料 | 特異臭がする |
アニリン | C₆H₅NH₂ | 化学合成の原料 | 塩基性を示す |
p-フェニルアゾフェノール | C₆H₅NNC₆H₄OH | 橙赤色の染料 | ジアゾカップリングによる生成 |
生体物質およびその他の物質
高分子化合物およびこちらを参照。
※1 異性体とは、分子式は同じであるが、構造の違いによって異なる性質を示す物質同士を指す。詳しくはリンク先を参照。
※2 複数の物質の総称。
関連イラスト
関連タグ
化学 有機化学 官能基 炭素 高分子化合物 炭水化物 アミノ酸 糖 脂肪 ビタミン 核酸
医学 薬 生化学 生物有機化学