概要
1990年代ごろ、各雑誌の新人漫画賞に応募された作品の大半が、示し合わせたかのごとく見た目麗しい「死神」が登場し、あらすじも大抵が「主人公に引導を渡しに来た死神が、紆余曲折の末、恋愛感情を持ち人間となって主人公と同棲する」といったもので、「死神が光って人間に生まれ変わるシーン」のページ数まで殆ど一緒であったとされる。
雑誌ファンロードではこの奇怪な現象を、「死神ピカー」と名付け用語とした。極めてありふれたマンネリ展開の事を云う。
出典は岡品とおる(長江朋美)氏が描いたはみだしコミックで、彼女は他に「クリパカ」(クリッとした目でパカッと口を開けて笑う美少女の顔)という、現在でいう判子絵に相当する造語も生み出している。
偶然ではあるが、「死神ピカー」は、同誌で山本弘氏が批判していた「感動的に去って行ったキャラが最後戻ってくるパターン」という別のマンネリ要素や「死神の二つ名を持つキャラ」「起承転結の転で入るキラキラした覚醒シーン」という中二病が好みがちなマンネリ要素も含んでいる。
いずれも、捻りのない演出がいけないだけであり、設定そのものに問題はないのでお見知りおきを。
時代背景
90年代前半には「幽遊白書」に代表される、霊界もの(幽遊白書そのものが死神に類するキャラが開始時点から登場する)の作品が多く製作され、アニメ化も頻繁になされていたことから、影響を受けた執筆者が多数登場し、意図せず類型化した物と思われる。
それに、「うる星やつら」のような悪運の強い冴えない人間の主人公(読者の自己投影用のキャラ)と見た目麗しい異世界人の異性が結ばれる異類婚姻譚系のラブコメ、闇属性やツンデレ等の萌え要素がドッキングされたものだと思われる(ラブコメ、闇属性、ツンデレはいつの時代も人気があるのです)。
また、この時代は「空をふわふわ飛ぶキャラ」「主人公を上から見下ろす神様のようなキャラ」が分かりやすい人外の表現だった(前述の「うる星やつら」「ドラゴンボール」「魔女の宅急便」など)。後の時代になると変わった髪や目の色なども分かりやすい人外表現として定着し、神様、吸血鬼、妖怪、天使、悪魔なども人気が出てくる。
つまり、人外×人間、死の危機などのハードルを乗り越える話が読み切りで人気なのかもしれない。
時代によっては…
なぜか図ったかのようにトラックが吶喊してくる「異世界転生」、ピンチになると未知の力が発揮される「イヤボーン」、やってることはどれもおなじ「魔法学園物」、お約束の塊「2時間サスペンス」、俳優で悪役が分かる「時代劇」など、時代によってマンネリ描写は移り変わる。
週刊少年ジャンプが2018年に行った第1回スタートダッシュ漫画賞では翌年、投稿作に多かった設定や展開が公開されており、その1つに殺し屋や死神が主人公の前にやってきて殺そうとするというものがあった。それに対し編集部は「馴染みのないキャラクターに死の危機が迫っていたとしても興味を持ってもらうことは難しいぞ!!」とアドバイス、この時点でもいくらかテンプレとして残っているようだ。
元サラリーマンの年配者が趣味の延長で新人賞に応募する事も多いが、その年代の場合大抵が「島耕作」シリーズを劣化させたような、「さえない男が突然栄耀栄華を極め、美人のおねーちゃんを愛人にする」サラリーマン願望充足物ばかりが投稿されてくる…というある意味社畜の悲哀を感じさせるようなエピソードも聞く。
そこで投稿漫画やラノベ執筆中の作者の方、一度ネームを描いたら他の作品も良く確認してみよう。意図せずに何から何までそっくりな作品があるかもしれないよ・・・?
死神ピカー回避策?
死神ピカーを避けるべく、珍しい設定、捻り過ぎた設定ばかり使えばいいものではないので、まずは短編・読み切り・オムニバス・増刊号・アンソロジーばかり読んで、そのジャンルを大好きになってみることである。上手さ、インパクトの強弱は一切気にするなかれ。
- 「長編のレギュラーよりも使い捨てのゲストのほうが二次創作の妄想が捗る!短編にありがちなキャラのキャラ付け大好き!そういうキャラと恋愛する妄想をしちゃう!」
- 「よく一人~二人で短編のごっこ遊びをしてしまう!」「TVCMみたいなショートショート特有の話運び、テンポが大好き!」
- 「ピカーッと覚醒するシーン一つでも亜流の演出を考えてしまうんだよなぁ~」(倒置法で最初のほうに出る、派手に光らずゆっくり光る、光るのではなく闇に取り込まれる、主人公ではなく主人公の大切な人が死にそうになる、世界観が原宿系や時代劇 etc 演出に合った設定も考えると一層楽しくなるぞ)
- 「死神と別の属性をドッキングしてみよう(例:死神+職業や部活。死神+付喪神。死神+複雑な事情の元人間。死神+双子やTSFや幼児化やケモノやロボットや七変化。人間側が死神にされてしまう。)」「自分だけに描ける個性的なキャラの性格、関係性、構成、雰囲気、デザイン、エピソードで勝負してみよう。」
といったマニアックなオタクになってみよう(長編が苦手な長編作家もいるぐらいですし…)。
中二病に罹患した人で、長編のお約束展開を嫌う人やわざとお約束展開を好む人が後を絶たないが、短編で同じ趣味に嵌ればいいだけなのだ。
小難しい題材や女子力が高い題材を避ける作家がいるが、手抜きではなく、自分が非リア充だからでもなく、自分が読者として読んだ時につまらないと確信できるからなのだ。異世界ファンタジーやミリタリーやエロ漫画のようにの描くのが大変なのに人気のジャンルがあるのは、推しへの愛情をモチベーションにする作家が多いからなのだ(そのような漫画には大体読み手もいるのだ)。
マンネリな関連タグ
よく使われやすいが、捻ればなんとかなりそうな題材