概要
貧相な着物を着て一本の刀を持つ14歳の少年。身体に様々な武器が仕込まれている。
醍醐景光の実子であるが、生まれる前に48の魔物への生贄に差し出されてしまい、それによって全身48か所を欠損したヒルコのような存在と化してこの世に生を受ける。
名も付けられず川に流された所を医者・寿海に拾われ、体の足りない部分を人工のパーツで補ってもらい、見た目も体の動きもごく普通の人間と遜色ないところまで回復する。
重い障害を負って生まれたゆえか、五感が失われた代償として高度な第六感や、目や口が使えずとも心で会話する超能力も身についており、それも自在に動く助けとなっている。
しかし、その特異な出自ゆえに成長と共に妖怪や霊的な存在に付きまとわれるようになったため、寿海から旅に出るよう言い渡され、この時「百鬼丸」の名を授かる。
百鬼丸はその言葉を受け入れ、自分自身を受け入れてくれる場所、そして自身の48か所を奪った妖怪たちの姿を追い求め、旅立った。
酷薄な生い立ちを背負い荒んだ戦国の世に孤独に生きていること、そして行く先々で疎まれ差別される境遇から、14歳の若さながらニヒリスト的な性格をしており、めったなことでは他人に心を開こうとしない。
どろろと出会う前、旅の道中に出会った女性みおに恋心を抱き共に暮らすまでになったが、侍の横暴によって殺されて以来、侍に嫌悪感を抱いている。
各種装備武器
両腕に刀が仕込まれている。
左腕は無銘、右腕の刀は寿海が殿様から拝領した名刀とのこと。
左腕奪還後は腰の柄に身頃を差し普通の刀として使用。
『焼水』と呼ばれる酸のような毒を噴霧する水鉄砲が仕込まれている。
強力な爆薬『雷玉』が仕込まれている。
作中で九尾狐討伐の際に使用し紛失したが、九尾狐が死んだことにより本物の鼻が生えた。
PS2版のオリジナル装備
- 上腕火砲 連射火筒
右手の義手を外した状態で使用できる機関銃。マシンガンの様に弾丸を掃射する。
右手を取り返した後は仕様不可になるが、その右手こそが48番目「最後の奪還部位」である。
- 脚部大筒 忍ビ怒雷
義足に仕込んだ大砲から強力な炸裂弾を発射。使用するたびに「しのびだらい!」と叫ぶ。
両足奪還後は手持ち武器として強化改造。
両手で構えて使用する小型大砲となるため、義手を外した状態では咄嗟に使用できなくなる。
行く先々で手に入る様々な能力を持った太刀の数々。PS2版では持ち替え可能な「太刀」と持ち替え不可能だが、使い続けると成長する「仕込み刀」を使い分けていく。
片腕奪還後は仕込み刀の一本が「成長していく能力を持った太刀」として取得され、残った仕込み刀を使用する際は太刀を片手に持った変則二刀流となる。
また、PS2版オリジナルの設定として寿海から無用な殺生を避けるように言い渡されており、相手によっては太刀による峰打ちを強制(他の武器の使用が制限)される場面もあるが、身体を取り戻すたびに剣術も冴え渡っていくため、五体満足に戻りつつあるのが実感できる。
映画版のオリジナル装備
- 妖刀「百鬼丸」
魔物に妻と子を殺された鍛冶屋が仇を討つ一心で魂魄の全てを封じ込めて鍛え上げた妖刀で、魔物を爆発蒸散させる力を持つ。
琵琶法師から寿海に託され、百鬼丸の左腕に仕込まれた。
映画版ではこの妖刀を使わなければ魔物を倒せない。
映画版
本作の寿海は呪医師であり、百鬼丸の義肢は戦場に打ち捨てられていた子供の死体を溶かして作り直した代物になっている。その為、魔物に奪われていない部位はいくら攻撃されても「元の身体ではない」ため、元通りになる。
物語開始前に寿海とは死別しており、原作に比べると、若干シビアでニヒルな所がある。
劇中、奪還できた部位は24か所。ちなみに股間は既に存在するらしく、ノベライズでは試しに石をぶつけてしまい、あやうく魔物から体を取り返す前に死ぬところだったらしい。
2019年版
基本的な出自は変わらないが、体を切り取った魔物が48から12に減っており、原作では手つかずの皮膚が完全に剥ぎ取られていた。その他目、耳、鼻、手足などの外部臓器が粗方持っていかれており、神経系も奪われている。
原作や映画、PS2版と異なりテレパシーが使えないため、序盤はセリフが一切なく(本当に皆無なので第4話まではEDクレジットに名前がない。声が出せるようになった第5話以降もしばらくは言葉が話せず叫び声を上げる程度)、表情もちっとも変わらないので何を考えているかよくわからない。
周囲の物体を感知することは可能だが、詳細な質感までは判別できず、義手ごしの触覚で視覚を補う場面もある。
常人同様の活動ができていた原作に比べるとかなり不自由さが増している。
義手義足も現代的なアレンジが成されており、腕の仕込み刀も格納時は肘から余剰部分がはみ出るなど、よりリアルな造形となっている。百鬼丸の鍛錬によって常人離れした動きを可能にしてはいるものの、どこかぎこちなく操り人形のような動きになってしまっている。
ある意味箱入り息子であったためか常識も皆無であり、獲った魚を焼く前にかぶりつこうとしたり、他人に躊躇なく切りかかるせいで無用な騒ぎを起こしたりする有様。そのせいでどろろに世話を焼かれることもある。
ニヒリストだが豪快な面を合わせ持つ頼れる兄貴分であった原作・映画・PS2版に比べ、人間的に繊細かつ未熟な部分が掘り下げられたキャラクター造形となっており、性格的な面ではかなり異なる印象を受ける。
また、不動明王像の理想の顔を手に入れる為、人をさらっていた仏師(おかか)によると「今までで1番立派な顔」らしく、それなりに整った顔立ちをしていることが窺える。
原作やPS2版と違う点の一つに、身体を取り戻していくごとに(ある意味で)弱体化しているように見えるという箇所がある。
原作では慣れない感覚に振り回される程度で、PS2版では臓器を取り戻す事にステータスが上昇していくが、本作では弱点が増えるように描写されている。
痛覚や五感がないという事は、敵を殺すという点に関しては非常に強く、痛みを感じて怯むことなく(痛覚は危険を知らせる重要な器官であり痛みを感じないのは深い傷を負いやすくはあるが)、周囲の状況を理解できないため心を痛める事もなく、躊躇なく相手を殺す事が出来る。
だが感覚を取り戻し人間の世界に馴染むほど、自分の身体も心も傷つきやすくなっていく。
視聴者からはこの状態を指して「母親の胎内という周囲に何も存在しない安寧の世界から、辛く険しい人間の世界に生まれている様に見える」などと評されている。
身体や感覚を取り戻していくにつれて、慣れない世界に苦しむようになる(例:耳を取り戻しても音を聴く感覚に堪えず森の静寂すら煩く感じる、その為自分の声も煩く感じて声帯があっても発声しない)が、元々学習能力が高いと見えて、徐々にその感覚を活かしていく描写も為されるようになっていく。例えば耳の場合はどろろのアドバイスを頼りに妖怪を討つ、投石で距離感を掴む訓練をする、声の場合は病気で倒れたどろろを介抱する為に懸命に道行く人に声を掛け、助力を求めていた。
百鬼丸が音を心地よいと感じるきっかけになった少女・みおとの出会いで、少しずつ人との触れ合いを覚えていくが、偶然居合わせた琵琶丸の『眼』には鬼神に通じる赤い炎が魂に混ざって視えていた。やがてみおは戦に巻き込まれて百鬼丸とは死別。百鬼丸は目には見えずとも彼女の最期を感じ取り、みおを殺した侍達に激怒する。我を忘れて彼らを斬殺して回り、どろろを慄かせるも、どろろの懸命の制止でようやく落ち着きを取り戻す。このように一歩間違えば彼も鬼へと堕ちる可能性が示唆され、育て親の寿海も危惧した、百鬼丸の将来に不穏な影を落としている。
その後も鬼神の炎は百鬼丸の魂に残留し続けており、予断を許さない状況が続いている。
また、本作オリジナルの設定としては、魔物に(既に奪還した)体の部位を欠損させられても、それはあくまで「魔物からお金をすり取られた」ようなものらしく、自力救済、つまりその魔物を討伐すれば再生することが出来る。無論これは魔物による被害だけで、それ以外の事故や人間にやられた場合は(劇中そのような描写こそなかったが)もう再生は出来ないと見られる。
番組後半は鬼神退治と言うより、非道な所業である事を自覚した上で百鬼丸に領民の為の犠牲で居続ける事を強いる肉親と理不尽に肉体を奪われ生きている事すら否定された扱いに憤った百鬼丸との骨肉の争いをメインとして描いており、原作よりも人間同士の争いに焦点が当てられた作風になっている。
雑誌アニメージュ2019年7月号におけるアニメキャラ人気投票では百鬼丸が群を抜いた票数で1位に輝いた。
スピンオフ作品における百鬼丸
手塚以外の作者が描いた『どろろ』のスピンオフ・リメイク作品での百鬼丸の立ち位置は以下の通り。
(↑ページの15~17枚目)
- 『サーチアンドデストロイ』(カネコアツシ画)……近未来SFとしてリメイクした作品。百という名前の少女で、クリーチャーと呼ばれるロボット達に48の臓器を奪われて機械仕掛けの身体となっている。
スターシステムでの百鬼丸
手塚スターシステムの例に漏れず、百鬼丸もポジションを変えて他作品(手塚原作の他作者作品を含む)に出演している。
- 『ブラック・ジャック』……上の画像は「灰とダイヤモンド」のエピソードに登場した正義感溢れる医学博士・百鬼博士。他に「ミユキとベン」では不良生徒のベンとして登場し(どろろも舎弟で出演している)、臓器を取り返そうとする百鬼丸に対してベンは想いを寄せる少女に臓器を捧げる結末となっている。
- 『ヤングブラック・ジャック』(田畑由秋脚本、大熊ゆうご画)……百樹丸雄として登場する(詳細はリンク先にて)。
(画像左)
- 『メルモちゃん』(福山けいこ画)……天然・中二病・オタクな眼鏡男子のラノベ作家として登場。本名の「蒜谷真月(ひるや・まつき)」とペンネームの「緋夜月(ひやつき)ルマ」はいずれも「ひやつきまる」のアナグラム。親友の間久部緑郎には頭の部品が48個足りないと言われている。メルモちゃんが変身したMIOを脳内嫁にするほど気に入っている。
声優・演者
パイロットフィルム・1969年アニメ版:野沢那智
PS2版ゲーム版:杉田智和
2019年アニメ版・舞台版:鈴木拡樹
関連イラスト
原作
2019年版
関連タグ
安満鉦命…魔物に肉体を奪われた状態でこの世に生まれた主人公繋がり。
悠久山安慈…こちらも親しくしていた寺の孤児達を悪党に殺された過去を持ち、孤児達の1人が年長の少女であった。