概要
幻想文学や神秘学(オカルト)の第一人者であり、博物学関連でも膨大な数の著書を世に送り出している。以前はロード・ダンセイニをもじった「団精二」と言う名前で「英雄コナン」、「ク・リトル・リトル神話体系」等を訳出していた。テレビ番組「トリビアの泉」「ザ・ベストハウス123」などにも出演し、嬉しそうに蘊蓄を垂れ流してたりする。教養系の多いNHKの番組にもよく出演している。
非常に速筆で、かなり多作であることでも有名である。
神秘学・オカルトに関しては特に他の追随を許さぬ膨大な知識の持ち主で、「日本オカルト界に荒俣あり」とまで言われる程。但し荒俣本人は、オカルトに興味はあるものの実在性については否定的であり、この辺が師の水木しげるとは一線を画するところである。
幅広い知識と民族学・博物学への造詣を生かし、路上観察学会の設立にも関わっている。
また、それまでごく一部の学者によって学術的に研究されるのみであった風水を、日本で一般向けに紹介し、ブームを生み出した人物としても知られている。
大の古書愛好家(ビブリオマニア)であり、一時期は(『世界大博物図鑑』の資料としてではあるが)膨大な借金を背負ってまで大量の古書を買い集めていた。その借金は、『帝都物語』の大ヒットで舞い込んだ多額の印税(約1億5000万円)によって何とか返済出来たらしいが、残ったお金もやっぱり古書の購入費に消えたという。
私生活では1988年に路上観察学会のつながりで漫画家の杉浦日向子と結婚するも、わずか半年で離婚。1994年に元客室乗務員の女性と再婚(後述)。妻はマネージャーも務めている。
経歴
東京都台東区鶯谷生まれ。父は金属卸業を営んでいたが、事業が傾いたことで板橋区に夜逃げする。その後、両親はアパートの大家と雑貨屋を営んでいたが、再び夜逃げし練馬区に移り住む。
中学生のころ、小泉八雲やブラム・ストーカーの翻訳などで知られる平井呈一の弟子となる。また、高校生になると、平井の紹介で紀田順一郎と知り合い、彼のもとにも通うようになる。
その後、慶應義塾大学に進学。学生時代から海外文学の翻訳や同人での執筆活動に精を出し、王道のヒロイック・ファンタジーの翻訳も手がけるようになる。1970年代から、日本ではあまり知られていなかった『指輪物語』などを高く評価しており、「魔道」「魔道士」などの言葉を生み出すなど、のちの国産ファンタジー作品に大いなる影響を与えることとなる。
大学卒業後は日魯漁業(のちにマルハと合併、マルハニチロとなる※)に入社。システムエンジニアとして働きつつ、先述の紀田と組んで『幻想と怪奇』の編集に携わるとともに『世界幻想文学大系』の監修に携わった。
退社後、平凡社の社屋に半ば住み着きつつ『世界大百科事典』の改訂版の編集に参加した。
以後、SFや幻想文学の翻訳家として、また、博物学の復権を訴え、さまざまな名品・珍品を世界中から集める収集活動に力を入れるようになる。
1985年に発表した『帝都物語』がヒットし、小説家としても活躍するようになる。また、1990年代からはテレビ出演も少しずつ行うようになり、「変なオタクのおじさん」として紹介されることが多かった。
2000年代以降は著述業はもちろんのこと、タレントとしても活動している。
※奇縁というべきか、本人はマルハの漁船が舞台とされる『蟹工船』(小林多喜二)を「ホラー小説として優秀」と評価している。また、1990年代にはプロレタリア文学を「エンターテインメント小説」と紹介していた。
人物
身長185㎝という長身である。中学生のころですでに180㎝に到達しており、相撲部屋からスカウトがあったほどであった。
もともとは少女漫画家志望であり、萩尾望都に似た絵柄の漫画を描いていた(正確にはファンタジー漫画を描きたかったのだが、当時、これを描けるジャンルが少女漫画しかなかった)。しかし漫画を描く速度が異様に遅いために断念し、小説家へ転身したという過去がある。著書の冒頭にちゃっかり自作漫画を収録していたりする。
海洋生物も好きで、熱帯魚の飼育が趣味。「死滅回遊魚」と呼ばれる、暖流に乗って日本までくる熱帯魚を捕獲して飼育している。なお、弟の幸男は熱帯魚雑誌の編集部に長年勤め、「メガロパ海洋生物研究所」という個人事務所を設立し、文筆業を行なっていた。
幼少期の夜逃げがトラウマとなっていると発言したことがある。また、このころよく魚の缶詰を食べていたことが、日魯漁業への入社のきっかけとなったという。
すさまじいレベルの甘党として知られ、結婚するまでは、あんパンを主食にしていた。また、汁粉を好んで食べ(因みに「江戸っ子なので粒餡が好き」)、食べすぎると「防空壕でおびえる」悪夢に悩まされ、しょうがないので起きてから「迎え汁粉を食べる」、中華料理店にいっても杏仁豆腐しか食べない、などの伝説がある。
私生活
多忙に加えて収集物の購入費用を捻出するため一日一食、さらにその一食をインスタントラーメンだけで凌いだり、饅頭のみ3食という生活を10年近く続けて健康を害しかける、編集者の差し入れのお菓子が主食になりかけていたなど、荒又の食生活は危険なエピソードに事欠かない有様であり、さらに生活のすべてを趣味に捧げるあまり着替えも入浴も滅多にしないという、絵にかいたようなダメ人間であった。
現在の妻とは、飛行機の乗客とキャビンアテンダントとして出会った。妻は「美的感覚が変わっている」とのことで、子供の頃からイボガエルを「かわいい」と言ったり、イケメンかつ高学歴エリートの乗客から連絡先を渡されても「好みじゃない」と平気で破り捨てたりしていたようである。
本人は”生活能力に欠ける学者タイプ”が好みとのことで、誰もが認める博物学研究家であり、かつ一人では最低限の食事も身だしなみもままならない荒俣は、まさに是非ともお世話したい理想の存在だったと語っている。
妻はマネージャーとして生活の一切から仕事まで甲斐甲斐しくサポートしており、バラエティ番組で夫婦の様子が取材された際にも「夫の顔は気持ち悪い。仕事も気持ち悪い。でもそこが大好き。一生ついていく」と笑顔でコメントしている。
交友関係
水木しげるの弟子を自認しているが、御大の方も知り合う前から荒俣の博覧強記ぶりに舌を巻き、注目していた。その後は個人的な友人となり、すっかり意気投合。御大の短編にも怪人物『アリャマタコリャマタ』としてしばしば登場するようになった。
仲の良いオカルト好き同士、何度も連れ立って旅行に出かけていた。また健啖家という点も共通しており、旅先で現地の美味を食べまくっては、ともに体重を増やしていた。
主な作品
- 『帝都物語』:「帝都」東京の破壊を目論む怪人加藤保憲と、彼の野望を阻止せんとする人々の、100年に渡る戦いを描いた伝奇エンターテイメント小説。膨大なオカルト知識を活かした、リアルな(=実在した)魔術描写が特徴。漫画化・アニメ化はもちろん、あの実相寺昭雄の手によって実写映画化も行われた。
- 『幻想皇帝 アレクサンドロス戦記』:アレクサンドロス3世の東方遠征を描いた戦記小説。帝都物語と比べるとファンタジー要素はかなり薄く、割と史実に忠実な、歴史小説作品である。だがアニメ化された際には、原典封神演义に対するフジリュー版封神演義ぐらいの、とんでもなく弾けたアレンジが加えられた。
- 『シム・フースイ』シリーズ:帝都物語のキャラクターである風水師・黒田茂丸の孫である竜人が、風水でいろいろする話。何回目かまで主人公は「俺の爺さんは東京を」とか言っている。
- 『アラマタ大事典』: 自分が読み漁った雑学書・資料から選別した情報をまとめた本。そのためか(監修・荒俣宏)と明記
その他、集英社の「荒俣宏コレクション」、「別世界通信」その他いろいろ「大東亜科学奇譚」「図像探偵」等膨大。