概要
『ウィザーディング・ワールド(魔法ワールド)』に登場する闇の魔術。また、その魔術によって作成する魔法の道具の名称。
原語では「ホークラックス(Horcrux)」。
魔法の歴史において、最も邪悪な発明とされている。
ホラス・スラグホーンによれば、その名前を口に出すこと自体が強く禁じられており、分霊箱の名前が載った書物を見つける事自体が非常に困難であるとされる。実際、あらゆる高度な闇の魔術の記述が書かれた本ですら、分霊箱については言及が避けられている。
ホグワーツ魔法魔術学校の図書館を長年利用しているハーマイオニー・グレンジャーはその数少ない本を一冊発見することに成功したが、それでも「魔法の中で最も邪悪な発明。人はそれを説きもせず語りもしない」という戒めの一文が記載されているだけだった。
詳細(ネタバレ注意)
きみが説明してくれた現象は、わしが一度も目撃したことがないものじゃった。
単なる記憶が行動を起こし、自分で考えるとは?
単なる記憶が、手中にした少女の命を搾り取るであろうか?
ありえぬ。
あの本の中には、何かもっと邪悪なものが棲み着いておったのじゃ……魂の欠けらが。
己の魂を分割してその断片を何らかの物品に封じ込める魔法、またはその魂を隠した物品を指す。その実態は、「殺人を犯すと魂が引き裂かれる」という現象を利用し、自分の魂を分割して生命のバックアップを作る、というもの。
分霊箱を作るための「生贄」として殺す相手は基本的に誰でもよく、また自らが手を下さず間接的に殺した場合(未必の故意など)でも構わないようだ。また、魂の断片を封印するのは原則として物質であるが、生物でもよい。また形状や大きさは問わない。
分霊箱に納められた魂の断片は、他の魂をこの世に繋ぎとめる役割を持つ。そのため、魂の断片を納めた分霊箱が1つでも無事であれば、本体が致命傷を負ってもその魂は現世に留まる事ができ、ゴーストに近い状態で生き永らえることが可能となる。そのため、分霊箱を全て破壊された状態で本体が死を迎えない限り、術者が死ぬことはない。
が、あくまでも「魂があの世に行かなくなる」というだけであり、分霊箱の術者が肉体が滅ぼされた場合は魂だけの状態となり、肉体を復活させるには何らかの蘇生魔法を使う(使用してもらう)必要がある。
さらに、魂の状態でこの世に留まるには相当な魔力と自我が必要なようで、並の者では「自分が誰で、何なのか」すら分からなくなるため、死んでいないだけであり、求められている効力からすればハッキリ言って無意味である。
ヴォルデモートでさえただ「この世に存在すること」に意志を傾け続けなければならなかった。
作中最強の存在であるヴォルデモートですらそれ程の負担を強いられる以上、作成さえすれば何度でも甦られるような都合のいい魔法ではないようだ。
(ただし、ヴォルデモートは他に類の見られない「6つの分霊箱」を作成した人物である事は留意すべきである。分霊箱が多く元の魂が少ない分負担が大きくなっている可能性がある。逆にこの世に繋ぎ止める楔である分霊箱が多い分、ヴォルデモートの例ですら負担が軽くなっている可能性も存在する。)
いずれにせよ、他人の命を奪うことで自分の命を補強するという、倫理観もへったくれもないとんでもない用途で使用される魔法なのである。
ヴォルデモートはこれらの特性を不死の魔法として利用していた。作者曰く、分霊箱の発明者は紀元前500年前後に活躍したギリシャの闇の魔法使い「腐ったハーポ」。
(蛇語使い(パーセルマウス)でもあった彼はバジリスクを初めて生み出した魔法使いでもあったという)
分霊箱は最上級の闇の魔法によって作られ、あらゆる損傷を修復する力を持っている。そのため、強力な力を持つ非常に特殊な魔法を用いなければ破壊することができない。作中に登場する分霊箱を破壊できる力は「バジリスクの牙(正確には牙から分泌される毒)」「悪霊の火」「ニワトコの杖」の3つ。また、『ハリー・ポッターと秘密の部屋』で「グリフィンドールの剣」がバジリスクの牙から分泌された毒の力を吸収したため、分霊箱の破壊が可能になっている。
また、分霊箱に宿る魂によって人の心を支配する力があり、分霊箱に執着心を持った人間を操ったり、所持する者に常に不快な感情を与えたりする。
魂を引き裂くという命の在り方をいじくる行為にデメリットがない訳はなく、アルバス・ダンブルドアはハンサムだったヴォルデモートが人間離れした容姿に変貌したのは、分霊箱を何度も作成するために魂を引き裂き続けたことによる副作用だと推測している。
(もっとも、当の本人はマグルである父親譲りの端正な顔立ちが大嫌いだったため、顔が崩れたことを気にしてなさそうである)
また、そうやって繰り返し引き裂き続けると、魂が非常に不安定な状態になるため、本人が意図しない形で偶発的に魂が引っかかってしまう場合もある。要するに、分霊箱を作成するという意図を持たずに殺人を犯した場合にも近くの何かに自分の魂が宿ってしまうということ。
もっとも、そんな状況に陥るのは「大量の分霊箱を作成し」「それでもなお殺人をやめない」「正真正銘の人格破綻者」だけだろうが。
分割された魂を元に戻すこともできるが、それには良心の呵責が必要であり、自らを滅ぼすほどの苦痛を伴うとされる。
分霊箱の作成は言語道断の悪行であり、それを為した者の魂は著しく汚損され、その状態のまま、つまり上記の良心の呵責による魂の修正とその苦痛による死ではなく分霊箱を破壊される事で分けた魂が消滅し、欠けた状態で死を迎えると魂が辺獄へ閉じ込められ、ゴーストになる(現世に痕跡を残す)ことやベールの向こう側へ行く(死後の世界へ進む)ことが永遠に出来なくなり、黒いモヤのような状態で、自分が何であったのかもわからぬまま未来永劫、苦痛に苛まれ続けることとなる。
前述の良心の呵責による魂の修正はこの事態を阻止し、悔い改めるための、文字通り最後のチャンスなのである。
また、この仕様上分霊箱を作成したものはその内の一つでも破壊された瞬間に魂が欠けてしまうため、辺獄行きが確定し、後に悔い改めようとも手遅れである。(このデメリットは複数作ろうが一つだけだろうが変わらない為、死を恐れ遠ざけようとした代償として、自らの魂を自らの手で細切れにし続け、それによって精神状態を不安定にしながら自身の敵から逃げ惑うハメに陥ることとなる)
「Horcrux」は、フランス語の「dehors」(=英語:outside、外)と、「crux」(英語:要点、ラテン語:責め苦)を由来とする造語である。したがって、魔術を用いた人物の重要な部分(=魂)を苦しみとともに外へ出す、という意味になる。ちなみに「分霊」という神道系の用語があるので、「分魂箱」の方が適訳であるという意見もある。
ヴォルデモート卿の分霊箱
誰よりも深く不死の道へと入り込んでいたこの俺様が、そういう状態になったのだ。
お前たちは、俺様の目指すものを知っておろう――死の克服だ。
作中で分霊箱を使用したことが明確に判明しているのはヴォルデモートのみである。彼はより確実な身の安全のために複数個の分霊箱を作成しているが、魔法界の歴史においても3つ以上に魂を引き裂いた人物は他に存在しないとされている。
ヴォルデモートは魔法界において「最強の魔法数字」である「7」(六芒星の頂点と、中心の術者を併せた数字)に拘り、6回の分割を経ることで、本体と合わせて7つの魂に分割すべく6個の分霊箱を作成しようとした。ダンブルドアはその所業を「我々が悪と呼ぶものを超越した領域」「不滅、或いは他の誰も到達できないほどに不滅に近い存在」と表現した。
勘違いされがちだが、この呪文は「自らの魂を引き裂き、分割して、何かに閉じ込める」ものとしか説明されておらず、分割の尺度が「半分割」なのか「文字通り削り取った少量を閉じ込める」のかは明確にされていない。そのため、「6度も分割したため、帝王本人に残っている魂はわずかに1/64のみ」という説は厳密には正しくない。ただ、やはり何度も魂を分割したせいか、本体の魂は大人の姿を保てないほどに損なわれ、すっかり弱りきっている。
自身の分割した魂が長い期間本体から分離されていたこともあってか、原作のヴォルデモートは自分の分霊箱が破壊されても感知することができず、「リドルの日記」が破壊されたこともルシウス・マルフォイの口から聞かされるまで知らなかった。ただし、映画版では数が急激に減り始めた影響か、分霊箱の破壊を感知しており、同時に激しく衰弱する描写がみられる。
一覧
元々、ヴォルデモートには幼少期から「戦利品」を収集する癖があり、自分の魂を入れるのはそれ相応の器でなければならないと考えた。そこで、自分の名誉にふさわしい、魔法に関して由緒ある品物(主にサラザール・スリザリンや他のホグワーツ創設者たち所縁の品)を分霊箱として選んだ。
しかし、グリフィンドールの剣だけは真のグリフィンドール生(=強い信念と勇気、正義感を持つ若者)のもとに組み分け帽子から召喚される物で、血筋も人格も筋金入りのスリザリン的人物であるヴォルデモートには到底手に入らず断念したようだ。
分霊箱にする物の条件は緩いため、極端な話、そこら辺の石ころを分霊箱にして、遠洋にでも投げ込んだ場合、上述の強い闇の魔法により形状が保護される上、分霊箱の発見が事実上不可能になる事で絶対に死ななくなる。
だが死に対して臆病なヴォルデモートは、流石にそれをやって二度と管理できなくなるリスクを負いたくはなかった模様。
なお、前述の通り6回の分割によって、ヴォルデモートの魂は本体(1個)と分霊箱(6個)の合計7個になっているはずだが……?
製作順 | 名前 | 生贄 | 製作時期・場所 | 破壊者 | 破壊時期・方法 |
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#1 | リドルの日記 | マートル・エリザベス・ワレン | 1943年6月13日ないしそれ以降、ホグワーツの1階の女子トイレ | ハリー・ポッター | 1993年5月29日、バジリスクの牙を使用 |
#2 | ゴーントの指輪 | トム・リドル・シニア | 1943年8月某日、リトル・ハングルトンのリドル邸 | アルバス・ダンブルドア | 1996年夏、グリフィンドールの剣を使用 |
#3 | ハッフルパフのカップ | ヘプジバ・スミス | 1946年及びそれ以降、ヘプジバ・スミスの家 | ハーマイオニー・グレンジャー | 1998年5月2日、バジリスクの牙を使用 |
#4 | スリザリンのロケット | マグルの旅行者 | 1946年から1979年の間、場所は不明 | ロン・ウィーズリー | 1997年12月28日、グリフィンドールの剣を使用 |
#5 | レイブンクローの髪飾り | アルバニアの農民 | 1946年及びそれ以降、アルバニアにて | ビンセント・クラッブ(原作)、グレゴリー・ゴイル(映画版) | 1998年5月2日、ハリーたちを殺すために悪霊の火を使用するが、制御できず結果的に破壊 |
#6 | ??? | ???もしくは??? | ???、??? | ??? | 1998年5月2日、???を用いて???を使用 |
#7 | ナギニ | バーサ・ジョーキンズ | 1994年夏、アルバニア | ネビル・ロングボトム | 1998年5月2日、グリフィンドールの剣を使用 |