ドナルド・トランプ暗殺未遂事件
どなるどとらんぷあんさつみすいじけん
概要
2024年7月13日午後6時15分頃(日本時間では14日午前7時15分頃)、ペンシルベニア州のバトラーにて共和党から大統領選挙に再選を賭けて立候補していたドナルド・トランプ前大統領が演説中に銃撃された事件である。
この事件でトランプ氏は右耳上部に銃弾が当たって負傷し、さらに流れ弾に被弾して演説を聞いていた聴衆のうち1人が死亡、2人が重傷を負った。トランプ氏自身は銃撃を受けてすぐに姿勢を低くしてしゃがみ込むとボディーガード達がすぐに覆い被さって防御したため、右耳の負傷以外無事に済んだ。
この事態に対抗馬の現職であるジョー・バイデン氏はもちろん、世界各国の首脳も事件と容疑者に対する非難の声明を次々と発表、暗殺という手段や暴力による民主主義の侵害を断じて許さない姿勢を鮮明にした。
容疑者
容疑者は地元ペンシルベニアの中産階級出身で、介護職に就いていた20歳の男性で、組織的背景の無い単独犯と断定されている。
容疑者は学生の頃から銃器に興味を持っており、地元の銃愛好家の団体に加盟していた。
犯行の詳細
事件の前日に容疑者は父親が保有していたAR-15を持ち出し、ホームセンターで梯子を、銃器店で50発分の実弾をそれぞれ購入。車で現地に訪れると、トランプ氏の演説中に会場から140メートルほどの距離にある建物の屋根に梯子で登り、狙撃を試みていた。だが、一連の様子はあたりにいた人々に目撃されてしまっており、近くにいた警察官達に「不審な行動を取っている人物がいる」と通報されていた。一人の警察官が梯子に登って容疑者を制止しようとしたが、容疑者は銃を向けて威嚇し、警察官が慌てて身を隠した隙に狙撃を実行。トランプ氏に向けて8発ほど発砲したが直後にシークレットサービスに射殺された。
また、容疑者は犯行時に発信機の様なものを身につけており、乗っていた車からは受信機が取り付けられた爆発物が発見された。この事から、遠隔操作で車を爆破させ会場が混乱する中でトランプ氏を狙う事も計画していたと思われる。
容疑者の素性など
職場の同僚によると、容疑者は大人しい性格で職場でも政治的な話をするようなことはまったくなかったらしく、共和党員でありながら民主党所属のバイデン大統領の支持団体にも寄付を行う等、政治に対しては中立寄りの立場を取っていたかあまり関心がなかったことが伺える。
一方で、旧知の者たちからは、容疑者はスクールカーストで言うところの典型的なギークであり、理数系の科目で表彰を受ける(特にプログラミングが非常に得意だったらしい)など成績優秀だったものの、反面人付き合いは苦手であり、少年期はいじめられっ子で学校内で孤立していたという証言もあった。家族によると現在も付き合いのある友人は特にいないようだったとのことで、社会的に殆ど孤立していたに等しい状態であった可能性が指摘されている。
また、容疑者の就いていた介護職は、所謂エッセンシャルワーカーと呼ばれる職種にあたり、決して安定した収入を得られる職業ではない。自身の強みである理数系の知識を活かせるような職業ではなく、収入の不安定な職に就かざるを得なかったことで、社会に対して鬱屈した思いを抱いていたり、自身の将来に対して漠然とした不安を抱いていた可能性もあり、いつしかそうした思いの矛先を政治家であるトランプ氏に向けるようになっていったとしても不思議な話ではない。
以上のことから、犯行の動機は政治的な意図によるものだったのか、それとも心身の不安定さ等に起因する個人的な動機によるものだったのかははっきりしていない(容疑者自身が死亡したこともあり、未解明に終わる可能性が高いだろう)。
大統領選挙への影響
今回の事件が今後の大統領選挙にどこまで影響を与えるかは現時点では不透明だが、トランプ氏にとって有利に働くのではないかという意見が優勢である。
これは、単に同情票が集まるだけでなく、銃撃直後に負傷しながらも立ち上がり、ガッツポーズを取って健在であることを示して見せたトランプ氏の姿が、アメリカ人の求める“強いリーダー像”と合致するという見方があるため。
対して、対抗馬であるバイデン氏は、トランプ氏以上に高齢で、直前に行われた討論会でも言葉に窮する場面が目立つなど、“強いリーダー像”とはかけ離れた醜態を次々に晒してしまっていたことから、今回の事件の影響でますますトランプ氏との印象の格差が際立ったとする意見も出ている。
また、トランプ批判の切り札であり実際トランプ政権最大級の汚点であったアメリカ連邦議会襲撃事件についても言及を避けざるを得なくなった。
バイデン陣営は事ある毎にこれを引き合いに出して「トランプ氏が過激な言動で支持者を扇動したためにあのようなことが起きた」と非難してきたが、事件後は逆に共和党員やトランプ氏の支持者から「トランプ氏をあたかも危険人物であるかのように煽ったことが今回の事件を引き起こしたのではないか?」「反トランプの方がよっぽど危険で暴力的じゃないか」と非難し返される事態にまで陥っており、最早ブーメランにしかならなくなったためである。
あろうことか、バイデン氏は事件の直前に「トランプ氏を標的にするべきだ」との失言をしてしまっており(年齢以前の問題として、彼にもトランプ氏に負けず劣らず興奮すると口が悪くなる悪癖があった)、事件後に釈明に追われる事態ともなっている。
一方のトランプ氏も7月15日からの共和党大会に姿を見せつつ「とても勇ましい演説を用意したが、あの経験の後でそんなことは言えない」として、持ち前の「トランプ節」を封印し、攻撃的な態度も鳴りを潜めてしまった。
彼の場合、代わって訴えたのは「団結」や「融和」であり、これもまたバイデン陣営の十八番を奪うものであった。
元々バイデン政権はインフレ抑制の失敗など多くの政策的批判に晒されており、どうしてもイデオロギーや個人的資質を争点にせざるを得ない部分があった。それすらも今回封じられたことによって八方塞がりになったという見方が強まり、ネット上ではもう大統領選挙は終わった(トランプの勝ち確なので)といった書き込みすら溢れ返った。
実際、本事件を受けて実施された緊急の世論調査では、元々やや優勢な傾向のあったトランプ氏が一気に15ポイント以上引き離したという結果も出ている。
市場の反応も重大事件の後とは思えない程良好で、特にバイデン政権が規制強化に乗り出していた仮想通貨や化石燃料といった銘柄の高騰が目立った。これは明らかに、政権交代を見据えた動きであると指摘されている。
イーロン・マスク氏のような大物も(元々トランプ氏寄りではあったが)これを機に正式に支持を表明し、自身が持つX(旧Twitter)での盛り上がりにも一役買っている。
そうして本人の心配もそこそこに選挙戦の分析を始めること自体に「不謹慎」「人の心とかないんか?」といった非難も上がっている。トランプ氏の支持者は彼が政界に進出した当初より既存のメディアに対して不信・不満を抱く傾向が強く、それがまた(本人の訴えた意味とはやや違う形ではあるが)団結を強めるという循環が生じている。
一部では、トランプ氏が支持の拡大を狙って行った自作自演ではないかという陰謀論も出ているが、冒頭で述べたように、銃弾はトランプ氏の右耳に被弾しており、あと数センチずれていれば確実に頭部に命中していた可能性のある極めて殺意の高いものであったため、その可能性は低い(そもそも、自分だけではなく他人も巻き添えになるような形でのプロパガンダ等誰もやりたがらないだろう)。
実際、使用された銃は少し練習すればズブの素人でも100m先のコインを撃ち抜けるほど高精度なものであった。容疑者が偶々、射撃サークルに入部拒否されるほどのド下手だったから助かっただけである。(少なくとも一年前から地元の射撃クラブに所属していたようだが)
トランプ氏は銃撃が起こる直前に手元の資料を見るために顔を動かしたことで銃弾の直撃を免れたと語っており、「もしもあの時顔を動かしていなかったら私はこの世にはいなかっただろう」と述懐している。
また、トランプ氏は「考えもつかぬこの出来事を防いだのは神のみだ」とも語っている。
元々、上記の議会襲撃にも関わったとある界隈を中心にトランプ氏は神が使わした光の戦士であるとする捉え方があったのだが、今回の件を受けてそれが一般のキリスト教徒の間にもある程度共有されることとなり、「陰謀論者」のレッテルすら彼らから反トランプの側に貼り替わった節がある。
キリスト教徒側にとっても、近年は進化論・中絶・同性愛等を巡って熱心な信者ほど批判されがちな中で、珍しく堂々と主張できる「奇跡」が起きたと一種の神格化を進める向きは強く、このまま一転攻勢が始まるとも期待されている。
更に関連して、現役中に蜜月関係にあり、2年前凶弾に斃れた安倍晋三元首相が守護霊としてトランプ氏を守ったとする説も流布した。
これについては発端となったインフルエンサーが早々に「ネタばらし」を行っているものの、日本人や親日派の間を中心にその後も一定程度信じられた。
それでなくとも安倍氏の命日は本事件の5日前であったうえ、国の指導者を経験した(アメリカ合衆国大統領と内閣総理大臣)政治家が選挙での演説中に銃撃されたという類似性から日本国内では例の事件を連想したという人も多く、一方を評価する人はもう一方も評価する傾向が強かったこともあって、こうした話が受け入れられやすい土壌が整っていたのだと考えられる。
なお、この事件が発生する直前にはイランがトランプ氏の暗殺を画策しているという情報を米当局が掴み、シークレットサービスにもこの件は共有されていたが本事件との関連は無いとされている。
余談
アメリカ大統領経験者の暗殺事件は未遂・既遂含めてこれで16件目となる。
事件直後に、AP通信から、青空にはためく星条旗をバックに警護隊に覆い被さられながらも拳を振りかざして懸命に聴衆を鼓舞しようとするトランプ氏を写した写真が発信され、事件を象徴する1枚として世界中で話題となった(pixivでもこの写真を元にした時事ネタ系のイラストが多いが、死者の出ている事件を茶化すようなイラストを描くのは不謹慎ではないかという批判の声もある)。
ちなみに、この写真を撮影したカメラマンはAP通信所属のエヴァン・ヴッチ氏。過去にピューリッツァー賞を受賞したこともある、ジャーナリストの間ではかなり有名な人物である。
彼は以前より、鍛え上げられた己の肉体を生かした反射神経と機動力、それに加えて一瞬で完成度の高い構図を捉える判断力を備えた凄腕のカメラマンとして高い評価を得ていた。
今回撮られた写真もまた、「今年の1枚」「今年のピューリッツァー賞候補」との声が多い。
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民衆を導く自由の女神:話題の写真からこれを連想したという意見も多く見られた。