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「イギリスには料理はない。あるのは食べ物だけ」

byエルキュール・ポワロ


概要編集

日本のご飯に近い存在としてジャガイモがあり、ゆでる、焼く、揚げるなど様々な調理法で毎日のように食されている。

パンはできるだけ薄くスライスするのが身上。サンドイッチ用の食パンを思い浮かべると理解しやすい。これをこんがりと焼き、バターやジャムなどをつけて食べる。

肉類は牛や豚、鳥のほかに、ウサギや鹿、カモ、シギなどのジビエも豊富。


調理法はシンプルを持って旨とし、素材の質を重視するのが基本。


現代の「美味しいイギリス料理」編集

さて、ここまで当項目を読んでそろそろ一部毒された閲覧者は思い始めていることだろう、「イギリス料理はマズいってネタいつ言い出すの?」と。

残念ながら、当項目ではよその大百科サイトの類と違ってその偏見を真っ向から真面目に反論していくスタンスである。


祖先に軍人が多いイギリス貴族は”粗食を旨とせよ”というが、気の利いた上流階級の人々は、ちゃっかりフランス人のコックを雇って舌を楽しませていた。

そして、庶民はどんな時代でも欲望に正直だ。でなければなんでシティがラーメン激戦区になるだろうか。


家庭レベルでは、料理の味は結局主婦の味覚と腕次第である。そして、第二次世界大戦後に生まれた世代は、旧世代に比べ料理や栄養学についても高い関心を持っていた。


何事にもフリーダムな若者たちは食欲だって旺盛で、美味いものには目がない。彼らは街に増え続ける食材や料理店の中から、美味いものを取捨選択するようになっていった。

だからこそ、うちの国の料理はまずいからね、なんて自虐が通るし、この世代が社会の中心となる年齢になったからこそ、食事と健康の関係について真剣に考えられるようになったと言える。


ホームステイで日本の学生を受け入れたり、下宿や小さなホテルで料理を作ってくれるのはこの世代であるため、日本で読んだ書物のイメージから、強制ダイエットを覚悟してホームステイに行ったはずが、毎日のご飯(とビール)が美味しくて太って帰ることになった、という人も珍しくない。


そして料理人となった彼らは、他国に負けじと研鑽を積んだ。1990年代からは、高級レストランで腕を磨いた彼らにより「ガストロ(美食、食道楽)・パブ」が次々とオープン。中にはミシュランの星を獲得した店もあり、今やイギリス庶民の味覚は大きく向上している。


イギリス料理人たちのもっぱらのテーマは「上質な素材が持つ、本来の美味しさを引き出す調理法」。

これは、かつてのイギリス料理が持っていた美質の復活とも言える。

現代のイギリスでは、日本人の味覚にも通じる、シンプルでありながら深い味わいを持つ料理が、日夜生み出され続けているのである。



かつてのイギリス料理のイメージについて編集

かつてイギリス料理は世界的にまずいと言われ、とくにヨーロッパではよくネタにされ弄られてきた。


一般論として、外国人の前でその人の国の食文化をけなすのは失礼にあたるのだが、イギリス料理に関してはイギリス人の前でその酷さをネタにすることが許容される。それは、彼らも自国料理がまずいのを自覚しているからであり、自国料理のまずさを自虐的ジョークとして口にするほどである。


実際に、当時のフランスの大統領が会談中に「あんな不味い料理を出す国なんて信用出来ない」と言い放って、あわや国際問題になりかけたところを、英国側の外相が「ハギスに関しては、その意見はもっともだ」と取り成したことすらある。


大体において、「○○国の料理は不味い」といっても、その国の食習慣に外国人が馴染めないだけであって、「その国の人にとっては美味しい料理」であるという場合が多い。しかし、イギリス料理の不味さはそのようなものとは根本的に異なっていたのだ。


イギリスに長らく在住した経験のある作家、大学教授、有名人らの体験談をまとめると、その調理法には以下のような特徴があった。


  • 1)やたらと食材を加熱しすぎる

食材を加熱するには、様々な方法がある。肉なら焼く。野菜なら茹でる。

各国ではそれぞれに最適な時間があるとされ、その味、風味、歯ごたえの最高の瞬間を引き出すために日々研鑽を重ね、伝承されているのだが。


イギリスでは加熱の時間や引き上げるタイミングを重視しない。肉でも野菜でも委細関係なく適当な大きさに切り、肉ならオーブンに、野菜なら鍋にぶち込む。イギリスの食卓に招かれた場合、そうやって何の味付けもされていない肉や野菜がゴロゴロ出されることはわりとよくあることであり、体験者は閉口する。


それだけなら「ただマズイだけ」だが、問題は加熱工程にかける時間である。時間をかけすぎるのである。肉なら、零れ落ちる肉汁を無視して焼き続ける。野菜なら色が抜け、形が崩れる寸前まで茹でる。結果として、味もそっけもなく、せっかくの栄養分もぬけてしまった一品が出来上がる。


  • 2)テクスチュア(食感)に無頓着

こうして焼き過ぎたり煮過ぎたりすれば当然、食材の食感はめちゃめちゃになる。肉は砂を噛むようであり、野菜は口の中でグズグズと崩れてしまう。


  • 3)作法は「塩で調整」

イギリスの食卓には、味の抜けてしまった素材を補うべく、かならず塩の瓶が置かれている。つまり食事に際してはまず、それぞれの好みに合わせて、各人が料理に塩を振りかける必要がある。


  • 4)ロンドンにだって美味い店はいくらでも有る

フィッシュアンドチップスに……あと中華料理屋とインド料理


ただし

かくもイギリス料理はまずい、とセンセイ方はのたまわれる。

しかし彼らの体験談は、実に数十年以上も昔のものという、あまりにも古い情報であり、また、学食など食べた場所が悪かったというケースが多々含まれている。

上記のネタ元となっている書籍の出版は1991年や2001年であり、当然著者の体験はそれ以前のものである。当時のイギリス滞在記としてはともかくも、すでに情報源としては時代遅れとなっている。

よく漫画やジョークのネタにされる「イギリス人の味覚音痴」や「栄養学の欠如」も、しばしば極端な例を面白おかしく取り上げていることに注意しなくてはならない。


また日本で「イギリス料理は不味い」と云うイメージが根強かった時代でも、小説家の檀一雄はイギリスの一流ホテルで出されるローストビーフの美味さについてエッセイに書き残しており、不味い料理に当る可能性は高くても、それなりの場所で食えば、それなりの料理が出て来るという一面も有ったと言える。



美味→衰退→美味というイギリス料理の変遷編集

食文化への無頓着さが災いとなり、近年では肥満の増加が深刻な社会問題にもなってしまったイギリス。ある小学校では給食をバイキング形式にした結果、パンや肉類などの特定のメニューだけが消費され、野菜を主とした料理は全く見向きもされず廃棄される事態が相次ぎ、物議を醸したという事例もある。


しかし実は、数世紀前の農業地帯での食事は、四季折々の素材を盛り込んだなかなかバラエティ豊かなもので、味付けや調理法にしてもシンプルながら美味であったことが、最近の研究で判明している。


また、イギリスにはカレーやシチューなど日本の洋食にも大きな影響を与えた、美味しい料理がいくつもあるということも忘れてはいけない。

近世以降のイギリス食には、インドや香港など、世界中の多くの地域に植民地を所有していた経緯から、その地域の料理を本国で進化させたものも多い。

実際、英国海軍では本場のインドスパイスを使ったカレー料理が作られており(コックがインド人であった例も)、英国海軍でそれを食した成立して間もない日本海軍がスープカレーを導入したという経緯もある。


では、美味だったはずのイギリス料理がなぜまずくなってしまったのだろうか。

こういった事態の原因には諸説あり、ここではそのいくつかをご紹介する。


悪玉説その1:信仰

イギリスでは国教会やプロテスタントが長らく信仰の主流であった。歴史的経緯はさておき、人々の中では享楽=罪とする考えが根深いといわれる。この考えからは食事すら免れえなかった。


人生と言う限られた時間で、信仰と生産以外に手間をかけるのは罪とされたのである(「美味しい料理をつくる」ことも十分生産的な行為のはずだが、このあたりのことは鑑みられなかったようだ)。ある信仰深きイギリス夫人が「食事に時間をかけるなんて莫迦ゞゝしいわ」と苦虫を潰したような顔で吐き捨てたのを見た人もいる。


食事に関して喜びを感じることは、享楽・快感の一種であって罪なのである。よってどんなに美味しい料理であろうと、不味そうに不愉快そうに、または無関心に食べるのが知識人や貴族の間での正式な作法とされた時代もある。極端な例では、灰をふりかけてまで味を消す家庭もあったという。

その為か、「普段の食事なんて腹が膨れれば十分」「食べる為に生きるのではなく、生きるために食べるのだ」という考えが今でも残ることになってしまった。

  • だが一方で「ティー」(紅茶とともに軽食を楽しむ風習)は「手を抜くべきではない」とされ、供される軽食やお菓子も、食べて美味しく目に美しいという素晴らしいものである。これは「お茶と軽食」の習慣が、まず貴族の慣習として始まり、やがて友人を招いて会話を楽しみながらいただくという、社交的な意味合いを含むものとして発展していったことに理由がある。ちなみに、夕方遅くに摂る「ハイ・ティー」と呼ばれるお茶は、サンドイッチやパイなどに重点を置いた十分に食事になるもので、これを早めの夕食として、仕事と健康のため、夜は早々に眠るという家庭もあった。

悪玉説その2:ビートン夫人の料理書

世界的にも有名で、イギリスでも(聖書以外で)もっとも流通し、権威のあるとされる料理本(実際には家政全般に関する書籍であり、料理はその一部である)。著者はイザベラ・メアリー・ビートン。


彼女の手なるその本は、世に『ビートン夫人の料理本』として知られ、主婦の必読本として読み継がれてきた。しかし初版は1861年、日本で言えばギリギリながら江戸時代であり、古い知識や廃れた常識が書き連ねられている。そんな本を現代の家政に応用すれば、色々間違いも起こるというものである。


悪玉説その3:歴史的経緯

そもそもイギリス本土は気候が寒冷で、水質の悪い痩せた土地であり、食材の多様性も乏しいものであった。

加えて18世紀に起きた産業革命によって、多くの人口が農村から都市部へ(長時間労働に縛られる工場労働者として)流れて行ったことで、それまで各地域に存在していた家庭料理・郷土料理を発展させていく余裕や土壌が破壊されてしまったという背景がある。

しかも流れ込んだ先の都市は恐ろしいほどの階級社会で、貧しい労働者にはパンを入手することすら財力的に困難だった。彼らは蒸かしたジャガイモやでんぷんを練った団子のスープで腹を膨らせるのが日常であり、このため「ジャガイモばっかり食ってる」が貧乏人を嘲る定番の文句として成立したほどである。


さらに、工業による大気や河川の汚染が蔓延し、食品の製造・販売においても衛生面の問題があった。つまり新鮮で安全な食材を得ることは非常に困難だったのだ。「必要以上に食材を加熱する調理法」が伝統の料理法として普及・定着してしまったのも、それが一番安心して食べられる調理法だったからである。


また、牛や豚などの上質な畜肉を、外貨を稼ぐための輸出商品としてしまったため、それまで内容は質素でもそれなりに美味しく食べられた素材が、庶民の口に入らなくなってしまった。


イギリスでは以上のような歴史的背景から、素朴ながら素材を活かしたせっかくの料理文化が途絶えてしまった、とされる。


もちろん今では、事情は大きく異なっている。

まず、当たり前だが現代のイギリス人は、食を楽しむことを否定するという、狂信的な呪縛からは解き放たれ、週末や記念日に大枚をはたいて美味しいものを食べることになんのためらいもない。

昨今では食育の重要性が叫ばれ、学校給食の導入にあたって熱い討論が交わされてもいる。


国内はもちろん、世界各国から豊富な食材が集まるようになり、移民も積極的に受け入れていた経緯から、中華料理やインド料理、イタリア料理などは本場のシェフが調理している例も多々ある。


特に最近はドーバー海峡を超えて欧州大陸から流入したコックの多くがイギリスで店を開いている。現代の「美味しいイギリス料理」で述べたように、イギリスの料理人たちにも変革が起こった。既に、よほど食費をケチらない限り、旅行者がトラップに引っかかることはなくなっている。


回転焼きここでこの食べ物の名称どうのについては触れない)などは30年以上も前にソーホーに出店して、現地の人々が喜んで食べていたし、2010年代にはラーメン戦争が勃発するなど、日本の庶民の味も多く輸入されている。忘れた頃にたびたび和食ブームが起こり、都市圏などには寿司レストランなども数多く出店、日本と同様に島国であるため、もともと海の幸には恵まれているという好条件も伴い、寿司や刺身などは美味い店も多い。

  • テニス界で、イギリス人として2013年に77年ぶりのウィンブルドン優勝、2015年79年ぶりのデビスカップ優勝を果たし、2016年には2度目のウィンブルドン優勝、五輪連覇そして世界ランキング1位を達成したアンディ・マリー(Sir Andrew Barron "Andy" Murray)が、体重維持のため隙あらば寿司を貪り食うことで、女王陛下を困惑させている。激しい消耗に耐えるために1日6000kcalを必要とする彼だが、寿司はハイプロティンかつ炭水化物とのバランスが良い、理想的な食事だそうである。


代表的なイギリス料理編集

イングリッシュ・ブレークファスト

薄切りのトースト、シリアル(オートミールやコーンフレーク)、ホットディッシュ(卵料理とベーコンソーセージなどに野菜を添えたものやベークドビーンズ)、フルーツという、盛りだくさんの内容。

古い時代のジョークで「おいしいイギリス料理を食べたければ3食、朝食を食べなさい」と言うのも頷ける。ド定番メニューなだけあってハズレが無い。


イギリスでは20世紀に入る以前から、贅沢な部類に入る食材(卵やベーコン等)も庶民の食卓に上るようになっていた。つまり、何気にかつての大英帝国の栄華と国力を象徴する一品だったりする。

実際、フランスに代表される大陸式朝食(コンチネンタル・ブレークファスト)はパンと飲み物だけと、それこそ無味乾燥極まりない。


こうした朝食の差が生まれた背景には「食事前に庭仕事などを済ませる」という、古き良き時代のイギリスの生活習慣もあった。現代では他国と同じく、朝はギリギリまで寝てたい、あるいは食欲がないから、朝食は抜き!という人も多い。また、寒いフランスの朝には、あれこれ詰め込むよりも、まずはたっぷりのカフェオレで体を温めるのが正解である。


イギリスのトーストは薄切りであるため、よく食べる学生などは4枚、8枚と食べることになる。ホームステイ先によっては何枚食べるかあらかじめ聞いてくれるので、遠慮なく食べたい枚数を申告しよう。


フライドトマト

そのまんま焼いたトマト。トマトは熱を通すと旨味が出て独特の酸味が緩和されるので、生のトマトはダメでもこれならイケるという人も多い。味付けにちょっと塩コショウを振るとさらに美味く、病み付きになる人もいる。ホットディッシュの皿に添えられることも多い。


各種パイ料理

ラムのターキッシュタルト

イギリスにおいて、日本のどんぶり物に相当するのが各種パイ料理である。

ビーフ・ウェリントンは牛肉と香味野菜を包んで焼き上げたパイ。ステーキ&エールは、エールを使ってやわらかく煮込んだシチューのパイ。パブではチキン&マッシュルームのパイも定番である。


テイクアウトもあるが、店で食べる場合にはマッシュポテトとホットサラダが添えられ、見た目にも美しい。

シェパーズパイはその名の通り羊肉のミンチを使用し、マッシュポテトではさんだ、労働階級御用達&給食で子供の人気メニューとなっているパイ。ガストロ・パブではキッシュ皿に盛り、上にチーズをかけてグリルするなど、高級感あふれるものとなってお目見えする。


ローストビーフ

お肉♪

牛肉の塊を丸ごと焼き上げた豪快な料理で、まさにイギリス料理の代表。スライスしてグレイビーソースをかけ、付け合わせとしてヨークシャー・プディングを添えるのが定番のスタイル。


2019年現在、イギリス各地のガストロ・パブでは、毎週日曜日のランチからディナータイムにかけてのスペシャル・メニューとして、”サンデー・ロースト”が提供されている。一流の技術でグリルされた野菜とローストビーフは、素材の旨みが最高の形で引き出された逸品。日本人の感覚では3人前以上のボリュームを誇る一切れに、店ご自慢のグレイビーソースがいっそう食欲を掻き立ててくれる。グレイビーとは肉汁のことで、グレイビーだけでグレイビーソースを差すこともある。


チキンティッカマサラ

イギリスを代表する家庭料理の、インド風カレー。1960年代にインド料理店にて編み出され、骨を取り除いたタンドーリチキン(これを刻んだものをチキンティッカという)を煮込み、仕上げにトマトピューレやサワークリームを合わせるので辛さはほとんどない。まずいといわれた時代でも、ローストビーフにチキンティッカマサラを食べてみてもう一度感想を言ってくれと反論したほど国民食になっている。実はイギリスは日本と並ぶカレー好きの国でもあるので、日本式カレーも広まってきており、どういうわけかカツカレー(カツがないのにカツカレーとはこれいかに…)と呼ばれているそうな。


なお、元々日本式カレーの源流になった、元来の英国軍が食べていたカレーは、本国ではそこまで馴染んでおらず、もともとはローストビーフの余った肉を煮込むための料理だったという。


フィッシュアンドチップス

「F」

イギリス式白身魚の天ぷら。発音は「フィッシュンチップス」に近い。

世界的にも有名で、イギリスの軽食と言えばこれ。冷蔵技術が発達し、新鮮な魚を街まで運べるようになったことで誕生した料理。もともとは労働者のC級グルメで、安くて旨くてお腹のふくれる、庶民の味方であった。


素材はタラやオヒョウなどの白身魚がメイン。衣は小麦粉と卵を、水とビールで溶いたもの。このときに使用するビールの種類で、揚げたあとの衣の風味や色が変わる。こだわりのある店では、さらに酢か重曹を入れて見た目を美しくする。

この衣をたっぷりつけた魚と一緒に、大振りに切ったポテトを素揚げし(イギリスではこれをチップスという)、屋台では”天カス”も必ずつけて、ざらっと包み紙に放り込んで渡してくれる。

客はこれにモルトビネガーなど、好みのドレッシングをかけて食べる。


昔は、日本の古き良き肉屋のコロッケがそうであったように、包み紙が新聞紙であることも多かった。

誤解を招かないように付け加えると、上記用途で使われることを既に前提としている&日本で言う厚生省がしっかりしているため、イギリスの新聞で使われるインクは大豆を原料としており、健康被害の心配はない。


高級レストランでは、居ずまい正しく皿に盛りつけられた「ソフィスティケイテッド・フィッシュ&チップス」(sophisticated=「洗練された」の意)として登場する。これはアフタヌーンティのホットディッシュとして取り入れられている場合もある。


トライフル

イギリス庶民の味からもう一品、最もありふれたデザートのトライフルをご紹介する。

トライフルは「つまらないもの」という意味の言葉で、その名の通りまったく気取らないというか、簡単に作れて、作った端から一人占めしてもしゃもしゃ食べつくすという部類のお菓子である。


材料はスポンジケーキとカスタードクリーム、ホイップした生クリーム、フルーツの缶詰、炭酸飲料。

注意したいのはカスタードも生クリームも、砂糖を極力控えたものにすること。甘味はフルーツとスポンジケーキで十分事足りる。

欲しいだけの材料をそろえたら、まずはスポンジケーキを数cm角にカットし、器に盛る。その上から炭酸飲料を軽くしみこませる。その上からカスタードを敷き、さらにその上に生クリームを乗せる。最後にフルーツを好きなだけ盛ったら完成である。


子供の頃の夢のまま、巨大な一品をこしらえて抱えて食うも良し、ほどほどの大きさの器で盛り付けに凝ってみるも良し。イギリスではすべての材料がスーパーで簡単に手に入るため、思いつけばすぐ作ることができる。


アフタヌーン・ティー

アフタヌーンティー

正確には料理というよりは習慣。紅茶を中心にスコーンケーキ等といった茶菓子類、サンドイッチというのが基本。元々は上流階級の社交の場としての食事スタイルだが、現在は高級ホテルからお洒落なカフェ、労働者階級の家庭まで色んな場所で供されている。

 

さすがは紅茶の国というべきか異常なまでの力の入れようで、ここで供されるお菓子はどれも普通に美味しく、値段も日本のカフェとほとんど変わらない。サンドイッチなどの軽食、スコーン、ケーキ類の順番で食べるのが作法で、この順番を入れ替えてはいけない。要は、メインディッシュからデザートへの簡単なコースになっているわけで、画像のようにアフタヌーンティースタンドに3段重ねで盛られている場合は、一番下の皿から食べ進めていけばいい。各人の小皿に取り分けていただくこと。


ちなみにイギリス軍の野戦糧食(レーション)にもアフタヌーン・ティー用のおやつセットが付いている(しかも妙に充実している)。


サンドイッチ

もるもさんど

有名な逸話がある、日本でもお馴染みのお手軽料理。

高級ホテルや専門のパン屋などで入手できる物はだいたい美味しいのだが、町の屋台や安い売店は要注意。特に駅や空港の売店で売られているものは、不味くて食えたものじゃないというのはもはやお約束ネタ。

パッサパサでガチガチのパンに、日本人の感覚では信じられないような具が挟まれていることもある。

  • ただしパンに関しては、ご飯の食感に近づけたもっちもちの日本のパンこそが特殊だということに留意しておきたい。

アフタヌーンティーでの定番は薄くスライスしたキュウリのみのサンドイッチだが、これは古い時代、イギリス国内では栽培が難しかったキュウリを使えることが、有力者のステータスとされたのが由来。


ベイクドビーンズ

甘めのトマトソースで、水煮の豆を香味野菜とともに煮込んだ料理。煮込み料理なのにベイクドの名があるのは、元々はオーブンで蒸し焼きにして作られていたから。

イギリス人が実によく食べ、スーパーに行けば缶詰が山積みされている、一種の国民食。シンプルながら非常に栄養面で優れた料理。優しい味なので子供も好んで食べる。豚肉と一緒に煮込んだものはポークビーンズとなる。


似た料理に、挽肉を加えてチリソースで煮込んだ、アメリカ料理のチリビーンズ(チリコンカン)がある。愛すべき庶民派刑事、コロンボの大好物で、彼は店主が文句を言うほどケチャップをかけて食べる癖がある。ベイクドビーンズ、ポークビーンズ、チリビーンズはすべて、日本でも輸入品店で缶詰が市販されており、温めるだけで美味しく食べることができるため、キャンプなどにも重宝されている。


バンガース

ソーセージの一種。第一次世界大戦時に、肉の不足から水気の多いソーセージが出回り、調理中に「BANG!」と破裂することが多かったためこの名がついたという。肉より小麦粉の量が多いため、なんだかぬめぬめしている。プリプリ食感を期待して口に入れると、ふにゃっとした感触の肩透かしを食らう。

このため外国人からはまずいと不評だが、イギリス人にとってすでにバンガースは慣れ親しんだ味わいであり、一定の需要を保っている。


もちろん21世紀の現代では豚肉を90%以上使用したソーセージが一般的なのでご安心を。ただしバンガースは既にソーセージを表す一般名詞として通用しているため、区別がつきにくい場合がある。購入の際には成分表を確認しよう。


なお、ソーセージをグレイビーソースで煮込み、マッシュポテトを添えた「ソーセージ(バンガース)&マッシュ」は、パブの定番料理。味にうるさい日本人観光客にも美味しいと大好評の一品である。


ウナギゼリー

いろいろと誤解もある料理。 詳細はウナギのゼリー寄せ の項へ。


キッパー

ニシンの塩漬けを日干しにして燻製にしたもの。魚食文化に慣れ親しんでる我々日本人にとっては単なる干物の燻製といった感じで楽勝の一品であり、むしろ現地でハマってしまう人も少なくない。あえて欠点を挙げるならば、白いご飯が欲しくなるところか(ペペロンチーノにも最適)。


しかし、この味をパンと紅茶と一緒にブレックファーストで食べるので、他の欧米人にとってはイギリス料理のゲテモノ度を象徴する代物らしく、イギリス人もこれを食べてる姿を外国人に見られるのは少々恥ずかしいんだとか。酒の肴としても優秀で、その扱いは発酵度を強めるため日本のくさやに近い。


魚料理

読んで字の如くである。イギリスは海洋国家でありながら、魚はもっぱら肉を買えない最貧民のための代用食だった歴史がある。そのため、あまり調理法も発展しなかった。ただし、海辺の町では普通に魚介が食されており、「焼き」の技術を活かしたスズキのグリルなど、フランス人シェフが勉強しに来ていたことでも知られている。魚好きの日本人が食べても普通に美味しくいただける料理があることは、注釈しておく必要がある。


魚料理といえば、しばしばネタにされるのがフィッシュケトルで作られる「魚の水煮」である。

見た目はフライパンのように薄く、魚一尾が丁度入る大きさ。これに魚を入れ、水を入れて火にかけ、時々レモン果汁などを注しつつ茹で上げる。

魚の味は茹で汁に出てしまうが、これを出汁として使うこともなく捨ててしまい、食べるのは魚の身だけである。日本人的には非常にもったいなく感じるのだが。


マーマイト

英国の優雅な?食事風景とそれに憧れる秋月型の皆さん

ビールの搾りカス(いわばビールの酒粕)から作られた黒いペースト。

パンに塗ったりして食べるのだが、発酵食品のお約束通り、他国民にとっては受け入れがたい一品で、不味いの不味くないのとしばしばネタにされ、イギリス本国でも好きか嫌いかの二つにキッパリ分かれるらしい。日本における納豆さながらである。


実際の味わいはというと、強いしょっぱさの奥に旨味とほろ苦さがあり、味噌に近いものがある。そのためか日本人には「思い切って食べてみたら案外おいしい!」と病みつきになることも珍しくない。白飯に乗せてそのまま食べるほか、旨味とコクが出るため、隠し味として味噌汁やカレーに入れるのも良い。


ビタミンBを非常に豊富に含んでいるため、摂取し易いように加工したサプリメント製品も存在する。


1967年の映画「ドリトル先生不思議な旅」では、原作では動物愛と食をきっちり区別して、肉料理を召し上がっていたドリトル先生が、このマーマイトを食する菜食主義者として描かれファンをがっかりさせた。



イギリス料理の一覧編集

紹介したもの以外にも、世界的に美味で有名なイギリス料理は、意外に数多い。

少なくとも21世紀になった今では、よほどの冒険をしない限り、当たり外れはほとんどない。一部に文化の違いゆえのトラップもあるけれど。


肉料理

ローストビーフ ミートパイ ハギス


魚料理

フィッシュアンドチップス スズキのグリル ウナギのゼリー寄せ スターゲイジーパイ


煮込み料理

カレー ビーフシチュー クリームシチュー ハッシュドビーフ


パン類

スコーン (イングリッシュ)マフィン サンドイッチ プディング クランペット ウェルシュラビット(サンドイッチ)



外部リンク編集

コンフォートフード・シリーズ (マック木下による連載記事)



関連タグ編集

アメリカ料理:建国の歴史上イギリス料理の影響が大きいが、中国、イタリア、フランスなど食を愛する国からの移民も多く、南米文化も入り混じって独自の発展を見た。


The Great British Bake Off

現在、日本でも大人気を博すイギリスの料理コンテスト番組。世界各国の焼き菓子とパンをテーマにサバイバル方式で進行する。特に第一期(2010-2013)ではテーマとなる菓子やパンの歴史まで解説してくれており、当然ながらイギリスの台所とその歴史を窺える要素が多数登場する。


フィンランド料理エチオピア料理広東料理:イギリス料理と同じくゲテ…人を選ぶ料理が多いことで有名。


パリオリンピック(2024年)

パリオリンピックの選手村の食事が量が少ない、生焼けの肉が出てきた、逆に異常に焦げている、やたらとヴィーガン向けメニューばかり充実しているという有り様であったため、イギリスの選手団が激怒し、自国の料理人を緊急招集するという事態が起こった。どうしてこうなった

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