「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、ゆかいなことはいっそうゆかいに」
概要
1934年11月16日生まれ。2010年4月9日逝去。
山形県東置賜郡小松町(現川西町)出身で、文学青年だった父と、のちに随筆家となった井上マスの元に生まれる。元クリスチャン。
父は共産主義系の運動に傾倒しており、彼が5歳の時に病死。母のマスが美容院経営などをして育て上げ、旅芸人の継父ができるも継父はひさし等子供達を虐待した挙句金を持ち逃げして逃亡し、母がこの継父を追い込んで経営する会社から叩き出すという泥沼劇となっている。
その後母の経済的困窮により孤児院に預けられ、高校までそこにいる。
上智大学に一旦進学するも途中で休学したり医学部を再受験しようとして失敗したり赤線で金を使い果たす等迷走の挙句、1960年にやっと上智大学を卒業している。
その後放送作家として活動し、最初の妻である作家の西舘好子と結婚し3人の娘を設ける。
しかし双方の性格上喧嘩が絶えず、原稿が上がらないストレスを西舘にDVでぶつけるようになり顔が変形するほどの暴力を振るうようになった(編集者もこれを煽るような言動をしている)。
やがて西舘が彼女の現夫である西舘督夫に気を移したこともあり離婚。
井上本人は経緯について沈黙を守ったものの、西舘や井上の母であるマスが著書で叩き合いをする等の泥沼が続いた。
離婚後、エッセイストの米原万里の妹に当たる女性と再婚。この妻の父親が日本共産党幹部の米原昶であったこともあり、思想的に気があったのが舅にビビっていたのか以降はDVの噂はなりを潜めた。
ヘビースモーカーだったのもたたって晩年は肺がんを患い、2010年4月9日に75歳で死去。
代表作に『ひょっこりひょうたん島』、『吉里吉里人』など。
『握手』は中学国語の教科書に掲載されたため、それで触れた人も多いと思われる。
日本語の造詣に深いことでも有名であったが、一方で 『遅筆堂』 を自称するほど関係者泣かせな人物でもあり、持っていた劇団の芝居の脚本が公演直前まで完成しないどころか原稿落ちさせてしまうこともしばしばであった。
9条の会の「呼びかけ人」を行うなど、平和活動にも熱心であり人格者として有名であった。だが、一方で上記のように家庭内暴力を行い、育児に関してはネグレクトの気があった等、公私の乖離が激しい一面があった。
これには、幼少期に義父から虐待を受けていた事と、生活の困窮からカトリック系の孤児院に弟と2人で預けられて孤独な幼少期を送っていた過去が関連しているという意見もある。(この辺りの経歴は、井上の自著「あくる朝の蝉」や「四十一番の少年」等に詳しい。)
上記の経歴の上に、実父がプロレタリア文学や共産主義運動に関わっていたことも関連してか、党員でこそなかったものの日本共産党のシンパであったり、同時に熱心な天皇制批判者でもあった。
これらの影響は、「吉里吉里人」(=日本/中央政府からの分離独立がテーマ)と「人間合格」(=共産主義運動に参加していた学生時代の太宰治がモデルで、「人間失格」のオマージュ)となって表れている。
逸話
- 代表作『ひょっこりひょうたん島』の裏設定
・「ひょっこりひょうたん島」は、死後の世界の物語であり、最初の火山の噴火によって先生と子供たちは全員死亡してしまっていた。井上本人はこれを‘漂流する島で過ごすという設定上、どうしても不可避な食糧問題をスルーするため’と説明していた。
・もう一つ裏事情があって、孤児院暮らしであった井上をはじめ、もう一人の原作者山元護久と担当ディレクターの責任者3人が共に‘家庭の事情により両親に頼ることのできない子供時代を送った’から「暖かい家庭」の象徴たり得る「親」を登場させられなかったのだ。
…とされていたが、上記の逸話は山元護久の死後に井上が講演会の席上での性質の悪いジョ-クとして語ったものが勘違いしたマスコミのせいで大々的に広まってしまったデマともされ、オリジナル版製作当時にそのような設定は存在せず、当時のディレクターやスタッフも認知していなかった。
- 動物虐待
これまた嘘か本当か不明だが、自身の体験として著作上でネコに対する動物虐待…というにはグロすぎる所業を(しかもユーモラスに)克明に記している。
「猫はにゃんともいわずに即死した。」
「高校時代、日向ぼっこをしていた猫にガソリンをかけ、マッチで火をつけたことがある。」
(『巷談辞典』P376-P379「動物愛護」(河出文庫:2013年)より抜粋)
井上「犬に牛肉を与えている自称動物愛護家は、わたしにいわせれば滑稽だ。」
ちなみに、元ネタ文章の初出は東スポや日刊ゲンダイと共に三大ネタ夕刊の一角である夕刊フジに連載されていたコラムである。
そう、マーシーが「満員電車でくたびれた顔して読みながら老いぼれていくのはゴメンだ」といっていた、アレである。
(民度的に)あっ…
- 抗議への反論(?)
上記のように倒錯した思考回路をしていた井上だが、昨今の感情論だけの左派とは違い効率的な‘口撃’でもって反論者を撃退していた。
反天皇だったことから右翼団体「一水会」を結成した鈴木邦男が脅迫電話をかけたところ、天皇全125代のすべての名称を暗唱するなどして「返り討ち」にしたとされる。
その一方で、前妻へのDVが騒がれた時は一貫して黙秘権を行使している。
吉里吉里人
ひょっこりひょうたん島と並ぶ井上の代表作で、日本SF大賞、星雲賞をW受賞(同時期ではないが)した初の作品、その上読売文学賞も受賞しているのだが、簡潔でコミカルな文面。また、発表当時は社会現象となるほどで、国内にミニ独立国ブームさえ誕生した。
また、井上が抱いていた国政への疑問をぶつけた作品でもあり減反政策などの農政問題、医療問題、市町村合併問題といった部分にはかなりシビアに迫っており、今でも考えさせられる部分は多い。また、タックスヘイブンや便宜置籍船国など小国家の戦略の裏側を軽く説明しているなど、井上のありとあらゆる知識が詰め込まれている。
なお、岩手県大槌町に吉里吉里駅というのがあり、そこでも吉里吉里国というテーマパーク的ミニ国家が誕生したことがあったが、本編の吉里吉里は安家洞の近く(なぜそこなのかは、奥州藤原氏の隠し金山伝説に基づいている)にあり、あくまでフィクションである。
また、当作品はゴルゴ13などいろんなメディアのパロディが盛り込まれているのも特色。
関連タグ
司馬遼太郎:井上側が非常にリスペクトしていて、共著に『国家・宗教・日本人』がある。
本宮ひろ志:元・ご近所さん。本宮側がリスペクトしている。