十二国記
じゅうにこくき
十二国記とは、小野不由美作の古代周王朝の歴史や古代地理書山海経などを原典とする中華風ファンタジー的な世界設定の小説群のこと。設定や歴史は各作品共通しており、原則として広大な世界のある地域を舞台として物語が展開する。主人公も中嶋陽子ら後述の主要人物が中心だが、別の主人公が立つ作品もある。挿絵は、山田章博が担当している。総じてこの世界に存在する十二の国の王と麒麟が中心の物語すなわち「十二国記」シリーズと呼ばれている。
詳しくは→十二国記シリーズの作品名一覧へ
天帝がかつて存在した世界を一度滅ぼして作り直した世界とされ、天帝が定めた法『天綱』が教条的に働く世界である。
十二国記の世界は中国の周時代をモデルにした世界であり、山海経に登場するような神仙や妖魔の存在する世界となっている。
この世界の人は女からではなく、木になる卵果(らんか)という果実から生まれる。
人々が住む里にはそれぞれ里木(りぼく)と呼ばれる木があり、ここに行いの良き夫婦が祈ることで卵果が実る。
家畜もまた里木に祈ることで実り、野獣たちは野木(やぼく)と呼ばれる野の木に自ずから実るという。
上空には雲海と呼ばれる深い海があり、下界から雲海の上に出ることは出来ない。
ただし、各国には王都をはじめとして何ヶ所かに凌雲山と呼ばれる雲海を貫いてそびえる山があり、山の地下をくり抜いた通路から雲海の上と下を行き来することができる。
十二国
世界は十二の国と中央の黄海からなる。詳しくは→十二国記の国々と黄海の一覧へ
王
麒麟によって選ばれ、天帝に代わって国を統治する人物のこと。王になる人物は麒麟のみが感じ取れる「王気」を放っている。
麒麟の服従の誓いを承認した時点で人として死に、神として生まれ変わるとされる。
冬器で首や胴を絶たれるか、天命が失われた場合(つまり、自ら天に願って神籍を抜けるか(禅譲)、麒麟が死んだ場合)を除いては、死ぬことはない。
前の王と同じ姓でない限り(易姓革命の思想が影響)誰でも新王になるチャンスがあるが、世襲は許されておらず、王の血縁者が新たな王に選ばれることもない。
王が祭祀・郊祀を行い、道を失わずに統治を行っている限りは、天帝の加護で国は自然災害や妖魔から守られる。
だが、王が道を失うと荒れ始め、王が崩御すると妖魔の襲来もあって一気に荒れていく。
王となった者は神籍に入るため、正式な結婚はできない。ただし、王に登極する前に結婚していた者は、その関係を維持し子をもうけることも可能。
王と王の家族の特権で仙籍に入った王族は、国の頭文字と同じ音の漢字を当てた国氏を使う。
麒麟
獣であるが神でもある存在で、神獣と呼ばれる。生国の民意の具現化ともいわれており、天帝の意思が素通りするだけの存在ともいわれている。天から二つの使命を受けている。すなわち王を選ぶことと、選んだ王の統治を臣下として支えることである。
雌雄の別があり、男性の麒麟が麒、女性の麒麟が麟である。獣の形で生まれ成長にするにしたがい人の形をとることもできるようになり、さらに成長すると人の形と獣の形のいずれでも行動することが可能となるが、角を切られると麒麟としての本質を失うこととなる。
通常寿命は30年程度だが、王を選定した麒麟は王が崩御するまでは冬器で頸を落とされるか失道の病にならない限り不老不死となる。
麒麟にとって他者の流す血は毒であり、それを「穢れ」という。それゆえにみずから戦うことはできず、身を守るために「妖魔」を調伏して使役せねばならない(使令)。また、動物由来の食品も食べることができず、もし仮に食べた場合「穢れの病」を発症する。
詳しくはタグ先→「十二国記」の麒麟へ
天綱・地綱
天綱は天帝が定めたと言われる法である。具体的には王が蓬山にて登極する儀式の際に、
頭に直接聞こえてくる法である。有名なのは
- 「天下は仁道をもってこれを治むべし」
- 「兵をもって他国に侵入してはならぬ」
- 「子を願う者は同じ里の婚姻した夫婦でなければならぬ、婚姻する者は必ずその国の男女でなければならぬ」
王は天綱に従って統治を行うべしとされている。実際仁道をあまりに離れた統治を行うと、
麒麟は病に倒れ(失道の病という)、やがて死んでしまう。
そして麒麟が死ねばまもなく王も死ぬことになる。
「兵をもって…」はさらに強制力があるとされており(覿面の罪(てきめんのつみ)という)、
かつて他国に派兵した才国の王・遵帝は、民を救う善意による行動であったにもかかわらず数日にして崩御、采麟も使令に襲われ食い殺されてしまった。
ちなみに、この条文は「正統な国権の侵害」を禁じるものであり、その国の正統な国主の許可があれば他国が兵を入れることができる。
地綱とは王が定める法のこと。具体的な税率をはじめ各国独自の制度はこれで定められる。
通常は官僚が発案し三公六官の賛成を経て、王が承して御璽を押すことで効力を発揮する。
御璽には霊的な力があり、例えば後述するように官僚を御璽のある文書で任命することで不老不死にできる。
地綱は天綱に背くことは出来ないとされる。
例えば「子を願う者は・・・」の天綱に背いて同じ国に戸籍のない者同士の婚姻を認めた王がいたが、
夫婦が里木に子を願う帯を結ぼうとしてもどうしても結べず、ついに子を得られなかったという。
神籍・仙籍
十二国世界では国を安定して維持させる為、王とその家族、官吏とその配偶者と子供は、基本的には「冬器」という特殊な呪をかけた武器以外では害することが出来ない不老不死の体になる。
王の場合は麒麟に跪かれた時点一般の戸籍が抹消されて「神籍」に、それ以外は王がその者を「仙籍」に入れる事でこの扱いを受ける。また、天が直接管理する仙籍もあり、天によってこれに任じられた仙人は飛仙という。
仙籍は下野するなどして仙籍を抜けても元通りの生活が出来るが、王は選定を受けた際に人として死に神になったとみなされる為、神籍を抜ける事は死を意味する。
仙籍は王が死んでも代わっても抹消されない限りはそのままなので、王よりはるかに年上の官僚は珍しくなく、十二国世界では官僚の力が強い。
仙籍は上から順に公・候・伯・卿伯・上大夫・中大夫・下大夫・上士・中士・下士に分かれる。
伯位以上の仙は自力で蓬莱(日本のこと)や崑崙(中国の事)に行ける特権を持ち、王の近親者・冢宰・三公・州侯以外に新設することは天綱で禁じられている。ただし、天が直接任じた飛仙は伯以上も存在する。
なお、十二国世界の言語は蓬莱や崑崙とは全く異なるものだが、神仙の頭の中ではそれらを何らかの呪力で勝手に翻訳される模様。
海客・山客が神仙になった場合も同様で各自の母語に翻訳される。
ただし、文字(漢文)は日本人の場合は白文を読み下せる人でないと読み書きが出来ない。
官制
十二国の政治制度はどの国もほぼ同じで、王と麒麟の下に無数の中央官僚・軍・地方官僚が従うシステムになっている。官僚はまた仙籍にも入るので、以下官名の後ろにカッコ書きで付記する。麒麟は宰輔(公)とも呼ばれ、仙籍としては国内唯一の公として臣下の頂点に立つが、その仁にして争いを嫌う性質から実権を持たされることは稀である。王后や太子(王の息子)や公主(王の娘)等の王の近親者があればこれも公に任じられる。
実質的な全ての官僚のトップは冢宰(候)であり、その下に王の身辺を司る天官、土地と戸籍を司る地官、祭祀と学校を司る春官、軍事と土木工事を司る夏官、法令と外交を司る秋官、技術開発と製造を司る冬官という六官からなる中央行政府がある。天官長を太宰(卿伯)、地官長を大司徒(卿伯)、春官長を大宗伯(卿伯)、夏官長を大司馬(卿伯)、秋官長を大司寇(卿伯)、冬官長を大司空(卿伯)とそれぞれ呼んで、その下に六官の官僚たちからなる国府が従っている。この指揮系統とは別に、宰輔に直属する王の相談役として三公(候)がある。
軍は中央軍としては六軍からなる。大司馬の指揮下にある禁軍の左軍・中軍・右軍と宰輔が兼任する首都州候の指揮下にある首都州師の左軍・中軍・右軍である。それぞれ将軍(卿)が率いており、各軍12500人の合計75000人が定員。
地方は宰輔が兼任する首都州以外に八つの州が置かれ、以下各州とも郡、郷、県、族、党、里に細分される。州のトップは州候(候)と呼び、王に直属する。その指揮する行政組織(州府)としては、令尹(卿伯)が率いる州六官と、各軍7500人の二軍~三軍に予備兵力を加えた計20000人余りからなる州師が控えている。郡は太守、郷は郷長、といった様に細分された行政単位もそれぞれの長が率いる官僚が統治する。最小の行政単位である里には25の家が含まれ、日常感覚でいえば古代中世の小さな村程度に相当するといえよう。里は里宰が長として面倒を見て、里祠にて祭祀を行う。また里宰の相談役として閭胥(ちょうろう)がいて、身寄りのない子らを預かる里家を管理し、里の学校である小学の教師も兼ねる。
官吏の任免については、基本的に国の学校である大学の卒業生を下士として登用し、仙籍に入れることになる。大学への入学については、閭胥が推薦した小学の生徒が、次々と上級の学校に進学して選抜され、最も優秀な者が最終的に大学に入学することになる。下士以上が不老不死の仙籍にある官僚となるが、実は国府にせよ州府にせよ、仙籍になく通常に年を取る多くの下級役人や奄(げなん)、奚(げじょ)が働いている。また官僚は家族や使用人を必要に応じて仙籍に載せて不老不死にすることができる。しかし官僚もその家族も永遠に役所に勤めているわけではなく、途中で何らかの理由で仙籍を離れて去るのが一般的である。特に官僚より先に家族が仙籍を離れることが多いという。
国府にせよ州府にせよ凌雲山(りょううんざん)と呼ばれる天にそびえる山の中腹にある。王宮は雲海の上である。
仙籍にある官僚たちの役所は定めある命の民たちが行きかう下界からは離れており、まして王宮から下界の様子を知るのは難しい。
海客(かいきゃく)・山客(さんきゃく)
詳しくはタグ先→「海客」の項目参照
蝕によって十二国世界に流されて来た日本人を海客、中国人を山客と呼ぶ。
玉泉(ぎょくせん)
宝玉を生み出す泉。小さな玉を種として沈めておくと、大きな玉の結晶が得られる。土地の貧しい戴国では重要な産業。同様に金泉、銀泉もあるという。
王が行う自然を鎮める儀式。単なる祭祀ではなく、実際に自然災害を減らし
妖魔を国外に去らせる効果があるため、この世界では重要である。
ただし、正当に麒麟に選ばれて天に認められた王が行わないと効果はない。
それゆえ災害と妖魔の襲来に苦しむ民は、常に正当なる王の出現を望むことになる。
黄朱の民
定住せず、芸や商売をしたりしながら諸国をまわる浮民のこと。
地域によって、朱旌、朱民、または、「黄海の民」と言う意味から黄民(こうみん)とも呼びならわされる。
使令
麒麟の使い魔になった妖魔のこと。
タグ先「使令」の項目参照。
朱旌(しゅせい)
朱線の入った仮の旌券。
旌券とはこの世界で使われる身分証明証のことで、ちょっとしたお使いに行くにも行政区分が違う土地に行くには持っていかないといけないため大抵の人が持っている。
失くしたなどの理由で仮に発行されるのが朱旌であるが、戸籍のない黄朱の民は最初から朱旌が発行される。
→朱民(しゅみん)
旅芸人という意味でも使われる。
蝕(しょく)
本来、重なってはいけないはずの十二国世界と蓬莱(日本)・崑崙(中国)がある世界が一瞬つながってしまう災害。
呪力を使って人為的に起こすことが出来るが、殆どが自然発生したもの。
本来交わってはいけない世界が交わる為、十二国世界の蝕の通り道では甚大な被害が起き、向こう側の世界も、王が蝕を使って世界を渡ると大津波などの災害が起きる。
蓬莱や崑崙の人が蝕で十二国世界に流されることがあるが、どういう訳かその逆は伯以上の位を持つ仙でしか出来ない上に、胎果でない限り実体を完全には保てないらしい。
胎果(たいか)
十二国記の世界では動物と新種の植物は全て木に実る卵果から生まれる。
人の卵果は親でないともぎ取れないが、蝕によって強引にもぎ取られてしまうことがある。
これによって本来は十二国の世界に生まれるはずだった人間が、誤って卵果のとき異界に流されそちらで育ち、再び十二国の世界に戻ってくる人間を胎果と呼ぶ。
冬器(とうき)
妖魔や仙人を斬ることができる特殊な呪を施した武器。冬官府で製造される。使いようによっては王を斬る大逆の手段にもなるため、一般の武器より流通の規制は厳しい。
半獣
獣と人間の姿が混じってしまっている者のこと。
自らの意思で獣人の姿と人の姿の両方の姿を取ることが出来る。
その異様さと、天綱に取り扱いの規定が無い為、近年まで多くの国で差別の対象となっていた。
現在も個人レベルでは異様さ故に差別視されることが多い。
蓬山(ほうざん)
黄海の中央、つまりはちょうど世界の中央にある五山の山々の一つ。蓬廬宮という宮殿があって飛仙が集っている。麒麟が生まれ育つ場所であり、王に選ばれんとする者はこの山を目指す。
詳しくは→黄海参照
昇山
王となろうとする者が麒麟から王気の有無の判別を受ける為に妖魔のいる黄海と蓬山を辿り、麒麟に面会する行為。
麒麟が選定ができるまで成熟したと判断されると、該当する麒麟の属する国の麒麟旗が挙がり、昇山が可能になる。ただし資格があるのは該当する麒麟の国に籍がある者だけで、また昇山は一生に1回しかできない。
次王が昇山者の中にいた場合、旅の困難が大きく軽減されるが、その者が死亡してしまうと幸運のツケが周囲に襲い掛かる。
2002年4月から2003年8月にかけて全45話が放送された。
全般
『十二国記』の設定や世界観と他作品のキャラクターを掛け合わせたパロディ作品に関してはこちらのタグではなく「十二国記パロ」タグを使用することが推奨される。
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