概要
藤子・F・不二雄原作の漫画・アニメ作品『ドラえもん』のエピソードの一つ。TC1巻収録。
『ドラえもん』の第1話であり、主人公・ドラえもんが初めてのび太と出会った記念すべきエピソードである。
ただし『小学四年生』1970年1月号に掲載された時のサブタイトルは「ドラえもんあらわれるの巻」であり、TC1巻に収録する際に現在のサブタイトルに改められた(2019年に発売したTC0巻では、当時のサブタイトルで収録されている)。
ストーリー
のどかなお正月の日、のび太は餅を食べながらゆったりと過ごしていた。のび太が「今年も良いことがありそう」と呟くと、突然「いいや、ろくなことがない」という謎の声が響き渡る。謎の声はそのまま「野比のび太は30分後に首を吊り、40分後に火あぶりになる」と続ける。のび太が「変なことを言うのは誰だ!出て来い!」と叫ぶと、机の引き出しがガタガタと揺れだし…
「僕だけど、気に障ったかしら?」
机の引き出しから青くて丸い謎の人物・ドラえもんが現れたのだ。当然ながらのび太は大慌てし、ドラえもんはのび太から色々な質問を投げかけられたのだが、そんなことはまるで気にも留めず「そんなことどうでも良いじゃない。僕は君を恐ろしい運命から救いに来たんだ」と言う。のび太は先程の首吊りや火あぶりのことかと問いかけるが、ドラえもんは続けて「それはまだ大したことじゃない。君は年を取って死ぬまでろくな目に遭わないんだ」と言い放つ。
ドラえもんは何故そのようなことが分かるのかを説明しようとすると、部屋に置かれていた餅に気が付く。しかしドラえもんは餅の存在を知らなかった為、のび太にこれは何かと質問し、餅という食べ物であることを知ると「こんなに美味しい物は生まれて初めて食べた」と言いながらペロリと平らげ、そのまま引き出しの中に戻ってしまった。
あまりに唐突かつ不思議な出来事だった為、のび太は今までのことを夢だと思い込もうとしたが、今度は引き出しからセワシが現れる。のび太は再び唖然としてしまうが、セワシはやはりそんなことは気にも留めず「ドラえもんから話は聞いただろ?今日からドラえもんが君の面倒を見るよ。本当は僕が傍にいた方が良いけど、何かと忙しいからね。あいつも出来の良いロボットじゃないけど、おじいさんよりはマシだと思うよ。おじいさんは何をやらせてもダメだからね」と続ける。
のび太は「おじいさん?それって誰のこと?」と尋ねると、セワシは「ドラえもんから聞いてないの?」と言う。すると、餅を食べて戻って行ったドラえもんが再び引き出しから顔を出す。
ドラえもんとセワシはのび太に対し、自分達は「タイムマシン」で未来の世界から来た者だが、マシンの出入り口が偶然にも机の引き出しと繋がってしまったと説明する。続けてドラえもんが「セワシ君はのび太君の孫の孫なんだ」と説明し、セワシが「君は僕にとって祖父の祖父にあたる」と補足する。
のび太は「僕はまだ子供だよ?子供に孫がいるもんか」と言いながら混乱するが、ドラえもんとセワシは「君はいずれ大人になって、19年後に結婚する」と説明する。その話を聞いたのび太は「それって結婚相手はしずかちゃん?」と聞くが、ドラえもんとセワシは「ジャイ子とか言ったっけ」と言い放つ。
「ジャイアンの妹!?」と衝撃を受けるのび太に対し、ドラえもんは「四次元ポケット」からアルバムを取り出す。このアルバムにはセワシの先祖が歩んで来た歴史、すなわちのび太の将来が記録されているのだ。アルバムを開くと、そこにはのび太とジャイ子の結婚写真、及び子供6人を設けてジャイ子がとてつもなく太った写真が貼り付けられていた。のび太はショックと絶望のあまり激怒し、ドラえもんとセワシを追い払ってしまう。
その後、パパとママから慰められたのび太だが、先程ドラえもんが言っていた首吊りと火あぶりのことを不安に思う。すると家の外から、しずかが羽根つきの羽根を取って欲しいと頼まれる。のび太は屋根を伝って羽根を取ろうとしたが、足を滑らせてしまい、木の枝に服が引っかかったことで結果的にドラえもんの予言通り首吊りのような状態になってしまった。
のび太が何とか枝から降りると、しずかから羽根つきを一緒にやらないかと誘われる。迷うのび太だったが、ジャイ子から「負けるに決まってるのに誘うのはかわいそうだよ」と言われ、馬鹿にされて悔しいと思ったのび太はジャイ子に羽根つきで勝負を挑む。
しかし結果は惨敗で、のび太はジャイ子に笑われながら顔を墨だらけにされてしまった。そのことに腹を立てたのび太はつい「お前なんかと絶対結婚しないからな!」と言ってしまい、ジャイ子が「侮辱されたぁ!」と泣き出してしまう。すると彼女の兄のジャイアンが「誰だ、ジャイ子を泣かしたのは」と言いながらやって来た為、のび太は慌てて家へ戻る。
墨だらけの顔を風呂場で洗おうとしたのび太だったが、足元に置かれていた石鹸で足を滑らせてしまい、頭から浴槽に飛び込んでしまう。その後、のび太はストーブで身体を乾かすのだが、その際のび太は「これも一種の火あぶり」と考え、またもドラえもんの予言通りになってしまった。
身体を乾かし終えたのび太は、先程ドラえもんが取り出したアルバムが落ちていることに気が付く。先を見るのが怖いと思いながらも、のび太はアルバムの中身を読むことにする。そこには……
- 1972年…大学入試に失敗し、パパとママと一緒に慰めパーティーをしている写真
- 1988年…就職出来ずに起業する
- 1993年…起業から5年後、自らの火遊びが原因で会社のビルを丸焼けにしてしまう写真
- 1995年…会社が焼失してから2年後、遂に倒産して借金取りが家に押し掛ける写真
という、悲惨極まりない写真ばかりが貼り付けられていた。
のび太がアルバムを見終えた直後、ドラえもんとセワシが再び引き出しから顔を出す。ドラえもんとセワシは、アルバムの内容に補足する形で「君が残した借金が高額過ぎて、100年後も返済出来ていないんだ。お陰で今年のお年玉はたったの50円」と説明する。
のび太は自分の将来の悲惨さと、自分のせいで子孫に迷惑をかけてしまっていることに絶望して涙を流す。その様子を見たドラえもんとセワシは「そんなに気を落とさないで。運命は変えられるんだから。僕らはその為に来たんだ」と励ます。
その言葉に元気を取り戻すのび太だったが、同時に「僕の未来が変わったら君は生まれてこなくなるのでは?」という疑問を抱く。これに対しセワシは他で釣り合いを取るから心配無いと言い、続けて「例えば君が大阪へ行くとする。色々な乗り物(作中でのイメージは飛行機、新幹線、自動車、船舶)や道筋があるけど、どれを選んでも方角さえ正しければ必ず大阪に辿り着ける」と説明する。
「このドラえもんがつきっきりで面倒見てやるよ!」
こうしてドラえもんはのび太の元で暮らすことになったのだが、セワシが「20世紀(21世紀)の町を見物したい」と言い出す。そこでドラえもんはポケットから「タケコプター」を取り出し、自分の身体はもちろんのび太やセワシに取り付ける。
そしてドラえもん達は野比家の窓から空の旅へ出発するが、のび太はタケコプターがズボンに取り付けられた為、付ける所が違うのではと尋ねる。
ドラえもんは「どこでも良いんだよ」と言い、続けて笑顔で「僕のすることに間違いはない。だから安心して僕に任せて」と言う。しかしドラえもんの傍にはタケコプターで浮かんでいるズボンしか無く、のび太は既にズボンが脱げて地面に落ちてしまっていた。のび太は頭にタンコブを作りながら「あいつ、本当に頼りになるのかな」と呟くのだった。
余談
『ドラえもん』の第1話と言えば、多くの読者が上記のエピソードを思い浮かべるだろう。しかし実際には『ドラえもん』の第1話は6種類存在する。これは『よいこ』、『幼稚園』、『小学一年生』~『小学四年生』の6雑誌で同時に第1話が掲載されていた為であり、内容もそれぞれ異なっている(これらは上記のTC0巻に全て掲載されている)。
TCに収録する際に原作者が自ら加筆したり、台詞や設定を修正している箇所が存在する。上記ののび太が見たアルバムについて、現在の版では「就職出来ず起業する」と書かれているが、連載当時は「父の会社を継ぐ」と書かれている。
また、こちらは比較的知っている人が多いだろうが、タケコプターも連載当時は「ヘリトンボ」という名称だった。
それだけでなく、セワシがのび太に対して歴史が変わっても自分は生まれてくることになる理由を説明した場面(所謂「大阪理論」)は、実は第1話に掲載されていた内容ではない。元々はTC0巻収録「愛妻ジャイ子!?」で描かれていた場面だが、上記の「未来の国からはるばると」をTCに掲載する際に追加したものである。
これらの加筆・修正はTC0巻において、連載当時のままの台詞・記述で再現されている。
キャラクター設定も現在と比べて様々な違いがある。最も分かりやすい例として、ジャイ子は原作版後期と比べて乱暴な性格であり、のび太に対して暴言を吐いている。それとは対照的に、のび太の両親は決してのび太を叱らず、彼が泣いている時は優しく慰めるような性格だったのだ。
上記のエピソードを見れば分かる通り、ドラえもんが20世紀~21世紀に遡った理由は「のび太を幸せにする為」ではなく、あくまでも「セワシの境遇を改善する為」である。のび太の歩む未来を変えるのは「手段」に過ぎず、それ自体が「目的」という訳ではない。
それだけでなく大全集4巻収録「ドラえもんの大ひみつ」では、ドラえもんが20世紀~21世紀に遡った本当の理由が描かれており、作中では耳を失い落ち込んでいたドラえもんはセワシの提案で、心の痛手を治す為にしばらく遠くへ行くつもりで、過去の時代へ向かいのび太の面倒を見ることに決めたと説明されている。すなわちドラえもんはのび太を幸せにする為ではなく、時間をかけて自分の心の傷を癒す為にのび太の世話を焼いていたのだ。
また、原作者が「ドラえもん誕生の決定版」と述べた『2112年ドラえもん誕生』でも、ドラえもんが「セワシ君が幸せに暮らせるように、最も出来の悪いご先祖様(のび太)の歴史を、修正する旅に出ました」と述べており、それに加えて「野比のび太君。君を幸せにすることが、セワシ君への、僕からのクリスマスプレゼントなんだ」とも述べている。
上記の通り、ドラえもんが初めてのび太と出会ったのはこのエピソード(正確にはこのエピソードを含む6種類の第1話)だが、実はのび太が初めてドラえもんと出会ったのはこのエピソードではない。TC4巻収録「おばあちゃんのおもいで」及びTC10巻収録「弟をつくろう」の作中にて、のび太は幼い頃に既にドラえもんと出会っているのだ(派生作品を含めれば、2011年版「おばあちゃんのおもいで」では3歳ののび太が「青い狸さんも!」と発言しており、2021年版「弟をつくろう」では、3歳頃ののび太がドラえもんと現在ののび太の絵を描き、2人にプレゼントしている)。
尤も、この描写はあくまで後付け設定であり、のび太本人もかつて自分が幼少期の頃にドラえもんと出会っていたことは忘れてしまっている。また、「弟をつくろう」の作中で3歳頃ののび太が既にドラえもんと出会っていたことについては、公式書籍でも指摘されている(『ドラえもん深読みガイド』)。
例によって、上記のエピソードは大山のぶ代版及び水田わさび版アニメで映像化されている。前者は1980年と2002年にアニメ化されており、後者は2006年にアニメ化されている。
ただし上記の「未来の国からはるばると」が初めてアニメ化されたのは、大山版も水田版も放送開始から1年近くが経過した後で(前者の第1話は「ゆめの町 ノビタランド」、後者の第1話は「勉強べやの釣り堀」)、2020年5月現在、上記の「未来の国からはるばると」が第1話として、あるいは最初の物語として映像化された作品は日本テレビ版アニメと『STAND BY ME ドラえもん』のみである。
- 1980年版
2002年版や2006年版と比べて最も原作版通りの展開になっており、ドラえもんが餅を食べたり、のび太が首吊りに遭う、ジャイ子の凶暴な性格等といった、下記のアニメ版ではアレンジされている展開も全て再現されている。
- 2002年版
ドラえもんが初めて食べた物が餅からドラ焼きに変更されており(ただし大山版の設定では、ドラえもんが初めてドラ焼きを食べたのは22世紀にいた頃であり、矛盾が生じてしまっている)、首吊りをアニメ化するのは難しいと判断された為か、1度目の予言が「ジャイ子が操縦していたラジコンのダンプカーにぶつかる」という展開にアレンジされている。また、原作版にはいなかったスネ夫が登場している。
- 2006年版
ドラえもんとのび太が喧嘩してしまい、ドラえもんが未来に帰ってしまう場面からスタートする。その後、のび太がドラえもんと初めて出会った時のことを回想するという形で物語が進んでいく。
また、2002年版同様、ドラえもんがのび太の部屋で食べた物が餅からドラ焼きに変更されている。しかし2002年版とは異なり「初めて食べた」とは言っていない(2007年に放送された水田版アニメオリジナルエピソード「ドラえもんが生まれ変わる日」の作中では、ドラえもんは22世紀にいた頃から既にドラ焼きを食べている。また、2011年に放送された同アニメオリジナルエピソード「走れドラえもん!銀河グランプリ」の作中でも、まだ耳を失う前であり22世紀にいた頃のドラえもんが昼寝をしているシーンで、ドラ焼きが傍に置かれていた)。
首吊りの予言は「近くに置かれていたサボテンに尻もちをつく針地獄」に変更され、ジャイ子の性格も原作版後期のように穏やかである為、のび太が彼女に暴言を言う場面は「ジャイ子と結婚するとジャイアンが義理の兄になってしまう為、それを嫌がったのび太がついジャイ子と結婚したくないと言ってしまう」という展開にアレンジされている。
そして将来に絶望したのび太をドラえもんとセワシが慰める場面も「未来を変えるのはのび太自身で、僕達はその手伝いをするだけ」という台詞にアレンジされている。